133:大闘技場
冴内達が5日間程山籠もりに近い生活をしていた間にゲート村付近も少しづつ変化していて、大工の宮達によって冴内達が伐採した質の良い木材を使ってあちこちで建物の基礎が組み上がっていた。冴内は宮に頼んでトイレ用の間仕切壁を何枚か作ってもらった。天井はなくドアはカーテンで代用だが一応四方を囲うことは出来るので何もないオープンスペースよりはマシだろう。
力堂達と久しぶりの進捗報告会を中会議室で行うと、力堂達はとうとう49階層までの攻略に成功したとのこと。50階層には何やら塔がたっており、入り口横の台座に手を乗せたときの音声ガイドによると頂上にたどり着くまでの各フロアは闘技場になっているとのこと。現時点では3フロアまで勝ち進んでいるそうだ。
冴内の方も状況を報告し、冴内を瀕死の状態にした程の強敵を無事打ち倒したと報告すると歓喜の渦に包まれた。そしてその先は力堂達と同様に闘技場が待ち受けていることも報告した。そしてしばらくは闘技場前にある居住スペースで寝泊りすることを皆に知らせた。今回の報告の場でも冴内は試練の門の真の答えである「こころ」については一切一言も話さなかった。
冴内は道明寺に今回の勝利は道明寺からのアドバイスのおかげであることをとても感謝した。また、この地方一帯の霊験あらたかな大自然の大いなるパワーを得られたことも感謝した。力堂も何か感じるところがあったらしく山籠もりを検討していた。矢吹も「いいねぇ!修行っぽくて!好きだぜそういうの!」と言い、手代木も得るものは多くありそうだと言い、良野は男臭い山籠もり修行はともかく、大自然の万物に囲まれてスピリットを磨くのは魔法使いにとっても非常に有益だという点では同意した。吉田も足腰を鍛えるには山の中が一番だと言った。冴内も山での修行は今後に大いに役立つと言った。
その後、冴内達は小さめのリヤカーを借りて生活必需品や調理道具、間仕切壁などを乗せて試練の門に入っていった。まだ24時間経っていないので一切危険対象物は現れず、闘技場前居住スペースに到着した。早速冴内はトイレの壁設置作業にいそしみ、優は調理器具を並べ、美衣は早くも大量に米をといでいた。
夕方になり、何かの肉のソテーと何かの魚の刺身と野菜を大き目にカットして一緒に何かの肉をスライスした豚汁風の汁物を作って食べたところ、あまりのうまさに箸が止まらず、あっという間に間食してしまった。豚汁風の汁物はタップリ2日分作ったのだが全て食べ尽し、大量に炊いた米もすぐなくなった。ソテーと刺身についてはおかわりがとまらず、待ちきれなくて美衣も冴内も何かの魚を自らチョップでスライスして食べる程だった。
食休みした後久しぶりに全員でお風呂に入った。常に丁度良い湯が循環しており、その場でとろける程心地が良く身体がほぐれ、疲れが一気に消えていった。その後何かの果物を取り出して食べ、歯を磨いた後に大きなベッドで川の字になって寝た。良く出来ていることに寝始めると自然に辺りは暗くなって明るくて眠れないということはなかった。
翌朝も自動的に明るくなったので、自然といつも通り起きることが出来た。食材の入った大きな箱を見てみると新鮮な肉や魚に野菜や果物が補充されていた。どういう仕組みなのか全く分からないが、本当に良く出来てるなぁと冴内は感心した。朝はタップリ持ってきた納豆と、新鮮野菜のサラダに何かの卵もあったので目玉焼きを作り、何かの魚も焼いて食べた。米の減り具合と納豆の減り具合がハンパなく、こりゃ明日には補充にいかないとダメだと冴内は思った。
食後は3人で座禅を組んで瞑想した。1時間程瞑想した後、冴内イメトレを実施したが、優も美衣も最初の頃に比べて凄い成長を遂げていて、冴内のイメージ攻撃を避けるどころかなかなか良い攻撃を仕掛けてくるようになった。あと数日もしたら優と美衣の二人がかりで攻撃されたらかなり苦戦しそうだった。とはいえさすがにまだ単独で例のブラック冴内のいた場所に挑むのはまだ不安があるので今日はまだそれには挑まないことにした。
