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147:げんしょのひとの歴史

 誰もいないので冴内達は結構なスピードですっ飛ばしてどんどん進んで行った。そうでもしないとこの巨大なホールケーキ状の建物はあまりにも広すぎるので、目的の場所につくまでかなり時間がかかるのだ。


 感覚的に円の中央部に来たなというところで大きなドーム形状の空間に良子は入っていった。プラネタリウムのシアタールームのようだった。冴内達も全員中に入ると辺りは徐々に暗くなっていった。


 すると冴内達の目の前に立体ホログラムが映し出された。そのホログラムは冴内達と同じ位の大きさの人型だった。


 その人型はなんと、日本で今なおシリーズが続く大人気子供向け特撮ヒーロー番組「ウルトラヒューマン」に出てくるようなツルンとした人型だった。


 目、鼻、口、耳と思しき顔の造形をしており、さすがに胸の中央部に丸いランプのようなものはついていなかったが全身が銀色で光沢があった。


「ようこそ冴内 洋、冴内 優、冴内 美衣、そして・・・冴内 良子」


「私は君達がげんしょのひとと呼ぶ者の最終形態の者だ。この頃になると私達には名前という固有名詞を持たなくなっていたので、名乗ることが出来ないが・・・そうだな、便宜上【さいごのひと】とでも呼んでくれたまえ」


「分かりました」

「わかった!」

「分かったわ」


「それでは君達に、私達のこれまでを簡単に説明しようと思う」


 床から4組のリクライニングシートが出現した。


「時間がかかるのでそれにかけてくれたまえ」


 巨大なドーム空間に地球によく似た美しい青い星が投影された。そしてその中でも緑が広がる陸地に向けてどんどん降下していった。やがて大きな爬虫類、要するに恐竜達が画面に登場した。大小さまざまな恐竜が映し出された。その中で体毛があり小型の恐竜がクローズアップされた。その恐竜は群れをなして暮らしており、子育てをしている様子も映し出された。


 やがてそのうちの一体が大きく映し出され、すごい速度で映像が進み、その形態が変化していった。やがてその一体は地球上における最古の人類と言われている「サヘラントロプス・チャデンシス」に似た容姿になった。画面右上には数字が刻まれておりさらにそこから数百万年が経過するとほとんど地球人類のような姿に変容した。


 文明らしいものが次々と映し出され、エジプトのピラミッドや前方後円墳のような古墳なども映し出され、さらに農耕作業や家畜を育てる姿も投影された、当然戦争を行っている映像も映し出された。さらに映像は進んで行き、近代文明へと突入していった。まさにそれは地球上の出来事を見ているかのようだった。


 やがて宇宙に進出していき、地球上でよく見るSFアニメや映画のような光景が映し出されたが、やはりそこでも戦争の映像が映し出された。さらに映像は進み、ますますSF色が強くなり、とうとう大きなリング形状のゲートが出現した。


 リングゲートにより彼らは宇宙進出領域をさらに拡大させていったようで、いよいよ他の星の生命体と出会う映像が流れた。しかしその生命体はまだまだ知的生命体と呼ぶものではなかった。


 やがて大規模な惑星入植時代に突入し、惑星改良だけでなく、彼ら自身の肉体改良にまで及んでいった。最初は未知のウィルスなどに対抗するためのもので遺伝子を組み換えたり新たな因子を取り込んで改良していった。


 大規模惑星入植時代に突入すると、惑星ごとに容姿や価値観、生活様式も変わり、元は同じヒト属だったはずだが彼ら自らが異星人と呼べるような存在になってしまった。


 そうして最大最悪の戦争が起きた。惑星間戦争である。元は同じヒト属だったのに互いに争い、遂には惑星そのもを破壊した。良いも悪いも小さな犯罪も大きな犯罪もなく、その惑星に生きる全ての存在が惑星ごと破壊されて消滅した。


 惑星間戦争により破壊された惑星は7つにも及び、そこでようやく初代惑星同盟憲章が制定された。


 その戦争が一応の終結を迎えるまでの期間で彼らはますますその姿を変えていった。戦闘特化型として幾つかの形態が生まれ、生物として強化や融合したものや機械の身体の人工頭脳に脳を移植するものや、肉体を特殊なカプセルに保存して機械の身体を遠隔操作する技術なども登場した。


