181:作戦終了後
冴内達が巨大衛星要塞へと帰還すると、着艦デッキではものすごい数の要塞クルー達が総出で出迎えてきて、地球から美衣によって伝えられた万歳三唱の嵐に包まれた。各艦隊で祝砲も撃ち放たれきらびやかな花火のようなビームの閃光がきらめていた。
冴内達が着艦デッキから第二隔壁を通過して、空気があり与圧されて1G重力に保たれた要塞内部へと進入すると、今作戦の前線における総責任者の最上級将校が冴内達の前に現れて将校の被る名誉ある帽子を脱帽し敬礼ではなく深々と頭を下げた。後列に居並ぶ上級将校や上級士官達も同様に全員冴内達に対して深々と頭を下げた。
「諸君!宇宙イナゴはアタイ達が全部やっつけた!悲しく辛い戦いだったがひとまずは勝利を祝おうではないか!大いにウマイものを食べて!飲んで!歌って!踊ろう!盆踊りだ!盆踊りをやろう!」と、いつもは平がなだらけのセリフの美衣が、久しぶりに英雄モード全開炸裂で名演説を言ってのけ、その場を仕切った。
「・・・BONODORI?」と、ざわつく宇宙人達。
「盆踊りとはこういうものだ」と、さいごのひとが気を利かして地球の日本のあちこちでお盆時期になると見かける昔ながらの素朴な盆踊りの映像をあちこちに空間投影した。いつの間にそんなもん調達したんだろうか・・・
「BONODORI!?」
「ボン、オドーリ!?」
「ぼんお、どり!?」
「・・・ぼん、おどり・・・ぼんおどり・・・!」
「盆踊り!」「盆踊り!!」「盆踊り!!!」
「「「「ワァーーーッ!!」」」」
少しづつ周りの宇宙人達が盆踊りに対する認識を示していき、やがてしっかりと理解したところで要塞内は割れんばかりの大歓声に包まれた。
当然その模様は全艦隊はおろか、遠く離れた宇宙連合指令本部のある星にも、さらに他の星々にも次々と伝わり、全宇宙で盆踊りなる宴が開かれることになった。当然あちこちの星でも似たような風習のようなものはあったのだが、地球の日本の、それも今となってはちょっと古びた感が否めない昭和の時代の頃からの懐かしいメロディと共に素朴な踊りを行う盆踊りが地球よりも遥かに高度な文明を持つ星々でこれから行われようとしていたのであった。
冴内達のいる最新鋭巨大衛星要塞の中でも最も広大な敷地面積を誇る中央広場では盆踊りに使うやぐらが建造されていた。残念ながら木製ではなく鋼鉄や強化複合素材ではあったが・・・
盆踊りに向けて大盛り上がりを見せる一方、げんしょのひとの思念体やさいごのひとのコピー体、そして宇宙連合の情報参謀達と先端科学者達は、巨大衛星要塞内の大型高性能演算装置のある情報管理室にて冴内とクイーンイナゴの会話について議論を重ねていた。
議論の最も重要な論点はもちろんクイーンイナゴが言った「何物かによって何かの光をあてられた」という点であった。クイーンイナゴの言では、それ以前は普通の昆虫のイナゴだったと捉えてよく、何者かの何かの光を浴びたことで宇宙イナゴへと変容したと言うことなのだ。これには一同全員が驚愕するところとなった。
「それにしても冴内 洋にはいつもながら驚かされる。まさか宇宙イナゴと対話を可能にするとは。げんしょのひとの思念体からも伝えられたが、彼らはこれまで何度も宇宙イナゴとの対話を試みたが結局成功しなかったと言っている」
「はい、さらに冴内様のおかげで宇宙イナゴの生態解明にかなり有力な手がかりを得たんじゃないでしょうか」
「その通りだ、とりわけこのクイーンイナゴと呼称する個体の発言内容の意味するところが極めて大きい。宇宙イナゴが人為的に産み出されている可能性があるというのは非常に重要で、この情報自体の取り扱いも極めて慎重にしなければならない」
「おっしゃる通りです、何者かの手によってこの激震災害級とも言える宇宙の厄災が引き起こされたなどが全宇宙に知れ渡ったら大変なことになります」
「しかし一体何物なんでしょうか・・・これまでの宇宙イナゴの襲来の歴史からすると、極めて遠い遥か昔の時代から既にその何者かは存在していて、しかも今もその者は存在していることになります」
