174:370万年前の世界だった
「あっ!すごくいい匂いがする!」
「ほんとね!」
「はい!あそこの大きな建物の厨房で美衣さんが料理を作っています!」
花子に案内されたまま冴内達がかつての大人気レストランの中に入っていくと、案内と給仕ロボットがやってきてテーブルを示してくれた。そのテーブルには既に良子が座っていて飲み物を飲んでいた。
「あっ!お父さん!お母さん!こっちだよ!」
冴内達が良子の座っているテーブルに座ると給仕ロボが飲み物を聞いてきたので、冴内は爽やかな柑橘系の炭酸入りフルーツジュースを注文し、優はスパークリングワインを注文した。
「凄いね良子!さっき花子に聞いたんだけど、この空中庭園都市中央管理システムの管理者になったんだってね!」
「うん!クエストボーナスでアクセス権をもらったからそれでシステムに接続したの、ところどころ新しい情報を追加したり不具合が出てる箇所を直して改良していったら、管理者として認証してもらっちゃった!」
「えっ!それは凄い!僕は探索者になる前に少しだけシステム関連の勉強をしていたから、それがどれ程凄いことなのか良く分かるよ、やっぱり凄いなぁ良子は・・・」
「えへへ、ありがとう!お父さん!」
「みんなおまたせ!このおみせじまんのだいにんきりょうりをたっぷり作ったよ!」
美衣は両手にお皿を乗せて厨房の奥から現れた。いつの間にか白いコック服にコック帽を被っており滅茶苦茶可愛かった。そして背後には複数の給仕ロボが台車に沢山の料理を乗せて控えていた。
「あれ?この可愛いロボちゃんだぁれ?」
「これはクエストボーナスでもらった空中庭園都市のガーデンフロアの案内ロボットで、僕等の一員になったから花子って名前を付けたんだ」
「花子です!美衣さんよろしくお願いします!」
「わぁ!花子ちゃんなかよくしてね!」
「はい!よろこんで!」
「さぁみんな!たくさん食べてね!どれもすごく美味しいよ!」
美衣は家族皆に料理を振る舞い、自分がたらふく食べることもなく皆が美味しそうに食べるのを嬉しそうに見守っていた。恐らくかなり試食したからであろうと思われるがVRゲーム世界のことなので美衣のお腹は妊婦のように膨れ上がってはいなかった。
「うわっこれ不思議!何の色もついていない透明なはんぺんみたいな見た目なのにとても味わい深くて凄く美味しい!何これ!?」
「それはおあしすおおくらげのかさだよ!いちばんにんきのりょうりだ!とうめいのままで味をしみこませるのがすごくむづかしいんだって!」
「わぁ美衣ちゃんこれも凄く美味しい!」
「それはおにくろっくんろーるだ!5つのどうぶつのお肉をうすくしてかさねてまいていくんだよ!ひとつづつのお肉がちがうはごたえとしょっかんであじつけもひとつひとつちがうからたいへんなんだ!」
「美衣こっちの料理も凄いわよ!」
「それがいちばんたいへんだった・・・むげんたまねぎをすらいすしておあしすおおかますをつつんでぼいるしてむすんだけど、ほどよくなかに火がとおってむげんたまねぎのうまみをしみこませるのがすごくたいへんだった・・・なんどもしっぱいしてたべた、むげんにむげんねぎをたべたからくるしくなった・・・」
「そ・・・そうなんだ、さすがね、美衣、おかげでこれもの凄く美味しいわよ!」
「えっ!どれどれ!・・・わっ!ホントだ!これも抜群に美味しい!」
「私も!・・・うわぁー!これも凄く美味しい!」
「美衣様さすがです!この料理は難易度ナンバーワン料理ですよ!しかも再現度も当時の料理長の技を全てインプットしたAIが唸る程の出来栄えです!」
「えへへへへ!やったぁ!」
「こんなにも美味しいんだから、本物も食べてみたいねぇ・・・」
