173:美衣と良子の発見
一方その頃探索開始と同時に直観の赴くまますっ飛んで行った美衣はちょっとした広場に出ていた。なんとなくかつては洒落たアーケード街だったような雰囲気が漂っており、恐らく様々な店が立ち並んでいたようだった。
立ち並ぶ建物はどれも窓やドアの類がなく開けっ放しの状態だったが、とてもアンバンランスでミスマッチなことにどの建物も新築のような綺麗さでヒビ割れやツタなどの植物に覆われるようなこともなく清潔そのものだった。石畳の地面も雑草の類が生えているところは一つもなかった。もちろん害虫の類も一切見当たらなかった。
「クンクン・・・においはないけど、なんかここらへんは食べ物やさんがいっぱいあった気がする」
美衣は立ち並ぶ建物の中で他よりも少しだけ広い建物の中に入っていた。
美衣が入っていったのはまさしくかつてレストランだったと思われる建物で、沢山のテーブルと座席が並べられていて奥の方には厨房があった。美衣は迷うことなく奥の厨房に入っていくと、大きな調理台や流しやコンロやグリルに石窯などが整然と並んでいた。何気なく美衣が手近にある扉を開いてみたところ様々な鍋やフライパンのようなものが綺麗に積み重ねられていた。
「けんしゅうせんたーにあるしょくどうとおんなじだ!ここはしょくどうだ!」
♪パララララーン♪
「おめでとうございます!32個目の発見です!ここはかつての人気有名レストランだったようです!」
既に5つどころか32個目の発見であったが、恐らくそれは冴内が元案内ロボットの花子から色々と事実を聞き出しているからであろう。そしてこうしている間にもリアルタイムに次々と発見し続けているに違いなかった。
『クエストボーナスは当時の人気料理のレシピとその食材です!』と、美衣の目の前にレシピブックが空間投影されて、さらに調理台の上には新鮮な食材がズラリと並べられた。
「キャーーーーッ!!」美衣は溢れんばかりの喜びを高速空中30回転で身体いっぱいに表現した。早速美衣はこれまで学習して会得してきた料理の腕をフル稼働してレシピにある料理を作っていった。ところどころ読めない文字は音声ガイドに聞いて音読してもらった。
美衣の料理が出来る上がるまで、もう一方の良子の動向について記載すると、良子はしばらくの間空中庭園都市をグルリと見回し建物の状況を分析していたが、やがて迷うことなくただ一点、空中庭園都市中央部の最も高い5階建ての大きな建物へと突き進んでいった。その際タビシロオオガラスのリョウカをインベントリから呼び出して空から一直線で最短距離で移動した。
ものの数分で良子が目指した最も高く大きな建物の屋上に到着し、リョウカをインベントリに格納した後、良子は屋上の出入口を見つけて建物内に入っていった。ここでも扉や窓の類はなかった。
まず建物の最上階に着いた良子はそのまま中央部へと駆け足で向かったところ円形の広いホールに辿り着いた。ホールの中央部は1階から5階まで吹き抜けになっており、さらにその中心部は直径約15メートル程の金属製の円柱が立っていた。中央ホールはドーナッツ状になっており吹き抜けには転落防止の透明な板が設けられていた。高さは大体1メートル50センチ程だった。
良子が巨大な円柱に近付いていくと空間に映像が投影された。
『空中庭園都市中央管理センターへようこそ!こちらでは当空中庭園都市の様々なことを知ることが出来ます!』
「やっぱりね!そうに違いないと思った!」
♪パララララーン♪
『おめでとうございます!278個目の発見です!空中庭園都市中央管理センターへのアクセスに成功しました!クエストボーナスは空中庭園都市中央管理システムへのアクセス権になります!』
「えっ!!278個目!?皆もうそんなに発見しちゃったの!」
『はい、ほとんど冴内 洋様が発見しています!あっ今300個を超えました!』
「すごい!さすがお父さん!やっぱりお父さんはすごいなぁ!」
いえ、冴内のはまったくの「棚ぼた」です。そんなに尊敬する程のヤツじゃありません。
「さてと、クエストボーナスでアクセス権をもらったから中央管理システムにアクセスしようっと!」
良子は両手を空間にかざすと指先に様々なアクセスパネルが投影され、目の前には膨大な量と種類の文字情報やら図面やら写真やら動画などが映し出された。凄まじい目の動きでそれらを視認していき、指先に「はい/いいえ」などの選択肢が投影された場合は的確に選択して進んでいった。
『やはりげんしょのひとを引き継いでるだけあって凄まじい情報処理能力ですね』
「うむ、さらに冴内家と交じり合ったことで、直観力と判断力、とりわけ即断即決能力が極めて高まったと思われる、何というか・・・迷いがない」
良子はどんどん選択と決断と時折何かの入力を実行していくとそれまで大量に空間投影されていた様々な情報が少しづつ消えていき、やがて最終画面も消え去ると最後に良子の目の前に何かメッセージのようなものが表示された。
『新たなマスター、冴内 良子様、当システムの管理者権限は全てあなた様に移譲されました』
「うん!ありがとう!それじゃ早速メインシステム起動!生活環境活動開始!」
『了解いたしました、メインシステム起動、全ての生活環境を活動再開いたします』
良子がメインシステム起動を命じると、空中庭園都市が数秒程わずかに微振動し、空間に様々な文字情報や図や動画などが表示されていった。また、まだ冴内達が訪れていない場所でエレベーターやエスカレーターなどが静かに音もなく動作し始めた。
「わっ!なんかあかるくなった!あっ!こんろに火がつくようになった!ぐりるもつかえるようになってる!やった!」
「あっ!美衣ちゃん見つけた!すごい!料理の真っ最中なんだね!」
「わっ!良子お姉ちゃんだ!良子お姉ちゃんの絵がうつってる!美衣だよ!今いっぱいおいしいものつくってるよ!みんな食べにおいで!」
「分かった!すぐ行く!お父さん達にも教える!」
「お父さん!お母さん!美衣ちゃんが美味しい料理を作ってるから食べに来てって!」
「うわっ!良子!?」
「あれ?お父さんその子だぁれ?」
「えっ?その子?って・・・あっこれは空中庭園都市のガーデンフロアの案内ロボットだよ、クエストボーナスで僕等の一員になったから名前を付けたんだ、花子って言うんだよ!」
「初めまして!花子です!以前はこの空中庭園都市のガーデンフロアの案内ロボットだったんですが、冴内様に名前を付けていただいて生まれ変わって皆さんの家族の一員にさせていただきました!これからよろしくお願いします!」
「そうなの!やったぁ!花子ちゃんはとても可愛いね!私は良子!これからよろしくね!」
「はい!ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」
「美衣さんは・・・かつての大人気レストランで当時の人気メニューを作っていますね、私がそこまで案内します!」
「ありがとう花子!」
「はい!こちらです!」
花子に案内されて5分程歩くと冴内達は美衣が通過したアーケード街へと辿り着いた。
「わっ!人はいないけどなんだか凄く賑やかな感じになってる!」
「あら!服とか置いてある店もあるわよ!後で寄ってみたい!」
「ほんとだ!後で皆であちこち見て回ろう!」
先程までは綺麗なだけで中はがらんどうだった無機質な建物が立ち並ぶだけのアーケード街は様々な文字情報や図柄やアートなどで彩られており、楽し気な音楽なども聞こえてきた。
また、洋服店やアクセサリー店などには商品が陳列されており、花子になる前のようなフォルムのロボットもあちこちで見かけられた。相変らず人の気配だけは全くなかったが、色彩や音、そして活動しているロボットなどで賑やかで活気づいている感じになっていた。