134:仮面の戦士
『それでは第一試合を開始します!まずは挑戦者!地球人代表、冴内 洋選手ーーーッ!!』
「「「ワーーーーッ!!」」」
「父ちゃんがんばれぇーーーッ!」
「洋ーーーッ!!」
『次に第一の戦士!子供達に大人気の言わずと知れた仮面の昆虫戦士!ガ■▼▲ッ★▲ザ■選手!の登場です!!』
ガ■▼▲ッ★▲ザ■の部分はところどころ地球の言語にはない何か硬い物をぶつけた時の音だった。
「「「ワーーーーッ!!」」」と、一際大きな声援で、とりわけ子供のように見える宇宙人達からの歓声が多かった。
そうして登場してきたのは日本で50年以上もシリーズ作が続く特撮テレビヒーロー「仮面バイカー」によく似た仮面の昆虫戦士だった。もちろん腰にはバイカーベルトが巻かれており、首には赤いマフラーも巻かれていた。無風にも関わらずマフラーはたなびいていた。これは日本の子供達にもかなり人気が出そうだった。
仮面バイカーはタタタッと走ってきたかと思うとジャンプして、空中で何回転かした後冴内の前に美しく着地した。そして冴内の前で手を差し出してきた。さながら「後楽園遊園地で僕と握手!」とでも言いそうな爽やかな雰囲気だった。冴内も笑顔で手を差し出し互いに固く握手をしてからお互いに距離をとって身構えた。
『それでは第一試合!開始!』
バキィィン!と、互いのチョップが激突した。さらにガキンガキンと凄まじい衝突音のチョップが激突し合った。仮面バイカーは見事なコンビネーションでサイドキックを放ってきたが冴内も見事なチョップではじき返した。すると仮面バイカーははじかれた勢いでバックステップして冴内から距離をとり、そこから助走を付けて冴内に向かってジャンプし、バイカーキックを放ってきた。冴内は避けることなく真正面からクロスチョップで真っ向から受け止めたが凄まじい威力で吹き飛ばされて一発で石畳の外に吹き飛ばされてしまった。
『あーーーっとぉ!冴内選手場外ィーーーッ!!』
『・・・』
『・・・!?』
『いや!場外ではありません!残っています!チョップを石畳に突き刺してかろうじて残っています!この石畳は皆さんもご存知の通り宇宙で最も硬い物質で、小規模の惑星爆発にも耐え得るほど頑丈なものですが、なんと冴内選手はその石畳に手を突き刺しました!なんという凄まじいチョップ!さすが大宇宙のチョップを持つ男!冴内選手!!』
「「「ワーーーーッ!!」」」
「わーーーッ!父ちゃーーーん!!」
「キャーーッ!洋ーーーッ!!ステキーーーッ!」
「強いなぁ・・・すごいよ・・・やっぱりここはすごい!これは出し惜しみせずに全部出さないと勝てないぞ・・・」
やはりここでも正々堂々の戦いぶりで対戦相手の仮面バイカーは追い打ちをかけることなく、冴内が戻ってくるのを黙って待っていた。そんな相手に冴内は敬意を表して仮面バイカーに礼をしてからファイティングポーズをとったところ、一際大きな拍手と歓声が鳴り渡った。
『なんという素晴らしいスポーツマンシップでしょうか!やはり大闘技大会は素晴らしい!それでは試合再開!』
場内アナウンスの試合再開の言葉と同時に冴内は消え、仮面バイカーは突然吹き飛ばされた。しかし仮面バイカーは何もない空中を蹴とばして場外に飛び出るのを防いだ。そしてそのまま何もないはずの空間にバイカーキックを食らわすと冴内がチョップでキックを防いでいた姿が出現した。
仮面バイカーも冴内も身体は停止していたが、冴内の方は肩から先が、仮面バイカーの方は肩から先と腰から下が透明になり、ゴキン!とかバキン!という肉と骨がぶつかり合う耳を覆いたくなる程恐ろしい音だけがしていた。
そのうち二人の身体本体の方もあちこち滑るように石畳の上を滑走し始めてだんだん二人の姿を捉えるのが難しくなってきた。
さらに仮面バイカーの方は全身が赤い霧に覆われ始め、冴内の方は虹色に輝き始めてきた。
いよいよ二人の姿は見えなくなり、赤い霧の閃光と虹色の閃光の軌跡を見るだけの状態になった。
『なんというスピードでしょうか!いよいよ二人の姿を目で追えるのはごくわずかの宇宙人種だけになってまいりました!これでは皆さん何が起こっているのか分からないでしょうから、恒例のアレを実施します!』
