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135:ブラック美衣vs仮面バイカー美衣

 300万年ぶりの大闘技大会ではあったが、美衣と優の無観客試合も含めてお昼の時間前には終了した。


 冴内達はオープン居住スペースに戻って昼食の準備をした。冴内が米を炊き、優が何かの肉と何かの野菜を炒めて、美衣が何かの魚を取り出してチョップで細切れにして「なめろう」を作り始めた。一度食べて大好物になったようだ。あまりにも美味しくて昼食もタップリ食べてしまい、米が足りなくなりそうなのでこりゃ研修センターに戻らないといけないと思った。ついでに美衣が納豆ももっとタップリ持ってこないとだめだと言った。だが研修センターに戻るには例のブラック冴内がいた部屋を通過しなければならず、既に24時間以上経過しているので今行くと確実に敵が出現する。


 今日も冴内自身が挑めば、さらに強くなった仮面バイカー冴内、いや、冴内が持ってるのはオートマ限定の普通自動車免許だけなので、バイクには乗れないから無免許仮面バイカー冴内なのだが、って、こうして無免許仮面バイカー冴内と書くと本当に冴えないキャラクターのようだが、それでもさらにパワーアップして強くなった冴内の敵ではないのですぐにブラック冴内は撃破出来ると思われるが、冴内は仮面バイカーを倒した今の美衣や優ならばブラック相手でも倒せるのではないかと思っていた。


「どうだろう、今の美衣と優なら勝てそうな気がするんだ、どっちか挑んでみないかい?一応ミラクルミックスジュースは持ってきてるから万が一死にそうになっても助けてあげることが出来るんだ」


「わかった!アタイがやる!」


「よし!じゃあ今日は美衣がブラック相手だね!」

「頑張って美衣!」

「へんしんすればアタイはむてきなきがする!」

「うん!絶対勝てるよ美衣!」


 そうして食休みをしっかりとってから、美衣を先頭に冴内達はブラックの待つ血の色で囲まれた部屋へと戻っていった。冴内と優は部屋の前で立ち止まり美衣が一歩先に進んで部屋の中に入っていった。


 冴内の時と同様、部屋の中央部に赤い鮮血のような霧がぐるぐると渦巻いていていき、それが徐々に形になっていくとヒトのような形になっていき、さらにそのシルエットが徐々により細かいディティールを作り始めていき、ブラック美衣が現れた。


 やはり白目に相当する部分は漆黒の闇で、黒目に該当する部分は赤く禍々しく光っており、とても邪悪な笑みを浮かべていた。


「ククク・・・オマエノ ダイジナ ダイスキナ トウチャンノ メノマエ デ バラバラニ シテヤル」


「そんなことはさせない!みてろ!」




「へんーーー・・・しん!トウッ!」




「ナッナンダ!?ソノスガタハ!!」


「アタイはせいぎのかめん!せいぎのみかた!かめんばいかーミイだ!いくぞ!ぶらっく!」


 いきなり昨日の冴内vsブラック冴内の終盤戦のような光景が展開された。異様な残像映像が部屋中に描き出され移動するたびに新たな映像が重なって上書きされて、まるでPCの画像編集か映像関連のアプリケーションがバグってモニタに表示されているかのような状態になった。


 徐々にブラック美衣のコマ数が減ってきて、明らかに苦戦している顔が映し出された。さらに当然バイクには乗れない仮面バイカー美衣の方はいよいよ冴内同様に虹色に輝き始めた。


 そして開始からわずか5分でバイクに乗れない無免許仮面バイカー美衣はブラック美衣を撃破した。


「このたたかいはむなしいたたかいだ・・・」と、美衣はドヤ顔で目を細めてそうつぶやいた。


 冴内も優も拍手喝采で、意味もなく必要もなく二人とも変身して、全員無免許仮面バイカー冴内ファミリー状態で先を進んで行った。


 その姿のままゲート村を通過してゲートを出て、研修センターに戻っていったが、またしてもここのところ心霊スポットですっかり有名になりつつある十津川村までの車道にて、怖いもの見たさで集まっていた若いアンチャン達をちびらせてしまった。


