表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/460

129:分身の術

 翌日も同じルーティーンで試練の門にて冴内イメトレを実施し、まずは美衣が両手剣の剣士を瞬殺。さらに進んでクモ剣士相手に優が挑み5分程かけてクモ剣士を倒した。もっと早くに倒せたが籠手によるガードの練習をしてみたかったとのこと。そして洞窟内に入り、昨日冴内が少し手こずった相手のいるドーム状の空間に出た。


「僕も今日は色々と試してみよう。二人ともよく見ててね、美衣はてるてる坊主の方を見て考えて、優は全身鎧の戦士の方を見て考えて、あさってには二人にも対戦してもらおうと思ってるよ」

「わかった!」

「分かったわ!」

「じゃあ行くよ!」


 ガキィィン!と、またしても冴内は言い終わると同時に消えて、いきなり全身鎧の戦士にチョップを叩き込んでいた。しかし今日も全身鎧の戦士の盾によって防御された。だが全身鎧の戦士は防御するだけで精一杯で片膝をついた。美衣も優もこれで決まったと思ったのだが冴内はとどめを刺さずにすぐ横にステップ移動した、すると冴内のいた場所に稲妻の雷光が次々と落ちて、一瞬遅れてバリバリィッ!という凄まじい轟音が響き渡った。


「まぁそうくるよね!」と、いいながら冴内はてるてる坊主の方に向かって消えたかと思うといきなりてるてる坊主の背後に現われて水平チョップを放ちてるてる坊主は真っ二つになったのだが冴内は「やるなぁ!」と言ってまた消えた。するとてるてる坊主は全身鎧の戦士の横に出現し、同時に冴内もそこに出現してチョップを放っていたがまたしても全身鎧の戦士の盾で防がれた。そして冴内の顔のすぐ真横でてるてる坊主は爆炎の火球をゼロ距離射撃で発射した。まともに受けた冴内の頭が消失した。


「わぁぁぁーーー!父ちゃんぁぁぁん!!」

「いやぁーーーッ!洋ーーーーーッ!!」


 しかし消失したのは冴内の残像であった。


「ごめんね二人とも驚かせちゃって。でもどうしても今色々と練習しておかないといけないんだ。あともう少しで掴めそうだから、もう少し我慢して。あと、しっかり見て考えてね!」


 冴内はてるてる坊主と全身鎧の戦士を交互に相手し始めた。しかも今度は全く攻撃しなくなった。いや、正確には倒す目的のチョップをしなくなった。具体的には軽く相手にタッチしているのである。しかもさっきまでは消えたり現れたりを繰り返していたが今度はただ歩き回っているのである。それはあらかじめどういう攻撃が来るのか分かっているかのようだった。冴内はてるてる坊主と全身鎧の戦士の間を歩き回ってはタッチするだけなのだが、てるてる坊主も全身鎧の戦士も全力で魔法攻撃や盾の防御と剣の攻撃を繰り返しており、それでも既に15分近く無休憩で動き続けていたので果たして彼等にはスタミナ切れなどなく永遠に動き続けられるのではないかと絶望的に思えたが、突然両方ともガス欠になったようで、動きを停止してその場に崩れ落ちた。


「うーん・・・ここまでかな?」と冴内は言ってそれぞれの相手を軽くチョップすると、それだけで両方とも消滅した。

「どう・・・かな・・・少しは二人の参考になっただろうか?」

「すごいぞ父ちゃん!さいごのほうはだいぶさんこうになった!」

「そうね、二人相手には難しいけど片方ずつなら私にもなんとか出来そうな気がするわ!」


「じゃあ・・・先に進んでみようか・・・」と、冴内はこれまで見せた事がないような硬く引き締まった表情で洞窟の奥を見据えて言った。


 そうして奥に進むこと5分、冴内はそこで急に停止した。


「どうした父ちゃん?」

「どうしたの?」

「二人とも1歩前に出てみて、ゆっくりと、1歩だけだよ」

「わかった」

「分かったわ」


スイッ


「「・・・・・・・ッ!!!」」

「グッ・・・グググ・・・」

「グゥッ・・・」

「どう?」

「なんか・・・なんかきもちがわるい・・・」

「こんな酷い気分・・・はじめ・・・て・・・」


 冴内は二人のさらに前に出てから二人を優しく抱いて後ろに下がった。


「「ハァッ・・・ハァッ・・・」」


「このさきはなんかとてもやばい気がする」

「そうね、この先は今の私達じゃ行けないわ」

「そうだね・・・この先は答えが分からないと行っちゃいけないと思う・・・」


 そうして冴内達は安全地帯に引き返していった。その後はいつも通りのルーティーンで昼食後は冴内イメトレを実施して研修センターに戻った。


 力堂達がまだ戻っていなかったので心配したのだが、30階層の攻略に成功したのでこれから戻ると機関職員には連絡が入ったそうだ。しかも30階層のボス部屋からは宝箱が3っつ出てきて、巨大なルビー、サファイヤ、エメラルドのような鉱石が出てきたとのこと。以前美衣が言ったセリフじゃないけどどうにも冴内達には報酬がけちんぼな気がしないでもない。ともあれ冴内達は食事をして大浴場にて汗を流しいつものように早く就寝した。


 翌朝冴内達はいつも通り朝6時の食堂開始と共にたっぷりと朝食を食べ試練の門に向かった。力堂達は昨日は冴内達が就寝した後に研修センターに到着したようで、恐らく今日はゆっくり休むのだろう。冴内達は今日も7時ちょっと過ぎには試練の門に入り、特にウォーミングアップすることもなくいきなり両手剣の剣士を優が瞬殺し、次にクモ剣士を相手に美衣が挑んだがこれも見事に1分以内で全ての攻撃を躱しきって撃破した。そのまま洞窟に入りてるてる坊主と全身鎧の戦士のいるドーム状の空間に入った。