 さらに数百万年規模で時が進んでいった。彼らの水準まで進んだ高度文明異星人は結局現れず、彼ら自身が大きく形態変化したり、その星に存在していた生命体と融合することでおよそ人からかけ離れた存在になるものまで出てきた。りゅう君の始祖のような存在も、その惑星に存在していた原始的生命体との融合体だった。


 そこからは様々な惑星間交流の様子が映し出された。大闘技大会の場内アナウンサーが言っていたような状況も映し出された。


 これと前後して惑星間戦争で破壊された星の再生技術プロジェクトが開始された。その研究開発の途中の事故により別の宇宙が発見された。現地作業を行っていた複数の者達が別の宇宙に飛ばされたが彼らは二度と戻って来なかった。


 幾つかの実験と失敗を繰り返した後いよいよ本格的な大規模惑星テラホーミングが実施された。そして7番目に破壊された最後の惑星が再生された。それこそが冴内達のいるゲート世界であった。




 そして彼らは選択した。




 惑星間戦争の勃発後間もないころから一部のグループがずっと検討を重ね続けていたテーマについて種族全体で協議する段階にきていた。別の宇宙を発見したことで、宇宙の愛を発見したことも大いに影響した。肉体は改良して頑強になることには成功したが、精神の改良がどうしても不完全だった。当然ここまでで既に数千万年も経過しているのであらゆる心理面での研究調査や実践も行い、心の解脱のようなことまで技術的に可能なレベルにまで到達していたが、それでも惑星間戦争は引き起こされたのである。


 小さくて些細ないざこざから大きな争いまで、戦争の火種となる「ベーシック・インスティンクト」つまり生物として備わる「基本的本能」を持ち続ける以上、どんなに精神浄化をしても争いを消し去ることは不可能だということに至ったのだ。


 少しづつ負の感情を減らしていき実験と臨床を重ね、ついに基本的本能、要するに欲望のみを分離させても生命維持活動を存続させることに成功した。


 当然賛成派反対派に別れたが、争いを避けるためにそれを望む者のみが先行して基本的本能を分離した最初のモデルケースとして7番目の再生惑星で暮らし始めた。


 少しづつその数を増やし始めていき、順調に生活圏を確立していった。その暮らしぶりは実に穏やかであり、さらに様々な欲望がない分、全ての欲求を知の探求などに注ぎ込むことが出来るため、科学の分野や精神的な方面の研究も大いに進み、宇宙の意思との対話にまで発展した。


 欲望を切り離すことで些細な争いすらなくなり、とても平穏な時代が訪れた。


 そして彼らは外宇宙に航行することを決意し第7惑星を離れることにした。彼らは「基本的本能」を結晶体に封印して惑星を離れたが、やがてそれは特殊変異して有機物質へと変容し、最終的に一人の少女の姿へと変化した。それは後に残された「基本的本能」が望んだ姿だったのかもしれない。


 外宇宙へと旅立った彼らは宇宙の果てと呼ばれる場所に辿り着き、ほぼ死に星といってよい星々の欠片から新たな星を再生させた。


 その頃になるといよいよ彼らの姿は、今このドームに投影されている姿と同じになり、ついさっきみた豆腐のような建物が現れた。


 惑星に降り立ち始めた頃はまだ人々の表情は豊かで喜んでいるように見えていたが、やがて人々の表情はあまり変化しなくなっていった。知の探究に対する楽しみも大分薄れていた様子になっていった。