 研修センターにもそのままの姿で入っていったがこちらの方は誰もちびることはなく、拍手喝采で出迎えられてゆく先々で激写されまくった。当然「後楽園遊園地で僕と握手!」もした。大工の宮は小さい頃から仮面バイカーの大ファンだったらしく、もの凄く興奮して妻の旧姓早乙女に一緒に映っているところを何枚も写真に撮ってもらっていた。矢吹からは「お前どんどんとんでもなくなっていくな」と笑顔で言われた。


 食堂に行くと、富士山麓ゲート内の田畑に住んでるシーカー達から冴内達のために新米が3俵届いていたので3人で担ぎ、さらに納豆も山ほどもらってからまた大闘技場前のオープン居住スペースへ戻っていこうとしたところ、職員が駆けつけてきて冴内達を呼び止めた。職員が言うには優の装備品用のアイテムが完成したとのこと。


 これは以前手代木が提案したものであらかじめ3Dカメラや一眼レフカメラで撮影し詳細な寸法などのデータを道具職人に送っていて、それを元に道具職人が製作したのだが、毎日のように道明寺が優の装備品を鑑定のために借りているのを聞きつけ、道具職人はわざわざ出向いて実物を元に各部を調整していたのだ。そして優の剣の鞘と柄、籠手の内側に取り付ける最先端の複合素材で作られた取り外して洗濯可能な衝撃干渉材等が持ち運ばれてきた。


 早速道具職人が手際よく優の装備品にそれらを取り付けていき、優も感触を確かめていた。さすがにその場で剣を振り回すことは出来なかったが、剣も籠手も今まで以上に使いやすくなり、以前よりも数倍は強くなったと喜んだ。そして鞘があるおかげで抜き身のままの剣を持ち歩かなくても良くなったのはとても有難いと感謝した。道具職人はありえない程この世のものとは思えない程美しい優に感謝されたので、顔どころか全身が真っ赤になって恐縮していた。


 別の職員がとても申し訳なさそうに冴内に話しかけたので話しを聞くと、優の剣を鍛え上げて刃を研ぐことが出来る鍛冶師がいないと謝罪してきた。冴内は梶山に優の剣について相談していたのだが、やはり道明寺が優から装備品を借りている間にわざわざ富士山麓ゲートから奈良ゲート研修センターまで梶山だけでなく梶山の師匠までやってきてじっくりと入念に調べていたが、とても手に負える代物じゃないとお手上げ状態だったそうだ。ただ、剣としての切れ味は今の状態でも何ら問題ない程に良く、これ以上の刀鍛冶は必要ないと思うと言っていた。実際優も今の状態に何の不満もないので、これについては全く問題なかった。


 こうして、食糧補充と優の装備の拡充をした冴内達は今度こそ大闘技場前のオープン居住スペースへと戻っていった。夕食まではまだ時間があるので優の装備の確認のため大闘技場を使ってトレーニングをすることにした。


『おや冴内さん、また試合をなされるのですか?』

「いや、優の装備の確認でここを使いたいんです」

『なるほどそういうことでしたか』

「はい、ここなら手加減しなくても地形が変わってしまうこともなさそうなので練習するのにとてもいいんです」

『なるほど、でも冴内さんの凄まじい大宇宙のチョップにはさすがの石畳も敵いませんでしたね!』

「あっそうだった、すいません!」

『いえいえお気になさらず、既に自己修復済ですので何の問題もありません』

「すごい!自分で修復するんだ!」

『はい、さらに自己強化したので、前よりも硬くなりましたよ、次からは前回みたいにはいかないので場外にはお気を付けくださいね』

「分かりました!」


「・・・ところで次の対戦相手ってどんな相手か聞いても良いですか?」

『はい、問題ありません。冴内さんの情報は向こうに知られているのに、冴内さんの方は知らないのはフェアじゃないですからね。次の対戦相手は光の剣の達人が登場しますよ!』

