187:お食事会
冴内達の懸命な救護活動により女宇宙海賊達は11名全員が保護された。機関室にいた2名の死亡者は優のワープですぐにコッペパン号に送られ、良子とさいごのひととげんしょのひとの思念体の協力ですぐに緊急蘇生措置が施された。
残りの女宇宙海賊達も冴内と美衣の誘導と介抱のもと、全員コッペパン号の貨物室へと連れて行き、例の桃ジュースをげんしょのひとの思念体からのアドバイスで1万倍に薄めて一口ずつ飲ませていった。
呆然としていた女宇宙海賊達であったが、死亡した2人が元気な姿で現れたのを見ると全員大泣きしながら抱き合って喜び合った。死亡した2人は記憶の欠損があったが、失った記憶は彼女たちが凄惨な重症を追う少し前からの記憶のため、これはむしろ心的外傷後ストレス障害にならずに済むということで好都合であった。
優と良子も貨物室へとやってくると、優は美衣から借りた宇宙ポケットからキッチンを取り出し、料理を作り始めた。冴内と美衣も参加して家族全員で料理を作り始めた。
「これ食材はこのまま使って大丈夫だろうか?僕達にとっては美味しい食材でも、普通の人にとっては危ないのもあるんだよね?」
「あっ、そうか・・・大丈夫かしら・・・」
「えーと・・・みんなに聞いてみるね!」
良子がげんしょのひとの思念体に聞いてみたところ、数種類の食材で大丈夫なものがあったので、それを利用した。ただ女宇宙海賊達11人は人族と獣人族がいて、中でもリーダーと思しき女性は人の姿をしながらも龍族の遺伝子を持つという極めて珍しい存在であり、彼女はりゅう君達と同様に果物を好むということが判明した。
冴内や美衣のチョップヒールで全員健康体へと回復したが、血を多く流したりしたため全員例外なく空腹であり、そこかしこで腹の虫の大合唱が鳴り響いた。海賊とはいえ全員若い女性であったので、皆顔を赤らめて恥ずかしがっていた。
まずは胃に優しいスープが完成したので、全員に配りゆっくり飲むように促した。続いてパンが焼き上がったので同様に配って回った。続いてステーキと魚が焼き上がったのでどんどんテーブルに並べていき、好きなものを遠慮なく食べてと言うと、最初は遠慮がちにしていた女宇宙海賊達も、一際大きな身体の獣人女性がステーキをペロリと平らげて「うめぇ!こんなうめぇ肉を食ったのは初めてだっぺ!おかわり!」といって食べていくのを見て、他の女宇宙海賊達も次々とガツガツ食べていった。
そんな彼女達を見てとても嬉しそうな顔の優、美衣、良子であったが、冴内は神妙な顔をして宇宙ポケットから取り出したフルーツを吟味していた。
冴内はいつものサクランボに加えてオレンジにマスカットとキウイによく似たフルーツを取り出し、果物ナイフではなく素手のチョップで奇妙に器用にスライスして手作りのフルーツポンチを作った。
冴内は他の海賊達が盛大に料理を食べているのを一人眺めていた若い女宇宙海賊のリーダーに、冴内お手製のフルーツポンチを差し出した。
「これどうぞ。全部果物だから口に合うと思うよ」
彼女はキョトンとした顔で冴内の顔とフルーツポンチを交互に見続けていたが、やがて美しい赤い色の大きな瞳からは涙がこぼれた。冴内からフルーツポンチとフォークを受け取りパクパクと食べると、涙はポロポロと流れ落ち、彼女は「美味しい、有難う」と何度も繰り返し言いながら冴内の作ったフルーツポンチを食べ続けた。
「おかわり」と恥ずかしそうに顔を赤らめて言った彼女を見て嬉しそうに微笑む冴内を見た優がすっ飛んできて「はいどうぞ!」と言ってバケツ程の大きさの容器に入れたフルーツポンチを渡すと、腕を組んで冴内を若い女宇宙海賊のリーダーから引き離していった。
美衣は最初に助けた女の子から「このお魚とっても美味しいよ」と言われて喜んでいた。その女の子も獣人でケモミミだった。「おこめがたくさんあればおすしを食べさせたかった」と言うと、「コメならアタシ達の船に沢山あるぞ!」と女宇宙海賊の一応コック担当の一人が言ったので美衣と冴内は「おこめあるのか!」と勢い込んでコックに迫った。
さいごのひとが立体映像で現れ女宇宙海賊達は一様に驚きギョッとしたが、さいごのひとがコックから海賊船の食料保存庫の場所を聞き出して空間座標位置を割り出すと、冴内は優に頼んで海賊船にワープした。優は女宇宙海賊達の前でこれ見よがしに冴内をしっかり抱き寄せてワープした。
