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132:ブラック冴内

 朝の瞑想を終えて研修センターに戻り、朝食をとった後冴内達は試練の門に向かった。そして音声ガイドに話しかけた。


「試練の門が、いや、これを作った人が本当に僕等に試していることが分かりました。僕等はこころを試されているんですね」


『冴内 洋、あなたなら早い段階で気づくと思っていました・・・その通りです。これを作った者は内なる心に対して試練を与えていたのです。沢山の思いと沢山の希望を込めて』


『そしてその答えは人から教わるのではなく、試練に挑む者本人自らが気付かないといけないのです』


「はい、それが伝わってきました。これを作った人はすごいなと、そしてとても優しいというか、すごい愛に満ちているんだなと実感しました」


『冴内 洋、あなたからはこの上ない希望を感じられます。どうしたんですか?ここ数日こちらに来ない間にとても見違えた気がします』


「はい、地球の大自然に囲まれた山の中で自分をずっと見つめ直していました」


『そうですか・・・やはり作られたこの世界では何かの限界があったんですね・・・』


「いえ、この世界があったからこそ、僕らの世界をより深く知ることが出来ました。やっぱりこの世界を作った宇宙人さんは凄いです。とても会いたくなりました」


『そうですか・・・私は彼等ではありませんが、それでも有難うと言わせていただきます。ですが彼等と会うには良くないものと対峙しなければなりません。そして仮に良くないものを滅ぼしたとしても彼らがまだ存在しているのか、会えるのかについては全く分かりません』


「はい、それでも僕はいずれ良くないものに会い、さらにその先に進むと思います」


『分かりました、冴内 洋。私はもうあなた達を止めることは致しません。私が出来得る範囲内においてあなたが望むあらゆることに応えましょう』


「ありがとう、あなたは優しいんですね」

「おまえいいやつだったんだな!アタイやさしいひとはだいすきだ!」


『私はただの思考生命体です、ですが今はあなた達からは温かいものを感じます。私の方こそ有難う』


 そうして冴内達は思考生命体と自らを形容する音声ガイドとの会話を終え、5日ぶりに試練の門へと入っていった。


「父ちゃん・・・もしかして、今日は洞窟の奥に行くのか?」

「洋・・・」


「うん、行くよ。そして今日は間違いなく絶対完全勝利するよ」


「・・・」

「・・・」


「わかった!父ちゃんをしんじる!」

「分かったわ洋!頑張って!」


「有難う二人とも、今日は二人に僕の闘いを見てて欲しいんだ、二人がいてくれれば僕はもっと強くなってラクに戦えると思う」


「わかった!アタイ父ちゃんをおうえんする!」

「分かったわ!私も目をそらさずしっかり見る!」

「有難う、じゃあ行こう!」


 冴内達は洞窟の奥へと向かっていった。そこに至るまでに出現する敵は今日は全く現れなかった。


 そして、いつもは進み始めて9分の位置で止まっていた優も美衣もその先へと進み、いよいよ冴内が瀕死の状態になった場所へと到着した。


 その場所は床も天井も壁も一面全て真っ赤な血の色のような磨き石で囲まれていた。大広場という程大きくはなく15メートル四方の広さの部屋だった。


 冴内が一歩その部屋に入ると部屋の中央部に赤い鮮血のような霧がぐるぐると渦巻いていていき、それが徐々に形になっていくとヒトのような形になっていった。そのシルエットが徐々により細かいディティールを作り始めていき3人ともよく知る、よく見る、毎日見る、愛する者の形になっていった。




 そこに現れたのはブラック冴内だった。




 冴内そっくりの人物が冴内の目の前に出現した。しかし両の目の白目に該当する部分は漆黒の闇で、黒目に該当する部分は赤く光っていた。とても禍々しい赤い光を放っていた。そして口角がつり上がりとても嫌な笑みを浮かべていた。


「ククク・・・マタ、キタノカ。ホウ?キョウハ オマエノ ダイジナモノガ イルヨウダナ。バカナヤツダ、オマエノ ダイジナモノモイッショニ クルイジニ サセテヤロウ」


「そうは・・・ならないよ」


「ククク、ソウカイ」


パキィィィン!!と次の瞬間二人の冴内の手刀同士が激突し、高い高周波音で部屋中が振動した。


 次の瞬間冴内の前後左右4方向にブラック冴内が出現しどこにも逃げ場がない手刀を放ったところ、冴内は身体を4分割されてしまった。


 だがそれと同時に8人の冴内が出現し、一人一人のブラック冴内に対して2人の冴内が両手でモンゴリアンチョップを食らわした。


 4人のブラック冴内は消滅し、8人の冴内も消滅した。そこからは何もない空間に空気を切り裂く音とやはりパキィィンという甲高い激突音だけが鳴り響いた。


 やがて今度は気味の悪い光景が描かれた。まるで何重にも重なった冴内達があたかもスローモーション撮影のコマがそのまま空間に投影されているかのような軌跡を描いてチョップによるチャンバラを繰り広げていたのだ。


 その正体は凄まじいまでのスピードのために残像が何重にも重なって空間に残留していていたものだった。その空間に残る映像が消える前に新たな軌道の映像が上書きされて、部屋中の空間がいびつな冴内達の姿で埋め尽くされていった。


 だが、徐々に気味の悪い残像映像はオリジナル冴内の映像の方が多くなり、ブラック冴内の方の映像は少なくなっていった。そしてよく目を凝らしてみるとブラック冴内の口角は下がり、見ようによっては不機嫌な表情になっていき、さらに進むと何やら赤い筋のようなものが少しづつ増えていった。