「光の剣の達人ですか?」

「洋!次は私が最初に戦ってみたいわ!」

「えっと・・・うん、分かった!」

「母ちゃん頑張れ!」

「じゃあ明日の試合まで特訓だね!」

「望むところよ!」

『明日の試合、優さんで承りました!それでは明日の健闘をお祈り申し上げます!』


 そうして優は特訓を開始することになった。まずは新装備の感触を試すということで軽く石畳の上でシャドーボクシングのように動き回り剣を振り回していたのだがもうその時点であまりの速さで右手は肩から先が透明になっており、美しい光の軌跡が残像として空間に描かれていた。まるで光るペンで空間に曲線のアートを描いているようだった。


「柄のおかげで握りがかなり良くなったわ!おかげでもっと細かいことが出来るようになった!」

「そろそろ僕等も参加するかい?」

「えっ?僕等?」

「うん、僕だけじゃなく美衣も一緒に参加するよ」

「!!!」優は一瞬驚きの表情をしたが、徐々に口元がほころんでいき、嬉しそうな表情になった。


「望むところよ!洋!美衣!来て!」

「あははは!いくぞ母ちゃん!」

「へんー・・・しん!」

「えっ!いきなりそれで来るの!?キビシーッ!」と、それでも優は嬉しそうだった。


 軽く1時間半程練習をしたが、さすがに仮面バイカー美衣と通常状態冴内の二人がかりの攻撃には厳しいものがあり防戦一方だったが、それでも改良された籠手による防御で一本とられることはなんとか防いだ。ちなみに今回のトレーニングはこれまでのイメージトレーニングでもなければ寸止め試合でもないまさに真剣による真剣勝負だった。


「改良してもらった装備かなりいいみたいだね優」

「ええ、籠手もかなり使いやすくなったわ」

「これなら明日、試合前の朝練で僕が変身して参加しても十分対応出来るんじゃない?」

「うーん、でも二人がかりで虹色の攻撃をされたら厳しいかも」と、仮面バイカーで能力アップされた二人を相手に、しかも虹色の最強状態の二人相手なのに「勝つのは絶対不可能」と言うのではなく「厳しいかも」と言ってのけてしまう優であった。


 ともあれ、その日の練習試合を終えた冴内達は夕食にとりかかることにした。米も納豆もタップリ補充したので遠慮なくご飯を大鍋で焚き始めた。今日は初めてカレーライスを作るということでなおさらご飯は多く必要だと判断した。ゴロゴロ大き目野菜に何かの肉も大き目にカットした。優が肉の下味をつけているときに冴内は以前D15洞窟探索で旧姓早乙女が作ったキャンプカレーがとても美味しかったことを思い出し、その時に教えてもらったレシピと隠し味に加え、食堂の料理長からも教わった調理を試した。具体的には大箱に入っていた何かの果物のうち地球のリンゴに似たものを美衣にすってもらい、食堂で分けてもらったハチミツを入れ、ゴロゴロ野菜に肉を入れて食堂からもらってきた特性カレールーを溶かし、最後の隠し味として板チョコレートを砕いて入れた。もちろん大鍋、というよりも業務用の寸胴鍋でタップリ作った。匂いといい見た目といいグツグツという音といい、空腹の胃を直撃する程に美味しそうで、美衣はもうヨダレがナイアガラの滝状態だった。


 食事開始というよりも試合開始という程の凄まじい爆食だった。美衣に至ってはまさに「カレーは飲み物」といった体で一気に一皿目を完食。寸胴でタップリ作ったカレールーも、たっぷり大鍋で炊いたご飯もみるみるなくなっていった。冴内も優も珍しくたくさん食べて3皿分も食べた。相変わらず美衣は妊婦のような腹になり、それどころ三つ子でも産むのかという程パンパンに腹が膨れ上がっていた。それでもしっかり食後のフルーツは食べるのだから見上げた食根性だった。


 その日の夜、久しぶりに美衣の「もう食べられないよ~」という寝言を聞いて冴内も優も幸せをいっぱい感じながら寝入っていった。

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