139:大魔術師vs???
これまでで最も短い時間で試合が終了したのでお昼まではまだまだ時間があった。昨日の優の予定では米や納豆や醤油や味噌などをタップリ調達して戻る予定だったのだが、冴内が宇宙と一体になって魂が宇宙中に拡散してビックリしてしまいすっかり忘れていたので、もう一度今度はしっかり食材等を調達したいということで研修センターに向かうことにした。
途中何組かの試練の門に挑むシーカーパーティーとすれ違い、尊敬されたり畏敬されたり拝まれたりしながらも頑張って!と声掛けしていった。とりわけ優や美衣に応援されると大体のパーティーは号泣していた。
奈良ゲート村も大分賑やかになってきており、例の堅くて良質な木材を使った宿泊用ロッジや換金所やステータス登録所などの施設も、簡易的なものからしっかりした小屋に建て替えられていた。大工シーカーの宮達がトントンカンカンと凄まじい速度で大工仕事にいそしんでいた。旧姓早乙女も山のように積まれた建築材料をリヤカーでせっせと運搬していた。後で一緒に食堂で昼食をとることを約束して冴内達は研修センターに向かっていった。
研修センターは平日の午前ということで人は少なかった。優と美衣は早速食堂で昨日の料理研究の続きをすることにして、冴内は最近持ち込んでなかった様々な食材とミラクルミックスジュースなどを素材研究室に持ち運び、助っ人で常駐している鈴森や道明寺配下の鑑定士達に合流した。
残念ながら冴内が持ち込んできたものは全て鑑定不能だった。また、瀕死の人間をすぐに完全回復させるはずのミラクルミックスジュースは、原液を常人に飲ませると恐らく即死するかもしれないというまるっきり正反対の毒物扱いになってしまった。他にも仮面バイカーのバイカーベルトや最強獣人の首飾り、さらにはスーパーヒューマンのマントなども全く鑑定不能アイテムで、ライトサーベルは優に借りてこないと冴内のは体内に同化して消滅してしまったのでそもそも鑑定自体が不可能だった。
その後冴内は情報戦略室に行って、試練の門専門情報戦略チームと合流した。第三の試練までは冴内専用のチームであったが、冴内達のレベルと試練の内容が遥か高みに行き過ぎてしまったため、もはや冴内達には何一つアドバイス出来ることはなくなってしまった。そのため今では力堂達や新たに続々とやってきた試練の門に挑むパーティー達への戦闘補佐として活躍していた。
試練の門専門情報戦略チームは土下座どころかそのまま切腹でもしてしまうんじゃないかというくらい冴内に対して深く謝罪の念を伝えようとし、冴名はなんとか場をなだめようとしたのだが、そういうところは相変らず冴えない冴名なので、仕方がなく宇宙に頼ることにして両手を優しく広げると銀河が現れてその場の全員が優しい宇宙の愛に包まれた。しかし明らかにやり過ぎてしまって職員全員が宇宙の大いなる愛に感動して大泣きしてしまった。冴名は逃げるようにその場から退出した。仮にも愛の使者がそんなんでいいのだろうか・・・
冴名は次に資料室に行って、ここしばらくまったく地球上でのニュースを見ていなかったことに気付き、これはいかんということで地球上で今どんなことが起きているのか知ろうとしてネットニュースを見始めた。開始数分で冴名達のやらかしたことが世界中で大ニュースになっていることが分かり、そっと画面を閉じて資料室を退出した。
前回ペロペロキャンディ事件で家族に会ってからまだ一ヵ月少ししか経ってないのと、この場に美衣がいないので今自分が家族に連絡しても、美衣は今はいないと言った瞬間に強烈に電話越しでも両親が絶望するのが分かりそうだったのでやめておいた。そもそも平日の午前ということで恐らく家には母しかいないはずだというのも理由の一つだった。
そうこうしているうちにお昼近くになったので食堂へと向かうことにした。愛変わらず美衣の調理服姿はめちゃめちゃ可愛かった。既に到着していた旧姓早乙女はそんな美衣を見て溶けそうなくらいメロメロになっていた。宮も一人目は絶対女の子が欲しいと強く願っていた。もちろん冴内達の今日の昼食は美衣と優の手作りで、宮達一般シーカーも食べるということで力堂達が入手した食材を使うことにした。冴内達が滞在している場所にある食材だと一般シーカーが口にした瞬間何が起こるか分からない程危険なのでやめておいた。
宮夫妻に鈴森と道明寺も参加して、優と美衣の料理が運ばれてきたが、ウソだろ?というくらいとんでもなくレベルが高いフレンチ風のコース料理が出てきた。前菜からして、凄まじく手が込んであり、味だけでなく見た目や盛り付けまでが一流シェフ顔負けの出来栄えだった。しかも前菜は美衣が作ったとのこと。ちなみに美衣の腹はパンパンに膨れていたので恐らく料理の練習や味見などでかなりの量が収められたに違いなかった。
