202:新たな人生の道と夢
龍美が力堂に連絡したところ、奈良ゲートの研修センターで情報交換しようということになり、しろおとめ団達は奈良ゲートの研修センターに向かうことになった。手代木がマイクロバスを手配し迎えに行き、しろおとめ団達は彼女達からすると極めて旧式の地上専用車両に乗って研修センターへと向かって行った。
「見た目に反して大分乗り心地が良いのだな」
「車輪付きの乗り物って初めて見た!」
「運転してみたいっぺよ!」
数分程度で十津川村にある奈良ゲート研修センターに到着すると奈良ゲート局長の道明寺や力堂達や職員達に加えて十津川村の村民達が出迎えてくれていた。ようこそしろおとめ団の皆さんという横断幕が掲げられて、小さな子供達がしろおとめ団達に花束を渡してきて、わぁ!すごく綺麗なお姉さんたちだ!と喜ばれ、しろおとめ団達は大感激して泣きそうになっていた。
温かい歓迎を受けた後、しろおとめ団達は中会議室に向かい力堂達と意見交換をすることにした。中会議室には試練の門専属の研究職員達もいた。元は冴内達専属の戦術研究チームだったのだが、今では人員の数は数倍になり、より多くの一般シーカー達に向けた戦術提案や情報連携の専門部署にまで発展していた。
既に鈴森からしろおとめ団達の最初の戦利品に関する情報は届いており、力堂は改めてしろおとめ団達の実力に感嘆した。
「しかし、いきなりこんな大きなイノシシが出てくるとは・・・」
「あの4つ足の生き物はイノシシというのか」
「うむ、大抵は君等が倒したものよりもかなり小さく、我々にとってはそれほどの脅威対象ではないのだが、まさかここまで巨大なものが出現するとは思わなかった」
「私達も驚いたのだが、そのイノシシなるものを倒したら煙のように消えて、後には牙と毛皮と肉が残っていたのだ、まるでVRシミュレーションのようだった」
「うむ、それはげんしょのひとが作り出した世界だからだ、我々がゲートと呼んでいる世界は実際にはげんしょのひとが破壊された惑星を再生して作り上げたテラホーミング惑星なのだ。試練の門もその一環で、全てはげんしょのひとによって造り出された創造物であると彼ら本人から説明されたのだ」
「なるほど理解できる話だ、私達も冴内様がさいごのひとと呼ぶ思念体と共に行動してきたので、げんしょのひとと呼ばれた存在の高度に発達した文明については実体験として知ることが出来たのだ」
こうしてしろおとめ団達は力堂チームと様々な意見交換情報交換を行った。試練の門専属研究職員達も加わりその場にいた全員にとって大変有意義な時間を過ごすことが出来た。
話し合いを進めていくにつれて各メンバー達も打ち解けそれぞれの交流も進んで行った。矢吹はまだ自分では装備出来ないバトルグローブを難なく装備している元総舵手の元子に羨望の眼差しを向け、良野は元サブリーダーのえるに対してあなたには膨大な魔法能力の潜在能力があると話し、後で魔法について教えることにした。吉田はコックの良美に荷物運びについてあれこれ説明し、後で実地指導することにした。手代木は元航海士の恵子に偵察や戦術指揮などを教えることになった。他のメンバーも力堂が剣などの武器による戦闘方法を、矢吹が格闘戦闘を教えることになった。現実離れし過ぎた強さの冴内達が教えるよりも遥かに有益だった。
その後お昼になったので一時休憩ということで、研修センターの食堂に向かった。
冴内達も既に到着しており、今日しろおとめ団達が倒した巨大イノシシの肉が半分程食堂に卸してもらえたとのことで、全員で特別日替わりランチを注文することにした。