「そうね、似たような食材でそれらしいものは再現出来ると思うけど、本物の食材がないから全く同じ料理は難しいかなぁ・・・」
「それならば宇宙イナゴ討伐が完了したら、実際に行ってみてはどうだろうか?」
「えっ!?この星っていうかこの場所って本当に存在するの?」
「もちろんだとも、確かに私の方で色々とアレンジしたり調整してはいるが、基本的に今君達がいるこのゲームステージは第44調査船団の探索活動記録を元にしているのだ」
「そういえば聞いてなかったけど、それってどれくらい前のことなんですか?」
「370万年くらい前のことだ」
「えっ!?そんなに前なんですか?ここが!?これで!?」
「うむ、だいぶ古めかしい様子からも伺い知れると思うが・・・」
「これで古めかしいんだ・・・でもそんなに古い時代のことなんだったら、今はどうなってるか分からないよね?」
「いや、そうでもない」
「えっ!?分かるの?」
「うむ、各所に情報収集ポッドを配置してあるのと無人探査衛星もまだ存在してると思うので、こちらからデータリンク回線をオープンにすればまた情報収集が可能になるはずだ」
「何だって!?それはすごく見たい!知りたい!」
「うーむ・・・みんなのほしの大規模演算装置があればすぐにでもデータリンク出来るのだが、コッペパン号と冴内達のいう消しゴム型携帯端末ではいささか処理能力不足なので、いったんこのVRゲームを中断させなければならないのだ」
「えっ?ゲームを中断すればリンク出来るの?」
「うむ可能だ、しかし君達は今随分とこのゲームを楽しんでいるようだから中断するのは有益でないと判断していたのだ」
「いやいやいや!ゲームよりも本物の方が気になるよ!皆はどう?」
「アタイもほんもののりょうりとしょくざいのほうがだいじだ!」
「私も本物がどうなってるのか見たいわ!」
「私も本物のシステムにアクセスしてみたい!」
「なんと!君達は実に素晴らしい!娯楽で楽しい時間を過ごすことよりも知的探求心を優先するのか!分かった、それならばすぐにゲームを中断して本物の第44調査惑星とのデータリンクを再開しよう」
「やった!」
「・・・」少し寂しげな様子に見える花子。
「花子、いったんのお別れだけど待ってて!必ず君のところにいって本物の君を見つけ出すよ!そしてもう一度君に名前を付けて本当の本物の僕等の家族の一員にするから!それまで待ってて!」
「・・・!!パプペポピパププ!・・・パピーン!はい!お父さん!私待ってます!必ず皆が来てくれると信じて待ってます!」
美衣と良子が花子に抱き着いて優も花子の頭を優しく撫でた。最後に花子は冴内と抱き合い冴内は花子の背中を優しく撫で続けた。
「ようし皆!宇宙イナゴ討伐なんかすぐに終わらせて、花子を迎えに行こう!」
「おいしいりょうりとおいしいしょくざいもげっとしよう!」
「可愛いカラスの子供達も迎えに行こう!」
「ずっと管理者を待ち続けているシステムにコネクトしに行こう!」
「「「「えい!えい!おぉー!」」」」
『な・・・なんという人達でしょう・・・さいごのひとさんには申し訳ないですけど、私はまだ良い方の感情が残ってて良かったです、なんだかとても嬉しい気持ちになって感動しています』
「いや、いい、私にもなんとなく、わずかながらだが彼らの鋭気と優しさに何か感じ入るものがある」
そうして、冴内達はゲーム内ではあるが、ちゃんと美衣が作ってくれた料理を完食し、良子が花子や空中庭園都市中央管理システムから様々なデータを引き継いでゲームを中断した。そして早速さいごのひとは本当に実在する第44調査惑星とのデータリンク回線を繋ぐ作業に取り掛かったのであった。