「その通りだ、これからはその何者かの存在について、我々は全力を持って調査し探し当てる行動を開始しなければならない」
「その通りではありますが、状況証拠が・・・」
「うむ、冴内達は良い意味で全ての宇宙イナゴを残骸のカケラすら一つ残さず綺麗に消滅させてしまったからな・・・だが、君等の中に知っている者もいるかも知れないが、かつて私の祖先が200万年程前に宇宙イナゴを駆除した際のサンプルがデータとして保管されている、実物はさすがにもう残っていないがほぼ完全なデータが劣化せずに特一級重要情報管理データとして秘匿されているはずだ」
「そういうデータがあるらしいことは知っておりますが、我々も我々の上長の最上級情報管理者もそのデータへのアクセスは出来ませんでした」
「それについては、私も含めて君達に謝罪しなければならない。冴内 洋がこの世界に現れ、そしてもう一人、今は冴内 良子として生まれ変わった我々がかつて切り離してしまった負の感情の結晶体の復活まで我々はほぼ完全に活動を停止していたのだ」
「負の感情を排除したことが元で長い年月をかけて徐々に良い方の感情まで失っていき、ついには感情そのものを喪失したことで、外部の世界についても全く感心がなくなってしまったのだ・・・いかなる理由があろうとも断罪されて然るべきことだ」
「そんな・・・いえ、私などが言えるべきことではありませんが、あなた達に責任があるとは到底思えません、あなた達がこの宇宙に生きとし生ける者達に与えてきた多大な恩恵と貢献については誰もが知る所です」
「有難う、その言葉感謝する。ともあれ今ならば先ほど私が説明した宇宙イナゴの完全なサンプルデータへアクセスが可能だ。げんしょのひとの思念体もデータ解析に全力を尽すと言ってくれているので、諸君らにも手を貸して欲しい」
「もちろんです!我々一同、喜んで協力させていただきます!」
「有難う、しかしこの要塞にある演算装置では処理能力不足だ、みんなのほしにある我々の演算装置ならば不足はないが、ここからではいささか遠い。冴内 洋がいてくれれば2ヶ月程で到着できるが、彼らは次の重要ミッションに挑みたがっているはずだ」
「なんと!次の重要ミッションですか!?」
「うむ、彼の新たな家族の一員となる、冴内 花子という存在の発見と救出が主な目的だ」
「それは!それはまさに最重要ですね!」
いやいやいや、そうだけどそんなことないから。
「となるとどこで解析するのが良いでしょうか」
「そうだな・・・IQGA315241星にある光子演算装置を借りるのが良いだろう」
「なるほど、確かに彼らの光子演算装置はあなた達の演算装置を除いて現時点で宇宙最高の性能を持つ演算装置ですね」
「しかしながら彼らの演算処理用言語体系が我々にとっては極めて難解なため、我々では光子演算装置を使うことが出来ないのです」
「確かに、彼らの言語処理体系はいささか個性が強い感が否めない。しかし我々が仲介して処理するのでその点は問題ないだろう」
「なんと!有難う御座います!ご協力、誠に感謝いたします!」
「うむ、私は物理的に自ら移動出来ない状態にあるので、諸君らにも色々と協力してもらいたい。お互い協力して共に宇宙イナゴの生態解明にあたろう」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
そんなシリアスな展開などほったらかしで冴内達は無邪気にのんきに盛大に盆踊りで大はしゃぎであった。
最新鋭巨大衛星要塞の中央広場では数万人規模の様々な宇宙人の要塞クルー達で大賑わいであり、広場の中央には最も高いやぐらの上で美衣と良子が楽しそうに太鼓を叩いており、冴内と優は浴衣を着て仲良く楽しそうに踊っていた。当然美衣も良子も浴衣を着ていた。そのあたりはしっかりしたものでちゃんと宇宙ポケットに入れてあったのだ。
中央広場はかなり広大なため、他にも放射状に点々とひと回り小さいやぐらが組まれており、様々な宇宙人の要塞クルー達もやぐらの周りを楽しそうに踊っていた。あちこちで食べ物屋台もあり、無礼講ということで酒の飲酒も許可されており、まさしくお祭り騒ぎといったところだった。