216:しろおとめ基金
神代はゲート世界に入ってこれないので、しろおとめ団達は富士山麓ゲート研修センターに赴き、中会議室にて相談することにした。その場には冴内も来てくれて、しろおとめ団達は多忙であろう二人にわざわざ自分達のために時間を割いてもらったことに対して深く感謝した。
彼女達がモヤモヤしていることを二人に話したところ、二人ともまさにしろおとめ団達が求めていた答えを見事に解き明かしてくれた。
まずは神代が分かりやすく要点を以下のようにまとめてくれた。
・自分達には既に十分過ぎるお金があり、経済面で何ら困ることがなくなった。
・おとめぼしの観光事業においても経費としてかかる費用はほとんどなく自給自足で運営可能である。
・結果、利益を追及する意欲が沸かない。
・日本国に恩返しをしたいが、一部の選ばれた人達しかもてなすことができない。
・自分達は出身も育ちも恵まれた良い環境とは程遠い中で育ってきたので、出来ればそういった境遇にある人をもてなして喜ばせたい。
上記のように神代が要点をまとめてくれたので、しろおとめ団達のモヤモヤする気持ちの原因も明確にはなったが、では次にその気持ちはどうすれば解消するだろうかという内容に話が移ったところで、冴内が特に深い考えもなく何気ない気持ちでつい一言口から洩れてしまったのだが、この一言が決定的となった。
「それじゃあしろおとめ基金でも作ったらどう?」
「「「「 ッ!!! 」」」」
その場にいる全員がその一言に衝撃が走った。その一言を起点に様々な想像が、言った張本人の冴内以外の全員の脳内を電撃的に駆け巡った。
しろおとめ団達が保有し、そしてこれから稼いでいく莫大なお金を、彼女達の魂が救われることに活用すればいいのである。
経済的に恵まれない子供や女性達、重い病気に苦しむ子供や女性達に対する支援を行う基金を設立して、そのために稼いでいくのだという目的意識をおとめ観光株式会社の理念、精神の中心に据えるのだと、まさに宇宙の愛の使者である冴内に相応しい素晴らしい指摘であると全員が納得した。全くそんな発言は1ミリも発していなかったが・・・
「いつもながら冴内様のお言葉、まさしく宇宙の愛が常に根底にあること、不肖神代改めて深く感銘いたしました」
神代は涙ぐんでそう言ったのだが、実のところはまったくそこまで深く考えておらず、金が余ってて誰かの役に立ちたいと思ってるなら寄付をしたらどう?くらいの軽い気持ちがついつい口から出てしまっただけのことだったので、冴内は内心すごく申し訳ない気持ちになっていた。
しかも追い打ちをかけてしろおとめ団達もグズグズと泣き始めて、素晴らしいとか、感動して涙が止まらないとか、大好き、愛してるとか言い出し始めるので、なおさら冴内は名前付けもそうだが、軽率な発言は本当に気を付けようと心に誓ったのであった。
とはいえ安心安定の冴えない冴内クオリティなので、冴内がいくら心に誓ったところで結局これからもそうした行為を繰り返しては反省するという状況は死ぬまで治らないのであった。しかしそれこそが冴内であり冴内はそれでいいのである。
早速誠の卓越した会計処理能力と神代の豊富な人脈をたよって基金設立へと動き出した。
奈良ゲート局長の道明寺にも一応一報入れたところ、道明寺はやはり感動の余り泣き出し初め、嗚咽を漏らしながらも失礼しましたと言って落ち着きを取り戻し、その後は凄まじく力みなぎる眼光で私にも是非とも協力させて下さいと言ってくれた。
こうした優れた人達の協力の元、極めて早いスピードでしろおとめ基金は設立され、その理念と精神は多くの人々の共感を得た。
若干無粋なことに、しろおとめ団達全員の容姿が非常に美しく、それでいて地球上最強のゲートシーカーということで、世界的なアイドル的存在という側面からも、しろおとめ基金はますます世界中の人々に認知されていった。
