196:命名発表会
「大将、折り入って頼みがある」
「えっ何?どうしたの?」
「うん、大将が生まれ故郷に帰る前に、アタシら全員に名前をつけて欲しいんだ」
「えっ!?名前!?」
「あぁ、アタシらはその・・・生まれがあまり良くないもんでさ、ちゃんとした名前がないんだ」
「名前というよりも単に呼び名のようなものをつけられた奴もいるがアタシらにとってそれは嫌なことを思い出すだけのものだったから、アタシらはその呼び名は使わずコックとかヤブ医者とかニャア子とかで呼び合っていたんだ」
「だけど大将に合ってからはちゃんとした名前があるってのはいいもんだなって思ったんだ」
「名前を付けてもらって、アタシらは名実ともにこれまでの薄汚い海賊稼業とお別れして、しろおとめ団として新たに生まれ変わりたいんだ」
「大将の生まれ故郷に帰った時、アタシらが自己紹介する際にちゃんとした名前がないのは困るなって思うし、胸を張って自分の名前を言いたいんだ」
「だから大将、お願いだ、アタシらに名前をつけておくれ!」
「「「お願いします」」」×11
「う~~~~~ん・・・」
「洋、つけてあげたら?」
「うん、それはいいんだけど、11人の名前、それも皆ちゃんとした女性だから責任重大というか、大変だなぁと思って・・・」
「そんな大それた名前じゃなくていいんです、パッと思いついた適当なものでいんです、覚えやすくて簡単なものでいいんです」
「いや、そんな適当ってわけにはいかないよ」
「大丈夫よ洋、いつも通り直観で閃いたものでいいのよ」
「そうだ、父ちゃんのひらめいたなまえはとてもいいぞ、アタイは美衣ってなまえだいすきだ!」
「私もそう思う!良子って名前凄く好きだよ!」
「私も花子という名前大好きです!」
「カァーッ!カァーッ!」と、ワタリタビシロオオガラス達も同意していた。
「う~ん・・・分かった!頑張ってみるよ!」
「「「やったぁー!」」」×11
こうして冴内はしろおとめ団全員に名前を付けることになった。本当ならこの後すぐに地球に帰る予定だったのだが、しろおとめ団11人全員の名前を考えることになったので、今日の帰郷は中止することにした。
冴内は改めてしろおとめ団一人一人と向き合い、ヒアリングをすることにした。プライベートなことでもあるので、一人一人別々に数分程空中庭園都市のガーデンにある遊歩道を冴内と一緒にいくつかの会話をしながらひと周りして歩いた。
冴内はその時に感じたことをメモしようと思い、久しぶりにゲートシーカー専用携帯端末を使用しようとして、そういえばどこにしまったっけと少し思案したが、美衣の宇宙ポケットに閉まってもらっていたことを思い出して美衣からゲートシーカー専用携帯端末を出してもらった。
久しぶりに電源をオンにすると電池残量が残り20パーセント程ではあったが無事起動出来たので、早速画面を見て見ると凄まじい量の未読メッセージがすぐに目に飛び込んできたので、それは見なかったことにしてすぐにメモ帳アプリを起動した。そもそもそんな大量のメッセージを見るには電池残量が足りなさ過ぎていた。
冴内はメモ帳アプリにしろおとめ団一人一人とヒアリングして感じたことを書き込んでいった。
しろおとめ団11人全員のヒアリングを終えるとちょうどお昼近くになったので昼食をとり、その後冴内は一人で考えたいから、どこか適当に瞑想出来そうな場所を探して考えてくると言ってワタリタビシロオオガラスのヨウカに乗って気の赴くままに飛び立っていった。
冴内はインスピレーションが閃くようにヨウカと共に荘厳な滝や大渓谷を見下ろす岩山や緑豊かな森林など、様々な場所に行って考えた。時に恐ろしい巨大モンスターに襲われて撃退もしたが、夕方になる前には11人全員の名前をなんとか閃き終えて帰ってきた。
冴内はしろおとめ団11人全員にヒアリングして感じたこと、そして彼女達一人一人の名前を携帯端末に書き込んだ。個人用スマホではなく、ゲートシーカー専用携帯端末に登録したのであった・・・
「あっ!大将!おかえりなさい!」
「えっと君はヤブ・・・じゃない、お医者さんだったね、ただいま」
「皆食堂で夕飯の支度をしていますぜ、じゃない、していますわ」
