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142:宇宙連合艦隊vs冴内ファミリー

 手作りで出来立ての美味しいパン祭りでパンづくしの昼食を終え、以後は各自自由行動にすることとなった。明日は大規模宇宙連合艦隊との大戦争になるというのに冴内ファミリーは明日のことなど一切考えることもせず自由に過ごすことにした。死を覚悟してせめて最後に好きなことをしたかったのだろうか・・・


 ともあれ優と美衣は今日も食堂に行って色んな料理を教わってくると言い、冴内はまた一人吉野熊野国立公園で瞑想をしようと思いそちらに向かっていたところ、沢の中で渓流釣りをしているお爺さんがいたので挨拶した。


 冴内は今やかなりの有名人で当然十津川村でも知らぬものはいない程だったし、一応防護服を着てはいるがとても山の中を歩き回るような恰好ではないにも関わらずおよそ人間離れした機動力で山の中をとんでもないスピードで走り抜けていたのでお爺さんもさすがに目の前の人物が誰なのか分かった。


「ありゃあんたはんは、あの・・・なんちゅうたっけかのう・・・おい、婆さんや、なんていうたっけか?玉置神社さんとこにおるあの、ほれ・・・」

「ああアレなアレ、なんやいうたっけかアレ・・・つーかーだか、すとーかーだかいうアレ・・・」

「自分は探索者、シーカーの冴内といいます」

「ああ!そうや!しーかーやしーかー!」

「おおあんたはんが冴内はんか!よう知っとる!」

「なんやテレビで見るよりも大分普通のあんちゃんやね」

「これ婆さんそんな失礼なこといったらいかん、このお人はありがたいお人じゃぞ」

「いやいや、自分はそんなんじゃないです、普通に冴えない一人の一般人です」

「そうやねぇ、普通に冴えないあんちゃやねぇ、ガハハハ!」

「これ婆さんや!」

「ハハハハ!いえいいんです、自分でもそう思いますから」

「あんたはんは、すごい人なのに大分気さくでええ人なんではりますなぁ」


 その後も何気ない会話をして、冴内は生まれて初めて渓流釣りに挑戦したみたが当然何も釣れず、実のところお爺さんも何も釣れておらず、お婆さんから爺さんは釣りは下手だと言われて赤面していた。お婆さんの方は山菜やキノコをタップリ採っていて幾つかお裾分けしてもらった。


 初めての渓流釣りを楽しんで素朴で気の良い老夫婦と別れると、これから吉野熊野国立公園に行って瞑想するには中途半端な時間になってしまったので研修センターに戻ることにした。


 研修センターに戻ると力堂や他のスゴ腕外国人シーカー達が何やら話しながら歩いていた。力堂が英語で話しているのは驚かなかったが矢吹も普通に英語が話せるのには失礼ながら驚いた。そして遅れて自分が彼らが何を話しているのか普通に理解出来る自分自身にも冴内は驚いた。


 力堂が冴内の存在に気が付くと丁度良いところに来てくれたと喜び、何事かと尋ねたところこれから山籠もり修行について検討するところだったとのことだった。急ぎの用事もないので冴内も検討会議に付き合うことにして中会議室へと向かった。


 冴内先生・・・明日は大規模宇宙連合艦隊との大戦争という極めて大事な用事があると思うのですがいいのでしょうか・・・


 これまで通り試練の門の真なる目的が「こころ」の鍛錬にあるということは一切口にしなかった冴内であったが、やはり中会議室に集まったシーカー達は今冴内を除いて最上級レベルなだけあり、そして力堂などは人生経験豊かな人物でもあるので薄々その核心本質に気付き始めているようだった。冴内は瞑想に使ったスポットを幾つか紹介したが、なんとか数か所は使えそうだが、ほとんどの箇所が高レベルのシーカーであってもかなり危険な場所だった。


 ちなみに力堂達は冴内がものすごく流暢に英語を話すのを目の当たりにして驚愕していた。


 夕方近くまで力堂達の検討会議に付き合っていたが、優と美衣が迎えに来たので冴内達はオープン居住スペースに戻ることにした。優と美衣を見ると今日の戦利品は大量に抱えた乾燥パスタや生麺のパスタだったので、今日の夕食はスパゲティ祭りになるのだなと気付き、久しぶりのイタリンが楽しみな冴内であった。果たしてこれが冴内の最後の晩餐になるのであろうか・・・


