157:緊急支援開始
様々な探索活動と宇宙交流に充実した日々を送っていた冴内達に不穏な知らせが届いたのはそれからひと月が過ぎた頃だった。
龍族の名誉会長【グワァーオーゥゥ】からの報では宇宙イナゴの規模がかつてない程の大災害級であり、宇宙連合艦隊のほぼ全数がその撃退にあたることになり、撃退設定宙域に向かって全軍出撃を開始したとのことだった。
また、現在のところ宇宙連合に加盟する星への被害はないが、この先最悪の事態を想定し宇宙疎開を開始し始めたということも教えてもらった。そして非常に残念なことに外縁宇宙の不可侵宙域にある未発達文明の幾つかの星の知的生命体は壊滅したという報告がもたらされた。
現在の宇宙連合憲章に定められた法では、外縁宇宙の不可侵宙域に存在する惑星に関しては、その星に住む知的生命体が自らの力で文明を発達させて、彼らの方からコンタクトを取ってこない限り、その文明を歪ませかねない接触は一切禁じられており、間接的に遠距離から監視することしか出来ず、それにより宇宙イナゴの発見自体も遅れ、存在を確認したときには既に手遅れの状態だったと聞かされた。
冴内が不可侵宙域に存在した知的生命体の文明水準を聞いたところ、ほぼ地球と同じかそれよりも進んだ文明を持っていたと聞きショックを受けた。
様々な考えが冴内の頭をよぎったが、冴内はその驚異的な身体能力はさておき、頭脳と性格の面では良い意味で冴えない一人の凡人であったので、強い自責の念にかられて苦悩して精神やバイタルが著しく損なわれることはなかったが、それでも人としてごく当たり前にとても悲しい気持ちになった。
冴内は例の通信機能付き机ではなく、ポケットに入れた消しゴムみたいな装置を使って、富士山麓ゲート研修センターに置いてきたもう一つの消しゴムみたいな装置とリンクして状況を説明した。
さいごのひとが冴内の言いたいことをうまく仲介してくれて、地球側の各局長級の人間や各国の政治的に責任を持つクラスの人間達に分かりやすく様々な資料を用いて説明してくれた。
大会議室にて過去の大災害の様子が空間投影された様子を見て、自分達よりもはるかに進んだ文明を持つ星々ですら、大きな損害を受けるということに世界各国の代表達は恐れおののき、宇宙イナゴのその恐るべき驚異をまざまざと見せつけられた。
冴内達はみんなのほしにいたので、研修センターの大会議室よりもリアルな立体映像にてその様子を直視し大きな衝撃を受けたのだが、第四の試練やこれまでの闘技大会によって精神面はかなり鍛えられていたので、ショックで精神的にダメージを負って倒れるようなことはなかったが、それでも皆一様にその悲劇を感じ入っていた。
「これは・・・こんなのは・・・ダメだ・・・」
「食べ物がなくなるのはダメだ!」
「宇宙イナゴってこんなに悲惨なものだったのね」
「皆がこの時沢山の悲しみが魂に入り込んできてとても悲しくて辛かったって言ってるよ・・・」
「これは僕等も手伝いに行こう!僕等で宇宙イナゴを駆除しに行こう!」
「さんせい!」
「私も賛成です!父さん!」
「そうね!行こう!洋!」
その意思はすぐに宇宙連合本部へと届けられ、宇宙連合に加盟する全宇宙の代表者達は美衣から伝承された万歳三唱で冴内達の決断を感謝称賛した。
「げぇっ!肝心で大事なこと忘れてた・・・」と、若干青ざめる冴内。
「どうした父ちゃん?」
「どうしたの洋?」
「どうしたのお父さん?」
「うん、【グワァーオーゥゥ】さんの話ではここから宇宙イナゴのいるところまで行くには数百万年かかるし、途中にはブラックホールが幾つかあるんだった・・・」
「あっ!そういえばめいよかいちょうのおっちゃんはそんなこと言ってたようなきがする!」
「でも、リングゲートを使えばどうのって言ってなかったかしら?」
「うん!リングゲートを使ってジャンプすればどうにかなると思う!みんな!教えて!」
「・・・良子、計算結果が出た。幾つか新規にゲートを設置する必要があるが、最短でおよそ半年程で到着可能という結果が導き出された」
「ありがとう!」
「それでも半年もかかるんだ!それまでもてばいいんだけど・・・」
「冴内 洋、今回は200万年前の時とは規模が違うので確定情報ではないが、現在宇宙連合からもたらされたデータから導いたところ、87パーセントの確率で宇宙連合艦隊の壊滅は避けられると試算された」
「壊滅は・・・ってことは、ある程度は被害は出るんだよね」
「さすがにそれは避けられない・・・だが、生命という点での人的損失被害は数パーセントには抑えられるだろう」
「そうなんだ・・・・うん、でもありがとう!僕らが向かっても無駄じゃないんだね!」
