163:ヌタヌタウナギトカゲの恐怖
ヌタヌタウナギトカゲの尾ひれと涙をそれぞれ10程集めるため、冴内達は二手に別れて採取することにした。
現実世界で千倍の重力にされ、ゲーム内世界では千分の一に弱体化されるという、いくら「しばりプレイ」とはいえここまでハンデを背負ってプレイする者など世界中探してもいないだろう。
「ワハハ!ぜんぜんはやくないし、とべないぞ!」
「アハハ!美衣ちゃん!それ全力疾走なの?歩いてるみたい!アハハハ!」
「アハハハ!」「アハハハ!」
「ちょっと洋!それなに?アッハッハッハ!」
「これでもハハハ!全力でジャンプしてるんだけどさ!ハハハハ!優こそ、何やってんのそれ!」
「アハハ!これでも全力疾走なんだよ!」
『この状況で笑うとか、恐ろしいですね・・・』
「全くだ・・・規格外にも程がある・・・」
「アハハハ!ぬたぬたがホントにヌタヌタしてて、ぜんぜんつかまえられないよ!アハハハ!」
「ホントだね!美衣ちゃんアハハハ!さっきからツルツルすっぽ抜けちゃってるよ!アハハハ!」
「良子ねえちゃんもさっきからつるつるだ!」
「アハハハ!」「アハハハ!」
「ブフーーーッ!!みてみて!お姉ちゃん!お父ちゃんがぬたぬたにビンタされてる!」
「えっ!アッハッハッハ!ホントだ!さっきから尾ひれでビンタされてる!どうしてよけないのお父さん!アハハハ!」
「ちょっと洋!アッハッハ!どうして避けないの?アッハッハッハ!」
「イタタ!アハハハ!避けてるつもりなんだけど、全然早く動けなくてアハハハ!くすぐったい!」
「ブブブブ!かゆい!かゆい!アハハハ!」
「今度は美衣ちゃんがビンタ!アハハハ!」
「アハハハ!良子おねぇちゃん何やってんの!」
「アハハハ!美衣ちゃんを助けたいんだけど!ぬたぬたしてて捕まえられないの!」
「アハハハハ!」「アハハハハ!」
『あの尾ひれの攻撃って、確か岩石とか粉々になりますよね?』
「あぁ・・・超鋼金属製の強化スーツがひしゃげて何人も複雑骨折したはずだ・・・」
『あと、あのヌタヌタ粘液って確か強酸性でしかも猛毒のはずなんですけど・・・』
「その通りだ、全くダメージを受けているそぶりすらないのが不思議でたまらない・・・」
『大闘技大会優勝者って本当に規格外なんですね』
「まったくだ・・・これなら宇宙イナゴなど彼らが到着してしまえばすぐにでも解決するな・・・」
第44調査船団は当時このヌタヌタウナギトカゲの攻撃により、先遣隊として選抜された部隊の7割が重症を追う程の損害を受けた恐るべし危険対象物なのであったが、冴内達にとっては愉快な娯楽対象物でしかなかった・・・
「みんな!とりあえず攻撃だ!攻撃しよう!あと変身!変身するんだ!」
「わかった!」
「分かったわ!」
「えっと・・・私も変身していい?お父さん!」
「えっ?良子も変身できるの?」
「えっと、変身っていうか・・・ちょっと違うかもしれないけど、戦闘モードになる!」
『何っ!良子!・・・それは!』
「大丈夫!信じて!今はもう大丈夫だよ!」
「それじゃみんな!へんーーー・・・」
「「「「しんっ!!」」」」
「がぁぁおぉぉうぅぅ!」
「ぐわぁぁおぉぉうぅぅ!」
「やぁぁぁぁ!」
「とぉぉぉぉ!」
「アッハッハッハ!おそい!へんしんしてもみんなちょうおそい!!」
「アッハッハ、なんだい皆!それで全力なの!?」
「アッハッハ!これでも一生懸命速く動いてるつもりなのよ!アッハッハ!」
「私も全力出してるよ!アハハハハ!」
「とりあえずみんな全力で攻撃だ!」
「「「わぁかぁったぁ!」」」
「「「せぇーのぉぉーーーおりゃぁぁーーー」」」
ブゥゥゥン・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
ドガァァァァン!!!!
