183:再び船外活動
コッペパン号の作業室では以前アンテナを作った時に利用した装置が既に稼働しており、美衣の持ってる白い消しゴム状の携帯端末で映し出されたさいごのひとの指示により、何かの鉱石の延べ棒を数種類と、美衣が持ってた白い消しゴム状の携帯端末を前回同様ベルトコンベアのスタート地点の枠内に置いた。
美衣はベルトコンベアで運ばれている様子を追いかけながら見ていき、数種類の鉱石の延べ棒と白い消しゴム状の携帯端末が大きな箱の中に入っていくと大きな箱の出入口が光り輝いて、何かを製造しているような音がしてきた。
しばらくその状態が続いた後で大きな箱のてっぺんに付いているランプが緑色に輝くと、♪チーンという音がしてまたベルトコンベアが動き始め、大きな箱の出口からは白い消しゴム状の携帯端末が4台に増えて出てきた。
「アハハハ!いつ見てもこれおもしろい!」
「グゥゥゥ~ほんとだねグゥゥゥ~これ何度見てもグゥゥゥ~凄いなぁグゥゥゥ~」
「アハハハ!父ちゃんのお腹虫はもうげんかいだ」
「うん、お腹が空きすぎて倒れそうだよ」
美衣は出来上がった白い消しゴム状の携帯端末をいったん宇宙ポケットにしまい、冴内をお姫様抱っこで抱えて貨物室へと急いで向かった。冴内のお腹虫が鳴き続けるので、美衣のお腹虫まで仲良く共鳴して鳴いていた。
貨物室に着くと大闘技場前のオープン居住スペースから持ってきた食料格納箱の中の新鮮な肉や魚に野菜をふんだんに使ったご馳走が次々と出来上がっていた。まずはすぐに完成する新鮮野菜のサラダに魚の刺身やミディアムレアで焼くだけのステーキが用意され、冴内はむさぼるようにそれらの皿にがっついた。いったん極度の空腹状態から回復すると、遅れてスープとパンが出来上がったのでゆっくりと味わって食べれるようになった。
「腹ペコだとお米じゃなくても、食べられるものならなんでも美味しく感じられるね、このパンとか感動的に美味しいよ」
「それ私が作ったの!」
「えっ?凄いな!良子もいつの間にかどんどん料理の腕前が上がってるね!」
「えへへ!お母さんと美衣ちゃんにいっぱい教えてもらってるんだよ!」
「アタイははやくくうちゅうていえんとしに行ってほんもののれしぴでりょうりしたい!」
「あ~・・・あの美衣が作ってくれた透明なはんぺんみたいな料理は美味しかったなぁ・・・」
「それはおあしすおおくらげのかさだ!アタイもほんものが食べたいなぁ~」
「私はあの無限玉ネギのオアシス大カマスの包み焼きが食べたいわね、あれも凄く美味しかったわ」
「あ~アレ美味しかったよね!」
「うん!アレも凄く美味しかった!」
「ぐっ・・・あれ、作るのたいへんなんだ・・・でもアタイもたしかにほんものを食べたい」
そんな具合に冴内達はコッペパン号の貨物室で食卓を囲みながら団らんしていると、音声ガイドからのアナウンスが伝えられた。
「冴内様、お食事中失礼いたします、当艦はこれから15時間後に隕石密集地帯を通過することになります。つきましてはお手数をおかけしますが隕石の破壊をお願いできますでしょうか?」
「もちろんだよ!それじゃあ今日は早めに休むとして、明日は邪魔な隕石をぶっ壊そう!」
「りょうかーい!」×3
「冴内 洋、その際は回収袋も持っていってくれ、良質な隕石は私の方で指示するので持ち帰ってくれれば今後非常に有益な資源になるだろう」
「分かった!」
冴内達は食後、いったんキッチンや食料格納箱を美衣の宇宙ポケットにしまい込んで、コッペパン号の展望デッキに移動して改めてキッチンに加えてお風呂やベッドなどを再配置し、ゆっくりと星々を眺めながら入浴した後で、星々を眺めながら眠りについた。