美衣の姿を見るだけでも可愛らしくてとろけそうになるのに、料理の味も美味し過ぎてとろけそうになり、前菜だけで既に幸福度MAXだった。冴内の大宇宙の愛も顔負けになるくらい、美衣の容姿と料理で食事をした全員は愛に包まれて涙を流した。当然冴内本人も号泣した。道明寺や鈴森も含めて全員泣きながら食事をする姿は、はたから見たらあれは一体どういう光景なんだと理解に苦しんだことだろう。
一通り野菜や魚を使った前菜が終わり、メインディッシュに優が作ったヒレ肉の赤ワインソース和えを一口含んだ瞬間、あまりの美味しさに気絶しかける程で、料理の先にギャラクシー大銀河が垣間見える程だった・・・って書いてる作者本人も、どんな料理だよそれはとツッコミたくなる程だった。ちなみに優のお腹も結構パンパンだった。相当練習と試食を重ねたらしい。ふと食堂の厨房の奥を覗いてみると料理長が涙ながらにサムズアップしていた。
幸せいっぱいの昼食会を終え、今日こそ忘れずに米や味噌などの調達品をもって冴内達は試練の門に戻っていった。沢山の激励を浴びて冴内達は研修センターを後にした。
オープン居住スペースに戻って大闘技場の石畳に登り明日の対戦相手について尋ねると、明日は大魔術師が登場することが分かった。これまでは近接直接攻撃主体の相手だったが、次の相手は離れた距離からの攻撃が主体になる。明日は優の番なので果たして剣豪の優と魔法攻撃の魔術師との相性はどうなんだろうかと心配したが、優からはやってみれば分かるというそっけない答えと、もし負けても冴内が出れば全部解決するから全く気にしていないという答えがかえってきた。その後夕食をとり入浴し就寝したが、その夜は冴内は夢は見なかった。
翌朝、昨日仕入れた米に納豆をタップリ乗せた朝食を取り、いつものルーティーンで瞑想し、軽く冴内と美衣の二人がかりで優の練習試合を行い、9時頃に大闘技場の石畳の上にあがった。
『皆さまようこそお帰り下さいました!本日も変わらぬ満員御礼、真に有難う御座います!さ~全9試合のうちちょうど真ん中の第五試合となりました!本日は宇宙一の魔術師【ΠΩΛーΛΩΠ】選手の登場です!本来は超科学に属する技術の一つの到達点と言って良いものなのですがあまりにも技術レベルが高すぎるがゆえにもはや科学ではなく魔術だと形容されたのが始まりです!本日はかなり危険な試合になりますので、闘技場周辺にはバリヤーを張らせていただきます!観客席の皆さまにおかれまして、試合終了まで闘技場の方には行かれないようお願いします!』
『対するは言わずと知れた冴内ファミリーの麗しき剣豪!光の剣士を倒したことで光の剣の二刀流を開眼した冴内 優選手の登場です!』
「「「ワーーーーッ!!」」」
「優ーーーッ!」
「お母ちゃぁーーーんッ!」
「ミイちゃんのお母ちゃーーーん!」
最初から仮面バイカーに変身し、右手には光の刃をまとったレイピア、左手には光の剣士から譲り受けたライトサーベルを持った優、しかもケモミミ獣人少女の首飾りによって、戦闘獣モードになっており、美衣の時と同様ヘルメット部分は髪の毛が露出しており美しい銀髪が見事に逆立っていた。赤い目の部分も光っている。
対する大魔術師はいかにもといったローブを身にまとっていた。そのローブはかなりゴージャスな見た目で極彩色に彩られたローブだった。とても長身で2メートルくらいはありそうだ。ローブはゆったりしているのでどういう体格までかは分からないがそれほど肩幅は広くなく、なで肩なのでガッシリした体型ではないようだ。そして首には様々な宝石が繋がれたネックレスがぶら下がり、両手の指にも様々な宝石の指輪がはめられていた。
これまでの対戦相手と違って、優から距離をとった位置で静止すると大魔術師はローブのフードを頭の後ろに動かした。そうして現れたのは見事なまでに女性エルフだった。ファンタジー小説では必ず登場するお約束の容姿で耳は長く、とても美しい顔立ちで目はエメラルドグリーンで髪は見事な黄金色だった。優は仮面バイカーで戦闘獣状態だったので、当然大魔術師の素晴らしい美貌が引き立っていた。
『それでは両者!よろしいでしょうか!』
「がおーーーっ!」
「・・・・・・・」
『えーと・・・【ΠΩΛーΛΩΠ】選手?』
「こんなん相手に勝てへんやろ!どないしたら勝てるっちゅうんや!ええ?」
『おーーーっとぉ!【ΠΩΛーΛΩΠ】選手!昨日のスーパーヒューマン【∬∬∬ーΘΨーФ∀!】選手と同様のセリフーッ!!』
