199:漢字練習帳
翌朝、恐らく始発でやってきたと思われる冴内の両親と姉の2人とその子供らがやってきた。美衣と良子に加えて今度はメイドロボットの花子が家族に加わったということで何事にも優先してやってきた。
花子は姉2人の子供達にも大人気で、とてもロボットとは思えない可愛い容姿と仕草ですぐに皆と打ち解けた。そして相変らず拝みたくなるような天使か神様のような容姿の美衣と良子も輪に加わって嬉しそうにしている姿を見て、冴内の両親はまたしても今この場で死のうとも我が人生に一片の悔いなしとまで言い出す始末だった。
さらに加えて今回はより一層破壊力のあることにとんでもない美人軍団のしろおとめ団がいた。しろおとめ団は全員冴内の両親達の前で跪き、冴内に命を救ってもらったこと、身体だけでなく心まで救ってもらったことを説明し、我々にとっては神にも等しい大恩人であると告げた。その説明を聞いた両親家族は開いた口がふさがらなかったが、姉の子供達は洋ちゃんは昔から優しかったんだよと言うと、しろおとめ団のリーダー龍美は少し涙ぐんでやはりそうでしたかと優しく微笑んだ。
ちょうど週末だったので、冴内の両親家族は今日は泊っていくことになっており、花子に加えてしろおとめ団もいるので、いつもの全国有名アパレルチェーン店に行って皆の服を買おうということになったのだが、さすがにこのメンツはどうやっても隠すことが出来ないことは必至で、気を利かした神代が日本を代表するシーカー局長権限をフルに稼働させてオープン前の2時間を貸切ることに成功させた。
朝8時には富士山麓ゲート研修センターから出発した大型チャーターバスがいつものアパレルチェーン店に到着した。何故かいつの間にかちゃっかりシーカー仲間の吉田と良野と木下も加わっていた。今回は店内の服は好きなものをいくらでも自由に持って行って構わないということになっており、店員の代わりに女性ゲート職員達が店内に配置されていた。
そこからはただただ眼福の一言だった。可愛らしさ満点の美衣、良子、花子に加えて、美しさにおいても破壊力満点の優を筆頭に、しろおとめ団の11人がいるものだから世界最高のファッションショーが全国どこにでもある有名アパレルチェーン店で密やかに開かれているという状態だった。
しろおとめ団達は生まれて初めて女性らしい服を見て触れて実際に着込んで、得も言われぬ程の感激と興奮に包まれていた。元ヤブ医者の温子は頼むから夢なら覚めないでくれと涙ながらに独り言ちていたところ、元航海士の恵子に頬をつねられて痛ェな!この野郎!と言ったが慌ててすぐに口をつぐんで顔を赤らめていた。とにかく服選びの当人だけでなくその場にいた全員が幸せなひと時を過ごし、約束の2時間がきたので全員満足ホクホク顔でもう一度大型バスに乗り込んで研修センターへと戻っていった。
昼になり研修センターの食堂で昼食をとったのだが、花子がいつの間にかとても可愛いメイド服のエプロン姿で登場して料理を運んできたものだから、食堂内は大騒ぎで撮影許可が降りた途端凄まじいシャッター音が響き渡った。
午後になると、しろおとめ団は試練の門の前まで行って音声ガイドにどの程度のレベルまでならば攻略可能かどうか聞いてくると言ってみんなのほし経由で奈良ゲートに向かうことにした。美衣も道明寺にお願いしたいことがあるというので一緒に行くと言った。冴内の両親がこの世の終わりの様にガッカリしないように、すぐに戻ってくると言った。
しろおとめ団は美衣に先導されて、富士山麓ゲートからみんなのほしへ行ってそのまま奈良ゲートをくぐり抜けて、試練の門の前まで駆け足で向かって行った。元ヤブ医者の温子がヒィヒィ言いながらお前らもう少しペースを落としてくれと泣き言をいいつつも、およそ普通の人間には不可能な走行速度で走っていった。
