201:しろおとめ団の挑戦
冴内達に見送られ、頑張れとエールをもらったしろおとめ団は試練の門、難易度「最高に難しい」に挑んでいった。重々しく門が開かれるとしろおとめ団は全員中に入って消えていった。
しろおとめ団は全員大きな洞窟の中に出現した。まだ入ったばかりなので分岐はなく一方通行の大きな通路だった。あちこちで発光する岩があったので洞窟の中は明るかった。
「これって、VRシミュレーションじゃないんだよな・・・」
「あぁ中に入ったら最後、今度は死んでも大将達は助けちゃくれねぇぞ、いや、くれないわよ」
「お・・・おい、やっぱりやめといた方がいいんじゃないのか?もっと難易度を下げた方が・・・」
「ケシシシ!もう遅いって、覚悟決めろよ!」
「そうだっぺそうだっぺ!ガイドも言ってたっぺ!アタシらは強い!それを信じるっぺ!」
「お姉ちゃん達はアタシが守るにゃ!がおーっ!」
「むっ!前方に何かいるぞ!」
「先手必勝!攻撃開始!」
「「「了解ッ!」」」×10
もしかしたら友好的なNPCだったかもしれないなどという考えは一切なくいきなり問答無用に攻撃を開始した。彼女達はこれまで女宇宙海賊として過酷な状況を生き抜いてきたので、好戦的になるのはやむを得なかった。
まずは遠距離攻撃として元砲撃主の冷香と元航海士の恵子が弓で攻撃したところ、見事に命中して2人はやった!と口にした。
命中したのは大きな4つ足の生き物で友好的なNPCではなかった、ピギィッ!と大きな声をあげて、ゆっくり振り返ると口元の両端には大きな牙が2本生えており、大きさは8人乗りのミニバンくらいはありそうだった。
他の団員達はそのまま前進し、今度は元機関長の拓美と元副機関長の誠が槍を全力で投擲すると見事に命中したが急所にまでは届いていないようで、4つ足の巨大な生き物は矢や槍が突き刺さったまま、しろおとめ団達に突進してきた。
冷香と恵子が「第2射行くぞ!お前ら横に避けろよ!」と言いつつ第2射を開始。1本の矢が片方の目に命中して、巨大な4つ足の生き物は大きくよろめいた。
「足だ!足を狙え!見えない方の目の足だ!」龍美が的確に指示すると、武器として剣を選択した龍美と元サブリーダーのえるが前脚を狙い、今もコックで巨大な包丁のような大剣を持った良美が後脚を狙って思いっきり剣を叩きつけた。3人とも剣などふるったことはなかったが、武器の性能に助けられたのか相当なダメージを与えることに成功し、巨大な4つ足の生き物はまともに動けなくなった。
「今だ!たたみかけろ!反対側の足に蹴り飛ばされるなよ!」
「「「了解ッ!」」」
元総舵手の元子は顔面を殴り、一応今も医療担当の元ヤブ医者の温子と元機関室見習いのるきはナイフで腹を突き刺した。
「最後はアタシにまかせるにゃぁ!」とニアが喉元にかぶりついて窒息させた。
巨大な4つ足の生き物はピクピクと痙攣した後に消滅した。後には2つの大きな牙と毛皮と巨大な肉の塊が残った。
「うわわわわ!なんだコレ!?」
「消えたと思ったら、肉と毛皮と牙が出てきた!」
「どうなってるんだ!?これやっぱりVRシミュレーションじゃねぇのか!?いや、ないのかしら!?」
「リーダーどうします?これ結構重いですよ、動けないことはないですが戦う時は邪魔になりますよ」
「そうか、しまったな・・・そういえば力堂達の中に荷物を持つ専門の担当がいるんだった。たしか荷車のようなものをもっているとか・・・」
「・・・よし!いったん引き返そう!今のでアタシ達でもなんとかやれそうなことは分かったから、荷車とかバッグとか他にも用意した方がいいものを力堂達に聞いてもう一度挑戦だ!」
「「「りょうかーい!」」」×10
この判断は実に正しい選択だった。ここであともう少し先に行ってみようという選択をしてしまう者には大抵予想外のことが起きて思わぬ被害を被ることになるのだが、しろおとめ団は女性という体力戦闘面において弱い立場にありながらもこれまで女宇宙海賊として生き抜いてきた術が身についており、肌感覚で危険リスクを回避したのであった。
しろおとめ団は15分程ですぐに出てきたので音声ガイドが理由を聞くと、手に入れたアイテムを運ぶ荷車が必要だと答えたので音声ガイドは納得し、この先試練の門を進んでいけばその点で役に立つものを手に入れることが出来るでしょうと予言した。
