179:戦闘開始
翌朝いつも通り全員腹時計が盛大に鳴り響いたので寝坊することなく身体が要求するリズムに合わせて規則正しく起床した。
珍しく朝風呂に入ってからタップリと朝食を食べて、しっかりと食休みをとり、さらに戦闘が長期化した時のためにおにぎりとサンドイッチを作った。
冴内は良子に仮面バイカーのベルトと最強獣人少女の戦士の証の首飾りを渡して、良子が仮面バイカーの戦闘獣モードに変身出来ることを確認した。冴内は最初から冴内太陽になって、必要に応じてブラック冴内になると家族全員に告げた。
ちなみに相手は宇宙イナゴだから仮面バイカーになれば同じバッタ同士で何かいいことあるかもしれないと冴内が言うと、家族全員何の疑念も一切の反論もなくそうかもしれないと素直に従った。これから挑む宇宙最悪激震災害級の厄災に対して、何かいいことがあるかもとか言うあたりが冴内だった。
準備万端用意が整ったので冴内達は発艦デッキへと向かった。宇宙空間での戦闘機であるところの戦闘航宙艇の発進電磁カタパルトデッキに全員生身のまま登場すると、発艦作業クルー達は全員総出で冴内達に両手を振って出撃を見送った。
冴内は冴内太陽に、それ以外の皆は仮面バイカーで戦闘獣モードになってわずかにヒザを曲げて重心を下げて力を籠めると冴内達は光り輝いた。
十分に力を溜めてパワーが臨界点に達したところで冴内達は一気に自力で自らを射出した。
既に真空状態なので音は届かないが、カタパルトデッキを蹴りつけた時の凄まじい衝撃振動はその場にいた全クルー達に伝わった。
その輝かしく力強い光景は見る者全員の魂を鼓舞するかのようだった。
眩い閃光とまるで飛行機雲のように残存粒子を残しながら凄まじいスピードで宇宙飛行していく冴内達。大型戦闘航宙艦などを見つけるとわざと見せつけるように艦橋付近の窓の前を飛んでいった。もちろん艦橋内では艦長達が敬礼しており、展望デッキなどで目視していたクルー全員も敬礼していた。
程なくして最前列の宇宙艦隊を追い越した冴内達は一気に亜光速にまで加速して宇宙イナゴが存在する宙域へと向かっていった。
家族4人ともいったん密集してリング状になって手を繋ぎ合い、冴内が「皆!頑張ろう!」と言うと全員力強く「了解ッ!」と答え、冴内達は力強く頷きあった後で手を離して散開していった。
「冴内様御家族、宇宙イナゴ接敵まで約30秒!」
宇宙連合艦隊司令部ではレーダースクリーンが投影されカウントダウンが始まった。
「遊撃艦隊全艦出撃!」
「続けて偵察大隊出撃準備開始!」
「ブラックホール発生装置全速後退開始!」
「GO!GO!GO!」
「冴内様御家族、宇宙イナゴ接敵まで約10秒!カウントダウン開始します!」
「・・・5!、4!、3!、2!、1!接敵しました!」
直後すぐに宇宙イナゴが消えた・・・ということはなく、冴内達は宇宙イナゴの超大群の中に突入していった。1分・・・2分・・・3分・・・まだ冴内達は攻撃を開始せず宇宙イナゴの中に入っていった。
「冴内殿達はまだ攻撃しないのか!!」
「はい!どんどん最深部へと向かっています!」
「なんと!!」
「我々はてっきり冴内殿達はまず遠距離間接攻撃をするものとばかり思っておりましたが・・・」
「うむ、恐らくより効果的に直接的に多くの宇宙イナゴを駆除するために宇宙イナゴの群体の中で大爆発攻撃をするのだと思われる」
「大爆発攻撃ですと!?」
「うむ、冴内達だからこそ出来る自分自身が被害を受けない自爆攻撃だ」
そんなアホな話しがあるかとツッコミたくなるようなことをさいごのひとはさらりと言ってのけ、そしてそれを普通に受け入れて頷く宇宙連合艦隊の上級将校達であった。
ここにいるひとたちはぜんいんものすごくあたまのよいひとたちだったんだよ。ほんとうだよ。
「7分経過!最左翼で巨大熱源感知!美衣様です!続けて最右翼で良子様からも熱源感知!続けて優様!す!凄い!宇宙イナゴの約30パーセントが一瞬で消滅しました!」
「「「「 ウワァーーーッ !!!」」」」