『・・・なんとも異様な光景ですね・・・』
「全くだ・・・ものすごく遅い斬撃なのに、当たると物凄い破壊力だ・・・」
「アッハッハ!どうする父ちゃん?こうげきもぜんぜんおそくて当たらないぞ!アッハッハ!」
「私も!二本の剣を全力で振り回してるのに、これじゃゆっくり型稽古してるみたい!アハハハハ!」
「私も!これ本当なら目の前の範囲が全てバラバラになるんだけど!遅くて全然当たらない!」
「えっ良子の攻撃ってそんなに凄いの?」
「うん!隕石ぐらいなら木端微塵なんだけど!全然当たらない!アハハハハ!」
いやいやアハハじゃないっすよ良子先生・・・
「そうだ!みんなで4方を取り囲んでから全員で一斉に範囲攻撃をしよう!そうしたら逃げられないんじゃないかな!?」
「あっそうだ!さすが父ちゃん!」
「なるほど!そうね!」
「うん!私もそれはいいと思う!」
「よしみんなまずはあのヌタヌタの群れを取り囲もう!」
「「「わかった!」」」
冴内達はヌタヌタウナギトカゲの群れ6匹を全力疾走で取り囲もうとしたがその動きはあまりにも遅くのんびりと平和的なものだった。だがしかしそれがかえって功を奏してヌタヌタウナギトカゲには全く警戒されずに包囲網を完成させることが出来た。
「みんな!準備はいいかい!?」
「「「オーケー!」」」
「じゃあいくよ!せぇーのぉっ!」
「「「「おぉぉりゃあぁぁぁ・・・!」」」」
ブゥゥゥン・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
ドガァァァァン!!!!
ムギュウゥゥゥゥゥ!
ムギュウゥゥゥゥゥ!
ムギュウゥゥゥゥゥ!
ムギュウゥゥゥゥゥ!
ムギュウゥゥゥゥゥ!
ムギュウゥゥゥゥゥ!
『こっ・・・これはなんという・・・』
「悲惨を通り越し過ぎて滑稽というか・・・」
冴内達が放った範囲攻撃の斬撃はゆっくりと少しづつヌタヌタウナギトカゲに近づいていき、どこにも逃げ場がないヌタヌタウナギトカゲは少しずつその身体をミンチ状態に切り刻まれていった。ゆっくりと確実にジワリジワリと肉片にされていった。これほど残虐極まりない攻撃と惨状はさいごのひとですら見たことがなく目を背ける程だった。
「なんか・・・これ・・・かわいそうなきがする」
「う・・・うん、さすがにこれはちょっと」
「そうね、最後は煙みたいに消えるけど、それまでがなんだかハンバーグを作る時のミンチマシンに入れているみたい」
「あっ!お母さん、今度ハンバーグの作り方教えて欲しい!」
「うん!いいわよ!」
「確かに・・・これは酷いな・・・ちょっと闘うのはやめて、もっと速く動けるようになる訓練をしてからにしよう」
「「「わかった!」」」
『皆さん、そろそろお昼の時間ですよ』
「あっ!そうなの?じゃあ休憩しようみんな!」
「「グウゥゥゥ~~~」」と、美衣と良子は元気よく腹時計で返事をした。
昼食後はゲームはやらず、まず千倍の重力下でもまともに動けるようになるための訓練を開始した。
その場で全力疾走したり垂直ジャンプをしたりチョップの素振りをしたり、様々な動作を全力で繰り返した。その訓練はとにかくすぐに腹が減った。猛烈に腹が減った。そのうちキッチンを運んできて千倍の重力下で調理してその場で食事をした。夕食も含めて昼以降から寝るまでに6食もたらふくもりもり食べた。
さらに、千倍重力に慣れるため、キッチンどころか風呂もベッドも持ってきてそこで暮らし始めた。
『これが・・・大闘技大会優勝者というものなんですね・・・』
「・・・いや、さすがにこれは言葉がない・・・」
「ぐっ・・・ぐぐぐっ!寝返りをうつだけでも一苦労だ!・・・く・・・首が寝違えそうだ!」
「あおむけのままねればいいんだ!」
「胸が大きいから呼吸するのも大変ね!」
「くぅーくぅー」
「わっ!良子おねぇちゃんもうぐっすりねてる!ようしアタイも!・・・スゥスゥ・・・」
「私も!スゥスゥ・・・」
「す・・・すごい!なんで皆そんなにすぐに眠れるんだ・・・グゥグゥ・・・」
『・・・』
「・・・」
千倍の重力で1日中動き回ったせいで、余程疲れて消耗したのか、冴内達は千倍の重力下ですぐに熟睡し始めた。永遠の睡眠にならなければよいが・・・