148:みんなのほし
そのままそのドームで宇宙ポケットから風呂場を取り出して家族全員で入浴し、その後果物を取り出して食べて、皆で歯を磨いてから、大きなベッドを取り出して設置し、全員川の字になって寝ることにした。
全員手を繋いで寝たので、その夜は全員同じ夢を見た。げんしょのひと達にまだ喜びなどのポジティブな感情が残っていた頃の様々な喜びの姿を冴内達は見て、一緒になって喜んだ。
様々な惑星でその土地の生命体と融合し、ミャアちゃんやりゅう君によく似た種族になったげんしょのひと達の末裔を見た。
極めて単純な意思しか持たない鉱石や宝石のようなものと融合して思考生命体となった姿も見た。
スーパー太陽などの星々や宇宙そのものの意思と対話するシーンも見た。
元をたどれば同じ種なのだが、多種多様な変化変容を遂げたため、もはや異星人となってしまい、あちこちで戦争や紛争が起きたが、それの解決手段として大闘技大会が開催されたシーンを見た。
そして、第7惑星でまだ感情が残ってる彼らが、負の感情を結晶体に封じ込めて、全員で感謝と別れを伝え外宇宙に飛び去って行くシーンを見た。悲しみの感情も封印していったため誰一人として涙を流したり悲しむものはなく、皆笑顔で手を振って別れを告げていた。
冴内達は様々な星で様々な彼らの笑顔を見た。
翌朝、美衣の腹時計で目が覚めると、米を炊き納豆ご飯をたらふく食べた。大闘技大会の優勝祝いで富士山麓ゲートの農作業シーカーからもらった米俵のおかげでお米はまだまだタップリ残っている。冴内達は手を合わせて感謝した。
そこで冴内はまたしても閃いた。
「この星を開拓出来ないだろうか?」
「開拓って・・・テラホーミングするってこと?」
「うん、お米を育てたり、野菜や果物を育てたり、魚を養殖したり、放牧とかしてお肉をいただいたりとか出来ないかな・・・」
「それいい!それさんせい!だいさんせい!」
「うん、きっとできるよ!お父さん!私からも皆に頼んでみる!」
「よし!げんしょのひと達だけに頼るんじゃなく、地球人達も一緒になって開拓してくれるよう神代さん達に頼むとしよう!美衣!机を出して!」
「おーけー!父ちゃん!」
「もしもし!神代さん!道明寺さん!僕です!冴内です!お話ししたいことがあります!もしもし!」
「冴内様!神代です!いかがなされましたか!」
「こちら道明寺です!お待たせしました!」
「あっ!神代さん、道明寺さん!すいませんいつも突然。ところでそちらの時刻は何時ですか?」
「こちらは朝9時です、ちょうど今日の執務を開始したところです」
「そうですか、思ったよりも時差がなくて良かった・・・」
「冴内様達は今どちらにおられますか?第五の試練でしょうか?」
「いえ、僕らは今、宇宙の果てにいます!げんしょのひと達が外宇宙に旅立って一番最後に辿り着いた宇宙の終わりの一番端にいます!」
「!!!」×2
「色々とお伝えしたいことがあるのですが、今からお時間よろしいでしょうか?」
「わ・・・分かりました!すぐにスケジュールの調整を致しますので少々お待ちくださいますか!」
「はい!ほんと、いつもいつもすいません突然で」
「いえ!冴内様事項は全て最優先ですので気遣いは無用です!それでは少々お待ちくださいませ!」
きっかり10分後に、かなり多忙なスケジュールのはずの日本を代表する二人の局長は以後のスケジュールを見事に調整して、再び冴内達の前に現れた。
「まずは紹介します、僕達の家族、大好きな愛する娘、冴内 良子です!」
「はじめまして!私は冴内 良子です!これまでは良くないものと呼ばれていましたが、今はげんしょのひと達が私の中に戻ってきてくれたので、もう良くないものじゃありません!私はげんしょのひとを受け継ぐ、冴内 洋と冴内 優の娘で、冴内 美衣のお姉ちゃんです!よろしくお願いします!」
「!!!」×2
「あ・・・あなたが・・・そうですか・・・あなたが・・・良かった、本当に良かった・・・とても美しく、そしてとても優しい姿で・・・本当に良かった・・・」二人とも涙が溢れ出て止まらなかった。神代はティッシュを箱ごと目の前において盛大に何度も鼻をかんだ。