しかもしろおとめ基金は設立開始と同時に10兆円を超える金額が入金されたのですぐに世界最大規模の基金に並ぶ存在となった。
当初しろおとめ団達は彼女達の口座の全額を基金に入金しようとしていたが、さすがに一文無しという訳にはいかないという誠の指示に従い、大体9割超の金額を入金した。それでも彼女達の口座にはまだ数十億円の残高があった。
ここからは先の余談の話しになるが、しろおとめ基金は多くの賛同者を得て、世界中からも多額の募金を得ることになる。彼女達の彫像、銅像、肖像画などや記念切手に記念紙幣、金貨、硬貨なども発行され、それらは大人気でそれ目当で寄付する輩も多くいたが、結果として有益に有効活用されたので結果オーライだった。
さらに、おとめ観光株式会社で働きたいと願うゲートシーカー達も多くなっていくのであった。とりわけ戦いを好まない女性シーカーが多数集まり、事業規模は拡大発展を遂げる。
また、温子が院長を務めることになる保養療養所を兼ねる総合病院も発展し、難病患者や探索活動で大怪我を負ったゲートシーカー達の最後の希望の場所となった。高い医療スキルや薬剤スキルを持ったゲートシーカー達が憧れ目指す場所にもなり、沢山の人々、宇宙人達を救った。
ちなみにニアが管理する心安らぐ動物達のふれあいは精神面での療養において非常に効果があり、心の病を負った人々の苦しみを解放していった。
話しを現在時間に戻す。
しろおとめ団達はやはり冴内に相談して良かったと、ますます冴内に対しての絶大な信頼を寄せて、やっぱり冴内と結婚したいと密やかに思いつつ、彼女達のモヤモヤが綺麗さっぱり澄み渡る青空のように解消され、大いにやる気がみなぎってどんどん稼ぐぞ!やるぞ!という気持ちになったのであった。
おとめ観光ツアーの宣伝については地球上では神代と道明寺の方で行うことになり、別宇宙については冴内がりゅう君と龍美の結婚披露宴パーティーのお誘いをする際にミャアちゃんやクリスタル女王に宣伝すると言い、いずれは宇宙イナゴ討伐の時に通過したリングゲートの星々にも行くことがあるからそのときに宣伝していくことになった。
当面は1回につき20人までの少人数制のツアーなのでそれほどすぐに強く宣伝に力を入れなくても良いということも各自で認識した。
相談した結果、期待以上の答えに加えてしろおとめ基金の設立という、しっかりと形のあるものまで用意してもらい大いに満足したしろおとめ団達はおとめぼしへと引き上げていき、途中で冴内に頼んでみんなのほしに置きっぱなしの通信装置付きテーブルを利用させてもらい龍美に連絡して、これまでのいきさつを説明したところ、龍美は大感激して自分の口座にある金額は全額基金に入金してくれと言った。ちなみに恵子が預かっている龍美のゲートシーカー専用携帯端末については、今は見ての通りの身体なので操作不可能だから機関に返却するよう頼まれた。
夕方近くなっていたので、しろおとめ団達がおとめぼしに戻るのに便乗して冴内ファミリーも一緒についていった。力堂達から聞いたおとめ寿司を是非とも食べたいと美衣が言ったので良美は大喜びしつつもなかなかのプレッシャーを感じながらやる気に満ち溢れていた。
また、生まれ変わった大温泉を見てはいたが、まだゆっくりと楽しんでいなかったので、こちらも大いに楽しもうという目的もあった。
家族をもてなすことが出来て花子は鼻歌交じりの上機嫌であった。
ちなみにこの日は優も美衣も良子も冴内のいる男性用浴場に入ってきたが、冴内達以外の観光客はまだいないので花子が他の給仕ロボに指示して特別に許可してもらった。
しろおとめ団達もさりげなく便乗して冴内と一緒に入浴したがったがなんとか我慢したのであった。