226:冴内ジュニア登場
そよ風が心地よく気温湿度も丁度良く遠くにかすかにリズミカルに透き通った綺麗な虫の声を耳にしながら快適な睡眠をとっていた冴内は夢を見た。
何か光の粒子が一生懸命ヒトの形を作ろうとしているかのような光景だった。まるで子供が粘土細工でヒトを作っているかのようだった。
冴内はその光景を穏やかな気持ちで見守り続け、時折上手だねとか頑張ってとか声をかけた。
やがて光の粒子は冴内の腰より下ぐらいの高さのヒトの形を形成し安定した。
冴内は「わぁ上手に出来たね!」と拍手して喜んで褒めてあげると、光の粒子の顔の部分がほんのり赤くなった。
顔の部分には徐々に目と口のような丸い造形が出来上がり、最初はポカンと丸く穴をあけただけだったのが、少しづつ目のあたりがニッコリと微笑んでいるような、絵文字のような状態になった。
さらに驚いたことに、口の部分から「ア~」という音がし始めた。
「わっすごい!君、お話しようとしてるんだね!」
「こんにちは、ぼくはさえないようだよ、さえないよう」
「ア・・・アエアイ・・・オウ・・・」
「うまいうまい!さ え な い よ う!」
「ア、エ、ア、イ、ヨ、ウ、スァエヌァイヨウ、サエナイヨウ、サエナイヨウ、さえないよう」
どうにもさえないようさえないようと言われ続けると、名前ではなく「冴えないよう・・・」と自虐的に言葉を発し続けているネガティブな人のような気がしないでもなかった。
「そうそう!上手だね!僕の名前は冴内 洋!別の宇宙の地球という星の日本から来たんだよ!」
「・・・ほし・・・ちきゅう・・・」
「そう、地球っていう別の宇宙の星だよ」
「・・・べつの・・・うちゅう・・・」
「ぼくも・・・ほし・・・なまえ・・・ない」
「えっ?君も星なの?」
「うん・・・ぼく・・・ほし、なまえ、ない、なまえ、ほしい」
おっと、この流れですか先生。
「そうかそうなんだね、えっとね、僕等はこの宇宙に来てはじめての星にやってきたんだ、君が僕達にとって最初の星、初めての星なんだ、だから・・・そうだなぁ・・・」
「ぼく・・・さえないようがすき、さえないようがいい」
「冴内 洋は僕の名前だから・・・そうだなぁ・・・♪ピコーン!そうだ!君の名前は・・・!」
「さえない はじめ!冴内 初!というのはどう?僕の苗字と初めて僕達が訪れた星だからはじめ!はじめての星だよ!」
「さえない・・・はじめ・・・さえない はじめ、さえないはじめ、さえないはじめ、さえないはじめ」
小さなヒトの形をしたこの星はニッコリ微笑んだかと思うと次の瞬間スパークした。真っ白く光り輝いたなどという生易しいものではなく、完全に光爆発だった。その瞬間冴内も光の粒子のように木っ端微塵になり、また深い眠りについていった。
明けて翌朝。
冴内家族全員の腹時計アラームが盛大に鳴り響き目を覚ましてみると、冴内と優の間に温かいぬくもりを感じる小さな物体の存在を確認した。
ぼんやりと寝ぼけた様子で毛布をめくってみるとそこには小さな子供がスヤスヤと眠っていた。
ギョッとして冴内は一瞬で目が覚めて、その子をまざまざと凝視した。
「わぁーーー!洋ーーーッ!小さな洋だぁーッ!すっごく可愛いーーーッ!!」
「わぁっ!父ちゃんがおる!小さな父ちゃんだ!」
「お父さん!この小さなお父さんだあれ?すっごく可愛いーーーッ!!」
「これが小さい頃の洋様なんですか!?わぁ~!すごく可愛いです!とっても癒されます!!」
「こっ、これは!これはまさか!いや!まさかではなく紛れもなくこの星ではないか!冴内 洋!一体何があったというのだ!?」
「いや・・・それがね・・・」
「ウ~ン・・・ムニャムニャ・・・」
冴内の子供の頃、大体3歳くらいの冴内にそっくりな幼児はゆっくりと目を覚ました。ボンヤリとした様子で周りを見回して、冴内を見つけたところその3歳時代の冴内に似た幼児は冴内に抱き着いた。
