194:数百万年ぶりのディナー
「きんきゅうれんらく!きんきゅうれんらく!美衣からみんなにおねがいだよ!今から美味しいもの作るからざいりょうあつめてきて!えーとね・・・これだよ!これ!」
美衣が何をどうやったのかは不明だが、冴内達全員の目の前の空間に映像が投影され、美衣が指示した食材が絵と説明文付きで表示された。恐らく良子がシステムを操作してくれているのだろう。
食材集めは危険な順に誰が何を集めてくるか表示され、冴内と優はオアシス大カマスとオアシス大クラゲを、しろおとめ団は「おにくろっくんろーる」に使う肉と「無限玉ねぎ」などの野菜を調達することになり早速食材調達を開始した。
冴内と優は生身の身体で空中庭園都市から垂直降下していき、しろおとめ団はしろおとめ号を発進させていった。花子と良子はそれぞれ美衣のところへ向かっていった。
「あっ、しまった!」
「どうしたの洋?」
「いや、エレベーターを使わないできたから古代遺跡の中に入れないなぁと思って」
「ぶち破ればいいんじゃない?」
「う~ん・・・まぁそうなんだけど、とても昔の貴重な遺跡を壊しちゃったらダメだと思ってさ」
「さいごのひとさん、何かいい方法ないかな?」
「冴内 美衣から要求された食材探しということは地下水脈に入れれば良いのだな?」
「うん、そうなんだ」
「であれば地底湖につながるトンネルを新たに掘削すれば良いのではないだろうか」
「なるほど、でもどこに穴を開ければいい?」
「少し待ってくれ、コッペパン号とデータリンクして最適な掘削ポイントを検討する」
その後さいごのひとが指し示した座標位置に従い冴内は掘削チョップを駆使して素手でトンネルを掘っていった。実際のところ掘っているというよりは虹色に光り輝く手を前にして硬い岩盤を潜り進んでいるだけだった。粉々になった岩石は優の重力制御で穴から噴出されていた。まるで噴水のように凄まじい勢いで粉々になった岩石が噴出しており、無人惑星だからよいものの極めて危険な状況だった。
一方しろおとめ号はいったん密林が広がる場所に浮遊戦車とパワードスーツを降ろした後、草原地帯に向かって野菜を探しに行った。
「各自武装を電磁ショックに切り替えろ、可能な限り獲物は殺さず新鮮な食材を確保するんだ」
「「「了解!」」」
「ニャア子、もしもやっちまった時はアタシが血抜きするから言ってくれ」
「がおぉぉーーーー!」
「よし行くぞ!まずは3時の方向、距離120トレジスにある生物反応からだ!」
「おい!アタシらたった二人で野菜集めって大丈夫かよ!」
「ケシシシ!大丈夫も何も、これほどラクな作業はねぇよケシシシ!」
「どういうことだ?」
「既にリクエストされた植物のデータはインプットしてあるし、大体の植生箇所も空中庭園都市の中央管理システムから座標位置が送られてきた、すごいぜあの良子とかいうお嬢ちゃん、まったく冴内ファミリーってのは全員とんでもなくスゲェな・・・」
一方、冴内と優は地下水脈に生身の身体のまま素潜りし、お目当てのオアシス大カマスを見つけると冴内は鮮度を保つために脳天チョップでしとめた。オアシス大クラゲについては倒してクタクタになったりしぼんだりすると鮮度が落ちるため優が範囲ごと瞬間冷凍して氷漬けにして氷の塊ごと運んだ。優は冴内からもらったエルフの大魔術師の指輪をかなり使いこなしているようだった。
困ったことにどちらの獲物もとても大きいため、冴内が開通させたトンネルをくぐることが出来ず、冴内は白い消しゴム状の携帯端末を使って美衣を呼び出すと、ちょうど良子も一緒にいたので宇宙ポケットを持ってきてくれと頼んだ。良子は美衣から宇宙ポケットを借りると猛烈な速度で飛んでやってきた。さすがに亜高速は出さなかったがそれでも1分かからずやってきた。
一方、しろおとめ団のお肉担当班。
「えーと・・・次の動物は何だ?」
「トロトロギュウだそうですぜ、いや、ですわ」
「他には後何が残ってる?」
「えっと・・・あっ!サンドワームだ!ここにもサンドワームがいるのか!しかもすごくウマそうだぜこいつぁ!おっと、美味しそうですわよコレは!」
「もうアタシらもかなり慣れてきたし、二手に分かれて狩ろうか」