程なくして料理が出来上がると、白いコック服にコック帽を被った美衣が登場してきた。花子も料理を運ぶ台車を押しながら登場した。美衣は道明寺に以前第2の試練でゲットしたシルクワームの最強の絹糸の残りで第44調査惑星のレストランのコック達の服を作ってもらうよう頼んでいたのだ。残念ながらコック服を作るには最強の絹糸はかなり足りなかったので不足分は別の最上級の糸を用いたが、製作にあたっては道明寺自らが指揮して選りすぐりの服飾職人に作ってもらった。そのあまりの可愛さに吉田と良野はメロメロになり美衣を激写しまくった。
全員が美衣自慢の巨大イノシシの肉を使った料理を口にするとあまりの美味しさに目はウットリして頬に手を当てて幸せいっぱいの表情になった。
そんな中、コックの良美は真剣な表情で味わい、味覚食感歯ごたえ見た目など様々な角度で美衣の料理を分析していた。今の自分の力量と美衣の力量の差は途方もなく残酷なまでに大きいが、少しでも近づけるようになりたいと強く思った。当然付き合いの長いしろおとめ団達はそんな良美の様子を見て彼女の思いを敏感に感じ取った。いち早く自分の道を見つけた良美を心の中で祝福し、羨ましくも感じていたのであった。
午後、しろおとめ団と力堂チームは実地指導をすることになり、荷車を筆頭に現地で必要な道具とその使い方を説明したり、戦術指針など現地で経験して積み上げてきた様々な事柄を惜しげもなくしろおとめ団達に教えた。
しろおとめ団達は何の見返りもなく全てを自分達に教えてくれる力堂達に驚いた。何故そのような宝のような経験知識を会って間もない自分達に教えてくれるのだと正直な気持ちを言ったところ、そうすることでより大きな利益をより多くの人間が享受することが出来るからだと全く迷うことなく即答した力堂に一同唖然とした。
単純な戦闘力云々以前に人間のスケールが違うと彼女達は衝撃的な感銘を受けた。龍美が力堂に誰か意中の女性はいるかと聞いたところ、既に結婚していると聞いて残念がった。矢吹も手代木も既婚者だと聞いてしろおとめ団全員はさらに残念がった。
冴内を筆頭に、この国の男性は実に素晴らしいと盛大に勘違いしたしろおとめ団達は、結婚するならこの国の男性にしようと心に決めたのだった。
結局その日は情報交換や実技練習、必要な道具の調達などで終了し、試練の門への再挑戦は明日以降に行うことにした。
しろおとめ団達にあてがわれた部屋はそれぞれが余裕のある個室部屋だったが、今しろおとめ団達は全員龍美の部屋に集まっていた。
「皆に頼みがある。試練の門の攻略が済んだら、アタシは本格的に料理の道を歩みたい。美衣ちゃんに弟子入りしたいが、今のアタシの腕じゃとてもそんなレベルに達していないのは分かってる。だからまずはここの食堂に見習いで一から料理を学びたい。皆には申し訳ないがどうか私に料理の道を歩まさせてくれ、お願いします!」
「ケシシシ!んなこたぁお見通しだっての!」
「そうだぜ、じゃない、そうよ、今日の昼なんか誰が見ても分かったぜ!・・・わよ!」
「そうだな良美、温子の言う通りお前の熱い気持ちは全員良く分かったぜ、分かったわ」
「良かったっぺよ良美!洋さんが言ってた好きなことが見つかってよ!」
「ありがとう元子、みんな。アタシはいつか皆にウマイと言わせる料理を作ってみせる、皆が食べに来てくれる自分の店を持つのがアタシの夢だ!」
「良く言った良美!その夢絶対叶えようぜ!じゃない・・・いや、まぁいいか!頑張れ良美!」
「「「頑張れ良美!!」」」
「ありがとう・・・ありがとうみんな・・・」
こうしてしろおとめ団の中で新たな自分の人生の道を見つけた第一号の良美を他の団員達は自分のことのように喜び祝福した。彼女達はこれまでともに辛い人生を歩んできた仲間であり、それは家族と言っても良い程に強い絆で結ばれていた者達であったのでその喜びは純粋であり、良美の夢は他の者達にとっても夢を与えるものだった。