21:護衛任務開始
翌朝、結局朝5時前に目が覚めてしまった。今日と明日は日帰りなのでそれを意識して簡単に身支度を整える。
ちなみに前日にリュック、水筒、各種プロテクターを購入した。といっても前回借りたリュックとプロテクターは保管されていてそちらは無料だった。回復ドリンク3本も無料配布された。なので水筒だけを自腹で購入した。ゲート内の素材で作られた1リットルサイズの大きい金属製のものだが驚くほど軽かった。保温時間もかなり長い時間保温し続けるとのこと。値段は5千円だったがゲート外では5万円以上もするそうだ。
水筒と回復ドリンク3本そして家から持ってきたスポーツタオルと一応念のためシャツをリュックに入れて部屋を出た。果たしてこんなんでいいんだろうかと思わないでもない。
朝5時を少し過ぎたあたりで食堂につくと矢吹さん以外全員到着していた。いったん挨拶をした後カウンターで和食の朝食セットと日替り弁当を注文し、料理を受け取ると良野さんと木下さんが座っているテーブルに向かった。二人はトーストのモーニングセットを選んでいたようだ。
軽い雑談の後、良野さんに昨日お婆さんと一緒に帰っている所を見られていたらしく、その時の様子を語ったところ「既に護衛任務をこなしたようね、これならもう安心安心」と笑った。
木下さんも「そうだったんですね、今日は安心して薬草採取できそうです」と応えてくれた。
その後矢吹さんがやってきて隣のテーブルで急いで朝食をかきこんだあと、食堂前にて手代木さんからの再度確認が行われ、それぞれ二班に分かれて目的地へ向かうことになった。
今日自分が向かう草原エリアBはゲートを中心点として真南の方角に10キロ程の場所にある、徒歩およそ2時間程の場所だ。
往復4時間の徒歩行軍なんて、果たして体力的に大丈夫だろうかと思ったが、研修センターの講習で能力者の基礎体力面についての説明を受けたときに、一部の例外はあるものの大抵のシーカーは丸1日歩き続けても空腹以外はそれほど消耗しないというのを思い出した。考えてみれば自分も無心でチョップの素振りを5時間もぶっ続けでやってたわけだし大丈夫かな。
そうして歩き始めたのだが「ちょっと早歩きするけどいい?」と良野さんが自分に聞いてきた。「はい、いいですよ」と応えたが自分にじゃなく木下さんに聞かなくてもいいんだろうか?
と思うが早いか二人とも急に駆け足をし始めた。えっ?ちょ!速くない?早歩きというよりも駆け足じゃないですかそれ?っていうかえらい速い!そんなペースでどこまで行く気なんだ!?とりあえず自分も慌てて追いかけることにした。
走り始めること数分、普通なら喉がヒリヒリして口の中は鉄の味がしてゼーハーいうはずなのだが、まるで息があがらず普通に二人と雑談しながら駆け足し続けていた。
自分の思い描くイメージでは魔法使いの人とかは体力よりも魔力でなんとかするイメージで、こんな風にひたすら駆け足し続ける姿はちょっと想定外だった。いや、それとも魔力かなんかで駆け足をしているのだろうか。
「移動時間はただただ退屈だから話し相手がいるといいわね」と良野さんが言うので、話題の提供として今考えたことを言ってみたら、やはり大抵のシーカーはこれくらいの体力はあると言っていた。もし何かしらの補助魔法をかけるならば、時速50キロぐらいは出るかもしれないとか言いはじめ、魔法使いじゃなくとも移動に特化したシーカーならそれ以上の速度で数日間移動するとも言っていた。
色々と改めて思い知らされた気分になった・・・
結局2時間どころか30分程度で現場に到着した。オリンピックのマラソン選手並みだ。
分かりやすく木の看板が建っていて草原エリアBと書かれていた。見渡すとかなり広くて一体どこまでが草原エリアBなんだろうと思った。そこで木下さんが地図を広げるとカラーペンで斜線がひかれたエリアを指さし、このエリアがまだ植生調査が行われていないのでそこで採取をすると説明した。
結構そのエリアまで離れてるように見えるので、たずねてみると今のペースで1時間、距離にしておよそ20キロ地点だそうだ。
ただ時間がもったいないので早歩きではなく駆け足で行くと言った。これまでのが早歩きだとしたら駆け足っていったいどれくらいなんだと思う間もなく二人とも先ほどの倍のスピードで走り始めた。
高校生だった頃の100メートル走でも果たしてそこまでのスピードを出していただろうかという速度でなんとか二人についていく。確かにキツくはないがそれでも悠長に会話をする余裕はなかった。15分程疾走し目的地についたが、到着早々まるで息を切らす様子もなく採取準備をする木下さん。良野さんは目をつぶり杖を水平に掲げて何やら集中している。
数秒後目を開けた良野さんは「半径3キロ以内に危険対象物なし」と言い、続けて「南東5キロ先の林にイノシシ、熊、ハチがいる」と言った。
「もしよかったら冴内君倒してきてくれる?」と実に気軽な感じで問いかけてきた。
一瞬絶句しかけつつもなんとか「分かりました」となるべく自然な笑顔になるよう答えたところ、突然左手が光りだした。えっ?こんなときにレベルアップ?自分も含めて全員が驚いた。
確認してみたところ下記のようになっていた。
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冴内 洋
20歳男性
スキル:チョップLv20
★称号:チョップマスター⇒チョップロード
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チョップ自体のレベルは変わっていないが、称号がチョップマスターからチョップロードへと変わっていた。一体何の道なんだろう、何かの修行の道なんだろうか・・・