「ケシシシシ!お疲れ様でした大将、アタシらの名前思いつきましたかい?」
「君は確か航海士だったね、うん、何とか全員分閃いたよ」
「やった!それは楽しみだ!ケシシシシ!」
冴内達がレストランに到着すると、今日も様々な料理がテーブルの上に並べられており、給仕ロボ以外にも清掃ロボなどが新たに多数起動されており、昨日まではあちこちで薄っすらと堆積していた砂などは一切なくとても綺麗になっていた。全員とても賑やかで笑い合いながら料理を作ったり配膳したりしていて、冴内はとても良い気分になった。
その後今日もはるか遠くの地平線に沈みゆく美しい夕日を眺めながら美味しい食事を皆で楽しく食べ終わった後でいよいよお待ちかねの命名発表会を行うことにした。
しろおとめ団全員が目を輝かせて冴内を見つめてくるので、冴内は重圧に怯みかけたが第4の試練で鍛えた精神力で重圧を押し退け、あれこれ思い悩む考えなどは吹き飛ばして、しろおとめ団11人全員の名前を発表した。
しろおとめ団11人全員の名前は以下の通り。
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リーダー⇒しろおとめ・龍美
理由:龍族の遺伝子を持っており、冴内にも彼女の内にそれを感じ取れたから。
サブリーダー⇒しろおとめ・える
理由:長身エルフだったから。ヘアスタイルなど身なりを整えればかなりの美人だと思われるが今は若干残念な感じである。
航海士⇒しろおとめ・恵子
理由:いつもケシシと笑うから、ちなみにそのままは言わず、日本には笑う門には福来るという諺があって、笑うことで恵をもたらすんだよと実に都合よく説明したところ、本人は大泣きして大喜びして、身も心も全て冴内に捧げると誓った。
総舵手⇒しろおとめ・元子
理由:いつも明るくガハハと快活に笑って元気だったから。
砲撃手⇒しろおとめ・冷香
理由:クールで冷静な狙撃手みたいだったから。実際冴内が最初に彼女を助けた時は冷静過ぎる行動が仇となって死にかけていた。
ヤブ医者⇒しろおとめ・温子
理由:医者としての腕は不明だが皆を思いやる温かい心を感じとれたから。
ニャア子⇒しろおとめ・ニア
理由:皆ニャア子で呼び親しんでおり、本人も気に入っていた様子だったので継承させて、ニャアという鳴き声ではなくそれっぽく意味がありそうなニアにしてニャア子≒ニア子と言えるようにもした。
機関長⇒しろおとめ・拓美
理由:さいごのひとがあんな旧式で老朽化した数千年前のエンジンを扱っていたのはまさに匠の腕前だとほめていたから。
副機関長⇒しろおとめ・誠
理由:見た目と言い言葉遣いといい一番まともで、誠実だったから。
機関室見習い⇒しろおとめ・るき
理由:ルーキーだったからだが、これも本人にはそのまま言わずハツラツと輝いていたからと言った。
コック⇒しろおとめ・良美
理由:良い味の料理を作れるように名付けた、さすがに良味だとアレなので良美にした。
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「えーと・・・以上です・・・その、こちらでよろしいでしょうか・・・」と、手をもみもみしながら腰が低く妙に上目遣いの冴内。
するとしろおとめ団11人全員が光り輝き始めた。いつもと違って今回は11人がいっぺんに光り輝いたものだから、辺りはまるで閃光爆弾の爆心地のような猛烈な光の球体に包まれた。今はまだ超人冴内達以外は誰もいない無人地帯だったからいいものの、もしも一般人などがいたらあまりの輝きで失明させていたかもしれなかった。
しろおとめ団は全員大満足していていると冴内に感謝し深々と頭を下げた。冴内は一応真面目に考えてはいるが、閃きや直観というよりもほとんどが見たまんまじゃねぇかよと突っ込まれても言い訳出来なかったので内心ではヒヤヒヤしていた。
ともあれ命名発表会は無事終了し、今日も男女それぞれ別れて大浴場で汗を流し、明日こそは久しぶりに地球に戻って溜まりに溜まった報告をしなければならないから、明日は早目に起きて朝食後すぐに帰還すると皆に通達した。
さいごのひとがこっそり気を利かしてくれたのでその夜もしろおとめ団はお酒も程々に導眠効果のある音によって早めに寝入ったのであった。