185:海賊達の矜持
冴内達を乗せたコッペパン号は宇宙海賊達が潜伏していた宙域の突端に辿り着き始めた。宇宙海賊達は冴内達にはっきりと意思表示するかのように識別信号を派手に大きく発信して該当宙域からまるで蜘蛛の子を散らすかのように四方八方へと離脱していった。
『宇宙海賊達は方々へと離脱しています。ここにいるのが冴内様達だと分かって逃げているようです。まぁ当然で賢明な判断ですね』
「あ~良かった・・・戦わなくてすんだ」
「アタイはちょっとだけうちゅうかいぞくを見たかったかも・・・」
「そうね、少し興味はあったかも」
「う~ん・・・ほんの少しだけ好意的な人達もいるみたいだけど、ほとんどの人達はあまり好ましい人達じゃないんだよ」
「うん、僕はそういう人達は苦手かな、出来ればあまり会いたくないから、彼らから離れてくれて助かったよ」
『それでは冴内様、本日もお手を煩わせて大変恐縮なのですが、隕石破壊活動をお願いできますでしょうか?』
「うん、もちろんだよ!」
「きょうはアタイと良子お姉ちゃんが先にいく!」
「うん、美衣ちゃんといつもより長く働いてくるからお父さん達は夫婦のお仕事頑張って!」
さすがに今回ばかりは冴内は飲みかけていたお茶を盛大にぶちまけてしまった・・・
「それじゃあいってくる!」
「行ってきまぁす!」
「二人とも有難う!お仕事頑張ってね!」(優)
「うん!お母さんもお仕事頑張ってね!」
「まかせて!」
「父ちゃんもがんばれ!」
「ア・・・アハハ・・・がんばるよ・・・」
当然二人と二人の間の認識のズレは数億光年程も離れたものがあるのだが、それでもいつかは彼女達にも分かる日がやって来るのかと思うと、冴内は赤面して顔から火が出そうというか、冴内自身が冴内太陽になって自らを燃やし尽くしてしまいそうなくらい恥ずかしくなっていた。一方優はその点についての羞恥心は皆無のようだった。
そうして船外と船内の両方で活動していた冴内ファミリーであったが、活動開始から2時間が経過しようとしていたところで動きがあった。
船外活動していた美衣と良子には例の白い消しゴム状の携帯端末によって投影されたさいごのひとのコピー思念体から、船内活動していた冴内と優には音声ガイドから宇宙海賊と思われる存在を検知したと知らされた。ちなみに冴内達の方は運良く一時休憩している最中のお知らせだった。
『巧みに隕石にへばりついて偽装しているようですが、間違いなく宇宙海賊の航宙艦だと思われます』
「えっ!?え~と・・・距離と規模は分かる?」
『距離は現在の速度で移動し続けた場合5時間後に接触する距離にいます、規模は極めて少数・・・恐らく10名前後だと思われます』
「ホッ・・・まだ時間もあるし少人数なんだね、それは良かった」
「・・・という状況だ」
「アタイまたぜんぜんきづかなかった」
「私も分からなかった」
「うむ、これは冴内 美衣と洋が作ってくれたコッペパン号の強化アンテナのおかげで検知することが出来たのだ」
「えへへへ、どういたしました」
「で、お父さんはどうするって言ってるの?」
「コッペパン号のジャミング機能を使って宇宙海賊達にコッペパン号の居場所を分からなくさせてそのまま通過するようだ、彼は出来るだけ交戦を避けたいらしい。実に尊敬に値する思考の持ち主だ」
「父ちゃんはやさしいからな」
「そうだね、お父さんは優しいね」
「とりあえずあと2時間程進路上の巨大隕石を破壊して、その後コッペパン号に戻るようにとのことだ」
「わかった!」
「分かった!」
一方好奇心旺盛な11人の女宇宙海賊達。
「姉さん!奴らを検知しましたぜ!今日も派手に隕石をぶち壊しているようです!」
「来たか!ようし!お前ら配置に付け!」
「「「「あいよ姉さん!」」」」
「ケシシ!来やがった来やがった!このまま奴らが前進し続ければあと5時間ってところで奴らの顔を拝めますぜ!ケシシシシシ!」
「姉さん、2時間後にはサイレントモードに入った方がいいっすよ」
