175:船外活動
さいごのひとが第44調査惑星と回線を開くため、冴内達はVRゲームをいったん中断した。
良子はさいごのひとのサポートを行い、優は食事の支度に取り掛かり、冴内と美衣はなんと船外活動を行うことになった。
第44調査惑星ははるか彼方にあるため、コッペパン号の通常アンテナでは回線を繋ぐことが出来ないので、強力な外部アンテナを前面に装着する必要があった。この作業を冴内と美衣が担当するのだ。
まずはアンテナの素材となる鉱石を調達することになったのだが、折しも今現在アステロイドベルトの真っ只中にいるので、豊富な鉱石を多量に含んだ隕石群が大量にあるので早速冴内と美衣は隕石を回収することにした。
冴内も美衣も宇宙服を着ずに、しかも命綱もつけずにそのままの姿で真空の宇宙へ飛び出した。
二人とも例の真っ白な消しゴム状の携帯端末装置をもっているので、二人の前に別々のさいごのひとの立体映像が投影されて、冴内と美衣は別々にさいごのひとが指し示す隕石をチョップで粉々にした。
あらかじめ二人とも回収袋を持ってきており打ち砕いだ隕石で一際キラキラ光っているものを回収袋の中に入れていった。ちなみに細かい破片一つだけでも地球に持って帰ることが出来たら恐らく三世代くらいは贅沢に遊び暮らせるほどの莫大な財産価値があった。
冴内も美衣も回収袋にタップリ隕石の破片を入れ終わったのでいったんコッペパン号へと戻った。
回収した隕石を持ってコッペパン号の作業室に行くと既に何かの装置が作動しており、さいごのひとの指示でその装置の端っこに隕石を手際よく置いていくように指示された。
「アハハハ!おもしろい!いろんなものがでてくるぞ!父ちゃん!」
「本当だね、これは面白い!こんな装置まであるなんて凄いなコッペパン号は」
その装置は小さなベルトコンベアのようになっていて、いかにもここに置けというのが分かるマークが描かれた枠内に隕石を置いていくと、それがベルトコンベアによって運ばれていき何かの大きな箱を通過していくと、反対側からは何かの延べ棒のようなものが出てきた。一種類の延べ棒ではなく、複数種類の延べ棒がランダムに出てきた。
恐らく大きな箱の中で鉱物資源が抽出されてその成分種類ごとに仕分けされ、ある程度の量が溜まったら延べ棒に加工されて出てくるようだった。隕石の大部分を占める石の部分は砂に分解されて再度凝縮されて石のブロックが出てきた。こちらも優れた耐熱と耐衝撃ブロック素材として有効活用出来るとのことだった。
全ての隕石の抽出分解作業が終了すると、アンテナを作るのに十分以上の素材物質が揃ったということで、次に数種類の延べ棒をさいごのひとの指示通りにまたしてもベルトコンベアのスタート地点の枠内に置いた。
すると今度は反対側から太くて頑丈そうな黒い棒のようなものが出現してきた。太さは根本が10センチ程で先端が3センチ程に少しづつ細くなっており、長さはおよそ2メートル程あった。重さは50キロ近くあるのだが、冴内と美衣にとってはないに等しい重さだった。当然のことながら作業室も貨物室も全て今は千倍重力は停止しており、通常の1G状態となっていた。
完成した2本のアンテナを持って、冴内と美衣は再度コッペパン号の外に出た。やはり二人とも宇宙服を着ずに命綱も付けずに真空の宇宙へと飛び出していった。
今度は冴内と美衣は二人一緒になってコッペパン号の船体前面へと向かっていった。美衣は重力制御を巧みに扱いコッペパン号の船体表面をまるでマグネットブーツでも履いているかのようにペタペタと走っていき、冴内の方は太陽フレアを放出して宇宙空間を飛翔して行った。そんなもんコッペパン号の近くで放出して大丈夫なのかお前と突っ込みたくてしょうがなかったが、うまいこと調節して全く危なげなく進んで行った。