「キサマァ!」という声が聞こえたと同時にバキィンという激しい音がした。


 そこでようやく静止した二人の冴内が現われた。ブラック冴内は右腕の肘から先が消失していた。


「クッ・・・クククク・・・ソウカイソウカイ、ナラバ オマエノ ダイジナモノヲ コワシテ オマエノココロヲ コワシテヤロウ・・・」


「そうもならないよ、二人は君が思っている以上に強いよ」


「ホザケ!」と言ってブラック冴内は消えた。


 ガキィィン!という音と共にブラック冴内が出現すると、その両横には両腕をガッチリと掴んだ優と美衣がいた。ブラック冴内は右腕を優に、左腕を美衣にガッチリ掴まれて身動き出来ないでいた。


「コノッ!ハナセェェ!」

「洋!」

「父ちゃん!」

「分かってる!」




「レインボーーーーッ!!」




 オリジナル冴内は優と美衣に両手をガッチリ掴まれたブラック冴内を一刀両断真っ二つにした。


 ブラック冴内は赤い霧となって霧散し、なんと冴内の体内へと吸い込まれて消えていった。


「洋!!」

「父ちゃん!!」

「大丈夫!大丈夫だよ!二人とも心配しないで」


 完全に冴内の体内に霧が入り終えると冴内は赤い粒子を身にまとって光り輝き、光が消えるとそれまで真っ赤な血の色に染まった部屋が一気に純白の部屋に変わった。まるで辺り一面の一切を漂白したかのようなピュアホワイトに包まれた。


「強いはずだよ・・・なんたって、自分自身なんだから・・・」

「洋・・・本当に大丈夫なの?」

「うん、元々の自分に帰ったってところかな?」


「父ちゃんすごいな・・・アタイもなにかわかったきがする、ぶらっく父ちゃんも父ちゃんなんだ。そして父ちゃんがかったからぶらっく父ちゃんは父ちゃんにかえっていったんだ」


「美衣・・・本当に・・・凄いよ美衣・・・」冴内は美衣を抱きしめた。大粒の涙があふれ出た。


「私も分かったわ、多分これから良くないものと対峙するには私達も自分自身と戦って自分に勝たないといけないのね、自分の心に!」


「そう!そうなんだ!恐らくこれは凄い宇宙人が捨てたっていう良くない負の感情なんだと思う、そういう負の感情は暴力的で純粋な力という面ではそっちの方が強いんだ、だから単純にこれまでの敵達と同じように倒してやろうとかやっつけてやろうっていう気持ちで挑んだら絶対に勝てないんだ」


「それってとてもむずかしいきがする・・・」

「大丈夫、美衣ならきっと出来るさ」

「私にも出来るかしら・・・」

「大丈夫、今日から僕がみっちり付き添うよ」


「・・・」

「・・・」


「・・・わかった・・・」

「・・・分かったわ・・・」


 最後の方はいつもの冴内ファミリーのノリに戻ったので書いてる作者も安心した。このままシリアス方向に進んで行ったらどうしようかと思った。


 ともあれ冴内ファミリーは洞窟の奥を攻略した。いつもなら安全地帯に戻る所だが、さらに冴内は奥へと進んで行った。すると洞窟の先に明かりが見えてきて10分程進んだ先にはまたしても明るく心が癒される暖かな広場が現れた。


 その場所は最初の安全地帯とは異なり、人工的な建造物が多数配置されていた。テーブル、イス、ベッド、トイレ、風呂場、キッチン、そして幾つかの大きな箱があるのを確認したが、残念ながらそれらは全てオープンスペースになっていて遮る壁などは全くなかった。


「すごいな!ここでくらせるぞ父ちゃん!」

「そうだね・・・トイレがちょっと気になるけど」

「あら私は構わないわよ」

「アタイもなんもきにならないぞ」

 まぁお二方はそうでしょうとも・・・


「あれ?まだ先があるのか?僕はてっきりさっきの敵を倒したらそこで第四の試練は終了だと思っていたんだけど・・・」


「まださきがあるみたいだぞ父ちゃん」と、美衣が指を指した方向を見ると、何かの闘技場のような一段高い位置に作られた石畳があった。その奥には神殿の柱のような円筒が複数立っており、一番奥には豪華な扉が存在していた。


「なんか・・・いかにもボスと戦えって感じだね」

「そうね、そんな感じがするわね」

「どうする父ちゃん?ヤるか?」

「いや、今日はやめておこう、ちょっと疲れたし、明日からは美衣と優をみっちり鍛えないといけないからね」


「・・・」

「・・・」


「・・・わかった・・・」

「・・・分かったわ・・・」


「・・・クンクン・・・何かすごくすばらしいニオイがする」と、美衣が大きな箱の一つに近づいていき、おもむろにフタを開けた。


「キャーーーッ!!」


「どうした美衣!」

「いつものアレかしら」


「見てくれ父ちゃん!すごいぞ!たからの山だ!」と、冴内が箱の中を覗いてみるととても美味しそうな食材の山だった。肉、魚、野菜、果物など、どれも新鮮で量もタップリあり、とにかく見ているだけで幸せに包まれる程に美味な食材が入っていた。


「よしっ!いったん戻って調味料と米と調理器具をもってきてしばらくここで生活しよう!」

「さんせい!さんせい!」

「しばらくここに住むなら下着とかトイレットペーパーとかも持ってこなくちゃね」

「あっ・・・そうだね」


 冴内はなんとかして早急にトイレだけでも間仕切壁を作らないといけないなと心の中で固く決意しつつ二人を連れて研修センターに戻っていった。

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