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130:みらくるみっくちゅじゅーちゅ

 いつもよりかなり早めに切り上げるとちょうどお昼ごろに研修センターに着いた。食堂に向かう途中で道明寺の代理の職員がやってきて優はいつものように籠手と剣を渡すと、恐らく夕方にはある程度の鑑定結果が判明すると言って職員は研究室に向かっていった。冴内達はそのまま食堂に向かい力堂達と合流した。


 力堂達と昼食をとり、その後中会議室に向かいそれぞれの進捗報告を行ったところ、力堂達はこれまで人類が到達したことのない数値のステータスになったそうだ。力堂は防御力が100を突破しさらにHP(生命力)が4桁台に突入、矢吹は攻撃力と素早さが100を超え、良野も魔法能力が100を突破しMP(魔法力)も4桁台に突入した。手代木の索敵能力と吉田の運搬能力及び怪力の数値も前人未踏の数値を記録したそうだ。


 さらに例の宝箱から出てきた3種類の宝石が以前冴内達がD15洞窟で発見したルビー(仮)と同じ程の大きさと価値があり、それに加えて新たにサファイヤとエメラルドに似た鉱石もあるので、道明寺の支援として鈴森も奈良ゲート研修センターにやってきて目下鑑定中とのことだった。


 当然それらの情報は世界機関に公開されているので、近々世界各国の上位シーカー達も試練の門に挑みにやってくるそうだ。他にも成長著しく品行方正なルーキーの選抜隊も難易度優しいで挑むことが予定されたと言っていた。試練の門の登場で、これまで「過疎ゲート」の烙印を押されていた奈良ゲートもこれで少しは活気が良くなることだろう。


 冴内達の報告の番になると様子は一変し、その場の全員が緊張感に包まれた。とりわけ洞窟内のドーム状空間でてるてる坊主と全身鎧の戦士との戦闘映像の後、さらにその奥に進んだ辺りで冴内達以外の全員の気分が悪くなっていき映像を止めた。優と美衣は5分程進んだ辺りで気分が悪くなったが、この動画を見ていた他の者達は30秒も経たずに酷く気分が悪くなった。映像自体は単なるデジタル記録映像であり岩肌が映るだけの洞窟内の光景にも関わらず、全員が恐怖や不安感に襲われ悪寒や頭痛、めまい、吐き気が襲ってきたというのである。この動画の管理と公開は慎重に取り扱う必要があるということが満場一致で決まった。


 こんなにも酷く危険な場所に冴内達は挑んでいるのかということを改めてまざまざと思い知らされた力堂達は、それでもまだ挑み続けると言った冴内達を心から尊敬したが、しかしそれでもこれまで以上に命の危険性が高いこの状況に正直なところ挑んで欲しくない気持ちも同じ位高かった。


 だが冴内は今後「良くないもの」と対峙しなければならない時が来るかもしれないことを考慮して今以上に強くなっておかなければならないと言った。


 もちろん今は冴内の方から「良くないもの」に会いに行くつもりはないが、不測の事態で「良くないもの」が目覚めた場合に対処法が何もないよりは、出来る限りの準備はしておいた方が良いと思ったのだ。これついては冴内の言うことは全く正しく、現時点で地球人類が出来ることなど何一つなく、他に出来ることがあるとすればせいぜい冴内を仲介してりゅう君のオジサンが言っていた宇宙連合機関とやらに相談するしかないので、少しでも「良くないもの」を制御できるかもしれない力を持っておくことは危機回避のためにも必要不可欠であり全世界機関からも同意を得られるであろう。そういうわけで冴内は今後も試練の門に挑み続けることを改めて宣言した。


 この時冴内は試練の門の「答え」に関することについては一言も話さなかった。優も美衣も察していたが冴内がその件について触れなかったので二人とも黙っていた。


 夕方近くなり美衣の腹時計がグゥと鳴ったので食堂に行こうかと思っていたところ、道明寺と鈴森がやってきて、優の装備と力堂達が持ち帰った3種類の鉱石の鑑定結果が出たということで報告しにきた。


 優の装備については攻撃力、防御力、耐久性、すべてがやはり∞のマークで測定不能だったということに加えて自己修復機能があるということと、さらに驚くべきことに使用者の技量向上と共に装備品も数値が向上するという特徴を持っていることが判明した。つまりこれは何らかの生命体のような側面をも持ち合わせているとのことだった。


