149:冴内流テラホーミング
残念ながら真・万能チョップで刻み込まれた「みんなのほしへようこそ!」の文字は次の日には自己修復機能によりなくなっていたがその代わりに、大きな看板がエントランス前の空間に分かりやすく投影されていた。しかもどんな文明の異星人がやってきても「みんなのほしへようこそ!」と分かるように改良されていた。
それよりも想像以上に大変なことが起きた。
昨日までは一面真っ白な岩石地帯だったのが、辺り一面緑豊かな美しい大自然に囲まれていたのだ。
冴内は垂直上昇して確かめようとしたら、美衣が飛びついてきてガッシリと冴内にしがみついてきたので、控えめにマッハ5程度で上昇した。
驚くべきことに優は大魔術師【ΠΩΛーΛΩΠ】からもらった指輪の重力制御を使って冴内と同じ速度でついてきた。
さらに驚くべきことに、良子も同じ速度でついてきた。美衣が良子お姉ちゃんおそらをとべるのか!と驚いて聞くと、うん飛べるよ!今度美衣ちゃんにも教えてあげる!と答えた。
そんな、自転車の乗り方じゃあるまいし、どう教われば空を飛べるようになるんでしょうか・・・
ともあれ、普通なら酸素マスクと防寒具と与圧が必要な超上空高度からさいごのほし改めみんなのほしを見下ろしてみるとまさに地球のように青い惑星になっていた。青く見えるのは海でまだ海水のようにしょっぱいかどうかは分からないが地球の様に大半が海だった。
安心して地表に降り立つと、パラパラとシーカー達がやってきており、そこには見知った顔、力堂達がいた。
それどころかなんとアリオン達までやってきていた。アリオンとユーマは身体が大きいのでゲートを通過するのは結構大変だったことだろう。
アリオンとユーマはすぐに冴内と美衣のところに合流すると、なんと冴内がアリオン達の言葉を話し普通に会話できることにとても驚き喜んだ。しかし今となってはもはや自分達がいなくても空を飛び、しかもとうてい自分達が追いつけない速度で移動出来るということを目の当たりにして大いに嘆いたのだが、これから沢山働いて欲しいと頼まれたので大喜びした。
力堂達は神代と道明寺から事情を聞いてやってきたといい、他のシーカー達も既に大体の事情は知っていると言った。力堂以外のシーカー達は腕に腕章を巻いており機関の研究職員だと分かった。その中には久しぶりに会った木下もいた。ちなみに数年後彼女は新人オリエンテーションの会食の場で語ったときの将来の夢、エリクサーの発見をこの地で実現することになる。
冴内はさいごのひとからもらったこの星には他の宇宙人達にも来て欲しいと語ったところ、力堂は冴内達がいる前にも関わらずウォー!と叫び両手をあげて大喜びした。誰も彼のそんな姿を見たことがなかったが、すぐに彼の心の本質、純粋な冒険心を理解した。
手代木は冴内に、D15洞窟の時といい、試練の門といい、この星といい、まったく君という人は・・・と、嬉しそうに目を潤ませながら言った。
良野は優に是非とも弟子にして下さいと懇願していたが、冴内が先に言った通り他の宇宙人もこれからやってくるから大魔術師【ΠΩΛーΛΩΠ】の末裔がいる星の人に教えてもらう方がもっと沢山のすごい魔術を得られると思うと答えると、キャーッ!と言って大喜びした。先ほどの力堂同様、そんな喜怒哀楽をはっきりと見せつける良野の姿を見るのは全員初めてだった。
一方、日本のゲート機関、いや、いまや世界中のゲート機関は大変なことになっていた。さいごのひとからもたらされたげんしょのひとの一部も一部、ほんとにごくわずかな情報だけでも地球文明が一気にブースト飛躍しかねない程の恐るべき情報が入ってきたのである。地球全体がひっくり返る程の大騒ぎになった。
そして、ゲート内の世界、かつて崩壊した第7惑星の全容を知り、さらに地球とは別の宇宙の外宇宙のさらに最果ての星、さいごのほしの全容も知り、そしてその両方の星が冴内に譲渡されたということにも驚きすぎて開いた口が塞がらなかった。
ちなみに【さいごのほし】が一夜にしてテラホーミングされて今や【みんなのほし】になっていることをまだ大多数の人は知らない・・・
