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141:宇宙海兵隊vs冴内ファミリー

 【げんしょのひと】に関する場内アナウンスの説明は試練の門の音声ガイドが言っていた話しと大部分が合致していた。そして幾つかの新しい情報がそれに加わった。


 例えばりゅう君のオジサンの話しに出てくる宇宙連合の基礎となる組織を作り上げたとか、ミャアちゃんの星が宇宙イナゴの大群により壊滅しかけたときに助けに来たとか、宝石や鉱石だと思われて採掘されそうになったクリスタル星人に言語を与えて彼らが他の宇宙人同様知的生命体であることを宇宙に知らせたなどがあった。


「すごい宇宙人さん達って本当にすごかったんですね」と、お前ちゃんともの考えてしゃべってるのかとツッコミたくなる程相変らず冴えない言葉を発する冴内先生。

「すごいうちゅうじんはとっても優しいな!あってみたい!」

「そうね、どんな人達なのかしら」


「かいちょうさんはあったことあるのか?」

「うん?わしかね?う~ん・・・小さい頃に会ったことがあったような気がするが、もうよく覚えておらんなぁ・・・なにせもう何百万年も前のことだからのう・・・」


「ふーむ・・・父ちゃん!アタイすごいうちゅうじん・・・えーと・・・げんしょの・・・ひと?にいつかあってみたい!」

「そうだね、僕も第四の試練に入ったときあたりからとても会いたくなったよ」

「でもそれには良くないものと対峙しないといけないのよね?」

「そうだね・・・神代さんや道明寺さん、他にも世界中の人達にも了解をとらないといけないね」


「アナウンサーさんは【良くないもの】について何かご存知ないですか?」


『いえ、全くの初耳です。【げんしょのひと】にそのような過去があったなんてことは今知りました』


「えーと・・・前回の試合は4万年前で、大闘技大会の試合は300万年前・・・でしたよね?」


『そうです、前回は通常規模の闘技大会で4万年ぶりでしたが、大闘技大会の方は300万年ぶりです』


「前回の大闘技大会の方にはげんしょのひとはいなかったのですか?」


『はい、おりませんでした。しかし裏方として色々と御尽力していただいたと記録文献データには記載されておりました』


「それならわしも覚えておる。前回の大闘技大会はわしのルーキーデビューの年だったからのう。アナウンサーの申す通りげんしょのひとは表舞台には全く現れなかった。ただ関係者達がほぼ全員口を揃えて言うにはげんしょのひとがいなければ大闘技大会は生まれていなかったと言っていた」


『そうですね、古い文献データでは大闘技大会は元々宇宙各地の戦争や紛争状態の一つの解決手段から始まったともあり、それを提唱したのがげんしょのひとだと記載されています』


「音声ガイドもげんしょのひとの所在は分からないと言っていましたが、やはりその所在を知る方はいないのでしょうか?」


『そうですね・・・私と私が触れることのできるデータベース上には存在しません』


「申し訳ない冴内殿、わしにも分からないし、わしの知り合いも皆とうに死んでしまっておるので手がかりはつかめん・・・」


「いえ、どうかお気になさらないで下さい・・・しかしそうなるとやはり【良くないもの】と対峙しないと【げんしょのひと】の手がかりは掴めないということですね・・・うーん・・・」


「あなうんさーのおっちゃん!げんしょのひとってすごく強いのか?たぶんよくないものはげんしょのひとよりも強いぞきっと!」


『げんしょのひとの強さですか?・・・少々お待ちください・・・~1分経過~・・・えーと・・・そうですね・・・これといった記述はないのですが、200万年程前に宇宙イナゴの駆除に大規模宇宙連合艦隊が投入されたのですが、ほとんど壊滅的な状態になりました、その際げんしょのひと達が率いる小規模船団が助けに来たところ、わずか半日で駆除出来たとあります』


「・・・うちゅういなごがよくわからん」


「確かに宇宙イナゴの強さは分からないね・・・では、大規模宇宙連合艦隊ってどれくらいの武力規模なんでしょうか?」


『そうですね、次の次、第八試合で登場しますので実際に【戦われて】みるのが一番かと思います』


「えっ!?そんなものと闘う、いや、【戦う】ことになるんですか!?」


『はい、当時よりもさらに性能が向上した新鋭艦や衛星要塞も登場しますから強さをはかるのには丁度良いかと思います!』


「・・・・・・」×3(冴名、優、美衣)