 続いて鉱石の方はやはり以前D15洞窟で発見されたルビー(仮)と同様、莫大なエネルギーが内包されており、電力換算では鉱石一つで日本の総電力消費量の5年分に相当し、ルビーについては攻撃力、サファイヤについては魔法力、エメラルドについては防御力の各数値が5桁の数値に届く程の素材性能を有しているということが判明した。ちなみに英雄剣の攻撃力は4桁の9999である。当然現在地球上にそんな素材を加工して剣や防具、魔法具を製作することが出来るシーカーは美衣以外誰一人もいないので機関側で丁重に保管されることになった。


 そしてこれらの鑑定を行った結果、道明寺の鑑定スキルと鈴森の鑑定スキルが共に15に達し、またしても世界記録を更新したそうだ。しかしそこに至るまでに何度か気を失ったり消耗して寝込んだりしたそうだ。以後は鈴森も奈良ゲート研修センターに常駐し、力堂達が持ってくる貴重な素材と、冴内達が挑んでいる第四の試練にある果物や魚などの食材も出来るだけ鑑定してみることになった。その後久しぶりに鈴森も揃って全員で食堂で夕食を食べいつも通り大浴場で汗を流した後早めに就寝した。


 翌朝、冴内は朝から優と美衣それぞれに個別で身体を使ったイメトレを実施した。冴内はてるてる坊主の特徴と全身鎧の戦士の特徴を丁寧に説明した。二人の飲み込みは異常に早く、これなら全く危なげなく倒すことが出来るだろうと確信した。しかしこの敵との闘いの本質は2体相手にして勝利することであり、1体ずつ個別に闘うのではその本質とそこから得られる成果を受け取ることが出来ないので、優と美衣にもその旨を説明し、近いうちに単独で2体を倒せるようになるよう頑張ろうと言った。


 そうして両手剣の剣士もクモ剣士も移動のついでに移動速度を全く落とすことなく瞬殺して通過し、洞窟内のドーム状の空間に到着し、まず初日の今日は美衣がてるてる坊主を、優が全身鎧の戦士を相手にすることを再確認し、冴内の合図とともに戦闘が開始された。


 驚くべきことに冴内の合図と共に二人の姿は消えて、次の瞬間てるてる坊主と全身鎧の戦士の目の前に現れた二人はそれぞれ攻撃を終了していた。美衣の攻撃はてるてる坊主の残像を真っ二つにし、優の剣撃は全身鎧の戦士の盾で防がれた。しかし続く2激3激目でそれぞれの攻撃がヒットし、てるてる坊主も全身鎧の戦士も消滅した。当然美衣も優も敵の攻撃を受けることなく完勝した。


 そして冴内達は洞窟の奥に進み始めた。前回は5分程の距離で優も美衣も気分を悪くしたが今回は7分の距離まで耐えて見せた。そこで我慢して頑張って耐えるよう冴内は二人にお願いし、二人も頷いて了承し頑張って耐え始めた。冴内は一人さらに奥に進んで行き10分後に顔面蒼白で戻ってきた。それでも前回よりは足取りはしっかりしており、3人とも安全地帯まで引き返していった。


 安全地帯に戻って各自サクランボを一口ずつ食べると気分は爽快になりすっかり元通りになった。そこで冴内はあちこちにある果物を眺めて時に近づき考えこみ首をかしげたり携帯を取り出して何やらメモを打ち込んだりブツブツと独り言を言い始めた。


「どうしたんだ?お父ちゃん、どれが一番おいしいか考えてるのか?」

「いや・・・どれもとても美味しいんだけど、この果物を使って死ぬ程酷い怪我をしても元通りになるくらいのすごい薬とか出来ないかな~って考えてるんだ」

「そんなすごいおくすりができるのか!すごいな!父ちゃん!」

「うーん・・・まだ、出来るかどうか分からないんだけど、これを作った宇宙人って凄くよく考えていて、これまでの試練もちゃんと意味があったんだ。だから今いるこの場所も何か必ずヒントというか、何か必要なものがあると思うんだよね」


「多分ペロペロキャンディの時もそうだったのよねきっと」

「そう!そうなんだよ!さすが優。あの時は僕らは気付かなかっただけで、これまでもちゃんと道は示してくれていたんだと思う。最近になってようやくそれに確信したんだ。我ながらホント冴えないなって思うよ・・・」