翌朝いつも通り腹時計で起床して朝食をとり、音声ガイドと良子がルート確認をした後で隕石破壊船外活動を行うことになった。今回はまず最初に冴内と優がペアで作業を行うことにしたのだが、優はほとんど冴内にべったりくっついたままで、もっぱら隕石の破壊は冴内が行い、優はさいごのひとが指さした隕石の破片を回収袋に入れるだけで、それ以外は冴内にくっついてイチャイチャしてた。
「母ちゃんまじめにやれ」
「お母さんは最近お父さんと夫婦らしいスキンシップが出来なかったから寂しかったんだと思う」
「ふうふのすきんしっぷ・・・父ちゃんの記憶で少し見た気がする、アタイにはまだむずかしかった」
「うん、私にもまだ難しくて良く分からない」
「さすが父ちゃん母ちゃん、おとなだ・・・」
「そうだね、大人だね」
美衣も良子も真面目な顔で納得していた。
ちなみに途中で何故か優も猛烈な勢いで隕石を破壊し始めて、美衣はようやく母ちゃんもやる気を出したかとほめたところ、程なくして優も冴内も突然全く隕石を破壊しなくなり、良子共々不思議に思ったのだが、沢山ぶっ壊して休んでいるのだろうと考えることにした。その間冴内と優は真空の宇宙空間でぶっ壊しまくった隕石の破片だらけの見えない宙域で久しぶりのご無沙汰の夫婦のスキンシップに精を出していたのであった・・・真空の宇宙で・・・
冴内が疲れた表情で、優はとてもつややかな表情でコッペパン号に戻ると、音声ガイドからは『お疲れ様でした』と何かを含んだかのような労いの言葉がかけられた。その後交代で美衣と良子のペアが隕石破壊活動に勤しんだ。美衣と良子が元気よく盛大に隕石を破壊している様子を見て、冴内は次からは宇宙空間じゃなくて、美衣と良子が船外活動しているときにしようと優に言うと、優は「わかった!」とすごく嬉しそうに元気よく答えた。まぁ夫婦の仲が良いのはいいことですハイ。
大体3時間おきに交代して6時間ごとに食事休憩をとって2セット目を行ったところでその日の隕石破壊活動は終了した。音声ガイドから次の破壊活動は3日後ということで冴内は心の中で安堵した。
その日の夜は食料保管庫から地球のウナギに似た食材を取り出して久しぶりの米を炊いて鰻重を作って食べた。他にもニンニクを沢山使ったステーキなどが冴内の前に沢山並べられた。美衣は残り少ない納豆を大事に味わい噛みしめながら食べていた。さすがに今や一流シェフの美衣でも第3農業地のシーカー達が作る納豆は作れなかった。その理由は食材と調理方法だけでなく、納豆菌と納豆を作って熟成するまで寝かせるのに適した場所がないからである。
冴内達が盛大に隕石破壊活動を行っていた時、その姿を極めて遠い距離から無人の偵察ポッドが監視し続けていた。その偵察ポッドはこの辺りの宙域を取り仕切る極めて悪名高い宇宙海賊が保有するものだった。
その偵察ポッドからもたらされた最初の簡素な数値データを見た海賊達はとんでもないお宝の獲物がやってきたと大喜びで舌なめずりしまくった。早速我先にと高速戦闘航宙艦に飛び乗りジャンプワープのカウントダウンを開始していたところ、緊急中止命令が飛び込んできた。
ほとんどの海賊達は汚い言葉で罵りながら、緊急中止の理由となる映像を見たところ、有り得ない衝撃的な映像に背筋が凍り付いて震えあがった。
また、緊急中止命令が機械トラブルで聞こえなかったというバレバレのウソをついてジャンプワープを開始した高速戦闘航宙艦でもワープ移動中に衝撃的な映像を見て、速攻でジャンプワープを緊急中止した。
偵察ポッドが最大望遠で捉えた非常に粗い映像データがAIによって細部が補完され、事実に近い映像データとして作成されたものが各海賊船に緊急で送信されてきたのだが、その映像には信じられないことに生身の身体の人族と思われる宇宙人が巨大な隕石を素手で粉々に粉砕している姿が映し出されていたのだ。