235:目覚ましい進歩
それからさらに1週間が経過した。冴内達がこの別の宇宙に来てから2週間、さいしょのほしに来てから11日目のことである。
まずは超高性能光演算装置が完成し、さいごのひとが並列思考することが可能になったので、各自が保有する例の白い消しゴム状の携帯端末装置でさいごのひとの立体ホログラムを空間投影することが可能になった。また、コッペパン号とのデータリンクも可能になり、より高度な情報処理や各機能のコントロールをすることも可能になった。
次に大型ベルトコンベヤー式工作機械も完成し、宇宙望遠鏡の製造も大幅に進めることが可能になった。ちなみに宇宙望遠鏡の次は電波望遠鏡を作ることが予定されていた。
さらに冴内の内職作業もいよいよ佳境を迎え、ようやくその全容が明らかになった。冴内が作っていたのは人型ロボットであり、そのシルエットはマシーンプラネットにいるマシンヒューマンに良く似ており、昔日本の子供向け特撮テレビ番組の宇宙刑事シリーズに登場する主人公ロボによく似ていた。
このロボットの頭脳には良子と初が作った精密部品製造機械により製造された高性能演算処理装置が組み込まれており、性能的には超高性能光演算装置には遠く及ばないが、さいごのひとが要求する機能としては十分以上の性能を有していた。そしてこのロボットの最大の特徴は、自ら思考するロボットではなく、さいごのひとの思念をインストールしてさいごのひとの身体として機能することこそが最大の特徴なのであった。つまりこれまで思考思念体として存在していたさいごのひとが、物理的な存在として活動出来るようになったのである。
ちなみに現在2号機の製造にもとりかかっており、それはコッペパン号の音声ガイドからの強い要望に応えたもので、音声ガイドからは是非ともシルエットは女性型でお願いしますと頼まれていた。
さいごのひとロボが誕生したことに触発されて、花子は良子にお願いして花子を支援する汎用お手伝いロボットを3体程作ってもらった。花子を少しシンプルにした見た目の量産型花子といった感じで、花子の制御指示の下で様々な生活支援作業を行った。清掃活動やニワトリの飼育や野菜の栽培と採取などの作業である。
美衣と初が大型ベルトコンベヤー式工作機械を使って以前製作したベリリウムの延べ棒と六角形のパネルをベルトコンベヤーの端に乗せると、それらの部材は大型の製造装置の中に吸い込まれていき、やがて宇宙望遠鏡の反射鏡が作られて出てきた。パネル3枚が結合されたものがどんどん出てきて、家族総出で優しく丁寧にコッペパン号の貨物室に移動させていった。出来たパネルは宇宙空間で連結して完成させることになっていた。
良子は精密部品製造機械を使って宇宙望遠鏡を制御するための高性能演算装置を製作した。同時に専用のプログラムも製作したが、超高性能光演算装置の支援を受けて作業出来たので非常に作業効率が良くハード面でもソフト面でも短時間で極めて高性能なものが出来上がった。
1週間の成果は機械製造部門だけにとどまらず、まず種もみが良い具合に生育したので家族全員で田植えを行った。美味しいお米を育てるのだという期待感と、どろんこ遊びをしているかの様な感じで家族一同とても楽しく作業した。
ニワトリの方も大分落ち着いて馴染んだ様子で1羽あたり毎朝2個は安定して卵を産んでくれるので、食卓事情に大いに貢献してくれた。またニワトリ達は田んぼや家庭菜園の害虫を食べてくれるのでとても役に立った。
宇宙望遠鏡の全部品が揃ったので美衣と良子と初とさいごのひとロボの4人がコッペパン号に乗り込んで宇宙へと飛び立っていき、真空の宇宙空間にて組立作業を開始した。地上であらかた各パーツは完成されており、そこに加えて超有能な能力者4人が作業するものだから数時間程度で宇宙望遠鏡は完璧に完全に完成した。元いた宇宙でもここまでの宇宙望遠鏡はなかなかない程の高性能宇宙望遠鏡だった。
早速さいしょのほしにある、超高性能光演算装置とデータリンクすると、凄まじい程の宇宙の膨大なデータを収集し処理し始めていった。