いったん休憩ということになり、軽く果物を食べて休んだが、その後どうにも闘技場の方が気になったのでちょっと見に行くことにした。闘技場に近づくと3メートル程の高さに石畳が敷かれており正面には階段が設置されていた。登ったら闘いが始まりそうなので遠慮がちにしていたところ、美衣がダダダと駆け上がっていってしまった。すると闘技場の上空から男性の声が問いかけてきた。
『よくぞここまでたどり着きました!あなた達は宇宙最強の猛者達と闘う権利を得たのです!この闘技場では9組の相手と闘うことが出来ます!負けても何度でも挑戦することが出来ますよ!死ななければ!そして勝利した暁には素晴らしいギフトを授かる事でしょう!さぁ!ここまで辿り着いた勇敢な戦士の皆さん!宇宙最強の戦士達に挑みますか!?』
『はい/いいえ』
「と・・・父ちゃん・・・」と、いつもは後先何も考えずに「はい」を選択する美衣が今回はさすがに臆している感じで冴内の方を見た。
「えーと・・・ちなみに9組の相手ってどんな人達がいるんですか?今の僕等の強さで彼等に勝てる可能性ってありますか?」
『ハハハハ!皆さん謙虚な方々ですね!9組の戦士達はこの宇宙にいる種族の中でも最強の戦士ばかりです!あなた達のような見た目のヒト族もいれば、あなた方の世界で言うところの獣や昆虫のような戦士もいますし超人や機械の戦士もいます。そしてあなた達の今の強さでも十分彼等と戦えるでしょう、とはいえ簡単ではありません、命を落とす可能性もあります』
「死にそうになる前に降参とか出来るんですか?」
『出来ますよ!マイッタ!といえばそこで試合終了です!』
「あっ降参出来るんだ!それは良かった!それならとてもいい修行になるよここは!」
『そうです!勝てるまで何度でも挑戦して下さい!そしてあなた達からは強さだけでなく優しさも感じますね!ではあなた達にとっては良いことだと思うのでお知らせしておきましょう。あなた達が相手をする9組の相手はオリジナル、つまり本物ではありません。こちらが作り出した本物同様のコピー体なのであなた達が彼等の命を奪うことはありません。ですので手加減無用全力で挑んで下さい!ちなみに本物の彼らははるか昔に亡くなっており、その末裔が残っている者もおります」
「あっそれは良かった!それならこっちも遠慮なく戦える!」
「なんかアタイわくわくしてきたぞ父ちゃん!」
「そうね!とっても面白そう!」
『さぁ!どうしますか!?早速一人目の戦士に挑んでみますか!?』
「あっ!大事なことを聞き忘れた。戦いには一人で挑まないとダメなんですか?」
『そうですね!基本的には個人戦ですが、二つの試合だけ団体戦になります!』
「団体戦もあるんだ!あっ、あとこちらが勝った後でも同じ相手に何度でも戦うことは出来ますか?」
『出来ますよ!同じ相手に何度でも挑んでいただいても構いません!』
「わぁ!それはいい!なんて親切なんだ!ここは最高の練習場だよ!美衣!優!」
「やった!やった!アタイたたかいたい!」
「私もよ!」
「よぅし!じゃあ早速一人目と戦います!」
『最初の相手は個人戦になります!そちらは誰が戦いますか?』
「僕が戦います!」
『分かりました!最初は冴内 洋さんですね!それでは他の方は観客席の方へ移動お願いします!』
冴内は石畳の中央部に進んで行き、美衣と優は観客席の方に移動した。観客席は石畳の左右と前方にあり、前の方は真ん中が相手選手が出てくると思われる通路部分を避けるように観客席が設けられていた。優と美衣が適当な場所に座ると少しづつ周りの観客席から多くの宇宙人と思しき観客たちが現れ始め、周りはかなり騒然とした雰囲気になった。
「わっ!たくさんうちゅうじんがでてきた!」
「あら!随分懐かしい種族が出てきたわね!」