「お父さん、惑星改良が成功してすごくいっぱい有機物が出来たから、全部の施設・・・えーと・・・豆腐ハウスとかも使えるようになったと思う」
「えっ!本当?」
「わっ!ためしてみよう!」
美衣はすぐに一番近くの豆腐ハウス(豆腐ハウスで名称が決まってしまいました・・・)に入って、水道口に手をかざしてみると、なんと水が出てきた。手ですくって飲んでみるととても美味しい水だった。
冴内はこっそり良子にトイレの使い方を聞いていた。
力堂達や研究職員達も豆腐ハウスに入って色々と確認すると、これは本格的に入植活動が出来そうだといって喜びに満ちた顔をしていた。
すると冴内達の前にさいごのひとが現われた。
「冴内 洋、君はこの星だけでなく、まるで我々という存在をも再生しようとしているかのようだ」
「我々の残留思念の一部が良子と融合したせいかもしれないが、ごくわずかに・・・まだ推測の域を出ないが恐らく嬉しいという気持ちと怖いという気持ちが芽生えているような気がするのだ」
「私は最後に生産された有機生命体なので、最初からそのような感情というものがないのでよく分からないのだが・・・」
「そうですね、これから沢山の僕等の仲間や他の宇宙人達が沢山やってきて、今よりもっともっと賑やかになって、沢山の喜び、時には争うこともあるかと思いますが、そうした豊かな感情でこの星が満ち溢れればきっと皆さんにも分かる日がくると、皆さんが再生する日がくると思います!」
「冴内 洋・・・君は・・・君という人は・・・」
「違います!僕じゃなく宇宙がそうするんだと思います!」
「あぁ・・・そうか・・・それは良く分かる、よく理解できる真の【こたえ】だ・・・」
「父ちゃん!いつかミャアちゃんとか沢山の宇宙人を呼んでここでぼんおどりをしたい!」
「それはいいね!最高だよ!」
「ぼんおどり?」
「うん!みんなでおいしいものを食べて歌っておどるの!可愛いゆかたをきておどるの!とっても楽しいよ!」
「わぁ!それ私も見てみたい!一緒に踊りたい!」
「ひゃーーーっほう!そしたらオレは宇宙ボクシング大会を開くぜ!沢山の宇宙人達の前で最高の試合をするんだ!おっと残念ながら冴内、お前たちはダメだぜ、強すぎて試合にならないから観客で我慢してくれよ!これはあくまでもスポーツだからな!」
「あぁ・・・君達はなんと純粋なんだ、はるか遠い遠い昔には私達も君等と同じように生きていたんだな、君達はなんとまぶしくて美しいんだ」
「大丈夫、私がいるわ。きっとまた皆が笑顔になる日がくる。だからそれまで私がみんなの魂の代わりにいっぱい笑って泣いて喜んであげる、時にはちょっと怒ったりもするけど、我慢してね」
「ありがとう良子・・・」
「ようし!優!美衣!今からいっぱいご馳走を作ろう!ここにいる皆でパーティーだ!」
「オーケー!」
「オーケ・・・って、ちょっと待って美衣、洋」
「宇宙ポケットの中の食べ物だと力堂達が死んじゃうかもしれないわよ」
「おいおい!そんな恐ろしいものを食わせるつもりかよ!コエーな!」(矢吹)
「父ちゃん!アタイこのほしの食べもの食べてみたい!」
「そうか!それはいい!そうしよう!ようし早速食べ物を探しに行こう!」
「お父さん、あっちに行けばお魚が、あっちには果物と野菜が、あっちには多分お肉がとれると思う」
「よし!皆で手分けしてとってこよう!」
「美衣は宇宙ポケットがあるからお肉を、優は重力制御が使えるから野菜と果物、僕と良子は魚を取りに行こう!」
「わかった!」
「分かったわ!」
「分かった!」
「それじゃぁゴー!!」
一瞬にして冴内達は消え去った。本当に消え去ったといってもよい程あっという間にすっ飛んでいった。
「なんか・・・ある意味本物の宇宙人だな・・・」と、矢吹は言った。
「僕等にも安全に食べられるものであればいいのですが・・・」と、手代木は言った。
「君達がゲート世界と呼ぶ第7惑星と恐らく同じ構成になっているから大丈夫だと思う。君達は第7惑星に存在する物を飲食しているかね?」と、さいごのひとがホログラムで手代木に話しかけた。
「あっ、はい。我々はあなた方の言う第7惑星にある様々な動植物を飲食しています」
