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230:初の初めての狩り

 昼間タップリとスタミナ満点料理を食べたので、さすがに夜は冴内と優がとってきた野菜と山菜とキノコを用いた汁物と漬け物でご飯を食べたのだが、この素朴な味が実にご飯に良く合って、結局全員夜も腹一杯食べた。まぁ各自ひっきりなしに肉体労働をしてカロリー消費したのでいいだろう。


 食後、初は美衣と良子に挟まれながら漢字の書き取りをして過ごした。見た目はまだ3歳児なのだが、実に達筆で「冴内 初」と書くことが出来て、さらに小学校低学年向けの漢字ドリルも楽しそうに書き込んでいった。


 冴内はさいごのひとに頼まれてコッペパン号の作業室にてある物の製作にとりかかった。作業は結構日数がかかるようで、初日は概要説明と製作スケジュールの調整となった。説明を聞き終えると冴内の目はウキウキした様子で輝いていた。


 それとは別にそろそろコッペパン号の作業室にあるベルトコンベヤー式工作機械を新たにもう一台作ろうという案が出た。新たな一台は家の近くに設置し、コッペパン号の船内にあるものよりも大型の工作機械にしようということになった。


 いつも通り風呂に浸かり疲れを癒して就寝し、翌朝も家族全員盛大に腹時計アラームで目を覚まし、花子の作った焼きたてのパンをたっぷり食べて、各自作業を再開した。


 良子は超高性能光演算装置を作るための精密部品製造機械の製作を再開、冴内と優と美衣はベルトコンベヤー式工作機械の建造のためにまずは建物の製作に取り掛かかり、花子と初は食材調達ということでまずは湖に向かって行った。


 花子と初は手を繋いで草原を歩いていた。花子はご機嫌で鼻歌を歌いながら歩いていると、初が最初はぎこちない様子でア~ア~と音を出し、そのうち花子の鼻歌の音に合わせてきた。


「初さん、お歌上手ですね!」

「おうた・・・」

「そう、歌っていうんですよ、音楽の一つです!」

「おんがく・・・」

「はい!こういうのもありますよ!」


 花子はオーケストラの演奏をスピーカーのように口から出力した。二人はオーケストラの奏でる壮大な音楽を聴きながら湖に向かって歩いた。


 二人が湖に到着すると花子が「今日はどんな食べ物を持って帰りましょうか」と初に言うと、初は湖の方をしばらく見てから「おさかなとってくる」と言って浮上し始めた。


「わぁ!初さんもお空を飛べるんですね!とっても上手ですよ!」と言いながら花子も浮上した。

「まだ美衣お姉ちゃんやお父ちゃんみたいに速く飛べない」

「そうなんですね!でも空を飛べるだけで凄いですよ!」

「あそこの奥に多分とっても美味しいのがいる」

「えっ!スゴイ!そんなことまで分かるんですか?どれどれ・・・」花子も目を光り輝かせて初の指し示した方向を見た。

「確かに・・・色々な生物反応がありますね・・・あっ深い所に大きなのがいますね!もしかしてあれのことですか?」

「うん、とってくる」

「えっ!でもとっても大きいですよ!」

「だいじょうぶ、とれる」

「わぁすごい!それじゃあお願いしますね!」

「うん」


 二人は湖の水面を滑るようにほぼ無音で飛んでいき、初は指し示した場所のだいぶ手前で静かに着水を開始した。やはりほとんど音をたてなかった。


 入水後、初はぐんぐん深く潜っていった。二人とも手足をばたつかせることもなく泡もたてずに進んでいった。普通の人が見たら一体どういう推進力で進んでいるのか皆目見当もつかない光景だった。


 水深50メートル程に達して辺りはかなり暗い状況なのにも関わらず初は全く躊躇せずにまっすぐ進んでいった。時おり巨大でいかにも獰猛そうな古代の甲冑魚のような魚が目の前を通り過ぎて行った。これには花子はギョッとして警戒したが古代の甲冑魚は全く二人には関心がない様子で悠々と泳ぎ去っていった。


 やがて初は停止して、花子にそこに居てといった仕草をした。花子もそれを察して頷き、その場にとどまった。初も頷いて花子に背を向けてまたゆっくりと進んでいった。目標までの距離およそ20メートル程度といったところだった。花子は目を少し大きく見開き初の行動を観測記録し始めた。


