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186:緊急救命

「おやっ?」

「わっ!」

「あっ!」

「あらっ?」


「珍しいね、今ちょっと揺れたね」

『皆様おくつろぎのところ大変申し訳ありません、イレギュラーな惑星風の影響によるものです。ジャミング機能をフル稼働したことで発見が遅れてしまいました』

「コッペパン号は大丈夫?」

『はい、ご安心ください。全て完全に正常です』


「あっちの船は大丈夫なのかな?」

『・・・海賊達の航宙艦ではバイタルが低下している者達がいるようです・・・恐らくこのままでは全員死亡するかと思われます』

「なんだって!!これは大変だ!すぐに助けに行かなきゃ!」

「冴内 洋、一応確認するが相手は悪名高い宇宙海賊達で、恐らく君達に何かしら危害を加える可能性もあった存在だがそれでも救助に向かうのだな?」


「うん!助けたい!僕は助けたい!」

「うむ、了解した!」

『かしこまりました!』

「アタイもたすけにいく!」

「私も!」

「私もよ!」

「有難う皆!よし!僕等は先に行こう!」


「そうだ!洋、丁度試してみたいことがあるの!」

「ん?何?」

「短距離ならワープ出来るかもしれないわ!」

「えっワープ?ホント!?」

「良子、海賊達の航宙艦付近でワープアウトしても大丈夫そうな座標を教えてくれる?」

「分かった!えーと・・・X40、Y17、Z153付近ならどこでも大丈夫だよ!」

「分かったわ!それじゃ皆集まって!すぐにワープするわよ!」

「えっ!?ここですぐにワープ出来るの!?」

「出来るよ!」

「やった!それは凄い!すぐに助けに行けるぞ!」

「お父さん!私はコッペパン号に残って緊急医療システム起動とすぐに怪我した人を治療出来るように準備しようと思う!」

「有難う良子!お願いするよ!」

「まかせて!」

「じゃあ行くわよ!洋!美衣!」

「いつでもいいよ!」

「いいぞ!母ちゃん!」

「それじゃ!ワープ!」


 一方全ての機能を実質無効にされていた女宇宙海賊達の乗る航宙艦では、突然の惑星風による影響で深刻な状況に陥っていた。目に見えない変則的な惑星風により航宙艦は煽られ、近くにあった隕石に衝突。総舵手の驚異的な操舵技術によって直撃衝突は免れたものの航宙艦の右後部が大破し、半数以上の海賊達が重軽症を負った。


「こちら・・・機関室・・・機関長、副機関長共に重症、自分も間もな・・・く・・・」


「グスッ、こちら7番砲塔・・・後方のグスッ、後方監視のクルーは絶望的・・・」


「姐さん!姐さん!」

「おう・・・お前は・・・ツイてたみたいだな」

「姐さん・・・」

「どうだ具合は、血で目が見えねぇんだ」

「腹部が・・・腹部が、ほぼちぎれかけてます」

「ハハハ、道理で風通しがいいと思った・・・ゴフッ!」

「ケ・・・ケシ・・・シ・・・ま、死ぬときゃこんなもんよ・・・ゲハッ・・・」

「すまねぇっぺ・・・ミスっちまったっぺ・・・すま・・・ガクッ・・・」


「ちきしょう!ちきしょう!どうしようもねぇよ!全員もう手の施しようがねぇよ!あぁーん!あぁーーーーん!」


 全員即死は免れたものの半数以上は極めて重症であり、間もなく死ぬであろう虫の息の者達が大半だった。中には宇宙空間に放り出され致死量のガンマ線を浴びてしまった者もいた。例え今現在無事な者がいたとしても今の状況下では航宙艦を制御することは出来ず隕石に激突して爆散するか、航宙艦を脱出したとしても生命維持装置が尽きるまでの間の命でしかなかった。


「美衣!宇宙ポケットを優に渡して!僕と美衣はチョップヒール全開!優はミラクルミックスジュースをすごく薄めて飲ませて!飲めない重傷者にはぶっかけて時間を稼いで!」

「わかった!」

「分かったわ!」

「あっ!父ちゃん!あそこに人がおる!アタイいってくる!」

「よし!各自救出開始!」

「「了解ッ!」」


「ア・・・ア・・・」

「たすけにきたぞ!もうだいじょうぶだ!」

 その海賊は大量にガンマ線を浴びてヘルメット内部から覗く顔の皮膚は見るも無残な惨い状態になっていた。美衣は顔を背けることもなく優しく丁寧に抱いて海賊船の方に向かって飛びながらチョップヒールをかけた。するとみるみるうちにその海賊の惨たらしい顔は可愛らしい少女の顔へと変わっていった。