「トロトロギュウはトロそうだしパワードスーツで担げそうだからアタシとコックとニャア子でやる」
「サンドワームはデカイから残りの皆と浮遊戦車で行ってくれ」
「「「りょうかーい!」」」
一方、しろおとめ団の野菜担当班。
「えーと・・・次はトゲトゲイモか・・・おっ、あったあった」
「トゲに触れると猛毒で即死するってよ」
「きゃぁ!バッ!バカッ!先に言えよ!」
「ケシシシシ!そん時は大将が治してくれるって」
「あっそうか・・・ってそういう問題じゃねぇ!じゃなくてないわよ!」
「ケシシ!つべこべ言ってないでさっさと採取しろよ、リーダーからそろそろ迎えに来いって連絡が来てんだ」
「分かってるよ!」
「そうだ良子、先に美衣の元に帰ってくれる?」
「うん、お父さん達は?」
「カラスがいるか見てくる、いたらなんとかして4個卵を持ってくるよ」
「分かった!美衣ちゃんに食材を渡したらまた宇宙ポケットもって合流するね!」
「有難う、お願いするよ、それじゃ!」
冴内と優はさいごのひとが指し示す方向にかなり危険なスピードで飛んでいった。無人の惑星だから良いものの、もしも近くにいたらソニックブームで八つ裂きのバラバラになっていたことだろう。そして二人が飛行した後には相当遠くからでも目視できるほどの飛行機雲が出来ていた。衝撃音も相当凄まじい大音響だった。
「ここからでも空気を切り裂くというか、破壊する轟音が聞こえてくる・・・」
「あんな飛行機雲を見るの初めてですよ」
「改めて大将達のとんでもなさには驚かされるな」
「すごいにゃぁぁ!かっこいいにゃぁぁ!」
「あっ、リーダー、しろおとめ号がこっちに向かってきてますぜ、いや、きてますわ」
「よぉーし皆!搭乗よぉーい!」
「「「りょうかーい!」」」
一方、冴内と優。
「あっいるいる!あの黒いのは間違いなくカラスだね!」
「ホントだ、370万年前と全然変わってないのね」
「多分、天敵がいないのと、地形や天候が変わってないからだと思う・・・何より一番なのは人間がいなかったからだね」
「自然がそのまま残されたってことね」
「うん、そうだと思う・・・あっ、そうだ!優のワープを使ってカラスに気づかれないように卵をパパッと取れないかな?」
「あっそれはいいかも!」
最近なかなか良い閃きが冴え渡る冴内の作戦はうまくいき、瞬間移動に近いワープで1個ずつカラスに気付かれずに卵を確保した。途中で良子も合流し冴内の作戦に大いに感心し、確保した卵は宇宙ポケットにしまって再び危険水準を遥かに超える速度で空中庭園都市へと戻っていった。
全員が食材を調達し終えて空中庭園都市へと戻り美衣のいるレストランへと向かい、美衣の料理を手伝ったり薄く堆積した砂を掃除したりして、夕方頃には全ての料理が出来上がった。
「みんなおまたせ!とうてんじまんの料理だよ!」
「「「待ってましたーーー!!!」」」
「「「グゥゥゥゥーーーー!!!」」」
「「「アハハハハハハハハ!!!」」」
美衣を筆頭に花子やその他の給仕ロボが大量の料理を持ち運んでテーブルに並べていった。
「「「いたぁだきまぁーす!!!」」」
「「「ウマァ~~~~~イ!!!」」」
「「「アハハハハハハハハ!!!」」」
「嬉しいです・・・とっても嬉しいです、沢山の人が居て、とても美味しそうに、とても楽しそうにしている姿を見るのは数百万年ぶりです・・・」
「不思議なんです、喜怒哀楽プログラムとは違う感じがするんです、人間の皆様の感情に近い気がするんです・・・気のせいでしょうか?」
「いや、恐らく君は冴内 洋と接触し名前を付けられたことで、自我というものが形成されたのではないかと推測する」
「自我・・・ですか?」
「そうだ、恐らく君は今あらかじめ決められたプログラムではなく、自らこうしたいああしたいという行動理由が出現しているはずだ」
「はい!そうです!自分でも驚いています!」
「私も冴内 洋の能力には驚くばかりだ・・・」
こうして、冴内達は美衣の念願だった数百万年前の当時大人気だった本物の料理を大いに味わい楽しんだ。とても美しい水平線の彼方の夕日を見ながら美味しい食事を堪能したのであった。