冴内と優はすぐに戻ってきた。巨大な樽のような米の入った容器を片手で軽々と抱え持つ優に女宇宙海賊達は全員驚愕の表情だった。
果たして女宇宙海賊達が保有する米は大丈夫なのか、何かに汚染されていないか、そして肝心の味の方はどうなのか、さいごのひとが指示してくれたので樽の中から米を一握り掬ってまたしても作業室へと入り、例のベルトコンベア式の装置に乗せて作動させた。米が何かの装置を通過してそのままの姿で出口から出てきた。その結果人体に全く影響がない程の微量の宇宙放射線が検出された。
さいごのひとが第3農業地からもらった備蓄米を少数と、海賊船からもってきた米をこの装置に通すことで第3農業地の米に近い品質にまで向上させて再構築することが出来ると提案してくれたので、冴内は大喜びで海賊船から持ってきた米をどんどんベルトコンベアに乗せていった。
冴内は女宇宙海賊達に頼んで大きな箱の出口から出てきた米をバケツリレーでキッチンのある貨物室へと運んでもらい、良子と女宇宙海賊のコックはせっせと米の炊き出しを開始した。美衣と優は寿司ネタ用の魚をどんどん捌いていった。
全ての米が品種改良というか再構築により作り変えられたので冴内はキッチンのある貨物室へと戻ると炊き上がった米の良い香りが漂っていて、早速冴内は良子と一緒に酢飯を作り始めた。女宇宙海賊のコックも最初はその様子をしっかりと見ていたが、やがて冴内と良子に加わって一緒に酢飯を作っていった。酢飯が出来上がっていくと優と美衣は鮮やかな手つきでどんどんお寿司を握っていった。
女宇宙海賊達は神妙な顔でどんどん作られていくお寿司を見ていたが、美衣に最初に助けられた女の子が意を決してお寿司を食べたところ、飛び上がって絶叫したので女宇宙海賊は全員身構えた。
「きゃぁーーーっ!にゃぁーーーっ!美味しいっ!美味しいぃぃぃぃーーーー!!!」その女の子はクルクルと四つん這いで走り回った。
「美衣お姉ちゃん!おすしとっても美味しいよ!」
「くろいみずにちょっとだけつけて食べるともっとおいしいよ!」
「えっ?この黒い水に・・・」
「うん!しょうゆって言うんだよ!すごく美味しくなるよ!でもいっぱいつけたらしょっぱいからすこしだけつけるといいよ!」
「・・・分かった!」
・・・チョン、パクッ・・・ゴクンッ
「・・・」
「・・・」
「・・・」(固唾を飲んで見守る女宇宙海賊達)
「きゃぁーーーっ!にゃぁーーーっ!美味しいっ!美味しいにゃぁぁぁぁーーーー!!!」その女の子はまたクルクルと四つん這いで走り回った。
それを見た女宇宙海賊達は一斉にお寿司を食べ始めた。全員絶叫してバクバク食べ始めた。女宇宙海賊のコックも手を止めて寿司を食べてみたところ、大きく目を開き何個も食べた。しかし他の女宇宙海賊達とは違って、しっかり歯ごたえや味を確認しながら真剣に食べていた。
冴内は何を思ったのか寿司のシャリの上に薄くスライスしたメロンに似たフルーツを乗せたり、例の危険な桃をそれこそ透けて見えるくらい薄くスライスしてシャリの上に乗せてフルーツ寿司を作って、お寿司をバクバク食べてる女宇宙海賊達を眺めている若い女宇宙海賊のリーダーにフルーツ寿司をすすめてみた。
「お寿司に合うかどうか分からないけど、これなら食べられると思って作ってみたけど、どう?」
女宇宙海賊のリーダーは冴内から渡されたフルーツ寿司を手に取りしげしげと眺めてクンクンと匂いを嗅いだ後でパクッと食べた。
「ン~~~~ッ!!!」と、女宇宙海賊のリーダーは綺麗な赤い瞳を大きくまん丸に見開いた。
「ウンマァーーーーーー!!何コレ!!ウンマァーーーーーー!!」さらに女宇宙海賊のリーダーは若干危険な感じの漂う例の桃の寿司を口に入れた。
「キャァーーーーーッ!!」
「姐さん!」
「姐ご!」
「姐さま!」
「コレもウマァーーーイ!ウマすぎるーーー!!こんなウマイものを食べたのは生まれて初めて!!」
「んだよ!人騒がせな!」
「ケシシシシ!姐さんはこれまでドライフルーツしか食べてなかったからな余程ウメェんだろうぜケシシシシ!」
「あんなに嬉しそうに食ってる姐さんを見るのは初めてだっぺ!よっぽどウメェんだっぺ!」
やはりどんな人種でどんな状況であろうとも、美味しい食事がもたらす幸福感と喜びは宇宙の愛にも匹敵する程偉大で絶大な力があるのであった。