「考えてもみい!そもそもが宇宙最強の【♪ー♪♪ー♪♪♪♪】人やど!それがここまでの対戦相手を倒してあやつらの力を受け継いでるっちゅうんやからそんなエゲツないもん相手にどないせいっちゅーんじゃ!もうどないもこないもしゃーないわ!」
優に負けず劣らずの美貌を誇るエルフは見事な関西弁だった。それも大分アレな口調で、見た目とのギャップが凄すぎた・・・一応唯一の救いとして、その声は非常に美しい声だった。
『いやしかしその・・・せっかくの大闘技大会、300万年ぶりの試合ですから・・・宇宙全土でこの大会を楽しみにしている観客のためにもここは一肌脱いでもらえないでしょうか・・・』
「こんなエゲツないもんと戦ったら一肌どころか全部の皮が脱げて、後にはチリ一つ残らんわ!アホンダラ!」
『そうおっしゃられずここはなんとか、ファンサービスを・・・』
「脱げばいいんか?脱げば闘わんでも許してくれるか?なんぼでも脱いだるど!スッポンポンで裸踊りでもしよか?ほしたら許してくれるか?」
『いやいや、宇宙公序良俗に反する行為はダメですよ【ΠΩΛーΛΩΠ】選手!そもそもあなた様は遥か昔にお亡くなりになっているじゃないですか』
「アホウ!いくらコピー体とはいえ、怖いもんは怖いんじゃ!あんなもんに八つ裂きにされてみい!いくらコピー体とはいえトラウマになるやろ!」
『これは困りました・・・皆さん待ちに待って待ち焦がれた今日の試合が・・・【ΠΩΛーΛΩΠ】選手の美しいお姿と美しい魔術の数々が見れないなんて・・・なんと悲しいことでしょうか、【ΠΩΛーΛΩΠ】選手の末裔の皆さんもさぞや嘆き悲しんでいることでしょう・・・』
「チッ!痛いトコ突きおってからに・・・・・・ハッ!?待てよ!オイ!閃いたぞ!選手交代!選手交代を要求する!そこのヤベェヤツの代わりに冴内の夫を出せ!昨日【∬∬∬ーΘΨーФ∀!】を倒した冴内 洋を出せ!」
「昨日の闘いと同じように、ワイの全部!これまで隠してきた秘奥義も見せちゃる!全部だ全部!ありったけの大魔法を特別大サービスで見せてやるから勘弁してくれ!」
「ほしたらその後冴内 洋のビッグバンで消滅させてくれ!アイツの攻撃で消えるなら怖くない!【∬∬∬ーΘΨーФ∀!】に聞いたらむしろ幸せいっぱいだったいうとるしな!ワイもビッグバンを体験してみたい!」
「これでどうや?アカンか!?」
『・・・・・えーと・・・優様はいかがですか?』
「がおーっ!私はそれでも良いわよ!がおーっ!」
『洋様、このようにリクエストされましたがいかがでしょうか?』
「えっ?あ?僕?・・・いいですよ、はい」
「「「ワーーーーッ!!」」」
「「「ワーーーーッ!!」」」
「「「ワーーーーッ!!」」」
『さぁー皆さま!大会史上初めての選手交代!選手交代です!大変なことになってまいりました!なんと我々は昨日に続き今日もあのビッグバンを体験出来るのです!しかも【ΠΩΛーΛΩΠ】選手のとっておきの大秘術も見れるという大サービスっぷり!今日のこの試合はもう永久保存版ですよ!いや!これまでの試合も当然未来永劫語られるものですが、今日の試合も大変なことになりましたよ!』
『ではいったんバリヤーを解除いたしますので、どうぞ冴内選手、交代をお願いします!』
そうして優と冴内は選手交代し、エルフの大魔術師の前に立った。
『それでは改めまして本日の第五試合!大魔術師の【ΠΩΛーΛΩΠ】選手対ビッグバンチョップの冴内 洋選手の試合を行いまーーーす!』
「「「ワーーーーッ!!」」」
「父ちゃん頑張れー!」
「がおーっ!洋ーっ!がおーっ!」
「えーと・・・昨日の要領でいいのかな?」
「アンタええ顔しとるなホレるでホンマ」
「どうも・・・って、いや、そうじゃなくて」
「せやな、昨日と同じでワイが今からアンタにワイの全て、これまで誰にも見せなかったワイの全てをアンタにぶつける、ワイの恥ずかしいところも全てや、受け止めてくれるか?ワイのはぁとを」
「・・・なんかちょっと重い気がするけど分かりました。あなたの全部を受け止めます」
「ええ男やなぁホレるでホンマに、ほないくで!」
エルフの大魔術師はさらに冴内から距離を取り、何やら詠唱をし始めると、やはりファンタジー小説やアニメに良くある巨大な魔法陣があちこちに出現して冴内を取り囲んだ。見るからにヤバイものが始まる雰囲気でバリヤーがミシミシと音をたてるかのようだった。エルフの大魔術師は当然自分の周りには強固なバリヤーを張っている。
「アンタのビッグバンには敵わんがワイのスーパーノヴァもなかなかのもんやど!あぁ・・・生きてるうちにアンタと会いたかったなぁ・・・」
「ほんじゃカウントダウンいくでぇ!5!・・・4!・・・」
「「「3!・・・2!・・・1!・・・」」」
「「「「 ゼロ! 」」」」
キュゥゥゥーッ!シュパァァァーッ!
