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222:新たなる冒険

 およそ半月に渡る宇宙訪問を終えて、冴内はその後宇宙イナゴに関する調査について何か進展があったかどうかさいごのひとに尋ねてみた。


「結論から言えば全く進展がない」と、少しだけ残念そうな感情がこもった回答が返ってきた。


 IQGA315241星にある光子演算装置を使ってデータとしては完全な宇宙イナゴの再現に成功したが、クイーンイナゴが冴内に語った通り宇宙イナゴの脳には記憶メモリー領域が極端に少なく直前の出来事くらいしか残されていなかった。


 そのため宇宙イナゴ誕生に極めて関係があると疑われる何者かの何かの光に関する情報は全く何一つ得ることが出来なかった。


 しかしながら宇宙イナゴの発生頻度は数十万年に一度であり、大規模なものとなると数百万年単位の発生確率なので、今すぐに解決しなければならない喫緊の課題というわけでもないので、現状それほど深刻な事態ではなかったが、それでもデータとしての再現には成功したので今後もあらゆる方面からの研究調査を続行し、何か進展があればすぐに知らせると冴内に報告した。


 正直なところ冴内の本心としては数十万年とか数百万年単位に発生する厄災については、この先80年程で寿命を迎える身としてはあまり積極的にはなれなかった。もしも何らかの解決策なり対応策が見つかれば当然積極的に協力するが、今の時点では何ら手がかりなしという状況であり、能力は神がかりだが中身は冴えないままの冴内が現状出来ることは何もなく、専門家が何かをつかむまではそこに関してはノータッチにすることにした。それに冴内が寿命を全うした後でも美衣と良子にげんしょのひとやさいごのひとがいれば宇宙崩壊の危機は回避できるだろうという強い確信もあった。


 そうして冴内は宇宙イナゴのことは完全に頭から追いやってりゅう君と神代の結婚披露宴パーティー開催まであと2ヶ月半の期間に何をしようかと家族会議を開いていた。


 そこで美衣がまた冒険をしたい!と強く熱望し、ついでにうまい食材探しをする!と、ついでというよりもそっちが主目的なんじゃないかと冴内は心の中でのみ突っ込んで、良子と優にも意見を求めたところ冒険に賛成という意見だったので冴内達はおとめぼしに行って、久しぶりにコッペパン号に乗船して、今や船内を全て統括するまでになった音声ガイドに以前遊んだVRゲームで何か面白い冒険ものはないか尋ねた。


 前回さいごのひとがオススメしたのは、第6次暗黒星雲戦争と、第44調査船団全滅の危機だったが、ウマイものが出てくる方ということで第44調査船団全滅の危機を選択したのであった。第6次暗黒星雲戦争はウマイものが出てくるような冒険ものではなく、ひたすら過酷な戦いだけのものなので、サバイバルシューティング系が好きなプレイヤーにはよいが、心躍る冒険ものではないので不向きであった。短い紹介動画にて人型の戦闘用巨大ロボットが出てきたので、冴内的には非常に興味があった。


 その後音声ガイドがグルメという点に着目して様々なデータから選び出したのが、まぼろしの放浪衛星0141の冒険だった。


 概要は第11029銀河にある第13番惑星の衛星0141の発見と調査で、まぼろしの放浪衛星という名の通り衛星なのに衛星軌道が不確かで当時の技術では観測することが出来なかったので、実際に航宙艦で探索調査をするというものだった。現在は既に所在もその衛星軌道と衛星周期も把握されており、観測ポッドがおかれているだけで、ほとんど手つかずの放置衛星らしかった。


 当時探索にあたった航宙艦が300年程世代改修を繰り返した末にようやくお目当ての衛星を発見し、調査隊を送り込んだところ大変な密林地帯で、多種多様な動植物達が独自の生態系を構築しており、そこで採取した果物や野菜や魚や肉が非常に美味であったことが記されていた。しかしながらその名の通りの放浪っぷりの衛星軌道なので、食材調達と流通ルートを開通させる費用ともたらされる収益がまったく釣り合わないのでサンプルを持ち帰ってデータ登録するだけで終了したのであった。