試練の門の前までしろおとめ団を案内すると美衣は奈良ゲート研修センターへ向けて重力制御で飛行して向かって行った。さすがに他のシーカー達が結構いるのでソニックブームで巻き込むわけにはいかず音速以上の速度は出さなかった。
しろおとめ団は早速試練の門の音声ガイドに向けて語りかけた。
「私達はしろおとめ団という!冴内ファミリーに忠誠を尽くす者だ!どうか教えて欲しい!今の我々の力量で試練の門に挑むことは可能だろうか?」
『私は試練の門を管理する者です、しろおとめ団の皆さん試練の門へようこそ。あなた方のことはさいごのひとから聞き及んでおります。今のレベルならば最高に難しいレベルからでも挑むことが出来るでしょう』
「おおそうか!有難い!感謝する!」
『早速試練の門に挑まれますか?』
「いや、後日改めて挑むことにするので、その時はよろしく頼む」
『かしこまりました。あなた達の挑戦をお待ちしております』
「うむ、ではまた来る」
しろおとめ団達は一様に満足して頷きまた冴内達の元へと戻っていった。周りにいたシーカー達にすまない邪魔をしたと礼儀正しく挨拶していった。
周りにいたシーカー達はそもそも彼女達の美しさに圧倒されて自然と道を譲っていて、しかもあの冴内達の忠臣らしいということと音声ガイドが恭しい態度で「最高に難しい」という初めて聞いたレベルでも大丈夫だと太鼓判を押されたのを聞いたので、ますます畏敬の念の眼差しで彼女達を見つめ、頭を下げていた。そんなシーカー達を見て良い方に勘違いしたしろおとめ団達は日本という国の人間は誰も皆なんと礼儀正しい人種なんだと感動した。
一方の美衣も道明寺へのお願いごとが終わったらしくしろおとめ団達と一緒に冴内達の元に帰ってきた。
富士山麓ゲート研修センター最上階はほぼ全室冴内とその両親家族としろおとめ団のために貸し切り状態となり、最も広い部屋のリビングで冴内達は団らんしていた。
良子が何やら机に向かって書き物をしており、冴内の2人の姉の子供達も真似して何か書き物をしていた。
「良子お姉ちゃんなにをかいてるんだ?」と、美衣が尋ね見たところ。良子は小学校低学年向けの漢字練習帳を書いていたところだった。さらにその横には「冴内 良子 さえない りょうこ」と何度も書かれた文字を見て、美衣は目を輝かせて「アタイもやる!」と力強く嬉しそうに言った。
それを見たしろおとめ団も何事かと興味深く集まってきて、彼女達も日本国の国籍を取得したのだからせめて自分達の名前ぐらい日本国の文字で書けるようになりたいと強く希望し、全員漢字練習をすることになった。ちなみに花子は一度見ただけで完璧な文字フォントのような筆跡でスラスラと書くことが出来た。
冴内の両親は大喜びでタクシーを呼んで最寄りの町まで行って小学生向けの漢字練習帳やファンシーショップに寄って冴内以外の全員の分の可愛らしい筆記用具を大量に買い込んできて、皆にそれを渡すと美衣、良子、花子、ニアに抱き着かれて、もう今死んでもいい!幸せ!と口に出てしまう程に号泣しながら喜んでいた。さらに他のしろおとめ団も大感激して次々と両手握手していくものだから、冴内の父などはそのうちおいおい泣き出し冴内にお前は本当に親孝行者だと涙ながらに息子の偉業を讃えた。
結局夕食近くまで全員漢字練習帳や漢字ドリルを書いて楽しんだ。富士山麓ゲート研修センター最上階のVIPルームでありえない程にこの世のものとは思えない程に美しい者達が真剣に小学生向けの漢字練習帳を書き続けるという極めて異色な光景が展開されていたのであった。しかし当人達もそれを見ている者達にとっても平和で幸せなひと時であった。
明けて次の日皆で昼食をとった後、冴内の2人の姉の夫が日曜日ということでそれぞれミニバンで迎えに来てくれたので冴内の両親家族はそれぞれ車で帰っていった。いつもは帰りの新幹線の中で美衣や良子ロスでガックリうなだれる高齢夫婦を見て周りの人達が心配する程だったが、今回は姉夫婦やその子供らがいたのでなんとか意気消沈することなく帰宅していった。