「ひょっとして君、君は昨日夢で見たハジメ・・・冴内 初かい?」
「うん・・・ぼくはさえないはじめ、きのうさえないようになまえをもらったこのほしです」
「「「「わぁーーー!!」」」」
優も美衣も良子も花子も大喜びで状況をすぐに理解して受け入れた。
「冴内 洋・・・君はまたしてもやってしまったのか・・・」
「す・・・すいません、つい・・・夢だからいいかと思って名前を付けてしまいました・・・」
「いや、咎めているのではない、それよりもこの宇宙でも君のその能力が働くことに驚いているのだ」
「なんか昨日からずっと何かの視線を感じていたんですが、どうやらそれはこの星に見られていたみたいで、その晩夢の中でその星が現れて話していたら名前が欲しいというので、名付けてしまいました」
「しかし容姿が冴内 洋の幼児の頃と酷似しているというのはどういう理由なんだろうか」
「最初は、僕の名前が気に入ったから欲しいと言ったんですが、同じ名前じゃなくて冴内 初という名前にしました、この宇宙に着て最初に降り立った星だから初という名前を付けました」
「それで、こうなったというのか・・・」
「はい、最初はヒトの形を作るのに苦労していたみたいで、恐らく自分を手本にしたのかと思います」
「なるほど・・・」
「初ちゃん!私は優、あなたのお母さんよ、お腹空いていない?」
「ゆう、おかあさん、おなか・・・すいた」
「わぁ!そうよ!お母さんよ!すぐに朝ごはん作るね!」
「アタイは美衣だよ!初のお姉ちゃん!」
「私は良子よ!私もお姉ちゃんだよ!」
「私は花子です!初さんよろしくお願いします!」
「みい、おねえちゃん、りょうこ、おねえちゃん、はなこ、おねえちゃん・・・」
「「「キャアーーーッ!」」」
「アタイもごはん作ってくる!」
「私も!」
「私もお手伝いします!」
冴内ファミリーの女性陣は大喜びのハッスル全開でキッチンに向かって行った。
グゥ~~~
クゥ~~~
「あはは、お腹空いたね、もう少し待ってね、今お母さんやお姉ちゃん達がごはん作ってくれるから」
「うん、わかった」
冴内は初を抱いてゆっくりとダイニングルームへと向かって行った。
いつも通りアツアツホクホクの炊き立てご飯とタップリ納豆に現地調達の刻みネギが用意され、昨日の大マスもどきの切り身の焼き魚と、同じく現地調達した野菜の味噌汁と、花子の作った焼きたてパンに各種フルーツもタップリということで、まさに食卓上はてんこ盛りといった様相だった。
初の口に合うかどうか少し心配したが、問題なく何でも美味しそうに大人しく食べた。箸がまだ使えないので冴内がスプーンで食べさせてみたのだが、アーンと口をあけてニッコリとした顔で食べている姿を見ると3歳児状態の自分であるにも関わらず、あまりにも可愛すぎるので冴内本人ですらメロメロのデレデレになってしまった。
そんな姿を見て、他の女性陣も全員初に食べさせたくてウズウズしていたので、交代で初に食べさせていった。美衣が焼き魚を、優が味噌汁を、良子がご飯を、花子がパンを少しづつ食べさせ、やはり初がニコニコしながら素直に大人しく食べる姿を見て全員ウットリととろけてしまいそうな顔になった。
食事の後半では初は自分でスプーンを使って食べてみた。最初はゆっくりした動きで少しぎこちなかったがすぐに上達した。その間まったくこぼしたりすることなく綺麗に食べることが出来た。
食後の食休みの時間に箸の持ち方を練習していたが女性陣が初を取り囲んでひっきりなしに手を取って優しく教えていた。
あまりにも初が可愛すぎるので、今この時間、全くといっていい程に元の宇宙に帰りたいとか、元の宇宙に戻れないかもしれないという不安感は今の冴内達の頭の中には1ミリもなかった。