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144:宇宙ポケットと大祝賀会

「やばいぞ父ちゃん!あのとびらから出たらもうここにはもどってこれなくなるぞ!たべものばこの中のお肉もお魚もいずみにいるお魚もみらくるみっくちゅじゅーちゅのもとになるくだものもなくなっちゃうぞ!」


「あっ!そうか!もうここには戻ってこれなくなるのか!ここは衣食住としては最高の場所なんだけどなぁ・・・でもあの扉から出ないと良くないものがいる第五の試練に行くことは出来ないし・・・」


「そうねここは住むにはとても快適だったものね。残念だけど・・・せめて食べ物だけでも大量に持ち出してから出ることにしましょうか」


「そうだね、いったん食べ物を気が済むまで外に持ち出してから出ることにしようか」


「分かった!サチおねえちゃんにリヤカーをかりていっぱいはこぶ!」


「そういえば、大闘技大会の優勝賞品って何をもらったの?」


「あっそうだった。えーと・・・何でも一つだけ願いが叶う券っていうのをもらったよ」


 なんでしょうか、その普通一般家庭にある「肩たたき券」とか「お手伝い券」みたいなものは・・・


「すごい!そんなのをもらったのか!アタイの願いは何でもはこべて何でもしまえるうちゅうぽけっとがほしい!!ここのたべものもべっどもおふろもぜんぶしまえるぽけっとが欲しい!!」




 と、美衣先生が願いを言ってしまいました。




 すると空中に〇を真ん中で切ったようなUの字をしたものが現われた。美衣がそれをとって自分のお腹の位置に貼り付けるとエプロンかカンガルーかドラ・・・oops、失礼、のようになった。


 美衣は近くにあった大きな食品格納箱を片手で持ち上げポケットの中に入れようとしたところ、明らかにポケットの入り口の大きさ的に入るわけがないはずの大きな食品格納箱はスッポリとポケットの中に入っていった。


「やった!!何でもしまえるうちゅうぽけっとだ!これがあればいくらでもたべものがしまえる!!」

「やったね美衣!さすが!」

「これでミラクルミックスジュースの元の果物もありったけ持ち運べるわね!」


 何でも一つだけ願いが叶うという極めて重要な優勝賞品を、誰かを生き返らせるとか不老不死とか巨万の富とか全宇宙を掌握する力とか、いや、それこそげんしょのひとに会いたいとか、良くないものを救いたいなどと願えばいいものを、食べ物をいくらでも収納できるポケットを願い、それを家族全員で喜び合うところがやはり冴内ファミリーであった。実に冴内ファミリーらしい願いであった。


 早速冴内達は片っ端から美衣の宇宙ポケットに格納し始めた。まずは大きな食品格納箱を全て入れ、次に美衣と冴内で泉の周りの地形ごとチョップで切り取り泉そのものを格納した。さすがに川は無理だったのであきらめて、第四の試練の最初の安全地帯に戻ってやはり果物がなってる木々を地面というかその一帯の地形ごとチョップで切り取りどんどん宇宙ポケットに放り込んでいった。ちなみにどういう具合に格納されているのか美衣に尋ねると、空間にステータス画面が現われて、そこには以下のように表示されていた。


-------------------

食料格納箱×5

養殖泉×1

果樹園×1

野菜畑×1

-------------------


 欲しい果物とか魚とかをどうやって取り出すのか尋ねたところ、美衣はためしにサクランボ一つちょうだいと言うとその通り出てきた。優が魚の切り身一つと言うとやはりその通り出てきた。


 これは実に便利だということで、いよいよキッチンとベッドとお風呂までしまい始める始末だった。さすがにトイレは勘弁してと冴内は頼み込んだ。


 凄まじいまでの略奪行為により、後には手作りの間仕切壁が設けられたトイレがポツンと残り、他には魚がたくさん泳いでいる小川と果物がなっていない木々だけになった。


 欲しいものをあらかた格納し終えて満足した冴内達はいよいよ第四の試練を後にすることにした。


 美衣が台座の上に手を乗せると、音声ガイドが驚くほど丁寧で優しく祝福の言葉を述べて、冴内達は試練の門の入り口まで戻された。


 ちなみに音声ガイドからは第四の試練攻略の報酬に関する話しは一切なかった。しかし宇宙ポケットに入っているものが十分すぎる程宝の山だったので美衣がけちんぼと言うことはなかった。


 今日からまた研修センターで暮らす生活に戻るということで、少しだけこの9日間のオープン居住スペースでの生活が名残惜しい気持ちになった。


 ところがその研修センターでの生活もこの日の夜までとなるのであった・・・


 研修センターに到着すると、平日の昼前だというのに大勢の職員とシーカー達が研修センター玄関前に集まっており大声援と大祝福の嵐につつまれた。


 横断幕には「祝!大闘技大会優勝!」と書かれており、地元の小中学生などの子供達も大勢いた。美衣は子供から大人、老人にまで大人気だった。


 当然夜には十津川村で花火が打ち上げられる予定で、今日は特別に研修センターの野外運動場が地域住民達に解放されることになり、盆踊りに使うやぐらをたてて住民達が大勢集まるお祭りをすることになっていた。既にやぐらだけでなく屋台も設営され始めていて、美衣は居ても立っても居られない程に大はしゃぎしていた。子供達も美衣と一緒に大はしゃぎだった。


 子供達や近隣住民達にいったん別れを告げて、エントランスに入ると御祝儀として、富士山麓ゲートの田畑の集落にいるシーカー達から精米したての新米が10俵も届いてた。美衣は飛び上がって喜び全て宇宙ポケットにしまい込んだ。それを見た職員やシーカーは全員仰天していた。