「そうか、ならば問題ないだろう。万が一何かあったとしても君達の後ろにある大きな建物の中には再生医療施設があるので、仮に死亡したとしても君達の身体の有機物が完全に消滅しない限りは再構築可能だ。若干の記憶損失がでるが誤差の範囲だ」
「そ・・・そうですか」と、分子レベルでわずかでも残っていればそこから再生するとか言い出すことについてはそれ以上考えないようにした。
他にもさいごのひとと力堂達は色々話をした。10分程経過したところで冴内達は戻ってきた。美衣は宇宙ポケットに食材を格納しているが、優と良子は重力制御で持ち運んできたため、空中に様々な食材が漂っている姿は極めて異様な光景だった。発達し過ぎた科学はもはや魔法であるという見本だった。
「沢山とってきましたが、驚いたことにほとんど英国ゲートで見たものと同じものがありました!」
「アタイはきょうりゅうのお肉をとってきた!すごくおいしそうだ!」
「えっ!?恐竜なんていたの!?」
「うん!さいしょはイノシシとかクマとかがいたんだけど、もっと遠いところにきょうりゅうがいたからそっちのほうにした!」
「きょ・・・恐竜の肉ですか・・・」(手代木)
「せめて食べられるといいが・・・」(矢吹)
「トカゲやサラマンダーの肉よりもウマイかもしれないよ!美衣ちゃんがウマイっていうんだから間違いなくウマイに決まってる!」(吉田)
「わ・・・私は優さんがとってきた野菜や果物でいいかな・・・」(良野)
「よし!じゃあ早速料理しようか!」
「オーケー!」×3
「良子、いっぱい料理教えてあげるね!」
「良子姉ちゃんアタイもいっぱい教えてあげる!」
「うん!ありがと!」
「美衣ちゃん、わ、私にも教えてくれる?」(吉田)
「わかった!」
「優さん、その、私もお願い出来ますか?」(良野)
「いいわよ!皆でいっぱい色々作りましょう!」
女性陣はわいわいと楽しく料理を開始したが、開始早々優と美衣の超一流の腕前に吉田と良野は挫折を味わった。対称的に良子は一目見ただけで全てを学び取って同程度の腕前になった。その間男性陣はひたすら米研ぎと米炊きを行った。
じゃんじゃん料理が出来上がっていくが、宇宙ポケットから取り出したテーブルでは狭いので、冴内は奈良ゲートに入って、宮と旧姓早乙女を連れてきてテーブルを作ってもらった。木材はまだまだ大量に残っている奈良ゲートの良質な硬い木材を旧姓早乙女と冴内がたくさん抱えて持ってきた。せっかくだからということで、冴内は富士山麓ゲートに入って梶山も呼んできた。
料理が一通りそろったので腕章をつけた機関の研究職員も呼んで、盛大に宴会を開始した。
恐竜のお肉のステーキは力堂達にはあまりにも美味し過ぎて涙を流す程だった。冴内達にはまぁまぁうまいという感想だった。ちなみに冴内達の美味しさランキングでは食材格納箱の中にある肉が一番美味しく、次に第三の試練の団体戦で戦った黒帯カエルの霜降り肉とヒレ肉となっている。
続いて冴内と良子がとってきた海産物を使って優と美衣がお寿司を握り始めた。冴内と良子がせっせと酢飯を作っていたが、すぐに良子も握りの技術を学習したので、冴内と良野と吉田と旧姓早乙女でせっせと酢飯を作り、優と美衣と良子の3人でじゃんじゃん寿司を握っていった。
300貫も作っていったい誰が食べるんだよ!と矢吹が言ったが、ものの数十秒で美衣と良子にあらかた吸収されたので、次の酢飯づくりには矢吹も加わった。手代木と力堂と他の職員達はあわてて追加の米を炊いた。
その間宮は驚異的なスピードでとても座り心地の良い椅子を作っていき、美衣と良子が寿司に満足してようやく他の者達が寿司を食べられるようになる頃には全員座って食事することが出来た。ちなみに梶山が宮のために作った特注ののこぎりのおかげで奈良ゲートの硬くて良質な木材がまるでバルサ材のようにサクサク切れていった。
「いずれは色んな宇宙人達と一緒に色んな料理を作って皆でやりたいね」
「うん!アタイはミャアちゃんをよびたい!」
「そうだね、いっぱい色んな人達を呼ぼう!」
こうして一夜にして生まれ変わったみんなのほしで初めての食事会を大いに楽しんだのであった。