さらにさいごのひとが立体ホログラムで登場し挨拶をした。冴内達が見たげんしょのひと達の記録を全て転送するといったので、どれくらいのデータ容量かと尋ねると、君等の単位でいうと千クエッタ程度だと言った。
ちなみにクエッタは10の30乗でギガ⇒テラ⇒ペタ⇒エクサ⇒ゼタ⇒ヨタ⇒⇒⇒⇒クエッタであり、テラは10の12乗である。
さすがにそんなデータを格納する記憶装置は地球上には存在しないというと、先日冴内達に見せたかなりはしょられたダイジェスト的な映像データのみを送ると言った。それでも数千ペタほどもあったので、それでも用意出来ないと神代が答えると、さらに二次元映像に再構築して数百テラにまでデータを減らしたところでなんとか用意することが出来た。
もしも全てのデータが転送されたら、危うく地球の文明がいっきに数千万年も飛び越えてしまうところだった。
さいごのひとはとりあえず口頭で簡単にげんしょのひと達の歴史を二人に説明した。時折り空間上に画像や動画や数値データなども投影されて補足説明していた。
およそ2時間程口頭説明したところで、いったん休憩をはさみ、続いて冴内があまり上手ではないいつもの冴えない説明でこの星を開拓するつもりであることを伝えた。
それには冴内達だけではとても人手が足りないので、多くのシーカー達の助力が必要だと言った。
さらに冴内は大闘技大会で出会った他の星の人達にも声をかけるつもりだと言った。
いよいよもってこれはとんでもないプロジェクトになるという強烈な発言だった。神代は心の中でこれほど痛快なことがあるか!という興奮を抑えるのに必至だった。
たった今思いついたアイディアなのでこれからまだまだ沢山考えることがあるが、ここにいればさいごのひとや膨大で有益なデータベースからの助言を受けられるので、冴内はしばらくここを拠点として活動すると二人の局長に伝えた。
美衣の腹時計がグゥと鳴ってお昼をお知らせしてくれたので、いったん昼休みを挟み再度打ち合わせを続けて夕方前には終了した。
ここを拠点とするのはいいが、考えてみれば下着の替えとかトイレとかトイレットペーパーやティッシュや洗濯用洗剤などなど、生活必需品が足りなさ過ぎる。美衣の大好物の納豆も残りわずかだ。
宇宙ポケットがあるからなんでもかんでも大量に放り込めばなんとかなりそうだが、それでも地球と簡単に行き来出来るようになれば良いのだけどなぁ・・・と口に出して家族で話し合っていたところ、良子が多分第7惑星ならばどこでもゲートを開通出来ると思うと言った。
ただそれにはまず良子が開通したい場所に行き、その場所で今冴内達がいる場所と結ぶ必要があるそうだ。しかしこれは実に容易いことなので、すぐに決行することにした。
まずは元の場所に戻るために、マッハ3の飛行で5分程飛んでゲートに到着し、そこをくぐり抜けるとそこは試練の門の前だった。
音声ガイドは良子を確認するなりすごく喜び、祝福と賛辞と感謝の言葉を沢山述べて、冴内達に第五の試練攻略完了の報酬を与えた。
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冴内 洋
21歳男性
★スキル:大宇宙のチョップLv4+⇒大宇宙のチョップLv5
称号:愛の使者
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冴内 優
21歳女性
★スキル:真・頑丈Lv4+⇒真・頑丈Lv5
★スキル:真・魔術師Lv5
★称号:剣豪⇒剣豪主婦
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冴内 良子
半永久的に14歳:女性
★スキル:大宇宙の英知Lv4+⇒大宇宙の英知Lv5
称号:優しい良い子
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冴内 美衣
永遠の13歳:可憐な乙女
★スキル:真・万能チョップLv4⇒真・万能チョップLv5