「分かりました・・・色々と教えていただきありがとうございます」


『いえ、こちらこそあまりお役に立てる情報を提供出来ず申し訳ありません・・・』


 こうしてげんしょのひとの手がかりらしきものはあまり得られず、そのかわりに第八試合では大規模宇宙連合艦隊とたった3人の親子が徒手空拳で闘う、いや、戦わなければならないという悲惨極まりない情報を得たのであった・・・


 その後、龍族の名誉会長がオープン居住スペースに設置された机の通信装置を使って、りゅう君のオジサン達が所属する組織と会話して、これからそちらに向かうなど、色々と会話した。事態が収集した後に改めてお礼をしに参ると名誉会長は言い、冴内は何度もどうかお気になさらずにと言ったが、さすがに数百万年も生きている頑固さをくじくことは出来ず、頑としてお礼をすると言って聞かなかった。


 名誉会長は闘技場の登場ゲートに戻っていき、後には冴内ファミリーだけが残された。冴内はもう一度闘技場の石畳に戻り、場内アナウンスに明日の対戦相手を聞いたところ、明日は宇宙最強の特殊部隊が相手で明日は団体戦になると教えてもらった。


 冴内はオープン居住スペースに戻り、ふと机に座り思いついたことを試してみた。


 するとすごく驚いた表情の道明寺と神代が現われた。二人は恐らくPC用のWEBカメラの前にいると思われる。


「さ!冴内さん!?い・・・今どちらに?」と、二人とも同じようなセリフを同じようなタイミングで問いかけてきた。


「はい、今こちらは大闘技場の前の僕らが寝泊まりしている居住スペースにいます。ここにある通信設備を使ってみたのですが、地球側にも繋がるんですね!」


「はい、突然私のPCモニタに冴内様からのコールが来ているというこれまで見たこともないアプリの画面が表示されたのでとても驚きました」(道明寺)

「自分もです」(神代)


「驚かせてしまってすいません・・・お二人ともお忙しい身なのでとても恐縮なのですが、この後そちらに行って相談させていただきたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「いえ!お気になさらず!冴内様のこととあれば全てにおいて最優先しておりますので!是非ともこの不肖神代めになんなりとお申し付けください!」


「ありがと!かみしろのおっちゃん!だいすき!」美衣の必殺技炸裂。


 ウォオオオオーと、号泣する神代に代わり道明寺がそれではいつもの中会議室でお待ちしておりますと返答して通話は終了した。なお、昼は食堂で食べると言ったとき、冴内の後ろで美衣が久しぶりにパンを食べたいというセリフを優にしていたのを道明寺は聞き逃さず、すぐに食堂に大量のパンが必要だと指示した。


 その後冴内達は研修センターに行き食堂にて昼食をとった。美衣は様々なパンを沢山食べて大満足の様子でそんな様子を厨房の奥で見つめる料理人達も大満足だった。いつだって可愛いは正義だった。


 昼食後、優と美衣は料理を教わるということで厨房に行き、冴内は一人中会議室に向かった。中会議室には既に道明寺とネット通話の神代もいた。まずはいきなり本題に入る前に地球側の近況を聞くことにした。


 地球側のトピックスとしては、力堂達が50階層にある闘技場タワーの敵を全て倒しとうとう50階層を攻略したとのこと。そのときの成功報酬で各メンバーのステータスが200台に到達し、生命力(HP)や魔法力(MP)も2千台にまで跳ね上がり、冴内達を除いた地球人類史上最強スペックのチームになったそうだ。そして世界各国からやってきた上位シーカー達のレベルアップもやはりかなり良好とのこと。機関から選抜された将来有望な初級シーカー達も難易度優しいでは大きな怪我などもなく通常のゲート内世界でレベルアップするよりもかなり効率的に短時間でレベルアップしていったそうだ。これにより今後はますます試練の門に挑むシーカー達で賑わうだろうということで、これまで過疎ゲートだった奈良ゲートにも多くの人が集まって地元産業の活性化にもなるだろうと道明寺は喜んでいた。


 一通り色々な近況報告を聞いた後、前日までの場内アナウンスや龍族の戦士、りゅう君のオジサンの上司の名誉会長との一件を全て話した後で、冴内はいよいよ今日の本題を切り出した。


「このまま大闘技大会の対戦相手全てに勝利することが出来たら【げんしょのひと】が残した【良くないもの】に会おうと思います。そして【良くないもの】とは戦わずに何とかして話し合いたいと思っています」