 数百万年という長い長い年月をかけてゆっくりと確実にその代償は顕在化していった。


 外宇宙を旅している時点で既に生殖活動をしなくなり生殖器官が退化してしまったため、子孫を残すのは有機物からの生産活動に過ぎなくなった。


 それでもまだ宇宙の果ての惑星に定着し始めた頃はその生産活動は続いていたが、さらに途方もなく長い年月が過ぎた頃にはその生産活動すら停止させてしまった。


 そして彼らは思考生命体として自らの存在をこの施設にデータとして格納することで自らを終わらせることにした。「個」ではなく「種」そのものを終わらせてしまった。


 彼らにとってもはや生きるということ自体が不要になってしまった。


「以上が我々が辿った全ての軌跡だ・・・」


「こんなのヤだ・・・」

「そうね、あなたには悪いけどこんなの嫌よ」


「気にしないでくれたまえ、我々には良いとか悪いとかいう概念がないのだ」


「そんな・・・」と、冴内。


「そう、そういう選択をしたのが我々、いや、私のはるか前の祖先達だったのだ。私はこの星で最後に生産された有機生命体だったが、その私も長い年月生き続けた結果、最後にデータ集合体の一つとしてここに統合されたのだ」


「これは一つの見解なのだが、そもそも生命とは生きることが目的であり、生き残るために必要だったのが欲望だったと思うのだ」


「そしてその欲望は進化の過程で様々な価値や重み付けがされていき、元々は単細胞生物に過ぎなかった単純生命体がやがて性別をもち、思考能力を身に着けたところで愛が生まれた」


「互いに交わらないと自分達を受け継ぐ次の生命を得ることが出来ないという単純理由がどんどん進化していき、一人では生き続けることが出来ないということから様々な愛情や道徳心や倫理などが生まれていった」


「欲望を捨ててしまった我々はその最も大事な生き続けるという意思の源を自ら絶ってしまったのだ」


「生き続けたいという概念すらなくなってしまい、かといって死にたいという概念もなく、肉体を極限にまで進化させてしまった我々はあまりにも長い寿命が尽きるまでただひたすら思考し続けた」


「我々には欲求そのものがないので、このまま誰にも知られずただ消滅することに対しても、何の感情も抱かなくなってしまったのだ」


「そんなのヤだ!さびしいよ!」

「そうだね、そんなのとても悲しいよ・・・」


「私には感情はないのだが、有難う、冴内 洋。かすかに残った魂が君にありがとうと言えと伝えてくれたかのような気がする」


「そして冴内 良子、はるか昔に我々の祖先が残していった思念・・・今となっては君こそが我々の希望、我々を継ぐものだと確信している。生きていてくれて有難う」


「うううん、いいの!いいんだよ!私を消さずに残してくれて有難う!皆が残してくれたから私は今冴内 良子としてここに存在出来たんだよ!」


「冴内 洋・・・君が存在してくれたことに我々は深く感謝する。恐らく宇宙の大いなる愛が君を寄こしてくれたのではないかと思う」


「そうですね、そうだと思います」


「冴内 洋、君にはこの星と第7番惑星を受け取ってもらいたい。我々はこの星が消滅しない限り思考生命体として存続し続ける。そして今の所、第7惑星だけがこの星と行き来することが出来るゲートを持っている。どうかこの二つの星を受け取ってもらえないだろうか?」


「分かりました!有難く受け取ります!」


「あぁ・・・冴内 洋・・・一切の迷いのないその答え・・・君で本当に良かった・・・いや、そんな君だからこそ、ここに来れたのだな、大いなる宇宙による必然だったのだな・・・」


「私は・・・我々は冴内 良子の目を通して、心を通して、これからも様々なものを見て、思考することが出来るだろう」


「もしも冴内 良子が寿命をまっとうしたとしてもそれに続く命が産まれ続ける限り我々はその子孫の目と心を通してこれからを見続けることが出来るだろう」


「有難う冴内 洋、有難う冴内 良子、有難う冴内 優、有難う冴内 美衣」


グゥ~~~~~ッ!! と、美衣は盛大なおなか虫で返事をした。


「よし!みんな!ご飯にしよう!ここで一杯美味しいものを作って食べよう!」


「賛成!!」×3


 宇宙ポケットからキッチンや食材を大量に取り出して冴内達はご馳走をたくさん作った。


 爆食してウマイ!ウマイ!と大喜びして欲望をこれでもかっていうくらい彼らに見せつけてやった。


 ドーム空間は色んな色彩を放ち冴内達にかつて彼らが持っていた喜びを表現しれくれた。


 そうしてげんしょのひとのなれの果てと冴内達のささやかで盛大な宴は続いた・・・

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