称号:英雄勇者
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試練の門:特別報酬
惑星改良のたね
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「あっ!なんか良さそうなたねをくれた!なんかはじめていいものくれたような気がする!」
「ほんとだ!今一番欲しいものだよこれ!」
「最後にこれってやるわね!」
「多分、昔の皆が置いていってくれた置き土産だと思う!」
『その通りです良子、私も昨晩初めて知りました、全てさいごのひとから聞きましたよ』
「そうだったんだ!」
「さいごのおっちゃんいい人だな!」
「色々話したいことはあるけど、今は急いでいるからまた後でね!」
『ええ、分かっていますよ、冴内 洋、あなたは、いえ、あなた達の赴くままにお進みなさい』
「うんそれじゃまた!」
「またね!」
冴内はまずゲート村まで5秒で到着し、良子に頼んで奈良ゲートのすぐ横にもう一つゲート作ってもらった。中を覗いてみると例の大型ホールケーキ状のエントランスが見えたので成功のようだ。
次に冴内はゲートを出て地球に戻り、そこから富士山麓ゲートまでぶっ飛ばした。優がそこそこ重力制御を使えるようになったから遠慮なく飛ばしてもいいと言ってくれたので冴内はガチでぶっ飛ばし、1分以内で富士山麓ゲートに到着した。当然飛行許可はとっていないが多分レーダーには映っていないだろう。ただ上空千メートルに虹色に輝く光の軌跡だけはクッキリ残った。バードストライクやその他のものと一切衝突しなかったのは幸運によるものではなく、優、良子、美衣の3人の力によって意図的に成し得たものである。
そして、すぐに富士山麓ゲートに入り、やはりすぐ横に新たなゲートを良子に作ってもらった。冴内達は出来たばかりのゲートの中に入って、さいごのひとがいる星の大型ホールケーキ状のエントランスまで戻り、そこからさらにひとっ飛びで街の終端まで行き、第五の試練の報酬でもらったばかりの惑星改良のたねを埋めた。地面は硬い岩石だったが、そんなものはそれこそ豆腐のようにワンチョップで穴を掘ってそこに埋めた。
宇宙ポケットに入っている養殖池や果樹園をここに移設しようと思ったが、これから冴内達以外のシーカー達が入植してくるので、普通の人がそれを口にしたら大変なことになるかもしれないのでやめておいた。
もう一度大型ホールケーキ状のエントランスまで戻り、二つのゲートがあることを確認して、大型ホールケーキ状のエントランスの上の壁を指さして、冴内は美衣にあるお願いをした。
美衣は二つ返事で真・万能チョップの妙技を披露し、エントランス上の壁にチョップで文字を刻み込んだ。そこには次の様に書かれていた。
「みんなのほしへようこそ!」
その夜冴内達は夢を見た。とてもとてもシャイなはずの星が冴内達に話しかけてきたのだ。
「みんなのほしとは、この老いぼれジジイに付けてくれた名前のことじゃろうかのう・・・」
「うん!そうだよ!お父ちゃんが考えたんだよ!」
「ワシは一度死に星のカケラだったのだが、げんしょのひと達によって復活させられた」
「じゃがげんしょのひと達はワシには名前を付けなかった。老いさらばえて死に体だったワシじゃったからそれも仕方がない事じゃと思っとった」
「それからげんしょのひと達は子孫を残すことなく思念のデータだけを記憶装置に残して皆寿命を全うして消えていった」
「わしはただ一人、また数億年の寿命が尽きるまで名も無き星として生き続けるのかと思っとった、一切の生命の友を持つことなく・・・」
「しかしそんな時、君等が来た、そしてこんな老いぼれて何の価値もないわしに名前を付けてくれた。誰もいなくなったこの星に、宇宙中のみんなが来てくれるように願う名前を付けてくれた」
「ありがとう・・・冴内達よ・・・君達のおかげでわしはまた新たに、今度こそ本当の意味で生まれ変わることが出来る、本当に有難う」
みんなのほしと、名前を付けられた星は何度も何度も冴内達に感謝した。