218:力堂達の奮闘
「さて、何が出てくるかな・・・」
「最初だし普通にイノシシじゃねーの?」
「そうですね、動物系の可能性が高いですね」
「陣地の構築終わったよ」
「こっちも補助魔法の準備完了よ」
「おっ、出てくるぞ!」
試練の門難易度「非常に難しい」第5ステージのボス部屋にて力堂達の前に出現したのは巨大イノシシか巨大クマかという予想に反し、巨大なスライムが登場した。
「スライムか!」(力)
「でもデケェな!」(矢)
「とりあえず属性攻撃を試みましょう!良野さんまずは火の魔法を試してもらえますか?威力は普通でお願いします」
「分かったわ!」(良)
ちなみに魔法は特段詠唱する必要はないのだが、術者によってはイメージしやすくするためや、自らのテンションを高めるために声に発する者もいる。この場合は良野は無詠唱で火球、いわゆるファイヤーボールを放った。
ボシュンッ!ジュゥゥゥ・・・
「恐らく効いてますね!水系は逆効果になるかもしれないのでやめておきましょう!あと、力堂さんと矢吹さんにも炎系の攻撃属性付与の補助魔法をお願いします!」
「分かったわ」
「あいよ手代木ボウガンの弓を引いといた、矢は炎の矢でいいんだよな?」
「有難う御座います吉田さん!僕と吉田さんは右、良野さんは左から攻撃しましょう!力堂さん矢吹さん射線軸レンジは大体2メートルです!」
「「「「了解ッ!」」」」
判断から指示までの速度に5秒もかからないという相変らずのスピードで手代木が指示すると、即座に力堂と矢吹が前進して炎の属性を纏った直接物理攻撃を放った。同時に左右両側面斜め方向から火球と炎の矢も放った。
最初の痛撃によりスライムのサイズが一回り小さく見えたと同時に、手代木が「警戒!」と叫んだ。
すかさず力堂は半身の構えで足をしっかり踏ん張り盾を構えて、矢吹は素早くスウェーバックして力堂の後ろに移動、手代木と吉田は陣地に後退して、良野は防御魔法の用意をした。
するとスライムは一瞬凝縮し後、散弾のように自らの体液を前方に発射した。その体液は陣地の防御壁に付着すると表面はジュウジュウいって少しだけ溶けているように見えた。
「酸性があります!毒もあるかもしれません!力堂さん盾は大丈夫ですか!」
「問題ない!無傷だ!」
「良野さんは!?」
「大丈夫よ!」
「この分ならまだ10発程度は陣地の壁は持ちそうですね、このまま続けましょう」
「あいよ」(吉)
良野は以前優からバリアー魔法について教わっていた。当然まだまだ途方もなく優のバリアーには及ばないし、力堂の持つ盾の防御力にも遠く及ばないが、それでもこれが使える地球人の魔法使いは良野だけであり、自ら身を守ることが出来る魔法使いの存在はそれだけで魔法の稼働率があがるため一人で複数人にも匹敵する有用性があった。
巨大スライムの乾坤一擲の攻撃は空しく全て防御され、巨大スライムは今の攻撃でさらに一回り小さくなった。
間髪入れずに第2射第2攻撃を開始して、さらなる痛打をスライムに加えると、またしてもスライムは一回り小さくなり凝集し始めたので、同じように力堂達は身構えた。
やはり同じようにスライムの体液の散弾発射が繰り返され力堂達は難なく防御した・・・が、体液の中に混じって小型の分離スライムがいて、それらが力堂達に予想外の角度から体当たりしてきた。
「危ねぇッ!」力堂の斜め背後にいた小型分離スライムを間一髪矢吹のフックが切り裂いた。さらに反対方向から矢吹に体当たりしかけてきた小型分離スライムを見事なボクシングのウィービングでギリギリ躱してその反動を利用して至近距離からアッパーカットで切り裂いた。「お見事!」と力堂が後ろをチラ見して矢吹を褒めつつも正面のスライムに対しては一切隙を見せずに盾をかまえていた。