 初はゆっくりと音も泡も出さず目標物へと近づいていった。花子の測定では目標物は先ほどの甲冑魚の倍はあろうかという程の巨大生物で、頭が異様に大きく口の左右には大きい触覚と思われるヒゲが生えているようなシルエットだった。


 初はその目標物の目の前にまで接近したが、目標物はまるで動じずプカプカと落ち着いてエラ呼吸を繰り返していた。


 初は目標物の頭上にゆっくりと浮遊していき、目標物の眉間のある位置の上部に辿り着くと、右腕をゆっくりとチョップの形にしてとても静かに右腕を大きく初の頭上に振り上げた。


 初の右手が黄金に光り輝き始めたかと思われたその瞬間、ドウッ!という鈍く大きな音と共に初の右腕のチョップが目標物の眉間に深々とめり込んだ。


 巨大な目標物はその一撃で即死し、若干ビクビクとヒレを痙攣させた後、静かに浮上していった。


 初は花子の方に振り返って手を振り、そのまま浮上していく大きな目標物について浮上していった。途中から大きな目標物の腹の部分を押し上げて浮上していった。グングン湖面が近づき、そのまま初は大きな目標物を水上に浮上させていった。


 初から距離をとっていた花子も水上に出て見たところ、巨大な目標物の正体があらわになった。


 その目標物は巨大なナマズに似た生物だった。全長は10数メートル程だが横にも大きく体全体もとても分厚くてまさに巨体だった。重量もかなりありそうで、初が腹の部分で点で支えているので巨大ナマズはグッタリと身体を折り曲げているため初の姿は見えなかった。


 花子は巨大ナマズの腹の下に潜り込んで、重量挙げの様な姿で巨大ナマズを持ち上げている初の横について花子も一緒に持ちあげて進んだ。


「初さん凄かったです!洋様のチョップを見ているようでした!」

「冴内 洋・・・お父ちゃんのチョップはもっともっと凄い、虹色でとても綺麗で優しい感じだった」

「そうですね、洋様のチョップは優しくて美しい宇宙の愛のチョップですものね」

「うちゅうの・・・あい・・・」

「そうです、宇宙の愛なんです!」

「うん、わかった」


 一体何十トンあるのか分からない程の巨大ナマズを可愛らしく繊細で華奢にしか見えない少女型ロボットと3歳程の幼児二人が持ち上げて移動していた。といってもナマズが巨大過ぎて二人の姿は全く見ることは出来ず、はたから見たらグッタリしたナマズだけが空中浮遊しているようにしか見えなかった。


 そのまま二人は巨大ナマズを持ちあげたまま、草原を冴内ログハウスまで進んで行った。


 大型ベルトコンベヤー式工作機械用の大きな建物を建造していた冴内と美衣と優は、巨大なナマズが空中浮遊しながら、何故かオーケストラの演奏を奏でながらゆっくりと自分達に近づいてきているのを見た。極めてシュールな絵柄だったが、巨大ナマズが近づくにつれてオーケストラの演奏に合わせて、初の声でア~ア~とオーケストラのリズムを口ずさんでいる音も聞こえてきた。


 普通なら驚天動地の有様だったが、冴内達は何が起きてどういう状況なのか瞬時に理解して、ニコニコしながら巨大ナマズを出迎えた。良子も超高性能光演算装置が設置される予定の建物から出てきてやはり巨大ナマズを笑顔で出迎えた。


 巨大ナマズは冴内ログハウスの真横でゆっくり静かに横たわり大きな頭の大きな口の下から花子と初が手をつなぎながら出てきた。まるで巨大ナマズに食べられた人が口から出てきたように見えた。


「皆さんただいま!初さんが美味しいお魚をとってきてくれましたよ!」

「ただいま、おさかなとってきた」


 冴内達は初と花子を抱きしめて喜んだ。花子の口からオーケストラの演奏が流れ、冴内達は手を繋いで輪を作り演奏に合わせてしばらく楽しく踊り続けた。


 大草原の大きなナマズの前で小さな家族が楽しそうに踊っていた。

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