217:力堂達の状況
しろおとめ団達のモヤモヤも解消されたようで、やる気も意欲も準備も十分整ったことを確認したので冴内は安心しておとめぼしについてはしろおとめ団達に全て任せることにした。
この間冴内達はみんなのほしの現地調査を実施していた。みんなのほしはこの宇宙における最高知識を持つ思考生命体のげんしょのひとやさいごのひとがいるので、惑星自体の調査は彼らの知識とテクノロジーによってすぐにほとんど網羅され、冴内達は補足的に実際の現場に行ってみて現地調査をして、より確実な情報を付け加えていったのであった。
そうした活動により、みんなのほしの詳細マップが出来上がり、地球から来たゲートシーカー達が安心して探索活動を行えるようになった。
とはいえ、ゲート付近のかつての古代都市があった場所付近一帯は安全だが、それを超えた先の未開地域は通常のゲートシーカーではかなり危険な場所も結構存在し、少なくとも試練の門の難しいレベルを攻略した者が1チームに複数人はいなければ命の危険があった。当然単独探索などは論外である。
一方、力堂達は試練の門の「非常に難しい」に挑んでいた。その上の難易度「最高に難しい」は全部で10ステージであることがしろおとめ団達から聞いていたが、難易度「非常に難しい」ではステージは全部で20であるということが判明した。
力堂達は先日まで第4ステージまで攻略しており、先日はおとめぼしの温泉宿に宿泊したので心も身体もとてもリフレッシュ出来たので、この日はかなりコンディションが良く意気揚々と第5ステージの攻略に挑んでいった。
しろおとめ団達が挑んだ難易度「最高に難しい」とは異なり、いきなり8人乗りのミニバン級の大きさの巨大イノシシが現れることはなかったが、それでも純粋に地球人である力堂達にとってはなかなかに歯ごたえのある危険対象物達との戦いが続いた。しかもしろおとめ団達は当初11人で挑んでいたのに対して、力堂達はその半数近い5人での挑戦のため数的有利さからも彼女達よりハードルは高かった。
そして本日挑む第5ステージは節目のステージということでボス部屋のみの特別ステージだった。ただ最初のボス部屋ステージなので、出現するボスは1体のみとのことだった。この情報は事前に音声ガイドからもたらされており、最近では音声ガイドもかなり挑戦者に対しては優しくなり、色々とアドバイスを含めて教えてくれるようになっていた。
規格外の冴内達を除き、試練の門に挑む者達がどれも皆人格的にも思考判断力でも優秀で、理性的であり思慮深い人物達ばかりだったので、音声ガイドも感心安心したのであった。
それもそのはずで、元々「ギフト」を授けられる人達は性格的にそうした要素を兼ね備えた人達であるので極端に好戦的であるとか短絡的や直情的な人物は存在せず、どちらかというと温和な人達が多いのである。
しかも今となってはある程度緩和されたが、当初試練の門に挑むことが出来るのは機関によって品行方正な人物で力量も十分な人物だと認められたゲートシーカー達だったので、より一層優れた人物達であったのだ。
音声ガイドは一番最初に幸か不幸かあらゆる面で規格外のイレギュラーである冴内達と遭遇してしまったために、途中からガイドAIとは思えない程人間味溢れる様子で呆れる場面もあったが、冴内以外の挑戦者が全員当初の想定通りのレベルで、人格的にはそれ以上に優秀で好感が持てる人達だったので、音声ガイドもようやく本調子になったというか、最初の冴内でふっきれたのか、今では大変上機嫌で大サービスで助言を与えていたのだった。
加えて冴内によって「よくないもの」の問題もなくなった上に、げんしょのひとやさいごのひとも思念体として活動を再開したという予想外の予想以上の状況になったので、その恩返しも含めて試練の門の役割を改めてなるべく安全に挑戦者のレベルを向上させることにしたのである。