一方良野の方は優から教わったバリアーは優のバリアーに比べてはるかに非力ではあるものの、良野を中心としたダイアモンド型の菱形全方位バリアーという点では優から教わったバリアーと同じであるため背後から体当たりしてきても小型の分離スライム程度であればバリアーで十分跳ね返した。
さらに手代木と吉田の陣地ではツーマンセルであるのと陣地の防御壁により、容易に小型分離スライムの所在は把握されており、吉田の中型ハンマーでペチャンコに押しつぶされた。
「このスライム知性があります!要警戒!」
「しゃらくせぇことするじゃねぇか!スライムのくせに!」
「ああ、しかしそうでなくてはな!」
「へへっ!大将嬉しそうじゃねぇかよ!」
「そうか?」
「ああ!口元が有言に物語ってるぜ!」
「フフフ!顔は正直なようだ!くるぞ!」
スライムは反対方向にムニュウーと伸びたかと思うとその反動を利用して、近接する力堂の盾めがけてものすごい打撃を加えてきた。力堂が足により一層力を込めて踏ん張って打撃を真正面から受け止めた。
バチィィィィン!と凄まじい衝撃音がとどろき、力堂はズズズと水平に後退した。
「やっぱ楽しんでんじゃねぇーか!」ここは矢吹も分かってるもので、本来ならば力堂程の熟練者ならばヒットの瞬間に盾を斜めにして攻撃をいなして相手の体勢を崩したりするはずなのに、敢えてそれをせずにこのボススライムの力がどれ程のものか、試しているのがすぐに分かったのである。
そしてモチのように伸びきったスライムの中央部分を矢吹は素早く飛び出して垂直に上からかぎ爪のアギトを振り落とした。
するとそこで見事にスライムの切断に成功し、いつの間に指示していたのか吉田がみつまたのフック付きのアンカーを投擲して、分離したスライムを引っ掛けてものすごい勢いで手繰り寄せて分断した。
すぐに分離した方のスライムの破片に対して炎属性の攻撃を良野と手代木と吉田で浴びせかけて、力堂を最前線に残したまま矢吹が反転してとどめを刺した。
とどめにはボクシングでは絶対に使うことがない攻撃を用いた。それは足を大きく開いて右足に全体重を乗せて左足を前に腰を落として半身の姿勢をとり上半身は右に思いっきり捩じって力を溜めて、右腕を後方に振りかぶって右前腕に精神集中して、ここだというタイミングで爆発的に右足で地面を蹴り足から腰、腰から腹、腹から肩、肩から腕へとまるで体内内部にエネルギーを流す大きなホースがあるかのようにイメージして強大な力を伝達するのである。これはあまりにも動作が大きく人間相手ならばいかにもこれからスゴイの打ちますよというのがバレバレなので、俗に「テレフォンパンチ」と言われるものなのだが、相手がスライムや動物や昆虫系などの危険対象物の場合は問題なく、それよりも単純に物理的な威力が高い攻撃を思いっきりぶっ放す方が大変有効なのであった。
矢吹の渾身のフックは冴内のレインボーチョップには遠く及ばないものの、常人にはほぼ目視出来ない程の速度に達しており、空気を切り裂くというよりも破裂音が後から聞こえる程のものだった。要するに音速を超えていた。常人ならば前腕の毛細血管がズタズタになっていることであろう。
矢吹の攻撃で間違いなく分離した方のスライムは倒したと思われるがそれでも全く抜け目のないことに一切油断はなく、さらに細かく分離して攻撃してくる可能性をしっかり想像して身構えていたが、やがて分離した方のスライムの破片が消滅して黒い霧になって霧散したのを見てようやくそちらの警戒を解いた。
こうした集団戦術戦闘スキルはしろおとめ団や冴内達を凌ぐ程なのだが、冴内やしろおとめ団達は単体というか、個のスペックが規格外過ぎて細かいことを考慮する必要がなかったため、力堂達に比べて戦いが雑になるのであった。