189:悲しい記憶
一方コッペパン号内の医療室では、女宇宙海賊達は自分達の身体に訪れた異変に戸惑っていた。
「そんな・・・ウソだろ・・・」
「うぅ・・・ヒック・・・ヒック・・・」
「・・・オレ・・・オレ・・・いや・・・わたし、わたしは・・・」
「お・・・おいテメェ!・・・いや、お前!いや、あ、あなた!これウソじゃないだろうな!いや、でしょうね!」
「ウ・・・ウソなもんか・・・っていうか、お前らだって・・・いや、あなた達だって、もう気付いているでしょう!?」
「・・・だ・・・だけどよ・・・こんな・・・こんなことってあるかよ」
「大いに有り得るわね」
「あっ、姐さん!」
「姐ご!」
「姐さま!」
「私らを治してくれたのは、あの神のチョップの冴内だよ?テメェら・・・じゃない、あなた達も見ただろ?じゃない、見たでしょう?大闘技大会でのあのビッグバンとやらを・・・」
「見た・・・あれは凄かった、マジで凄かった」
「「「「ウンウン」」」」
「アタシは死にかけてた時に間近で本物を見たよ、とても美しくて温かくて優しい虹色の粒子を」
「そ・・・その虹色の粒子とやらが私らの・・・その・・・アレと・・・傷まで治しちまったって言うのかい?」
「恐らくな・・・そうとしか考えられん」
「でも!でもオレは!いや・・・アタシはよ!生まれつきなかったんだぜ!?生まれたときからお前は用無しのガラクタだって・・・ガラクタ・・・うっ・・・うぅ・・・うわぁあああ!」
「落ち着くっぺよ!大丈夫、大丈夫だっぺ、おめぇは用無しのガラクタなんかじゃないっぺよ!」
「うぅ・・・うぅぅ・・・」
「とにかくだ・・・とにかく聞いてくれ皆、何度も何度も確認したんだ、それにこの中には既に始まった奴等もいるだろう?」
「あ・・・あぁ・・・オレ・・・いや、アタシは始まった。あまりにも久しぶりだったんですごく驚いたぜ、いや、驚いたわ」
「わ・・・わたしも・・・」
「いいか・・・もう一度言うぞ」
「「「・・・ゴクリ」」」×11
「私らは女に戻った・・・子供を産める身体になったんだ、あと・・・何人かの・・・あの悪い病気もすっかりきれいさっぱりなくなっちまってる」
「本当に・・・本当なんだな・・・お前の言う事を信じてもいいんだな・・・」
「あぁ間違いない、お前らも自分の目で見たり、実感してるだろ?俺達は・・・いや、私達は・・・私達は・・・うわぁぁぁぁぁーーー!!」
「「「うわぁぁぁぁぁーーー!!」」」
女宇宙海賊達は全員泣きじゃくった。とめどもなく涙が溢れ出てこれまでの汚れと穢れを全て流し去るかのように泣いた。互いに抱き合って泣き続ける者達もいた。
彼女達は宇宙海賊である。宇宙海賊と呼ばれる者達の中に存在していた者達である。はるか昔宇宙海賊が世に出現した頃に比べてかなりマシになったとはいえ、やはり真っ当な人種、真っ当な社会秩序のない中に存在していたのである。中には酷い扱いを受けた者もいた、出自が明らかな者などはおらず、さらわれてきて育った者もいた。とても詳細には書けない事を強要されてきた者達だった。およそ人権とはかけ離れた世界で育ってきた。
その結果、彼女たちは子供を産める身体ではなくなってしまった。中には生まれながらにしてそれを持たなかった者もいた。少なからず心を壊したり自ら命を断つ者がいる中で、彼女達は懸命に強く生きてきた、彼女達は絶望的な境遇に負けない心の強さを持っていた。その強さが彼女達をここまでに成長させてきたのであった。
「オレ、いや、私は怖い・・・元の自分を取り戻した今、私は怖くてたまらない・・・」
「わ・・・私も・・・」
「私も・・・」
「姐さん・・・アタシらこれからどうすればいいんだ?」
「姐さん・・・」
「姐ご・・・」
「姐さま・・・」
「・・・」女宇宙海賊のリーダーは腕を組み目を閉じ黙っていたが、深呼吸した後に目を開いた。
「もう・・・海賊はやめるしかないな」