この調子で次は光学測定出来ない宇宙の情報を収集するための電波望遠鏡の製作にとりかかることになった。さらに今後のプランとして無人探索衛星をどんどん作って飛ばしていき、ワープ可能な宙域を拡大させることを予定した。
余談ではあるが、4人が宇宙空間で作業している間に冴内ログハウスでは冴内と優が夫婦間のスキンシップ作業を行っていた。夫婦円満のためにはとても重要なことである。
さらにそこから1週間が過ぎると、電波望遠鏡も完成した。既に10基以上の探査衛星も出発しており、この宇宙の様々な情報がどんどん入ってきて超高性能光演算装置によって次々と分析解析解明されていった。まずは冴内達がいるさいしょのほし周辺の銀河の全容が明らかになり、この銀河で生命体がいるのはさいしょのほしだけで、他の星では生命と呼べるものがいたとしてもほとんどが原子生物レベルであった。
宇宙望遠鏡と電波望遠鏡では既に数千億の銀河を観測しており、恐らくこの宇宙には3~5兆程の銀河が存在するであろうという予測結果も算出された。平均的な宇宙かそれよりも少し多いくらいだった。
また、冴内達のいる銀河は比較的若い銀河のようで、この宇宙の中央部付近に位置していることが分かった。
今現在確認出来る最も遠い外縁部分にある銀河は大体百数十億光年先にあり、この宇宙の誕生も大体それより数十億年前で、200億年までは達していないだろうということも分かった。
これだけの銀河があるのと、200億歳程度の宇宙年齢からも知的生命体は必ず存在するであろうことは明らかで、宇宙連合のような巨大組織と宇宙ネットワークもあるだろうということも当然織り込み済みであったので、無人探査衛星にはそれらと接触してもこちらの存在をしっかりアピールすることが出来るような機能も搭載されていた。
冴内ログハウス周辺もなかなか賑やかになり、ニワトリ達も元気で家庭菜園も充実し、さいごのひとロボと音声ガイドロボ、そして量産型花子3体も含めて総勢11人となっていた。さいごのひとや音声ガイドはこれまで思念体でしかなかったが、身体を手に入れたことで物理的に何かを操作したり移動することが可能になり非常に喜んでいた。それに加えて量産型花子も3体いるので、何かを作り出したりする作業においては各段に生産能力が向上した。
いまでは宇宙空間にて無重力ならではの環境を活かした工作機械設備を有する宇宙ステーションや静止衛星も複数存在しており、さいしょのほし内での衛星通信やGPSによるナビゲーションも可能となっていて、さいしょのほしのほとんど全ての箇所が観測可能となっていた。
ここまでトータルでわずか3週間足らずという短い期間で、全く未開拓で未文明だった星があらゆる産業革命や社会革命をすっ飛ばして、超近代科学文明へと進化したのであった。それも全てたった1家族の活動によってである。
ともあれ、生活基盤を遥かに通り越した最新鋭設備が整ったので、いよいよ冴内達はやることがなくなってきた。
とはいえ、せっかく整えたばかりのこの住環境を捨てて、またしても宇宙の旅を続けるというのも性急過ぎる話しなので、とりあえずこの星での生活を続けることにした。今では既に100基近い無人探査衛星も宇宙外縁に向けて飛び立たせているので、何かしらのリアクションを待つので良いだろうということにしたのである。
さらに次の手として考察されたのが、新たな航宙艦を建造し、さいごのひとロボ2号と音声ガイドロボ2号を作り、並列思考可能な思念体をインストールして、彼らが物理的にワープ航海をしていき宇宙領域を拡大していくというプランが提案された。
さいしょのほしと意思疎通やデータがリンクが出来るようにするため、距離は少しづつ伸ばして行く感じで、データリンク用中継衛星も設置していくことを検討した。さらに壮大な計画として、宇宙領域拡大に伴い小型のリングゲートの設置についても検討した。
冴内達はいよいよ本格的な宇宙開拓を開始しようとしていたのであった・・・




