16:会食
午後6時になったので最上階にある多目的スペースに向かった。居室内に入るとスーツ姿の人が3人、一目でシーカーだと分かる雰囲気の人が3人、その中で談笑している力堂さん良野さん鈴森さんがいた。目が合ったので軽く会釈をして、果たしてこちらから声掛けしていいものか迷っていると、力堂さんの方から近づいてきたので、自分もあわてて近づいていった。
力堂さんは開口一番「おいおいソロでベアハントしたんだって?」といったが自分は脳内でベアハント? あっ熊退治のことかと変換するのに一瞬時間がかかったので、ちょっとだけ間が遅れて「はい、熊、やっつけました」と言った。
「そうかそうか、見かけによらず豪胆だなぁ!」と力堂さんは笑った。「しかし豪胆なのはいいが慎重さも意識しろよ、まぁお前なら大丈夫だとは思うがな」とまったく嫌味気なく注意してくれたので、素直に「はい、肝に銘じます」と答えた。
そんな会話をしていたところ次々と私服姿で自分と同じくらいの年齢に見える人達が入ってきた。女性2人と男性2人であらかじめ鈴森さんから聞いていた人数で自分を入れて計5名が研修シーカーだ。
日本国内では毎年500人程の人がギフトを授かるのだが、研修を受けに来るのはそれぞれの事情があるのでバラバラになり、一度の研修で集まるのは多くても10人前後になるそうだ。
どうして一度に大勢の人数で研修を行わないのだろうと思ったが、まとまった人数で研修を行うのは非効率な面があるそうだ。その理由はギフトで授かるステータスは多種多様で、皆一様に同じ研修を受けさせることが出来ず、さらにそれぞれの適正に応じた指導者を選出し、その指導者シーカーのスケジュール調整も行わなければならないため、実質的にまとめていっぺんに多くの新規研修生を受け持つことが出来ないのが実情だそうだ。
他の研修生が入ってくると、それぞれが恐らく彼らの指導者と思われるシーカーの元へと挨拶をしにいった。
良野さんのところには眼鏡をかけた三つ編みの女性が挨拶にいった、なんとなく魔法使いっぽいなと思った。
次にボブカットの髪型の背の低い女性が、同じように背の低い女性シーカーに挨拶にいった。どちらも背は低いがかなりガッシリした体型だ。
残り2名の男性はいかにもガテン系職業ですといった見た目で、一人は頭に赤いスカーフを巻き作務衣を着ていて、やはり同じように作務衣を着た年配のシーカーに頭を下げている。
もう一人はいわゆるニッカズボンと呼ばれるズボンを履いて、ポケットがたくさんついたジャケットを着て、足元は靴ではなく地下足袋を履いていた。当然指導者シーカーの方も同じような恰好をしていて大きな声で元気よく挨拶をしていた。
各々が談笑していると料理が運ばれてきて、おおー!という歓声があがる。一通り料理と飲み物が運ばれてきた後で、もう一人スーツ姿の男性が入ってきてドアを閉めた。
機関に属する上級役職の方で年齢は30~40代に見える。綺麗にヒゲをそろえていて社交的で洗練された大人の雰囲気を感じる。
「皆さん集まっているようですので早速始めましょうか、最高に美味しい料理を冷ますのはもったいないですしね」
良く通る声で嫌味さが全くない感じでそう告げると「では皆さんお手数ですが各自ドリンクを手にしてもらえますか」と言い、各々自然に飲み物を手にとっていった。途中「良野さん何飲まれますか?」とか「親方ビールでいいッスか!」とかいう声も聞こえた。自分はビールはまだ今一つ苦手なのと桃のお酒もなさそうなので、コーラにしようと手を伸ばしたら鈴森さんがパッとペットボトルをとって自分のコップに注いでくれた。感謝を述べた後で鈴森さんは何にしますかと尋ねると「では私はウーロン茶をいただきます」と言ったので鈴森さんのコップに注いだ。
その後力堂さんを探して見てみたら既にビールのピッチャーを片手にガッシリ持っていた・・・
「さすがですね力堂さん!」と機関の方が笑顔で言うと「それでは僭越ではありますが私、神代が乾杯の音頭をとらせていただきます。皆さん、研修お疲れ様でした!乾ぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
「さぁ! 今日はとにかくまず料理です料理! ゲートでもめったに食べることが出来ない絶品料理ですよ! 是非ご堪能していって下さい!! おすすめはあの真ん中にあるローストサラマンダーです!」
それを聞いて即座に反応したのが背の低いガッチリ体型の女性シーカーで「おいおいサラマンダーだって!? そりゃ最高じゃないか!」とすごい俊敏な動きで一番に取りに行った。「サチ! アンタもついてきな!」という声に、ボブカットの背の低い女性も「ハイ! 師匠!」と元気よく応えてついていった。
それを皮切りにまずは各々料理を口にしてうまいうまいと味を堪能していった。