しかしながらあまりにも親切過ぎる助言を与えられるのではもはや試練にならないのでないかという意見もあったが、それでも例の矢吹の死亡という事例が実に効果的に効いていて、やはり過酷な試練なのだという認識を挑戦者にしっかりと与えていた。
力堂達は第4ステージまでの攻略ボーナスで装備は刷新されており、力堂はかつての英雄剣を超える程のステータスの剣を装備していた。ただ盾に関しては美衣が生まれる前の卵の殻を基にして作った盾が途方もない高レベルのものだったのでこれを超える盾はまだ出現していなかった。恐らく全ての難易度を攻略してもこれを超える盾は出現しないだろう。本来ならばこれほどの高い能力を持つ装備品はレベルが低いと装備出来ないはずなのだが、この点でもやはり規格外ということなのだろう。
単純な攻撃力に関してはこのメンバーの中では矢吹が最強で、今はバトルグローブというよりもかぎ爪のような手甲武器を付けていた。見た目がいかにも中2病全開というか、ファンタジー系のゲームで出てきそうなイカつい凶悪なもので、そのフォルムはトゲだらけの爬虫類のアギトのようだった。鋭利なかぎ爪のためボクシングのストレートよりもフック系の攻撃が効果的で、武器の性能によりある程度距離が離れていても十分目標対象物を、それも複数相手に対して切り裂くことが出来た。
良野は魔法能力においてはいまや地球人類では最強レベルに達しており、これまでの報酬アイテムによってさらにブーストがかけられていたので威力は倍増されていた。攻撃においては単独では矢吹に及ばないものの複数相手や遠距離への攻撃については非常に有効に作用した。しかし良野は性格的にあまり攻撃方面の魔法を好まず、回復や補助魔法を好むためそちらの方のスキルを向上させていた。特に前回の難易度攻略の際に矢吹が死んでしまったことが結構ショックだったので、より回復や防御力アップの補助魔法に力を入れることにしたのだ。
手代木は元から索敵と戦術分析と指示役と間接支援を得意とする役割であり、彼単体のスペックで言えば攻撃力も防御力も生命力も魔法力も力堂メンバーの中では最も低いが、それでも現代戦闘及び探索活動においてはこうしたブレーンがいるだけで、勝利確率、生存確率、利益率において、格段の差があるのである。ちなみに手代木のステータスが低いといってもそれは力堂チーム内でのことであって、地球上で手代木に肉薄する力堂以外の探索者はいないのが実情である。手代木が戦術分析をしてくれるおかげで力堂は純粋に攻撃もしくはタンク役に徹することが出来ることも極めて有益だった。
そして吉田の運搬能力である。試練の門はまさに宝の宝庫でもあり、その階層をクリアするまでは何度でも挑戦出来て、20時間以上経過すると危険対象物は再出現するため、貴重なアイテムを何度でも取得することが可能だった。しかしながら難易度が上がるにつれてアイテムのサイズが大きくなったり、数も多くなるので、持って帰れずに泣く泣く諦めることも考えなければならないのだが、運搬特化シーカーが一人いるだけでその方面ではかなり利益率が向上するのだ。
吉田はある程度戦闘能力もあるため、荷車を後方に置いて後方から支援することも可能ではあるのだが、力堂、矢吹、良野の3人がいれば大体かたがつくのでほとんど出番はなかった。しかもしろおとめ団から龍美が残したアイテム格納ポケットをもらったので、アイテム格納ポケットに入りきらない分だけを運搬すれば良くなったので、その分回復薬や食料などの他に吉田と手代木が使うボウガンの矢などの消耗品も多く持つことが出来るのでますます戦力強化になった。
しろおとめ団からもらったアイテムといえば、重力制御マントもあるが、普通ならば誰かが装備して使うことになるのだが、手代木は敢えてそれをせずに荷車の床に敷いて使うという発想をした。それにより荷車の耐荷重を完全に無視した重さと量の物資を運搬することが可能となり、兵站という面での大幅な強化はチームの戦闘力と利益率を飛躍的に高めることになった。
そうした状況下で力堂達は試練の門、難易度「非常に難しい」第5ステージのボスに挑もうとしていたのであった。