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231:良子と初

 昼は初が初めての狩りでとってきた巨大ナマズを使ってホワイトソース和えのムニエルやフライを揚げて食べた。とても柔らかく舌の上でとろける程であり、肉が真っ白だったので淡白な味かと思ったのだが、予想に反してほのかな甘味と絶妙な旨みを感じるとても美味な食材だった。


 またしてもあまりの美味しさと初がとってきてくれたことの嬉しさで半分程も平らげてしまったが、もう半分は夕食に鍋にして楽しもうということで全てを食べ尽さないようにした。


 ヒゲのついた頭や骨や尾ひれなどを適当な大きさに切ってコッペパン号の作業室にあるベルトコンベヤー式工作機械に乗せると、容器に入った油や何かの液体が数種類、そして石鹸のようなものや骨を砕いて粉末状にしたものを固めてブロック形状にしたものや、被膜に包まれたプヨプヨしたゼリー状のものなどが色々と出てきた。


「クンクン、これは調味料の材料に使えそうだ、こっちの油は炒め物をする時に使えば香ばしい香りが付きそうだ、揚げ物をするのにもいいかも、これは・・・いい石鹸だ、多分身体を洗うのに使うよりも洗濯に使うと良さそうだ、この骨ブロックは何に使えばいいかな?このゼリーもフルーツゼリーとか煮凝り(にこごり)を作る時に使うと良さそうだ」


 美衣はベルトコンベヤー式工作機械から出てきた様々な物を的確に仕分けした。しかしさすがは美衣シェフ、煮凝りも作れるとは御見それしました。


 それから美衣は様々な液体から各種調味料を作ることにした。キッチンに行って大きな食料格納箱のうち野菜類が入っている箱の中から大豆によく似た豆を取り出し、そこから醤油と味噌を作るためのの下準備をして、さらに別の液体と色んなフルーツを使ってソースを作るために煮込み作業を開始した。下準備と味付けは完了したので後は火加減を見守るだけなので美衣は花子にお願いして後を引き継いでもらった。


 その後美衣は冴内と優に合流して大型ベルトコンベヤー式工作機械のための大きな建物の建造作業の続きを行った。


 初は今度は良子の作業に興味があるようで、良子の後をついていった。良子の方は超高性能光演算装置を作るための前段階として精密部品を製造するための工作機械を作るのだと初に説明した。果たして見た目3歳児の初に言っても分かるのだろうか。一応初は良子の目をまっすぐ見つめて頷いていた。


 次に良子は空間に立体映像を投影して、精密部品製造用工作機械の完成予定図を映し出した。そして次にその工作機械を冴内が作ってくれた超高性能光演算装置を設置するための建物のどこに配置するのかについて建物の図面を立体投影し、ここに配置するのだというのが誰が見ても分かる程に分かりやすく点滅させて表示すると、今度も初は頷いた。


 良子は「次は建物の中を案内するね」と言って、作業室に置かれている精密部品製造用工作機械のパーツを軽々と持ち上げて建物へと向かって行った。その際初も別の大きなパーツを軽々と持ち上げて良子についていった。


「わっ!初力持ちだね!ありがとう!でもそれで前見える?」と、良子も全く前が見えない程の大きなパーツを抱え持っているのだが初は「良子お姉ちゃんについていくから大丈夫」と言ったので良子は喜んで「それじゃあついてきて!」と言って進んで行った。


 やがてコッペパン号から大きな何かの機械部品が足をはやしてトコトコ歩いているような奇怪な姿が登場した。歩く2つの機械はそのまま超高性能光演算装置の建屋へと二足歩行していった。扉に近付いたところで良子は初に「段差になってるから足元に気を付けて」と言い、初は「分かった」と答えた。良子が扉に近付くと自動的に扉は開き、良子と初は超高性能光演算装置用の建物の中へと入って行った。


 建物の中に入ると小さな部屋になっていて、そこはクリーンルームだった。天井から空気が勢いよく流れてきて足元は金網になっておりそこから空気が吸い込まれていった。


 クリーンルームを出ると大きな部屋の目の前に組立途中の精密部品製造用工作機械の姿が目に飛び込んできた。まさに半導体製造機械のようなフォルムでアームのようなものも見て取れた。先ほど空間投影された完成予定図の大体7割ほどが出来ているような状態だった。