・・・
・・・
・・・
ドゴォォォォォォーーーン!!!!
ビリビリビリビリビリィッ!!!!
ズシィィィィィィーーーン!!!!
まさに超新星爆発だった。バリヤーのあちこちにヒビが入るほどだった。凄まじい閃光、網膜が焼かれるんじゃないかという程の閃光、極彩色のスパーク、遅れて後からやってきた大音響と衝撃波、それがおさまった後も粉塵で何も見えずプラズマがあちこちで稲妻のように光り輝いていた。
5分程たってようやくバリヤーの内部が少しづつ見え始めてきて、二つの光り輝く存在を確認した。
小さなエメラルドグリーンに輝くバリヤーで守られたエルフの大魔術師、そしてその前に静かに佇んでいるのは左手を天高く掲げ、右腕を水平に横に掲げた冴内だった。当然全くの無傷だった。昨日の構えとは違いただ自然に突っ立ってる状態だった。
昨日と同様に冴内の身体の周りにはキラキラと温かく優しい虹色に光り輝く光の粒子が舞い始め、右手のチョップが小さな光の銀河になり、冴内の身体が徐々に大きくなり、その後冴内の姿が消え去ると無限に広がる大宇宙の星々が現われ、新たに誕生する星々や老いさらばえて静かに消えてゆく星々が見る者すべてを魅了した。何度見ても涙が溢れてくる光景だった。
「あぁ・・・これが宇宙の愛なんやなぁ・・・」
発する言葉はさておき、とても美しいエルフの目からは涙があふれ、安らかでとても幸せいっぱいの表情でエルフの大魔術師は消滅していった。
バリヤーのおかげなのか、今日は観客達は消滅せず、その代わり一部始終、まさに宇宙創成をしっかり見届けることが出来た。
「「「ワーーーーッ!!!」」」と、大闘技場に鳴り響く歓声と拍手喝采の嵐。
「がおーっ!洋ーっ!がおーっ!」
「父ちゃんぁーーーん!」
「あぁ洋様、何度見てもいいものですわねぇ」←宙に浮かぶクリスタル鉱石宇宙人の貴婦人
やがて再生したエルフの大魔術師と冴内の二人が近づきエルフの大魔術師は自分の右手の薬指にはめた一際大きな指輪を外し、冴内の左手の薬指にはめようとしたので、優が雄叫びならぬ雌叫びを上げ凄まじい速度でなんとバリヤーを突き破り(恐らくヒビ割れしていた箇所に突撃)グーパンチでエルフの大魔術師をぶっ飛ばした。
「ぶえっっっ!!!」と、エルフの大魔術師は再度消滅し、バツが悪かったのか「堪忍や堪忍」という声だけが登場ゲートの方に向かって消えていった。
『勝者!冴内 洋選手ーーーッ!!』
「「「ワーーーーッ!!!」」」
冴内はエルフの大魔術師からもらった指輪を優の右手の人差し指にはめた。お互いの左手薬指には当然地球で作られた結婚指輪がはめられている。指輪をもらった優は冴内に熱烈なキスをした。そこで闘技場内は一層割れんばかりの大歓声と拍手喝采に包まれた。そうしてその日の大闘技大会は終了した。
再戦を希望したが、先方からひたすら「堪忍や」と断られたのは言うまでもない。