「分かった!全員聞け!2時間後にはサイレントモードに入るから、今のうちに飲食を済ませて便所に行っとけよ!サイレントモードに入ったらおしめで用を足すしかねぇからな!」
「「「「了解ッ!」」」」
2時間後、美衣と良子はコッペパン号に戻った。つややかな顔をした優は鼻歌混じりで料理を作っており、冴内は若干疲れた顔で例のサクランボを一粒食べていた。
「いつもより長い時間ご苦労様!いっぱいご馳走作るから沢山食べてね!」と、美衣と良子だけじゃなく冴内に対しても労いの言葉をかけた優だった。
精の出る栄養たっぷりの美味しい料理を腹一杯食べている冴内ファミリー御一行に対し、サイレントモードに突入した女宇宙海賊達の乗る航宙艦は様々な偽装機能をフルに活動させて冴内達が近づいてい来るのを静かに飲まず食わずで待った。
『お知らせします、宇宙海賊の航宙艦が偽装機能をフル稼働したようです』
「えっ?それって大丈夫なの?」
『問題ありません、彼らの偽装装備ではコッペパン号の目を誤魔化すことなど不可能です、いくらサイレントモードで潜もうとも全てお目通しです』
「コッペパン号ってやっぱり凄いね!現存する宇宙連合艦隊のどの船よりも探知機能と危険回避能力は数世代は先を行ってるって皆言ってくれてるよ!」
「アタイたちがのってるからこうげきりょくもさいきょうだ!」
「そうだね!アハハハ!」
『冴内様のご要望では宇宙海賊との接触を避け、敵の目をくらましてこの宙域を通過するということですので、当艦は今から1時間後にジャミング機能をフル稼働します。その間は船内にておくつろぎください』
女宇宙海賊達の乗る航宙艦では飲まず食わずで全員おしめをして息をひそめて身動きもせずに我慢しているのだが、冴内達の乗るコッペパン号ではお菓子を作って食べたり、単純なVRアクションゲームで盛大に音を出して遊んでいた。
それから1時間が経過しコッペパン号がジャミング機能をフル稼働すると、女宇宙海賊達の乗る航宙艦は大混乱に陥った。レーダーだけでなくソナーやそれ以外の様々な探索装置が一斉に機能不全と言っても良い状態になり冴内達を検知するどころか、自分達の身の安全を確保するのに必死だった。
「ダメだ姐さん!レーダーもソーナーもカメラもバカになってる!」
「こちら機関室!エンジンパルスがまるで安定しない!まるで心筋梗塞のジジイ達みたいだ!」
「自動姿勢制御装置どうなってる!このままだと隕石に激突するぞ!」
「オートを切れ!マニュアル操縦に切り替えろ!あと手の空いてるやつは全員テメェらの目で見て確認しろ!」
「「「了解ッ!」」」
女宇宙海賊達はあらゆる自動機能をカットして全てマニュアルで操作し始めた。全員若く経験も浅いはずなのだが、胆力のある若い女宇宙海賊のリーダーの的確な号令の下ひるむことなくテキパキと自分達の出来ることに集中していた。
「ケシシシシ!こうじゃなきゃあよぉ!」
「ガッハッハ!久しぶりに血が騒ぐっぺよ!」
「お、お、おうよ!・・・こここ、これこそ宇宙海賊の醍醐味ってやつよ!」
「ケシシシ!声が震えてるぜ!ケシシシシ!」
「う!うるせぇ!むむむ、武者震いってんだ!ってきゃぁ!隕石!隕石避けろって!」
「あらよっ!おーもかーじ!ふいーっ!今のは危なかったっぺよ!ガハハハハ!」
「ガハハじゃねぇーよバカッ!ぶつかったらどうすんだ!」
「心配すんな!そんときゃ死ぬだけさ!アッハッハッハッハ!」
「ケシシシシシ!そうそう運が悪けりゃ死ぬだけのことよケシシシシ!」
「ガッハッハ!そうだっぺ!死ぬだけだっぺ!」
「・・・・・・」
「ハハハハ!相変らずうちらの姐さんはイカれてイカしてるなオイ!」
「ああ!宇宙海賊ってのはこうじゃなくちゃ!」
「そうそう、危険は避けて安全に海賊やってるようなジジイ共に見せてやりたいぜ!」
「おっと!右舷127度方向に隕石!20秒後に衝突!」「こちら左舷94度!そのままの進路だと1分後にデブリだらけの中に突っ込むぞ!」
死と隣り合わせの緊張の連続の中、彼女達は実に生き生きとしていた。
だが、致命的な一撃が彼女達を襲った。