地球人に似た容姿の者もいれば、獣人や昆虫人、さらに機械の身体の者や宙に浮かぶ何かの宝石みたいな存在もいた。しかも何かをしゃべっていた。またそれらの存在の中をめまぐるしく動く存在が何体かおり、どうやら飲み物や食べ物を配っていた。
「アタイにもおくれ!」と、美衣が立って手をあげて呼ぶと、地球にいるタツノオトシゴのような形状の生物がやってきてポップコーンによく似た食べ物と何かの炭酸ジュースを無料で配ってくれた。美衣は大喜びで瞬殺でたいらげてしまったので、すぐにおかわりを注文した。多分足りなさそうだと判断したのか5個分くれた。
「ヒサシブリ ノ シアイダ!」
「トテモ タノシミダ!」
「コンド ノ チョウセンシャ ハ イイヒョウジョウ ヲ シテイルナ!」
「コレハ ヒョットシタラ サイゴ マデ イケルカモ シレナイゾ!」
「シゴト ナンカ ヤッテル バアイジャナイナ!」
いやいや仕事しなさいよアンタら。
「なんかみんな父ちゃんをほめてるぞ!」
「そうね!なんだかすごく嬉しいわね!」
隣の獣人に美衣が、あれはうちの父ちゃんなんだと話しかけると、獣人にすごく強そうだね!君もすごく強そうだけど、君も戦うのかい?と聞かれて自分もお母ちゃんも戦うぞ!と答えると、すごいね!君達の戦いも絶対見るよ!と言ってくれた。美衣はその獣人に抱き着いてすっかりフレンドリーになった。
優も隣に座るというか、宙に浮かんでいるクリスタルと話しをしていて、あそこにいるのは貴女のご主人かしらと問われ、そうだと答えた。あと、クリスタルから、ひょっとして貴女は【♪ー♪♪ー♪♪♪♪】人かしら?と問われたので肯定したところ、まぁ!まだあなた達はまだ存在していたのですね!会えてとても光栄だわ!と言って嬉しそうに色んな色で光り輝いていた。
そうこうしているうちに上空からなにやらファンファーレのような音楽が鳴り響いてきて、冴内と冴内の目の前奥にある扉にスポットライトの光があてられた。
『ご来場の皆さん!随分長い間お待たせしました!およそ4万年ぶりの試合です!しかし皆さんまだお気づきじゃないようですね!よく周りも見回してください!』
「ウン? ナンダ?」
「ソウイワレテミレバ・・・ナニカ チガウ」
「ココハ! モシカシテ ダイトウギジョウカ!?」
「ナンダッテ!? ダイトウギジョウ ダト!?」
「エッ!?ダイトウギジョウ!?」
「ホントウ ニ ジツザイシタノカ!?」
『おっ!何人かの方は気付かれたようですね!そうですここは大闘技場です!前回の大闘技大会は今から300万年程前、しかもその時はまだ4人の戦士しかおりませんでしたが、今回は7人の伝説の戦士と2つの戦闘部隊が登場します!この大闘技場での試合は今回が初めてとなります!』場内アナウンスが説明すると会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。
この様子は全宇宙にオープン回線で放映され、何かしらの受信機能を持つ文明の星ならば観戦可能だと説明された。そしてその様子はゲートの外の地球側にも届いた。これまでどんな回線もゲート内からゲート外には届かなかったのに、この回線はゲートを通過して地球にも送信されたのだ。
地球上では突如開かれた回線とそこに映し出された映像に世界中が驚愕し、民間、公共、軍隊など、受信機器を持つありとあらゆる施設や組織で大混乱になった。とはいえ何かしらの電波ジャックを受けたわけではなく、ごく自然に突然1チャンネル増えたというものだった。
宇宙人だらけの観客席が映し出され、その中には美衣と優がバッチリ映っており、さらに闘技場の石畳の中央には冴内が立っている様子が大きく映し出され、それを見ていた世界中の機関の局長や名だたるシーカー達は全員立ち上がった。なお、神代は逆に局長の椅子からズッコケた。
そうして300万年ぶりに大闘技大会が開かれることになった。