しろおとめ団は大きな牙2本に毛皮に大きな肉の塊を素手で持ち運んだ。肉の塊はコックの良美がまるで重量挙げのように頭の上に担いでおり、大きな牙は元・総舵手の元子が両肩に1本ずつ担いでおり、毛皮は龍美がマントのように羽織り、大きいので裾が地面につかないように元サブリーダーのえると元砲撃手の冷香が左右の端を持っていた。
まさに元女宇宙海賊が戦利品を得て威風堂々と凱旋してきたかのような様子で、彼女達が持っているアイテムがこれまで見たこともないような巨大なものだったので、周りにいたシーカー達は歓声をあげたり拍手したりして彼女達を褒め称えた。
しろおとめ団はこれまでこのように周りから褒められたことなど一度もなく、ずっと後ろ暗く後ろめたい気持ちなるようなことしかしてこれなかった。しかし今、多くの同じ探索者から褒め称えられ、羨望の眼差しを受けている。これまでずっと日陰者の人生を生きてきて、過去には辱めをも受けてきたような自分達にそんな資格があるのかという考えが頭をよぎったが、冴内から授かった新たな名前とこの命に応えるため、彼女達は胸を張って道行く探索者たちに「有難う!」と堂々と手を振って応えて進んでいった。その姿を見た探索者たちはその姿も態度も美しい彼女達を見て、一層努力しようと心に誓ったのであった。
しろおとめ団達がゲートビレッジに到着すると、取得したアイテムを換金してくれる場所があるはずだということで辺りを見回してみると、さすが元女宇宙海賊ということですぐにピンときて、お目当ての換金所を探し当てた。その場所はアイテムを持って入っていく者と手ぶらでホクホク顔で出てくる者がいるので彼女達にはすぐに分かったのだ。早速戦利品を抱えてその場で圧倒的に存在感を放っている美女軍団は換金所に入っていった。
換金所には鈴森が詰めていた。最近は試練の門から持ち出されたアイテム鑑定で大忙しで、連日のように新発見アイテムが持ち込まれてきて嬉しい悲鳴をあげているところだったのだが、そこへ来てとんでもない美女軍団が、見たこともない大きなアイテムを堂々と颯爽と実に格好良く持ち運んできたものだから、鈴森は仰天しつつも眩し過ぎる彼女達にしばし呆然と見とれてしまっていた。
「すまない、ここは換金所だろうか?」
「は・・・はい!すいません、そうですここはアイテムを鑑定する場所で、換金所でもあります!」
「そうか、それは良かった!我々が入手したアイテムを換金して欲しいのだが」
この半年で鈴森の鑑定レベルは50を超え、今や名実ともに地球上で最も優れた鑑定士なのだが、それでもしろおとめ団達が持ち込んできたアイテムは全て鑑定不可能だった。
「大変申し訳ありません、私の力量では今この場での鑑定は出来ません、それほど皆様が持ってこられたアイテムは大変素晴らしい価値のあるものです」
「そうなのか!?」
「はい、どうか是非ともこれらのアイテムを預からせてはいただけないでしょうか、私と機関職員達で全力で鑑定作業を行います。今皆さんがお金を必要となされているのならば、必要な金額を言っていただければ前金としてお渡しいたしますので、どうかご検討して下さいますようお願いします」
「「「お願いします」」」(機関職員の鑑定士達)
「いや、お金には困っていないので構わない、これらは置いて行こう」
「有難う御座います!なるべく早く一時金を皆さんの端末にお渡しするようにします!お金の配分はいかがなさいますか?」
「全員均等に割ってくれ、端数が出るようならそれは機関に寄付する」
「分かりました!有難う御座います!」
しろおとめ団は戦利品アイテムを全て鈴森に渡して換金所を後にした。
「すまない皆、私が勝手に決めてしまった」
「いえ、それで良いと思います」
「それで良かったっぺよ!」
「ケシシ!なんだよ今頃、これまで通りでいいじゃないか!」
「「「ウンウン」」」
「有難う皆・・・さてと、それじゃ力堂に連絡してみようか」
龍美はこれまでずっと一緒に生き抜いてきた仲間達を見て、少し涙ぐんだ目と照れ隠しのため、そっぽを向いて力堂に連絡した。そしてそんな龍美を見た仲間達も目頭を熱くして自分達のリーダーを見つめていたのであった。