『それでは皆さん準備はいいですか!?それではご一緒に!!』
「「「「「千倍スローーーー!!!」」」」」
突如冴内と仮面バイカーの姿が現われて、まるで動きがスローモーションのようになった。しかもその光景の異様なことには石畳の上空3メートル程の位置で二人とも浮かんだままになっており、そこで仮面バイカーはチョップにキック、冴内の方はひたすらチョップで攻撃と防御を繰り広げていた。二人ともまるで太極拳のように滑らかでスローモーな動きで、よく見ると汗のしずくが空中に浮かんでいた。
「なっ!何が!?」冴内は混乱していた。冴内としては自分の身体にも相手の仮面バイカーにも特に変わった変化はないのだが、周りの景色だけが異様に止まって見えるのだ。優も美衣も観客達も何もかもが止まって見える。美衣の持っているポップコーンのような食べ物や、ジュースの雫が空中で止まっているのだ。
と、ついよそ見をしてしまったので仮面バイカーのミドルキックの防御が遅れ、ゴロゴロと吹き飛ばされてしまった。だが、やはり仮面バイカーはそこで追い打ちをかけることなく立ち止まり、冴内に対し語りかけた。その時ようやく時間が動き出したかのようになり、観客の歓声やそれに混じって美衣と優の声援も聞こえてきた。
「冴内 洋、コレハ千倍スロート言ワレルモノダ。我々ノ動キガ速スギルノデ、我々ノ空間ダケ時間速度ヲ千倍程遅クシテイルノダ」
「そ!そんなことが出来るんですか!?」
「ソウダ、コノ大闘技場ハコノ宇宙ノ英知ガ全テオサメラレテイル、ココデハ様々ナコトガ可能ニナルノダ」
『さすが!ガ■▼▲ッ★▲ザ■選手!初めてで何が起きたのか分からない冴内選手に対し攻撃をやめて説明をしてくれました!さすが正義の味方!正義の仮面!正義のマスク!』
「「「ワーーーーッ!!」」」
「すごいな!じかんがおそくなったのか!」
「やるわね、☆★ー★★☆★★ー人の技術かしら」
「アラ、アナタ、ゴ存知デスノネ」
「あっ!やっぱりそうなのね!」
『冴内選手!再開してもよろしいでしょうか!』
「はい!どうぞ!」
『それでは皆さん準備はいいですか!?それではご一緒に!!』
「「「「「千倍スローーーー!!!」」」」」
仮面バイカーはバイカーキックを蹴り放ったが、やはりとても奇妙なことにゆっくりと重力を無視して空中浮揚しながら冴内に突撃キックを放った。対する冴内は左側を前にした半身の構えになり、仮面バイカーから見て死角の位置に右手を隠し、力を込めていった。徐々に右手は肘から先が虹色に輝き始めて、手首から先は大きな剣先のような虹色の光だけになった。
「あっ!父ちゃんのレインボーチョップだ!」
「すごい!あんな風になっているのね!」
「うん!すごいなせんばいすろー!これでいめとれの父ちゃんにかてるかもしれない!」
「そうね!洋には悪いけど、これはイメトレの洋に勝つためのヒントになるわね!」
仮面バイカーの必殺のバイカーキックが冴内に激突する直前、冴内は左手で水平チョップを仮面バイカーの目の辺りに放ち仮面バイカーが左腕で目をガードしながら冴内への激突コースは変えずに勢いそのままに突っ込んでくると、冴内は水平チョップの左手をそのまま巻き付けるように仮面バイカーの左足のキックにこすりつけて軌道を変え、左半身をステップして入れ替えるように右半身になりつつ力を蓄えていた虹色に輝く右腕を仮面バイカーの胴体に突き刺した。
仮面バイカーは空中にいるため避けることが出来ず、また狙ったのは身体の中でも一番面積の大きい胴体のど真ん中なので躱したり捌いたりすることも出来ず冴内のレインボーチョップをまともに受けてしまった。
千倍スローなので残酷に見える映像に映ったかもしれないが、冴内のヒジから先は虹色に光り輝いているため生々しく冴内の貫手が仮面バイカーの胴体を貫く映像にはならず、仮面バイカーの胴体は明るく光り輝くライトの閃光に包まれているようにしか見えなかった。
そして、そのまま仮面バイカーは光り輝く粒子になって消滅した。
『勝者!冴内 洋選手ーーーーッ!!』
・・・?