 早速冴内達はゲームを開始したが、あくまでも事前調査のサンプリングということで、ゲームプレイそのものを楽しむのではなく、どんな食材があってどれくらい美味しいのかを確かめることを主目的とした。


 味覚や食感はあくまでもデータとして脳に疑似体験させるに過ぎないので本物と全く同じ再現性というわけにはいかないが、それでもどの食材も非常に美味で、見た目や味がこれまでにない独特なものだった。


 当然美衣は大喜びで、早速この星に行こうと言ったので、冴内はどれくらいの日数で到着出来るか尋ねたところ、おとめぼしから大体2週間程度で到着可能だという回答が返ってきたのでりゅう君と神代の結婚披露宴パーティーまでには十分以上の余裕があるということでこの星に行くことを決定した。何より2人の結婚披露宴パーティーのために美味しくて珍しい食材をサプライズで用意して2人を喜ばせたかったのである。


 まぼろしの放浪衛星0141に行って冒険することが決まったので、冴内は関係各所にその旨を伝え2ヶ月程度で帰ってくると伝えた。その際第3農業地に行って大量の米と納豆と沢庵と干し芋をもらってきた。どの食材も美衣の宇宙ポケットに格納すれば半永久的に鮮度はそのまま維持されるので、納豆不足に美衣が悩まされることのないようにタップリもらってきたのであった。


 花子は給仕ロボット達に完璧な指令と引継ぎをインプットしたので冴内達についていくことにした。


 そうして冴内達はしろおとめ団達に見送られながらコッペパン号に乗って久しぶりの宇宙旅行に出航した。


 コッペパン号は何もかもが全自動なので航行も船内メンテナンスも全ておまかせでよく、冴内達は予行演習ということでVRシミュレーションでまぼろしの放浪衛星0141の冒険をプレイし、どの食材を持ち帰ろうかなどの選定を行って、行きの2週間の時間を消化することにした。


「僕らが今プレイしているゲームのデータって今から何年前くらいのデータなの?」

『このデータは比較的新しいですよ!今から大体8万年前くらいですから最近ですね!』


「・・・新しいんだ・・・8万年が・・・」

「8万年も経つと結構この時の状況と変わってるんじゃないかしら?」(優)


『観測ポッドのデータでは確かに当時の状況とは変わっていますね、でも大規模に変わってはおらず、幾つかの生態系に変化があって絶滅した種もあるようですが、皆様お求めの食材には大きな変化はないようです、地形についてもそれほど大きな地殻変動や浸食作用などもないようです』


「そうなんだ、ここは宇宙イナゴの影響を受けなかったんだね」

『そうですね、そこはさすがまぼろしの放浪衛星といったところですね』


 冴内は少し安心して様々な食材の選定を続けることにした。まぼろしの放浪衛星0141の観測ポッドはまだ問題なく作動しているようで、この食材はまだあるかと音声ガイドに確認してデータ照合してもらっていった。


「この20本足のタコみたいな生き物の足は素晴らしく美味しいねぇ、お寿司のネタにしてもいいと思うし、焼いて醤油をつけて食べたら香ばしくて最高だろうね」

「アタイはこの空飛ぶ真っ白いヘンテコのお肉が気に入った!」

「私はこれとこの果物がとても気に入ったわ、2つを盛り合わせて交互に食べると絶品ね!ヨーグルトソースをかけて食べてみたいわ」(優)

「私はこれかな!このお野菜がとても美味しいと思う!これ単体でも美味しいし、美衣ちゃんのお肉と一緒に食べるともっと美味しいと思う!」(良)

「ホントだ!この野菜は素晴らしいぞ!」(美)


 冴内達はコッペパン号の船内でVRシミュレーションゲームをというより、ただひたすら食材を楽しみながら目的の場所へと移動していた。


 しかし、彼らはその場所へはたどり着けないのであった・・・

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