191:しろおとめ
翌日から優が一安心出来ることに、元・女宇宙海賊達は早速新しく生まれ変わった彼女達の元・海賊船に慣れるため全員コッペパン号から元・海賊船へと移っていった。
良子は新型コントロールシステムをレクチャーするために一緒に移動し、美衣は単純に面白そうだからついていった。
コッペパン号には冴内と優だけが残された。恐らく優の不安解消と夫婦円満維持のため、ハッスルスキンシップにいそしむことになるだろう。
「基本的には全てオートでやってくれるよ!」
「えっ?全てって・・・何をどこまで?」
「船の操縦も航路ナビゲーションもエンジン出力調整も重力制御も住環境管理も・・・とにかく全部だよ!」
「それって!アタシらはもう必要ないってこと?」
「うーん・・・コッペパン号と違って、フェールセーフが5重にしかついてないから、もしもの時に備えて全員マニュアル管理を覚えた方がいいと思う」
「なんだって!安全装置が5重もついてるのかい!?確か宇宙連合の最新鋭の軍艦だって4重だったはずだよ!」
「あと、自立思考AIもコッペパン号程頭が良くないから、航路ナビゲーションも幾つかのルートは提案してくれるけど最後は皆で意思決定しないとダメなんだよ」
「航路も自動で示してくれるのか?ケシシシ!もう海図とにらめっこしなくてもいいのか!こりゃラクでいいぜケシシシシシ!」
一方船内を探検していた美衣と獣人少女。
「あのね!アタシが一番お目めがいいからこれまでずっと見張りをやってたんだよ!」
「そうなのか!でも良子お姉ちゃんがこれからはおフネがぜんぶやるから、みはりはおフネのぐあいがわるくなったときだけでいいみたいだぞ!」
「そしたらアタシやることなくなっちゃう・・・」
「だいじょうぶだ!いっぱいあそんで強くなればいいんだ!」
「えっ!?遊んだら怒られるよ・・・」
「そうなのか?あそんだら強くなるからほめてもらえると思うぞ」
「そ・・・そうなのかな?・・・」
一方完全に作り変えられた機関室内。
「機関長、これ・・・アタシら何やればいいんですかね?」
「調整もオート、機器の数値計測もオート、おまけに自己診断と自己修復機能までオートかよ、こりゃアタシらやることがないな・・・」
「機関長!副機関長!コンソールパネルに万が一全ての安全装置が不調になったときのために、マニュアル操作トレーニングとトラブル対応トレーニングのプログラムを設定したので私達にやれっていう指示が表示されています!」
「どれどれ!あっ!ホントだ!こりゃ凄い!」
「ようし!早速一からおべんきょうのやり直しだ!お前ら!・・・じゃない、あなた達!気合入れてやるわよ!」
「「おう!・・・じゃない、はい!」」
新しく生まれ変わった元・海賊船内で元・女宇宙海賊達は大喜びで大ハッスルだった。一方コッペパン号内でも冴内達は大ハッスルだった。
それから1週間程元・女宇宙海賊達は新しく生まれ変わった元・海賊船の操作や管理などを持ち前の高い集中力と熱意で習得していった。
今この場にいる彼女達は宇宙海賊の中で女性という弱い立場にあっても懸命に強く生き続けたからこそここまで辿り着いてきた者達なのである。そのため彼女達はそれぞれ自分の強みとなる特質特徴性格を十分理解しそれを活かして伸ばしていくことに長けた才能を持つ者達なのである。
「大したものだな彼女達は」さいごのひとも感心する程に彼女達は新しく生まれ変わった元・海賊船に慣れていき徐々にエキスパートへとなっていった。
一方コッペパン号ではなかなかに疲弊した冴内が今日もサクランボを一粒食べていた。この間美衣も良子も新しい船と新しい仲間、とりわけ見た目が同年代の獣人少女が気に入ってしまったため、コッペパン号には戻らなかったので、冴内と優は、というよりも優の方がここぞとばかりに夫婦の絆と宇宙の愛を深めていったのであった。