現地球人類が宇宙の船外活動でどれだけ死と隣り合わせの多大な苦労をしているのかなどまるで知ったこっちゃないといった感じで、平然と生身の身体で宇宙船外活動をする二人だった。
コッペパン号の前面に到着すると、やはりさいごのひとの立体映像が指し示す場所に移動し、アンテナを取り付ける位置を指さしてくれたので、美衣は真・万能チョップの貫手でアンテナ取り付け位置に丁度良い穴を穿ち、冴内がアンテナを深く差し込んでいった。美衣の手の小ささと腕の長さが丁度良い塩梅だった。
冴内がアンテナを差し込むとコッペパン号の船体表面の自己修復機能によってアンテナと穴の隙間はなくなってアンテナはコッペパン号にガッチリと固定された。同じ要領でもう一本のアンテナを取り付けると冴内と美衣は命綱がないというのに、コッペパン号の前面に飛んでいき、コッペパン号の全体像を確認し、まるで二本の触覚が生えた芋虫かナメクジのような見た目になったのを見て笑いあった。
「アハハハ!なんかのむしみたいになった!」
「ハハハ!なんとなく可愛らしいというか愛嬌のある見た目だね!」
真空中なのにどうやって音が伝わっているのかという疑問があるが、お互い手を繋ぎ合っているので恐らく骨伝導通信で伝わっているのだろう。
さいごのひとから100パーセント完全に良い状態だと太鼓判をもらったので二人ともコッペパン号に戻ろうとしたのだが、何を思ったのか突然宇宙空間で模擬戦を開始し始めた。
「宇宙イナゴ討伐の予行演習とまではいかないけど何か出来ることはないだろうか?」
「父ちゃんアタイおにごっこしたい!」
「あっ!いいねそれ、じゃあ僕が鬼になるよ!」
「アハハハ!アタイをつかまえてみてー!」
「よーしいくぞー!」
「アハハハハ!」
「ワハハハハ!」
もう一度繰り返し記載するが、二人とも命綱はつけていない中で宇宙空間で鬼ごっこなどというたわけた遊戯に夢中になった。みるみるぐんぐんコッペパン号から離れていき、しかも隕石群の中でかくれんぼまでやり始める始末だった。しかもコッペパン号は亜光速巡行をしている最中である。どれ一つ取ってみても自殺行為以外の何物でもなかった。
冴内は美衣を見つけるのに手あたり次第に隕石を大宇宙のチョップで粉々に粉砕していった。おかしくて大笑いしながらアステロイドベルトの隕石を粉々にしていった。無遠慮にお構いなしにスペースデブリを大量にまき散らしていった。まさに迷惑千万な宇宙破壊行為だった。
じゃんじゃん隕石を粉々に破壊して自分を探し出そうとする冴内が美衣にとっては可笑しくてたまらないらしく、大笑いしながらアステロイドベルトを自由自在に凄まじい速度で飛翔していた。
すると明るく光る一筋の光跡が冴内の元に凄まじい速度で飛んできた。その光の矢は優で冴内の足元までやってくると冴内の足首をむんずと掴んで骨伝導で冴内に話しかけた。
「そろそろご飯が出来るけど何やってるの?」
「美衣とかくれんぼ鬼ごっこをやってるんだ」
「わぁ!面白そうね!私もやる!」
「じゃあ二人で美衣を見つけよう!」
「分かった!」
宇宙破壊活動はさらに激しさを増していった。亜光速で移動し続けるコッペパン号の前面に出て、巨大隕石を二人でめったやたらに粉々に粉砕していったので、コッペパン号は隕石を回避する行動をとる必要がなくなっていった。
結局美衣を捕まえることは出来ず、冴内達の腹時計が鳴ったことによりゲームオーバーとなり、冴内達はまったく迷うことなく亜光速で移動し続けるコッペパン号に一直線で凄まじい速度で帰投した。
食卓で料理を並べていると良子が盛大に腹時計を鳴らしながらやってきたので、全員でいつも通りたらふくになるまで食事をとった。
良子が担当する作業は終了したとのことで明日の朝には第44調査惑星の現在の状況がリアルタイムに観測することが可能になるとのことだった。