 昼食はパン、夕食はパスタということで小麦を沢山食べたので翌朝はご飯と納豆と味噌汁がいつもより美味しく感じて沢山食べた。前日気の良い老夫婦からもらったキノコは味噌汁に入れて、山菜はおひたしや漬物にして全て美味しくいただいた。


 家族の誰一人としてこの後の大戦争について何か準備や練習、この場合は演習と言ったほうが正しいのだろうか・・・ともあれ、そういったことをしなくてもいいのかなどと言うこともなく、優と美衣は今度はうどんを作ってみたいとかケーキなどのお菓子も作ってみたいなどとおしゃべりしていた。


 そうしていつもよりのんびりと過ごして、そろそろ時刻は9時になろうとしていたので、じゃあ昼食前にひと仕事片付けるかといった感じで冴内達は大闘技場の石畳に向かっていった。


『皆様お早う御座います!本日の第八試合開始してもよろしいですか?』


「はい、こちらは準備オーケーです」


『分かりました、しかしなんというか皆様・・・今日は随分と自然体ですね、前に大宇宙のスーパーヒーロー、スーパーヒューマンの【∬∬∬ーΘΨーФ∀!】選手が冴内様に敵う者はもうこの宇宙に存在しないと言っていた通りなのでしょうか、そこからくる余裕からそう感じるのでしょうか?』


「うーん・・・どうでしょう?正直なところ今日の相手の大規模宇宙連合艦隊っていうのが全然ピンと来なくて、昨日から何も準備も用意もしていないんです」


「それに・・・」


『・・・それに?』


「なんかもう勝つとか負けるとかどうでも良くなっちゃったんです」


『!!!さっ冴内様!!!』


「あっ!ごめんなさい!その・・・決して試合がどうでもいいってことじゃなくて・・・ちゃんと全力を尽くすつもりです!」


『はい!分かっております!冴内様が決してそのようなお考えの持ち主ではないと今では確信を持って分かります!私が驚いたのは、その無心ともいえる無我の境地に感銘したのです!』


『分かりました!それでは早速本日の試合を開始させていただきます!』


「どうぞ!」


 いつも通り試合開始のファンファーレが鳴り、試合会場は一気に宇宙人達で満員になった。


『さぁ~ご来場の皆さん!いよいよ大闘技大会も残すところあと2試合となりました!正直ずっと見ていたい気持ちもありますが、何事も終わりがあるからこそ輝くということもあります!皆様におかれましても是非とも残りの2試合をどうか心と目に焼き付けて下さい!』


「「「ワーーーーッ!!!」」」


『さぁ!本日の第八試合はいよいよ我が宇宙連合が誇る最大にして最強の宇宙艦隊が登場します!大闘技大会に宇宙艦隊が出場したのは過去にたった一度だけで、その時よりも数は倍以上、さらに最新鋭の戦艦に衛星要塞も出撃します!艦艇総数はなんと2万を超える大艦隊です!』


『そんな大艦隊に対するのはたったの3人の親子!生身の身体で挑み、そのうち二人は素手です!徒手空拳で総数2万の大艦隊に挑むというのです!こんな馬鹿げたマッチメイクもここにいる皆さんならばもうそれほど驚かれることはないでしょう!』


『そう!相対するは言わずと知れた宇宙最強家族!そのチョップで宇宙創成ビッグバンすら可能にする冴内 洋選手を長とする冴内ファミリーの皆さんです!』


「「「ワーーーーッ!!!」」」


『さぁ~果たして今日の試合、いや、もはや大戦争といっても良い戦いは果たしてどうなるのでしょうか!それではゲートオープン!』


 冴内達の目の先にある登場ゲートの扉が開くと、そこからはまるで海にいる無数の魚の群れのようなものが前進してきた。


 全長は10センチから50センチ程の直方体や円錐形のもの、かつお節みたいな形状のものもあった、そうしたものが数えきれないほど整然と並びゆっくりと空中を前進してきた。そして一番最後には直径10メートル程の球体が浮かんでいた。それらが近づくにつれて冴内達はどんどん小さくなっていった。


『さぁ!第六試合の【グワァーオーゥゥ】選手との対戦の時と同様に今回も闘技場内は縮小空間になっております!今回は千分の1にまで縮小しておりますのでどうかくれぐれも闘技場には近づかないようにお願いします!』