「かわいそうに・・・アタイとおなじくらいの女の子だ・・・まっててね!すぐによくなっていっぱいウマイもの食べさせてあげるよ!」

「ウン、ありがとう・・・お姉ちゃんはだぁれ?」

「アタイは美衣!冴内 美衣だよ!」

「さえない・・・あっ!あの・・・ガクッ・・・スゥスゥ・・・」

「だいじょうぶ、ねむってるだけだ」


 一方冴内と優は海賊船の右後部、ポッカリと口を開けた穴から海賊船へと乗り込んだ。


 なんとか命綱の頑丈なカラビナを手すりに引っ掛けて宇宙に放り出されるのを免れた海賊がいたが、意識はなくブラブラと漂っていた。衝撃で内臓破裂したようでヘルメットバイザーは吐瀉した血が凝固しており中は全く見えなかった。

「チョップヒール!」冴内は優しく抱きかかえながらその海賊を介抱した。優がライトサーベルで命綱を切断し、冴内は彼女を抱えたまま船内へと入っていった。


 さいごのひとの指示で優が持つ白い消しゴム状の携帯端末を隔壁近くにあるコンソールパネルに近づけるとロックが解除されたので手動で防御隔壁扉を開けることにした。凄まじい気圧差により本来ならば数トン近い力をかけないと開かない厳重な隔壁扉を優は全く重さを感じさせずに軽々と開いた。


 冴内達は二手に分かれ、それぞれが持つ白い消しゴム状の携帯端末によって立体投影されたさいごのひとが指し示す方向に従って海賊達を一人残らず全員救出するべく進んで行った。


 優は機関室へと向かっていったが、またしても防御隔壁扉が閉じていた。理由は機関室内に致死量の放射物質が大量に充満していたからであった。優は全く躊躇することなく先ほどと同じ要領で隔壁扉を開けて中に入っていった。そこには3人の宇宙海賊達がいたが、2名は既に死亡しており残る1名も虫の息だった。死亡していた2名については身体の各部が欠損しており、防護服ごとちぎれていたため蘇生は絶望的だったのだが、さいごのひとは多少の記憶の欠損はやむを得ないが今ならまだ生きている体細胞があるので十分蘇生可能だと優に告げた。


 冴内はさいごのひとが指し示すコントロールルームへと急いで向かって行った。美衣も遅れて船内に潜入し、さいごのひとが示すルートに従って移動して船内にいるけが人達を保護していった。


 冴内がコントロールルームへと到着すると、大声で泣き叫ぶ少女と、4人の女性が倒れているのを目撃した。とりわけ大声で泣き叫んでいる少女が抱きかかえている若い女性の状態が酷く、胴体がちぎれかけていた。天井方向から落下してきた内壁の金属パネルによって切断され、金属パネルは床に深々と突き刺さっていた。


 すぐに冴内が駆け寄って「大丈夫!すぐに助けるから!」と大声を張り上げた。泣き叫んでいた少女が目を丸くして驚くのを無視して冴内は「チョップヒール!」と手をかざした。みるみるうちにちぎれかけていた胴体が復元していった。冴内は立ち上がって辺りを見回すと他にもすでに死にかけている海賊達が離れて存在していたので、目をカッと強く見開き左手を真上に掲げ右腕を水平に伸ばして、出来るか出来ないかなどという思いなど一切なく「チョップヒール全開!」と大声で言い放った。


「あ・・・あ・・・これ・・・は・・・」ぼんやりとした意識の中で女宇宙海賊達のリーダーは美しく虹色に光り輝く冴内を見た。


「姐さん!姐さん!」

「これが・・・サエナイか・・・映像で見た・・・なんと美しく・・・優しい光なんだ・・・」若い女宇宙海賊のリーダーは涙を流していた。


 冴内の最大パワーチョップヒールはコントロールルーム内全てを虹色に輝く光の粒子で充満させ、それはやがてどんどん膨らんでいき、女宇宙海賊達の乗る航宙艦全体を包み込んでいった・・・

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