「その通りだ、無駄どころか君等が行くことによって被害が最小限に抑えられるのは完全なる事実だ」
「分かった!行こうみんな!宇宙イナゴを退治しに行くぞ!」
「オーッ!」×3
「さいごのひとさんお願いがあります!僕等のナビゲートと、宇宙連合に連絡してリングゲートの設置要請をしてくれますか?」
「もちろんだ、すでに現在進行形で宇宙連合にコンタクトをとっている」
「さすがさいごのおっちゃん!」
「有難う冴内 美衣、ではまず獣人族のゲートに入りたまえ、獣人族の星に入ったらまた次のゲートを教える」
「分かりました!」
早速美衣は携帯消しゴム端末を使ってミャアちゃんに連絡した。
「もしもし!ミャアちゃん!アタイは美衣だよ!ミャアちゃん!」
「あっ!美衣ちゃん!ミャアだよ!少し前にさいごのひとさんから話しは聞いてるよ!いつでも入ってきて!」
さすがさいごのひと、全てにおいて仕事が早かった。私にもサラリーマン時代にこの能力がほんのひとカケラ程もあれば・・・
冴内達は早速ミャアちゃん達がいる星のゲートをくぐり抜けた。ゲートをくぐり抜けた先はまさに大密林といった感じで地球には存在しない巨大な木がたくさんあり、その巨大過ぎる木の中間位置に木で床が作られた密林木製空中都市があった。
「わっ!すごい!みんなおっきな木のまん中でくらしてるぞ!ミャアちゃんはこんなすごいところに住んでるのか!」
「わぁすごい!木のおうちが沢山ある!」
「すごい!そして皆・・・モフモフだ!」
「私も獣人の星に来たのは初めてよ!」
「美衣ちゃんようこそ!私達の星へ!」
「あっミャアちゃん!えへへ!おじゃまします!」
「本当はもっと穏やかな時に、ゆっくり遊びに来て欲しかったのだけど、今は大変な状況だから美衣ちゃんと一緒に遊べないの、ごめんね」
「だいじょうぶだ!うちゅうイナゴをたおしたらまたくるよ!そしたらいっぱい遊ぼう!」
「うん!そうだね!」
「美衣ちゃんのお父さん、さいごのひとから次のリングゲートの場所を教えてもらいました!私が案内します!」
「有難うミャアちゃん!ここから遠いなら僕等が飛んでいけば早く着くよ!」
「あっ!そんなに遠い場所じゃないです!ほら!あそこにあるのが次のリングゲートです!」
「確かに近いけど、飛んでいけば一瞬だね!」
「ミャアちゃん!アタイにつかまって!」
「えっ?う・・・うん!分かった」
ミャアちゃんは美衣にがっしりと抱き着くと、美衣は「えへへ、そんなにしなくても大丈夫だけど、気持ちいいからそのままでいいや」と言いつつ重力制御で移動開始した。冴内達も後に続き数十秒で次のリングゲート前に到着した。
「美衣ちゃんすごいね!空を飛んでるのにトリさんの背中に乗って飛ぶのと全然違う感じだった!」
「うん!良子お姉ちゃんにおしえてもらったの!じゅうりょくせいぎょって言うんだよ!」
「わっすごいね!それって次の星の人達のすごい技術なんだよ!」
「あっそうなんだ!ミャアちゃんはものしりだね」
「うふふ、ありがと!」
「それじゃあ美衣ちゃん会ってすぐのお別れだけとお仕事頑張ってね!」
「うん!またいっしょにあそぼうね!」
「うん!あとこれ、途中で食べて!私達の星ですごく人気の食べ物だよ!」
「キャァーーーッ!」と、万歳して身体中で大喜びを表現する美衣。
「ありがと!ミャアちゃん!すぐにおしごとかたづけてくる!」
「うん!まってる!」
「有難うミャアちゃん!またね」
「ミャアちゃんまたね!」
「ミャアちゃんまた一緒に遊ぼうね!」
「うん!みんないってらっしゃい!」
こうして冴内達はミャアちゃんの星の滞在時間をわずか数分で終了し、リングゲートをくぐって次の星へと移動した。
リングゲートをくぐるとほとんど変わらない風景が目に飛び込んできた。やはり巨大な木とその中央部で床を作って人々が暮らしているように見えた。
「あれ?またミャアちゃんのおほしさまにきちゃったぞ?」
「いや・・・あれは・・・エルフだ!エルフ達がいる!エルフの星だ!」
「あっそれ知ってる!お父ちゃんの記憶でみた!げーむとかあにめとかに出てくるひとだ!」
「えるふ?」
「お母さん、多分大魔術師【ΠΩΛーΛΩΠ】さんが住んでた魔術惑星です」
「あっ!そうね!みんな背が高いし耳も長いわ!」
「僕等の空想上のお話しでは、ああいう種族の人達をエルフっていうんだ」
「へー!そうなのね!洋達地球人、とりわけにほん人ってすごく空想力が豊かよね」
「う・・・うん、世界からもそういう認識だね」
と、話していると、とても美しく背が高い金髪のエルフが空中移動しながらお供と思われるエルフを何人か連れてやってきた。