「「「ワーーーーッ!!!」」」


「すごいな・・・あんなに大きくて沢山ある戦艦と戦うんだ・・・」

「あっ!ミャアちゃんだ!ミャアちゃんが山みたいに大きくなってるアハハハ!」

「洋、私達も空を飛んだ方がいいんじゃない?」

「そうだね、じゃあ皆僕に乗っかって!」


 冴内はその場にうつぶせになり、その背中に優と美衣が乗ると冴内はそのままの姿勢で浮上した。


『それでは双方、準備はよろしいでしょうか!?』


 大規模宇宙連合艦隊からは発光信号で、冴内からは優が光の剣で空中にOKと描いた。


『それでは第八試合!戦闘開始ィーーーッ!!』


 戦闘開始と同時に全艦隊が砲門を開き、光のシャワーを冴内達に叩き込んだ。ビーム、レーザー、ミサイル、質量爆弾、とにかくありとあらゆる種類の巨大攻撃兵器がたった3人の生身の親子に向かって浴びせられた。その一斉総攻撃で惑星など一瞬で粉々になるであろう猛攻撃が冴内達に降り注いだ。当然面による攻撃なので千分の1に縮小された冴内達にはどこにも逃げ場はなかった。


 その様子は様々なアングルで闘技場の上空巨大スクリーンに拡大投影されており、さらに3Dゴーグルや特殊双眼鏡にてその様子を見ている宇宙人達もいた。作戦司令部や艦内の様子も映し出され、どういう戦術でどういう艦隊行動をとっているのか文字情報や矢印などのグラフィックで分かりやすく説明されていた。


 前回同様優はバリヤーを張っており冴内を中心として◇のような菱形の透明なエメラルドグリーンの膜に守られているのだが凄まじい飽和攻撃によりエネルギーの臨界点を超えてあちこちで収縮爆発が生じプラズマによるスパークが発生していた。まさに複数規模で超新星爆発が起きているかのような状況だった。


「父ちゃん、これまぶしくてかなわん」

「そうだね、あとちょっとうるさいね」

「そうね、それにちょっと暑くなってきたわ」


「じゃあそろそろこっちも攻撃しようか」


 冴内達は前回発射前に白旗を掲げられて未発射に終わった攻撃準備を開始した。まず冴内と美衣が両腕のチョップを、そして優は二本の剣を一か所に束ねた。宇宙艦隊の攻撃で音は全てかき消されているが、誰が見てもヤバイと感じる高エネルギーが先端に収束していく姿が映し出された。


 一方の画面では全艦隊に退避行動を命令する様子と、衛星要塞が惑星破壊ビーム及びミサイルの発射シーケンスを開始している様子が映し出された。


 次の瞬間冴内達がいたと思われる場所から虹色の閃光が大規模宇宙連合艦隊に向けて照射された。それまで過剰すぎる飽和攻撃を受けて巨大なエネルギーの潮流と化していた光景は一瞬で消え去り、エメラルドグリーンに輝く菱形の透明バリヤーの先から眩い虹色の光線が照射されていた。先端は点で先は細いが距離が離れていくごとに太く広く円錐形状に広がっていた。


 虹色に輝く光のライトが右から左に薙ぎ払われると大規模宇宙連合艦隊のほとんどが消滅し、大規模宇宙連合艦隊は壊滅的な状態に陥った。


 衛星要塞が発射シーケンスを終え、乾坤一擲の惑星破壊ビームとミサイルを冴内達に打ち込んだが、冴内達は虹色のビーム照射を続けながら衛星要塞に向かって凄まじい速度で移動していった。しかし千分の1に縮小されているので観客達にはそれほど速く見えなかった。惑星破壊ビームもミサイルも冴内達の虹色ビーム照射の前に押し負けて打ち負かされているかのように見えた。さらにそのまま前進をし続ける冴内達。


 まったく前進を止めない冴内達はとうとう衛星要塞を貫通し、衛星要塞には巨大な穴が出来た。数秒後衛星要塞は爆散し、その衝撃に巻き込まれた艦船も次々に爆散していった。中には爆風で航行不能になった艦船同士が激突して爆発していったものも多く、遠くから見ている分には美しく見えなくもないが、艦内にいる当事者達からすれば阿鼻叫喚の地獄絵図以外の何物でもなかった。


 生き残ったわずかな艦船から降伏の意を示す発光信号が光り輝き戦闘終了がアナウンスされた。


 衛星要塞に新型建造戦艦を多数配備した大規模宇宙連合艦隊は戦闘開始からわずか10分で壊滅した。ほとんど戦闘の体を成しておらずまるで大花火大会のような光景だった。


 場内アナウンスにより勝敗が高らかに宣言されるもあまりのあっけなさに観客達もどうリアクションして良いのか分からず誰も勝鬨をあげず、まばらに拍手が寂しく聞こえてくるだけだった。