・・・?
・・・!!
「「「「ワーーーーッ!!!」」」」
「やった!やったぞーーーー!!」
「わーーーッ!父ちゃーーーん!!」
「キャーーッ!洋ーーーッ!!ステキーーーッ!」
「アナタノ ゴ主人 ステキネ!」
「アンタノ 父チャン カッコイイナ!」
消滅した仮面バイカーだったが、キラキラと光り輝く粒子が集まり始めてやがて再生した仮面バイカーが登場し、冴内に握手を求めた。冴内は清々しい表情で仮面バイカーと握手を交わすと。仮面バイカーは冴内の右手を高らかに掲げ、観衆たちに冴内の勝利を讃えた。
「オメデトウ冴内 洋!マズハ初戦、君ノ勝チダ」
「有難う御座います、あなたのおかげでとてもいい勉強になりました」
「君ノソノ強サナラキットコノ先モ進メルコトダロウ、モシカシタラ全宇宙人未踏ノ全勝モ達成出来ルカモシレナイ。私カラハ君ニコレヲ授ケヨウ!」
仮面バイカーは自身の腰に巻かれたバイカーベルトを外し、冴内の腰に巻き付けた。仮面バイカーは冴内に何やら動作モーションとポーズを教授し始めて、冴内の姿勢を修正したり動きの緩急を手取り足取り教えた。何度か繰り返して、仮面バイカーはウンウンと頷き冴内にサムズアップして、クルリと背を向けて登場ゲートの方へ消えていった。後に残された冴内は石畳の中央に立って次のように言った。
「へんーーー・・・・しん!」
両腕はチョップ状態で、右腕は脇をしめて右腰横につけ、左腕は伸ばして冴内自身から見て半時計周りに5時の方向から11時方向にゆっくりと回転させ、11時方向に左腕が到達したときに一瞬停止し、素早く右腕を左腕があった11時方向に突き上げ、同時に左腕は腰横の位置に素早く引き戻した。
すると突然先ほどまでの仮面バイカーと同じ姿の仮面冴内が出現した。
『おーーっと!冴内選手!ガ■▼▲ッ★▲ザ■選手の変身ベルトで仮面の戦士に変身したーッ!!』
「「「「ワーーーーッ!!!」」」」
「わー!父ちゃん!かっこいいーーーッ!」
「キャーーッ!洋ーーーッ!!ステキーーーッ!」
「アナタノ ゴ主人 ステキネーッ!」
「アンタノ 父チャン 超カッコイイナー!」
冴内もノリノリで観客席に向かって様々なチョップのポーズをとってファンサービスをして見せて、観客席は大歓声に包まれた。熱狂が徐々に収まり始めたところで場内アナウンスの声が本日の試合終了を告げ、場内は惜しまれつつも大拍手喝采の中少しづつ宇宙人達はフェードアウトしていった。
やがて闘技場に残されたのは冴内達だけになり、最初に訪れた時のような静寂に包まれた。
『お疲れ様でした、次の対戦は20時間以降からになりますが、再戦はいつでも可能です。ただし一度勝利した相手との試合は無観客試合となります』
「アタイも戦いたい!らいだーべるとほしい!」
「私も!」
『分かりました、すぐに対戦しますか?』
「いますぐやる!」
『分かりました!それでは冴内 美衣さん以外の方は観客席の方へ移動お願いします!』
「美衣頑張って!」
「美衣頑張ってね!」
「よおーーーし!やるぞぉーーー!」
今見たばかりの千倍スローのおかげで攻略法を完全に知った二人は仮面バイカー相手に勝利するこが出来た。仮面バイカーを倒すまで冴内の時よりも時間はかかったがそれでも二人とも30分以内には仮面バイカーを倒した。もちろん無観客試合なので千倍スローなしで戦った。
こうして大闘技場での大闘技大会初戦、仮面バイカーとの戦いを勝利で終えたのであった・・・