「・・・やはり・・・そうお考えでしたか・・・」と、神代。


「はい、実は数日前のことですが、多分僕は夢の中で【良くないもの】に触れたような気がします」


「・・・!!」


「その時の記憶は全く覚えていないのですが、優と美衣によると、僕は泣いていたそうです。その後場内アナウンスと龍族最強の伝説の戦士から【げんしょのひと】や【良くないもの】の話しを聞いているうちにどうしても【げんしょのひと】にも【良くないもの】にも会いたい、いや、会わなければならない気持ちがとても強くなりました。自分の正直な気持ちでもあるのですが、それだけでなくなんか宇宙からもそれを望まれているような気がします」


「分かりました。冴内様から連絡があったときに道明寺とも話し合い、恐らくこの場にて冴内様はそう言うだろうと思っておりました。早速これから全機関局長級会議を行います。なるべく冴内様のご要望に沿うよう全力を尽しますが、もしも否決されたとしても、冴内様はご自分の道を歩みください。以後は我々の方で責任をもって全て対処いたします」

 道明寺も真っ直ぐ冴内の目を見て頷いた。


「すいません・・・いや違いますね、有難う・・・有難う御座います!神代さん、道明寺さん!」


「いえ!いえ!それでいいのです!それでこそ冴内さん、あなたなのです」


 こうして冴内はこれから大闘技大会で全勝優勝することが出来たら【良くないもの】に会うということを打ち明け、日本を代表する二人の局長からは力強い後押しを得ることが出来た。


 中会議室を退出した冴内は食堂に戻り、優と美衣に合流してオープン居住スペースに帰っていった。二人は今日は中華料理とパンの作り方を教わったということで、今晩は中華三昧で満漢全席 (まんかんぜんせき)のフルコースだとはりきっていた。


 まさしく豪華絢爛の夕食に舌つづみを打ち、大満足した冴内は食後のフルーツを食べながら優と美衣に今日のことを話すと、美衣は喜び闘志満々になってシャドーボクシングチョップをシュッシュッとやり始め、優はまずその前に大闘技大会全ての相手に勝つことが先決ねと言った。


「確かに優の言う通りだね。次の次だっけ?第八試合で僕等3人でなんだか良く分からない大規模宇宙連合艦隊とかと戦わないといけないんだよね。もう戦いというよりは大戦争だと思うんだけど・・・」


「そうだった、すごいたくさんのおふねとたたかうんだった。うーむむむ・・・」

「そもそもどうやって戦えばいいんだろう・・・」

「洋のビッグバンチョップがあればイチコロよ!」

「そうか!そうだ!父ちゃんのびっぐばんがあればいっぱつだ!」

「うーん・・・本当に大丈夫かなぁ・・・」


 と、明日の宇宙最強の特殊部隊のことは完全にアウトオブ眼中という冴内ファミリーであった。


 明けて翌日。


『全宇宙の皆さまお待たせしました!大闘技大会第七試合を行います!いよいよ本日は団体戦となります!団体戦の開催は50万年ぶりでしょうか!本日も見ごたえ充分の試合になりますので皆さん是非ともお見逃しなきよう願います!』


『それでは選手紹介!まずはこれまで無敗で破竹の勢いで勝ち続けている宇宙最強ファミリー!挑戦者サイド冴内ファミリーの皆さんです!!』


「「「ワーーーーッ!!!」」」


「ミイちゃんたちー!がんばれぇー!」

「洋様ぁーーーッ!」


『対しますのは宇宙最強の特殊部隊!宇宙連合軍から選りすぐりのエリート戦士達のさらに上、まさにトップオブトップとも言える最強エリート集団!宇宙連合軍第893独立海兵隊の登場です!』


「「「ワーーーーッ!!!」」」


 一糸乱れぬ動きで素早く出てきたのは全員サイボーグ戦士だった。全身が光を吸収するつや消し塗装の金属ボディで皆様々な武器を携行していた。見るからにやばそうな多弾頭ロケットランチャーや銃身が8本もあるビームガトリングにビームバズーカ、大型のビームトマホーク(両刃)を持っているものもいる。さらに最後尾には全長5メートル程のパワードスーツを着込んだものまで出てきた。当然フル武装だった。


『両者、試合開始してもよろしいでしょうか!』

冴内と隊長と思しきコマンドがコクンと頷いた。


『それでは戦闘開始ィーーーッ!』


 場内アナウンスは試合開始とは言わず戦闘開始と言ったが、それと同時に893部隊の海兵隊はありたっけの火力を情け容赦なく冴内達にぶっ放した。それはもう全弾打ち尽くす勢いで、銃身が焼き付けようともお構いなしにありったけ全てを叩き込んだ。