 冴内の前には勝利者の戦利品として宇宙艦隊司令長官の帽子と最高の栄誉を表す名誉勲章が授与されたが当然優も美衣もまるで感心がなく、一応冴内が帽子を被って勲章をつけてみたが、まったく冴えない姿で似合っていなかった。


 場内アナウンスからは新型建造戦艦や衛星要塞、その他の歴戦の戦艦や駆逐艦や空母や輸送艦等々の模型の販売も告げられたが恐らく売り上げはかなり芳しくないだろう。


 こうして大闘技大会で最も戦闘規模が大きく、過去に誰一人として勝利することがなかった、今大会最大の目玉の勝負は今大会一番盛り上がらない結果になってしまった・・・


 いつものように石畳の上には冴内達だけになり、場内アナウンスからは謝罪の言葉がかけられた。


「いや・・・こちらこそ、なんかすいません」


『いえ、やはり【∬∬∬ーΘΨーФ∀!】選手が言っていたことは真実だったのですね、もはやこの宇宙には皆様に敵うものなど存在しないのだと今日の戦闘で思い知りました』


「うーん・・・そうなんでしょうか・・・どうにも実感はありませんが、ただ最初に言った通り、勝つとか負けるとかそういう意識がほとんどなくなってしまったんです」


「もし負けても、宇宙に帰るからそれでもいいかって思うようになってきたんです」


「父ちゃん一人が帰るのはやだ!」

「そうよ洋!帰るなら一緒に連れてって!」


「あっごめん、そういうつもりで言ったんじゃないんだ、なんというか・・・だめだなぁ・・・うまく言えないや、やっぱり僕は冴えないままだね・・・プッ・・・アハハハ!」


「アハハ!父ちゃんらしいや!」

「アハハハ!本当ね!洋はやっぱり洋のままね!」


『冴内様・・・あなたというお人は・・・』


「ところで明日で大闘技大会も最後なんですよね?明日の相手はどういう方なんですか?確か7人の戦士に2組の戦闘隊だったと思うのですが・・・」


『はい、明日は個人戦、1対1の闘いになります』


「相手は誰なんですか?」




『明日の相手は星です。明日は星と闘ってもらいます』




「ほ・・・星ィィィ!!??」


『はい、明日は私達が存在するこの宇宙で最も大きく強く長命な太陽と闘っていただきます』


「それって・・・勝負になるもんなんですか?」

『はい、明日対戦すればすぐに分かるでしょう』


「こ・・・個人戦なんですよね?」

『そうです、1対1の個人戦です』


「・・・分かりました、明日は僕が闘います」

『承りました!健闘をお祈り申し上げます!』


 そういうわけで、明日はとうとうスーパー太陽と闘うということになった冴内であった。当然星と闘うという発想など持ち合わせていなかったので、冴内は相変らず冴えない頭を働かせてとりあえずプラネタリウムでも見に行こうかなどというとんちんかんなことを考えるのであった・・・


 かなり早く試合が終了してしまったので、冴内達は研修センターまでおしゃべりしながらゆっくりペースで走っていった。


「考えてみれば優は小さい頃に宇宙を破壊する程強かったわけだから、もしも闘技大会が試練の門の中じゃなくて、どこか本当にある星で行われていたらまるで勝負にならないくらい強いんだよね?」


「そうね、もしも本気を出したら試合開始と同時に闘技場どころか宇宙そのものがなくなるかも・・・いや・・・違うかな?」


「うん、ちがうと思うぞ母ちゃん、あのとうぎじょう、ぶっこわせないぞ多分・・・」


「えっ!?そうなの!?」


「うん。だって、そうじゃなかったら父ちゃんのびっぐばんちょっぷで今ごろは何もかも全部なくなってるぞ」


「あっ・・・そうか・・・まいったな、美衣に教えてもらうまでそんなことにすら気付かなかった」


「仕方ないわよ洋、何もかもがあまりにも現実離れしているもの」


「たぶん父ちゃんのきおくで見た、マンガとかアニメのことみたいだからだ」


「そうか!そうだね、そうだよ、アハハ!なぁんだそんなことか!アハハハハ!」

「アハハハ!」(美衣)

「アハハハ!」(優)


 まぁ確かにこの物語は空想上の話しではありますが、それにしてもそんな反応を示す物語の主人公ってのもそうそういないと思いますよ冴内先生・・・

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