新しく生まれ変わった元・海賊船での全ての学習やトレーニングを驚異的な速さで完了し、さいごのひとと良子からも太鼓判を押されたので、元・女宇宙海賊達と美衣と良子はコッペパン号に戻ってきてお祝いと今後の活動方針を検討することにした。
とてもご機嫌で肌がツヤツヤの優と、対照的に結構やつれているように見える冴内を見て、元・女宇宙海賊達はお二方とも大分ハッスルしたようですねとニヤニヤしたりケシシシシとかガハハハハとか遠慮なく笑ったり顔を赤らめていた。当然冴内も赤面しきりでうつむいたり顔をそむけたりしていた。優の方は凄く良かった1週間だったよ!と実に明るく朗らかにあっけらかんと言い切った。
「よかったな母ちゃん!」
「良かったね!お母さん!」と、事情を詳しく知らない二人は夫婦の仲が良くなるのは大いに結構、ハッピーなことだと大いに喜んだ。
冴内達は久しぶりに元・女宇宙海賊達も含めて全員でコッペパン号の貨物室にて食事をとった。冴内の前には地球のニンニクに似た食材をタップリ使ったステーキが置かれていたが、元・女宇宙海賊のコックが優にヒソヒソと耳打ちして男性が精のつく食材を教えると優は大喜びで地球の山芋にそっくりな食材を取り出し大量にすりおろしてアツアツご飯にたっぷりとかけて山盛りとろろご飯を冴内の前に出した。他にも牡蠣に良く似た貝のクリームソース和えソテーを作って出した。
食後全員でまったりしていたところ、元・女宇宙海賊のリーダーが冴内の前にきて話し始めた。
「なぁ大将アンタに決めて欲しいことがあるんだ」
「えっ?決める?・・・何を?」
「あぁ、新しいアタシ達の船の名前と、アタシらのこれからの活動内容を決めて欲しいんだ」
「アタイがきめたい!あのおフネはね!まっしろくて可愛くてアタイみたいにつよいおとめなんだよ!だからしろおとめなの!ホラ!」
-------------------
冴内 美衣
永遠の13歳:可憐な乙女
スキル:真・万能チョップLv5
称号:英雄勇者
-------------------
美衣が堂々とステータスをオープンしてみせると元・女宇宙海賊達は全員食い入るように見て、口々に驚きの声をあげた。
「ホントだ・・・可憐な乙女って書いてある」
「ってか永遠の13歳って羨ましいな・・・」
「だけど13歳つったらアレがその・・・な・・・」
「うわ!英雄で勇者なの!?」
「スキル、真・万能チョップLv5って・・・これ、何をどう理解すればいいんだ?理解不能なんだが」
「いやいや、そもそもこの立体ホログラムは何?スペックシートみたいなもんか?」
「しろおとめ!いいね!すごく美味しそうなお米みたいな名前だね!」またしてもかなりすっとぼけたコメントの冴内。
「アッハッハ!白い乙女でしろおとめか!いいじゃないか!生まれ変わったアタシ達とアタシ達の船にピッタリだ!」
「ケシシシシ!純白の処女の乙女ってか!ケシシシシ!これほどまでにこれまでのアタシらに似合わない皮肉タップリの名前はねぇな!いいぜ!気に入った!」
「バ!バカ!処女は余計だろ!」
「いいっぺよ!しろおとめ!言いやすいし覚えやすいし意味も気に入ったっぺよ!」
「アタシも美衣お姉ちゃんが付けてくれたしろおとめがいいにゃぁぁぁ!」
「「「賛成!賛成!賛成~ッ!」」」
「よぉし!これからは俺達の、じゃない、アタシ達の船はしろおとめだ!そしてこれからアタシ達は宇宙海賊じゃなくて、しろおとめ団だ!冴内ファミリー配下の軍団、しろおとめ団だ!」
「ケシシシシ!船だけじゃなくてアタシらまで乙女だってか!ケシシ!こりゃ傑作だ!ケシシシシ!」
「アタシもおとめだっぺよ!ガハハハ!」
「「「アハハハハ!」」」
これまで壮絶な過去と傷を背負ってきた彼女達はとても清々しいと思える程に底抜けに明るく笑い合った。そしてそんな彼女達はとても強かった。心が強かった。