167:新たな子供の親になる
異変が起きたのは左脇腹で、それは左脇に抱えた卵がピクピクと揺れ動き始めたからであった。
「あっ!卵が動いてる!これってひょっとしてヒナが孵るのかも!」
まさしくその通りで卵はさらに激しく動き、中からクチバシで卵の殻を突き破ろうとしていた。やがてヒビが入りクチバシが出てきた。
「カァーッ!」
「わっ!赤ちゃんカラスが出てきちゃった!どうしよう!」
「カァーッ!カァーッ!」
「えっ?なに?お腹が空いてるの?」
「カァーッ!カァーッ!」
「分かった!ちょっと待ってね!」
冴内はインベントリに格納した巨大砂漠ワームの肉を取り出して小さくちぎって赤ちゃんカラスに食べさせた。赤ちゃんカラスはむさぼるように巨大砂漠ワームの肉を食べた。冴内は赤ちゃんカラスが満足するまで巨大砂漠ワームの肉をちぎっては赤ちゃんカラスに与え続けた。やがて赤ちゃんカラスは満足した様子になって食べるのをやめた。
「お腹いっぱいになったかい?」
「カァー!」
「良かったね!」ニッコリ微笑む冴内の目を赤ちゃんカラスはじっと見つめていた。
「カァー!カァー!」
「えっ?名前?名前を付けて欲しいの?」
「カァー!」
おっと、先生、またその流れですか・・・
「うーん・・・カーちゃん・・・は安直過ぎるし、クロちゃんもそのまんまだし・・・困ったぞ、うーん・・・とりあえず僕の子供のカラスということでヨウカはどうだろうか、僕の名前は洋っていうんだけど僕のカラスの子供っていうことで洋のカラス、略してヨウカっていうのはどう?」
十分安直過ぎるネーミングだったが、それでもヤマハゲオオガラスの赤ちゃんカラスは目を大きく見開き全身がピカーっと光り輝いた。
♪パララララーン♪
『おめでとうございます!クエスト完了です!』
「えっ?クエスト完了?ってことは4個無事に集まったってこと?」
『はい!家族皆様無事ゲットしたようです!美衣さんは何個か食べちゃったようですが、残った1個から無事ヒナが孵ったようです』
美衣先生・・・いつもながらさすがです・・・
『クエスト完了ボーナスはカラスマントです!保温性と防水性を兼ね備えたとても丈夫なマントです!空を滑空したりパラシュートの役割も兼ねます!』
「それは便利だね!本当なら僕達空を飛べるけど、今のゲーム内ではとても有難いアイテムだよ!」
「カーッ!カーッ!」
「えっ?・・・なるほど。うん、分かった!」
冴内は卵から頭を出したヤマハゲオオガラスの赤ちゃんを卵ごと地面に置いて少し離れた。
すると卵はまぶしく光り輝き、やがて光がおさまると冴内の目の前には大きな白く美しいカラスが現れた。冴内はそれを目にして驚くよりも名前をクロにしなくて良かったと思ってホッとした。着目するべきところはそこですか?冴内先生・・・
『エェーーーッ!?』と、むしろ音声ガイドの方が驚いた。
『冴内さん!これどういうことですか!?ヤマハゲオオガラスがワタリタビシロオオガラスに変化しちゃいましたよ!』
「えっ?そうなの?」
『そうです!全身真っ白で美しく頭もハゲてないでしょう?』
「ホントだハゲてない!フサフサだ!」
一応事実を書いてるので問題ないかと思うが、一部の読者の気分を害してはいないだろうかと若干の不安があったりする。
『ワタリタビシロオオガラスはその名の通り1年中渡り旅をして移動するカラスなのです、気性は穏やかでとても頭の良いカラスなんですよ』
「そうなんだ」
「お父さん!大好き!カァーッ!」とワタリタビシロオオガラスのヨウカは頭をスリスリと冴内の顔にこすりつけた。
「うわ、あったかいねヨウカは、僕もヨウカのこと大好きだよ!」
「カァーーー!」
『えっ!?冴内さん!そのワタリタビシロオオガラスの言ってることが分かるんですか?』
「うん分かるよ、ガイドさんの言う通りこの子とっても頭がいいですね!」
「えへへ!嬉しいな!お父さん!カァー!」
『これは一体・・・どういうことでしょうか?』
「私にも分からんが・・・良子も冴内 洋に名前を与えられてからまるで違う生き物に変容したかのように格段と良いものに生まれ変わったことから、名前を与えられるというのはとても重要なギフトのようなものなのかもしれない」
『あっ!他の3羽も同じです!優さん美衣さん良子さんのヤマハゲオオガラスもワタリタビシロオオガラスになっています!しかも凄いスピードでこちらに向かってきています!』
「あっ!ホントだ!マップを見たらすごいスピードでこっちに向かってる!」
数十分後冴内達家族は合流した。音声ガイドの言った通り全て白く美しく大きいワタリタビシロオオガラスになっており、それぞれの名前も冴内と全く同じ命名方式になっていた。
優のカラスはユウカ。
美衣のカラスはミイカ。
良子のカラスはリョウカ。
冴内のカラスも含めて全てメスのカラスだった。
「わっ!皆も仲良しなんだね!」
「うん!アタイお母ちゃんになったんだ!」
「私も!」
「私もよ!」
「「「「カァーッ!」」」」
ワタリタビシロオオガラス達も喧嘩することなくとても仲良しになった。音声ガイドの説明ではワタリタビシロオオガラスは仲間と共に1年中長い距離を移動する渡り旅を続けるのでとても仲が良いとのことだった。
♪ピコーン!♪ピコーン!
『新クエストをお知らせします!ゴサハラビ大砂漠にある幻のオアシスを発見して下さい!』
「あっ!くえすとだ!」
「幻のオアシス?」
『そうです!この広大な砂漠に存在するという幻のオアシスを探すのが次のクエストになります!』
「洋、この砂漠相当広いわよ」
「お父さん、皆で一緒に探すんじゃなくてエリアを4っつに分けて別々に探すというのはどう?」
「そうだね、ローラー作戦でいこうか」
「そしたら連絡手段はどうするの?洋」
「そういえば、連絡手段ってこのゲームにはないんだろうか?」
『色々と用意されていますが、それを教えてしまってはゲームの面白さが損なわれてしまうかもしれません。それでも知りたいのであればお答えしますがどうなさいますか?』
「なるほど、確かにそれを聞いちゃったら面白くないかもね、まだ3ヶ月くらい船旅が続くんだから自分達で謎解きしながら進んだ方がいいと思う。それに帰りもこの船旅をすることになるからゆっくりやってもいいんじゃないかな?」
「そうか!さんせい!」
「分かった!」
「分かったわ!」
「マップを見れば全員の位置は分かるから、あとはオアシスを発見した人が皆に知らせる方法をどうするかだね」
「アタイと父ちゃんはれいんぼーチョップをお空にむかってぶっぱなせばいいんじゃないか?」
「あっそれいいね!」
「私も二本の光の剣を空一杯に撃ち放つわね!」
「じゃあ私はみんなの力を借りて知らせるね!私がみつけたら皆の前に私の映像を映し出すね!」
「よし!じゃあ行こぅ・・・と、その前にいったん中断してお昼ご飯にしようか、ゲームの続きはご飯の後にしよう」
「「「さんせーい!」」」
昼食後冴内達はゲームを再開した。ちなみに昼ご飯には鳥の唐揚げと焼き鳥と親子丼を食べた。相変わらず素晴らしいメンタルだった。