宇宙連合艦隊のあちこちで大歓声が上がった。要塞内前線指令本部内でも歓声があがったが、プロのオペレーター達は雄叫びをぐっとこらえて彼らが担当するコンソールパネルから一瞬も目をそらさず観測し続け、その代わりに彼らは小さく拳を握りしめて喜びを表した。
「美衣殿!良子殿!優殿!第二射開始!宇宙イナゴの損耗率増加!35!・・・40!・・・今45パーセントを突破しました!!良子殿と優殿のいる右翼の宇宙イナゴはほぼ壊滅です!」
「「「「 ウワァーーーッ !!!」」」」
「10分経過!美衣殿!良子殿!優殿!後退開始!冴内殿はさらに前進!あっ!冴内殿からの温度上昇を感知!凄まじい温度上昇です!」
「15分経過!冴内殿停止!中心温度は惑星爆発並みにまで上昇!間もなく臨界点を突破します!」
「各自衝撃に備えよ!」
「全軍に通達!対ショック!対閃光防御開始!」
「特異点を観測!爆発来ます!」
冴内のいる地点から数百万キロも離れた場所にも関わらずその太陽爆発は凄まじい閃光を放ち、対閃光防御を行っていないと各種センサーは一発で機能を失う程だった。当然目視などしようものなら失明は免れない程の強烈強力な閃光だった。
「続けて衝撃波!・・・来ます!」
さすがに巨大衛星要塞は揺れることはなかったが大型戦闘航宙艦よりも小さい航宙艦や戦闘艇などはその凄まじい衝撃波により自動姿勢制御装置がフル稼働する程の衝撃だった。
あまりにも大きい衝撃と熱量により観測モニターは一時停止していた。
要塞内前線指令本部内の誰もが観測モニターの様子を固唾を飲んで見守っていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・ッ!!測定結果出ました!宇宙イナゴ80パーセント消滅!80パーセント消滅です!脅威レベルが激震災害クラスから警戒クラスにまで低下!」
「「「「 ウワァーーーッ !!!」」」」
「「「「 ウワァーーーッ !!!」」」」
「「「「 ウワァーーーッ !!!」」」」
全宇宙連合艦隊じゅうに歓喜の雄叫びが響き渡った。要塞内前線指令本部内どころか大型戦闘航宙艦内部でも遊撃隊の航宙艦内部でも有人の小型偵察航宙艇内部でも、戦闘士官だけでなくメカニックも医療班も食堂の調理人も清掃班も全てが雄たけびを上げた、いたるところで宇宙人種分け隔てなく喜び合い抱き合っていった。
宇宙連合艦隊の最前線から遠く離れた宇宙連合本部のある惑星の総司令部でもこの状況は全てリアルタイムで把握しており、総司令長官を始め各惑星の代表者達も戦闘開始からわずか15分程で脅威レベルが激震災害クラスから警戒クラスにまで引き下げられたという事実に驚愕しつつも全員が立ち上がって歓声を上げて喜んだ。
さらに遅れてこの事実が宇宙中に伝えられていった。冴内達が立ち寄った2千箇所にも及ぶリングゲート設置の星々も、ドムゲルグフ人のいる開拓惑星でも、マシーンプラネットでもエルフの星でもミャアちゃん達も龍人族の名誉会長もりゅう君のオジサン達もクリスタル星人達も、冴内を知るありとあらゆる星々でこの知らせを聞いて皆大喜びした。
もちろん地球上でも少し遅れてこれらの報が伝えられた。冴内達との交流が深いいつものメンバーは試練の門への挑戦を中断してみんなのほしでオリジナルのさいごのひとのホログラムと一緒にホールケーキタワー内にあるドーム空間のドームスクリーンでその様子を見て全員歓喜の渦で、抱き合ったり飛び跳ねたり走り回ったりと身体全身で喜びの感情を表現していた。各種ゲートにおいても世界中のシーカー達は歓声を上げ、ゲート外の一般社会においてもその様子は世界中のニュースで報じられ、冴内達の活躍が大いに賞賛された。
冴内達の実力は大闘技大会で十分に知れ渡ってはいたが、それでも今回の全宇宙にとっての大災害、まさに厄災ともいえる大規模宇宙イナゴ襲撃をわずか15分程でほぼ壊滅させたことで、改めてそのとてつもない力を全宇宙に知らしめのであった。
そんな冴内達は真空の宇宙空間に漂っていた。
冴内から距離をとっていた美衣、良子、優は改めて冴内の元に集結して冴内ファミリー全員結集して宇宙イナゴの最後の生き残りの群体の前に静かに漂っていた。