「海賊やめて・・・どうするんだ?」
「さて・・・冴内達に頼み込んで子分にでもしてもらうのが一番安全だがな・・・」
「ケ・・・ケシシ、違いねぇ・・・」
「そうだっぺ、なんたってこの世で一番強ェ家族だっぺ」
「情けない話だが、冴内に相談しよう。せっかく手に入れたこの身体・・・もう傷つけたくないんだ」
その場にいた全員、力強く頷いて同意した。
お昼近くになって優がキッチンで料理をしていたところ、女宇宙海賊もやってきてコックや獣人少女などが優を手伝った。他の者達も音声ガイドにあれこれたずねてイスやテーブルなどを持ってきて設置していった。
ちなみにコッペパン号には大きくはないがちゃんと食堂と厨房があるので、冴内達を含めて15人という少人数ならば十分食堂に収容出来るのだが、相変らず貨物室での食事だった。その理由は船外活動から帰ってきた冴内達がすぐに食事出来るからというのと、例の千倍重力下でのVRゲームで慣れ親しんだ場所であったからである。
優はなんとなく彼女達の雰囲気が変わったのを肌で感じ取っていた。暴力的な意味での危険度は完全に完璧にゼロだったが、別の意味での危険度を感じてなんとなくほんの少しだけモヤモヤしていた。
程なくして冴内達が海賊船の改修作業を一時中断してお腹を空かせて戻ってきた。冴内達が貨物室内へと入ってくると昨日は立食や床に直に座っての食事だったのが、今日は人数分のイスが並べてられており、宇宙ポケットから取り出したテーブルの他にもいくつかテーブルが追加して並べられていた。
冴内達がテーブルに近付いてくると、まず獣人少女が美衣に「美衣お姉ちゃんおかえりなさい」と挨拶し、他の女宇宙海賊達も若干小声で「おかえりなさい」とぎこちなく声をかけてきた。
なんとなく冴内も若干ぎこちない感じがしたが、いつものように腹時計がグゥグゥ鳴ったので、気にせずにモリモリと食事をとった。
優があとどれくらいで修理は完了しそうかと冴内に尋ねたところ、夕食前には全て完了すると言ったので、女宇宙海賊達は全員驚愕した。ヒソヒソとウソだろとか一体どんな手品を使えばあの状態から修理が完了するんだとか、そもそもそれ以前にもうあの船は廃棄するしかない状態だったなどと小声で言い合っていた。
ともあれ全員タップリと大量の食事を残すことなくペロリと平らげて満足した様子で食休みをとっていたところ、女宇宙海賊のリーダーが冴内のところにやってきて頭を下げた。
「少し・・相談したいことがある。その・・・出来ればあまり子供には聞かせない方がいい話しもあるのだが・・・良いだろうか・・・」
「えっ?・・・う・・・うん分かった。えっと、美衣、良子、あの子を連れて船の中を案内しながら遊んできてくれるかい?」
「うん!わかった!」
「分かった!」
「いっしょにいこう!おふねの中をたんけんだ!」
「うん!」
美衣と良子と獣人少女が仲良く貨物室から離れて行くのを見届けた後、女宇宙海賊達は冴内に事情を打ち明け始めた。
一切隠すことなく、誰にも知られたくない彼女達の心の奥底に閉じ込めていた最も辛く悲しい出来事を全て冴内達に打ち明けた。
冴内は平和な日本という国で冴えないながらも平穏無事に生きてきた。わずか21歳と5ヶ月程度の人生経験しかなく、学校の授業で過去の大きな戦争での悲惨な状況証言などは教わってきたが、それ以外で壮絶な人生を生きてきた人の伝記やドラマなどはそれほど見てきたわけではなかったので、彼女達から語られる内容には強い衝撃を受けた。
もしも第4の試練で心を鍛えていなければ、あまりにも悲惨過ぎる話しの内容に強い精神的ダメージを負って身体を壊していたかもしれなかった。
冴内は隣に座る優の手を握って、彼女達の話しを聞きながら時折目を閉じて涙を流した。いつも強いメンタルで何物にも動じない優はうつむくことなくしっかりと女宇宙海賊達を見つめながらも目からはとめどなく涙がこぼれ落ちていた。