 あまりの凄まじい火力と威力、ビームのシャワーにパワードスーツからの実体弾や多弾頭ロケットの爆風などで、着弾地点は全く何も見えなかった。


 冴えない細身の若い父親、美しい新妻、幼き可愛い少女というこれ以上ない程の平和で幸せな3人家族に対してこの残虐極まりない情け容赦のない問答無用で無慈悲な攻撃。まさに泣く子も黙る涙も枯れる冷酷非情893な攻撃であった。


 それを見ていた観客達もミャアちゃんも泣き叫ぶことすら出来ず、ただただその光景を茫然自失に近い状態で見ることしかできない状況だった。


 凄まじい攻撃による熱波と爆風が徐々に収まり始めると何やらエメラルドグリーンの輝きが見え始めた。果たしてそこに現れたのは、第五試合で大魔術師のエルフ【ΠΩΛーΛΩΠ】が見せたバリヤーであった。【ΠΩΛーΛΩΠ】に勝利した冴内は彼女から指輪をもらい、それを優の右手人差し指にはめたのだが、恐らくそれによって大魔術師の魔術を身につけたのだろう。


 そしてそのバリヤーに守られた中には仮面バイカーに変身した冴内ファミリーが揃っていた。冴内と美衣は虹色に輝いている状態で、それに加えて美衣と優は戦闘獣モードにもなっていた。冴内ファミリーからは凄まじい虹色のオーラが放出されており、誰が見ても明らかな程この後凄まじい攻撃が放たれるのだろうと思われた。


 冴内ファミリーは何やら3人集まってこれまで見たことがないような何かをしようとしていた。冴内と美衣は両腕のチョップを、優は二本の剣を一か所に束ねており、明らかにヤベェ何かをぶっ放そうとしていた。光がどんどん収束収縮縮退していきキュワァァーという音が発生していく。誰もがこれはマジでガチでヤベェヤツだと確信したその時。




 宇宙連合軍第893独立海兵隊は白旗をあげた。




『おーーーっと!白旗!白旗です!冴内選手ストップ!ストーーーップ!』


 即座に絶叫実況した場内アナウンスがなんとか間に合い、宇宙最強の特殊部隊、宇宙連合軍第893独立海兵隊は消滅を免れた。


「「「ワーーーーッ!!!」」」


『なんという結末!自分達はやりたい放題攻撃しておいてその後は白旗降参!なんというかある意味でさすがプロフェッショナルです!判断もタイミングも的確で迅速でした!』


 宇宙連合軍第893独立海兵隊の最強エリートサイボーグ達はペコペコと冴内ファミリーに頭を下げた。全身つや消し塗装のメタリックボディなのに何故か額から汗が出ているかのようだった。隊長コマンドが冴内の方に歩み寄り互いに握手をすると、ポケットからエリートコマンドの証である栄誉あるワッペンを取り出し冴内の防護服の胸にベロクロ式のマジックテープで取り付けた。その後海兵隊員全員で冴内ファミリーに対して敬礼をして、回れ右して一糸乱れぬ動きで登場ゲートに戻っていった。そそくさと去っていく後ろ姿に対して今大会始めてあちこちからブーイングが聞こえていた。


『なんと言いましょうか、汚名やブーイングを被ることなど意に介せずただ部隊の存続と任務達成のみを優先するプロフェッショナルの姿を見ました!ともあれ第五試合も冴内チームの勝利です!』


「「「ワーーーーッ!!!」」」


「良かった!ミイちゃぁーーーん!!」

「洋様ぁーーーッ!」


『しかしなんともあっけない試合でした!あの後もしも冴内チームの攻撃が放たれていたらどうなっていたのでしょうか!こうなると明日の団体戦の試合が楽しみになってまいりました!明日は宇宙連合艦隊が登場します!皆さんお楽しみに!それでは本日の試合は終了です!皆さんお疲れ様でした!』


 初めての団体戦であったが、試合時間はこれまでで最も短く開始わずか10分も経たず終了した。再戦を希望するかと場内アナウンスから尋ねられたが、美衣も優も冴内の胸に貼られたワッペンを一目見て要らないと即答したので再戦はなかった。


 かなり時間が余ってしまったので美衣と優はオープン居住スペースのキッチンで昨日教わったパン作りにいそしむことにして様々なパンを作って楽しんだ。明日は大規模宇宙連合艦隊との大戦争になるのだが、それよりもパン作りの方が重要らしかった。確かにパン作りの方が人としてよっぽど有意義ではあった・・・

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