 昼食をとりにいつもの食堂に行くと、いつもとは違う様子で様々な料理がテーブルに乗せられたバイキング形式となっていた。入り口には「大闘技大会優勝パーティー」と書かれており、いつもは厨房の奥にいる料理人達が皆並んで拍手して出迎えてくれた。美衣は「料理に」感激して一人一人に抱き着いて喜びを伝えたものだから、何人かの料理人は嬉しさのあまり気絶して医務室に救急搬送された。他のシーカーや職員達も参加して立食パーティーのような状況だった。


 夕方からの大祝賀会までの間、研修センターの体育館ではこれまでの大闘技大会の試合内容が上映され、他にもいくつかの居室内で大闘技大会に関する様々な事柄が分かりやすく写真や図解入りでパネル展示されていた。これらは一般開放されており、地元の人達や他県からやってきていた人もいた。


 夕方になり、町内放送スピーカーから大祝賀会の開始が告げられ、打ち上げ花火が盛大に打ち上げられた。この時刻になるといよいよあちこちから訪れた人達で駐車場はどこも満車になり、花火会場も研修センターの野外運動場も大勢の人達で溢れた。


 屋台や出店も多く立ち並び、定番の焼き鳥や焼きそばなどの料理だけでなく、外国人シーカーも自国の料理をふるまっていた。出店にはゲート内で取れた食材などが特別価格で販売されていた。


 程なくして研修センター野外運動場の中央に建てられたやぐらから盆踊りでよく使われる音楽が流れてきて、やぐらの中では太鼓を叩く音が聞こえてきた。さらに地元住民の子供達による鼓笛隊の音色も聞こえてきて、多くの人達がやぐらを中心に踊り始めた。


 屋台の料理を器用に大量に両手に持って爆食していた美衣がその様子を見ると、口をアーンと大きく開けて両手に持っていた料理を一気に食べ尽すと、喜び勇んでそれらに交わっていった。とても楽しそうに子供達と一緒に歌って踊っていた。そのうちやぐらにひとっ飛びでジャンプして上がり込み、太鼓を叩き始めた。実に見事な名調子で大盛り上がりだった。額にねじり鉢巻きをして太鼓を叩く姿は大勢の人達から歓声を受けた。


 このとき優も美衣も産まれて初めて浴衣を着たのだがそのあまりにも凄まじい美しさに、彼女らが実際に外に現れた途端大変なことになった。当然地元どころか国内どころか海外のテレビやネットなどの放送局がやってきており、機関職員に加えて県警も出動して大勢の人による将棋倒しなど、大きな事件事故が起きないように通行規制や進路指示などをしていた。もちろんこれは神代と道明寺が予め予想予測して準備万端整えていたことである。


 ちなみに神代は富士山麓ゲート研修センターから奈良ゲート研修センターに応援出張という名目でちゃっかりやってきていた。


 冴内と優もやぐらの周りで盆踊りをしていたが、冴内はともかく、優の優雅な舞い踊りには誰もが呆けてしまう程に美しく、皆踊るのを止めて二人の道を開けてしばらく二人が踊る様子を見つめ続けた。


 最後に一際盛大で大きな打ち上げ花火が鳴り始めると冴内はスーパーヒューマンのマントで優と美衣を背中に乗せて空を飛び、ぐるぐると観衆達の上空を飛行した。やがて最後の大きな花火が夜空に光り輝き終えたところで、冴内は上空高く上昇し空中に静止した。


 美衣は冴内の背中にしがみつき、優は冴内の右手にぶら下がり、冴内は左手を天高く天頂方向に垂直に掲げ、右手は水平真横に掲げた。


 冴内の左手の指先上空数メートルから虹色の粒子がらせん状に渦を巻き始め、冴内達をキラキラとグルグルと円錐形状にらせんを描き取り囲んだ。やがてその光は大きくなっていき直径500メートル程の光の渦になった。


 その様子は遠くからでもハッキリと見ることが出来て、全ての観衆達はその光の渦を見た。やがて光の渦はパッと爆散し、あちこちに流れ星のように強い閃光を残して飛散していった。これで終わりかと思われた次の瞬間・・・




 太陽になった冴内が出現した。




 実際には中心に冴内がいるのだが、遠くから見るとその姿は太陽の明るさによって見えず、直径500メートル程のミニ太陽が現れたのだ。光量は実物よりもかなり抑えられており、肉眼でも直視することが可能だった。美しくも激しく燃えさかり、プロミネンスが生々しくうねる様子も再現されていた。冴内太陽は5分程続いた後でまたしても爆散して綺麗な光のシャワーを夜空に描いて終了した。


 さすがにビッグバンチョップで地上にいる人々を粒子に還元するのはためらわれたので、せめて宇宙の愛を少しでも伝えるべくやってみた冴内の冴えない天体ショーだった。


 しかし観衆達の反応は凄まじいもので、年配の人達には確実に冴えない埼玉出身の冴内は神様に間違いないと思われる程、人々の心に、魂に深く刻み込む程の感動を与えたのであった。


 こうして最後は大スペクタクル天体ショーになってしまったが、大祝賀会は閉会した。大きな事件事故もなく無事終了した。


「ねぇ父ちゃん・・・」

「うん?」

「良くないものにも見せてあげたいな、いっしょにゆかたをきてぼんおどりをしたいな」


「うん、そうだね・・・そうしようね」


「ねぇ洋、名前を付けてあげようよ!良くないものなんて呼び方じゃ可哀想よ!」

「うん、良くないものじゃかわいくない!」


「そうだ!そうだね!そうしよう!」


 またしても冴えない冴内に時折り訪れる天啓のような一瞬の閃きが輝き、冴内の心の中でその名前が確定した。

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