「うううん、でも私はそんな洋だから好きなのよ」

「アタイも今のままのお父ちゃんがいい!」

「ありがとう・・・でも、さすがに今回はちゃんと気付かないとホントに死ぬかもしれないからね、しっかり注意して万全の体制で挑もうと思うんだ。だから皆も何か気付いたことがあれば教えて欲しい」

「分かったわ!とりあえずこの場所にあるモノを集めてどうにかすれば、凄い回復薬が作れるのね!」

「アタイもなにかさがしてみる!」

「有難う皆!」


 こうして冴内達は死んでも生き返る程凄い回復薬を作るために安全地帯にある素材をくまなく調査することにした。果物だけじゃなくそこら辺に生えてる草やキノコ等も片っ端から採取してきて口にしていった。時折口から泡を吹いて白目になることもあったが、薄めた桃ジュースとサクランボで息を吹き返した。


 その姿はまるで漢方医療薬の始祖と称えられる古代中国の炎帝神農えんていしんのうのようで、1日に70回も中毒になりながら薬草を発見したいったという逸話も真っ青な程、家族全員で死にかけながら超回復薬の作成のために片っ端から口にしていった。


 その際気付いたことは携帯のメモ機能を使って書いていき、優と美衣にも意見を聞いて二人の直観も参考にした。そうして果物も含めてあらゆるものを食べ続けたので、美衣ですら昼食抜きでも問題なく試食作業は続き、夕方頃には有望そうな素材のリストアップが完了したのでその日は切り上げることにした。


 研修センターにつくと吉田が今日は食材がとれなかったことを美衣にすごく申し訳なさそうに言ったが、今日はおくすり作りでたくさん森の中のものを食べたからあまりお腹が減ってないというと吉田はすごく安堵した表情になった。また、食堂では美衣がいつもよりも全然食べないので心配した料理長が自ら出てきたが、これについても同様に説明したところ安心して厨房に戻っていった。


 食後冴内と優が厨房に行って大きな鍋とミキサーを借りれないか頼みに行ったところ快くどちらも貸してくれた。気が利くことにミキサーはバッテリー内臓式のものを貸してくれた。そうして明日に備えた準備を終了しこの日を終えた。


 明けて翌日ほとんど時間のロスもなく洞窟内ドーム状空間に到着した冴内達は早速てるてる坊主と全身鎧の戦士に挑んだ。昨日と異なり今日は美衣が全身鎧の戦士を相手にし、優はてるてる坊主の相手をした。今日はどちらもほぼ瞬殺だった。明日から一人で2体を相手にしようと冴内は言って、今日もさらに奥へと進んで行った。今日は優と美衣は9分の距離まで耐えることが出来た。冴内は一人先に進んで10分後に二人の元に戻ってきた、気分は悪そうだったが顔面蒼白という程ではなかった。


 安全地帯に戻ってきたので早速、鍋とミキサーを用意して昨日考えた素材のリストから冴内が二重丸をつけた素材を全てミキサーに放り込んでミックスした。二重丸を付けた素材は以下の通りである。


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桃、サクランボ、バナナ、スイカ(に似た果物)

ヒマワリに似た花の種

クルクマに似た花の球根※

オレンジ色のキノコ

※ちなみにクルクマ属の仲間には薬用として有名なウコンなどもあったりする

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 さらに大きな鍋でサトウカエデと杜仲(トチュウ)に良く似た木の樹皮を煮込みそれも混ぜ合わせた。


 そうして完成したジュースは濃いピンク色をしたドロドロした液体だった。さすがにそれをそのまま飲むのはためらわわれたので泉の水を汲んできてまずは試しに10倍程薄めたものを冴内は飲んでみた。


 しばらく考え込んでから優と美衣にも飲んでもらい、意見交換すると3人とも一致した見解としてマンゴーとキウイ(に似た果物)も入れてみようということになり、早速試したところどっちかが合わないような気がしてまずマンゴーを外してみたらどうも間違ったようで、キウイを外してマンゴーを入れたらこれが大正解だった。


 飲んだ瞬間に頭のてっぺんからつま先まで電流が走り目から光線が出るんじゃないかというくらい衝撃が走った。そしてその衝撃は決して悪い気分ではなく、むしろこの世に自分という生命が誕生したかのような実に爽快な衝撃だった。


 そうして「みらくるみっくちゅじゅーちゅ」が完成した。もちろん「ミラクルミックスジュース」が正解だが美衣がうまく発音出来なかったのでこうなった。


 ちなみに原液を小指の先にほんの一滴だけつけて舐めてみたところ冴内はその場で鼻血を出して卒倒した。

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