「良子お姉ちゃん、さっきの絵をみせて、もっと細かい絵がみたい」

「それなら組立説明図を見せてあげるね!」

 そうして空間投影されたのは、凄まじく難解な設計図だった。細かな配線や回路などの接続式などがビッシリと書き込まれていて、一級の機械整備師でも恐らく理解するのに数日はかかる程の複雑難解さで、しかもボリュームも相当なものだったのだが、初は少しの間目を少し大きくして凝視すると、「分かった」と言って、初が持ってきたパーツを組立説明図通りに寸分たがわぬ正確さでゆっくり丁寧に取り付けた。


「わぁ!初、凄い凄い!凄く上手だよ!」良子は驚きながらもとても嬉しい表情をすると、初はニッコリと笑ったので、良子は部品をそっと置いてから初を抱きしめて、良子のほっぺたを初のほっぺたにくっつけて喜んだ。初はさらに良子が運んできたパーツも組み立てた。今度は正確さは変わらず前よりも早い時間で完璧に組み立てた。良子は破顔して大喜びし、初を抱いたままコッペパン号の作業室に走っていった。


 初の加入によって作業は2倍以上向上し、良子はベルトコンベヤー式工作機械の使用度を高めることにした。そこで良子が隕石から抽出精製された様々な原材料物質をベルトコンベヤー式工作機械に乗せる役割を行い、初がそれを超高性能光演算装置用建屋に運んで精密部品製造用工作機械を組み立てるという役割分担で進めることにした。


 この役割分担により夕方になる頃には精密部品製造用工作機械は完成した。予定よりも3日も早い完成に良子は大喜びして初を抱きしめてほっぺた同士をくっつけた。


 冴内達の方も大型ベルトコンベヤー式工作機械を格納する建屋が完成したようで、明日からは大型ベルトコンベヤー式工作機械本体の製作にとりかかるとのことだった。


 本日、良子と初の共同作業により精密部品製造用工作機械が完成したことでコッペパン号の作業室にあるベルトコンベヤー式工作機械を冴内達が占有して使えるようになったのはとても良いタイミングであった。


 それにしても驚くべきは見た目3歳児の初の能力である。力が強いだけでなく天才的な認識力と適応力でこのまま育っていったら神にも等しい存在になるのではないかとすら思えたが、そもそも元が星そのものなのである意味既に神にも等しい存在だともいえた。


 夕食は昼に食べきらずに残していたナマズの肉を使った鍋料理にした。さっぱりとした塩味にして、様々な根菜や葉物野菜にキノコ等を入れて素材が持つ旨味を引き出すことにしたが、これが見事にうまくいった。とりわけ昼間に割と濃い味の料理で胃を満たしたので、この薄いあっさりとした塩味のスープがとても食欲をそそり、結局夕食もたらふく食べることになった。まぁ今日もそれぞれ肉体労働でかなりカロリーを消費しているのでいいのだろう。


 夕食後、初は良子に今後のプランを訪ねると良子は大喜びで空間に今後の作業工程を投影し説明し始めたが、冴内、優、美衣には良子が何を言っているのか全く分からなかったが、初はウンウンと頷いていて、時折「その部分は自分がやる」と言ったりしていた。良子は満面の笑みで嬉しそうだったので、冴内達はそれを見ているだけでも楽しかった。


 冴内はコッペパン号の作業室に向かい、さいごのひとの依頼の作業を開始した。今日はまずフレームの作成その1に取り掛かる予定だった。作業といってもさいごのひとの指示で指定の素材原料をベルトコンベヤー式工作機械の端に置くだけである。素材原料はこれまで宇宙空間で採取した隕石から抽出したもので、十分すぎる程の量が確保されていた。途中家族で入浴を挟み3時間程作業を続け、今日の予定作業を完了した。冴内もさいごのひとも完成が楽しみだった。


 果たして彼らは一体何を作っているのだろうか。

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