「今日は昨日掴んだ技を試してみるね、うまくいけばあっという間に終わるから、出来るだけよく見ておいてね」

「わっ!なにをするんだろう?楽しみだ!」

「えーと・・・美衣はてるてる坊主で、私は全身鎧の戦士を見ていればいい?洋の動きはもう私達でも目では追いきれないよ」

「そうだね、今日はそれでいいよ。でも大丈夫、きっと二人ともすぐに僕の姿を捉えることが出来るようになるよ」

「それって洋が言ってた答えが分かれば、出来るようになるってことね?」

「あっ、さすがだね優」

「よーし!がんばってこたえを見つけるぞ!」

「じゃあ行くよ、今日はカウントダウンするね」

「3・・・2・・・1!」




 次の瞬間二人の冴内が突然てるてる坊主と全身鎧の戦士の前に同時に現れて、一瞬でてるてる坊主も全身鎧の戦士も消滅した。そして冴内自身はどこにいるかというと美衣と優の間に立っていた。




「にんじゃだ!アタイそれ知ってる!しんぶんのじゅつだ!・・・ちがった、ぶんしんのじゅつだ!」

「えっ・・・洋・・・それ・・・えっとどうやったらそんなこと出来るの?」

「いや、分身の術じゃないんだけど、いや、待てよ分身の術ってこういうことなのかな?えーと・・・とりあえず別に僕が二人にはなってなくて、先に全身鎧の戦士を攻撃して次にてるてる坊主のところに行って攻撃して戻ってきたんだ。多分攻撃した時に一瞬だけ停止したからその時の残像を遅れて見たのかもしれないね」

「そういえば父ちゃんが出てきたとどうじにてるてるぼうずもよろいのひともいっしゅんできえたぞ」


「なるほど、要するにすごく速いってことね!」

「まぁそうだね、簡単に言うとそういうことだよ」


 冴内先生・・・確かに言うのは簡単ですが実行するのはどう考えても不可能だと思うのですが・・・


「でもどんなれんしゅうしたらそんなに速く動けるようになるんだ?」

「また目隠しして森の中を全力疾走したら速くなれるかしら?」

「いや、そういうトレーニングじゃムリだと思う」

「やっぱりイメージトレーニング?」

「うーん・・・確かにそうなんだけど半分正解ってところかなぁ」

「それもたぶんお父ちゃんがいってたこたえが分からないとダメなんだきっと!」

「美衣!その通りだよ!」と、冴内は嬉しくなって美衣を抱きしめた。

「えへへへ!」


「さて・・・と、まだ朝の8時にもなってないね。ちょっと二人ともここで待っててくれる?」

「このさきにいくのか父ちゃん!」

「えっ!ダメよ!洋!」

「うん、ちょっと遠くから覗いてくるだけにする。だから二人ともここで待っていてくれる?」

「本当ね洋?」


「本当だよ、多分・・・今の自分がいったら、倒されるんじゃなくて、この世から消えると思う」


「!!そんなのがおるのか!!」

「うーん・・・いるというか、いないというか、とにかくそれを確かめるためにちょっと見てくるよ」

「絶対戻ってきてね洋!」

「父ちゃんぶじで帰ってきておくれよ!」

「分かった!必ず戻るから安心して!」


 そうして冴内は洞窟のさらなる奥へと入っていった・・・


 それから15分程経過した後冴内は戻ってきた。冴内の顔面は蒼白で今にも吐きそうな程具合が悪そうだった。


「父ちゃん!」

「洋!」

「まいった・・・少し覗いただけでもこの有様だよ・・・とりあえず安全地帯に戻ってサクランボを食べたら気分は良くなると思うから急いで戻ってもいい?」と、冴内が言うが早いか優は冴内をお嬢様抱っこして目にも止まらぬ早わざで投げる手裏剣ストライクじゃなくて、目にも止まらぬスピードで安全地帯までぶっ飛ばした。さらに美衣は先行してぶっ飛ばしサクランボをとっておくと叫んだ。


 安全地帯で優は優しく冴内を横たえて、美衣がすぐにサクランボを冴内の口に入れてくれた。よく気が付くことにコップに泉の水を入れて持っている。冴内は感謝を述べてサクランボを飲み込んだ後で美衣が入れてくれた水も飲み干した。すぐに冴内は回復して元気になった姿を二人に見せたので優も美衣もようやく安堵した。そんな二人を冴内はたまらなく愛おしく感じ、二人を優しく強く抱きしめた。二人とも冴内を強く抱き返した。


「ねぇ洋、あの先には何がいたの?」

「・・・それは、今はまだ言えない、というよりも自分も良く分からないんだ」

「お父ちゃんでもそんなにたいへんなのか・・・」

「うん、もっと強くならないとね」

「わかった!アタイもがんばる!」

「よし、じゃあもう少し休んだら練習しようか」


 その後回復した冴内はイメージトレーニングを再開したが、二人も初日に比べてかなりついてくるようになり、そこで冴内は1段階レベルを引き上げたがそれでも二人は驚異的な成長でついてきたので、一瞬だけホンキを見せたところ、二人とも気絶してしまった。50パーセント濃度の桃ジュースを口移しで飲ませて気絶から覚醒させてからサクランボを食べさせると元気になった。結構冴内も厳しいことに、この日は3回程本気を出して美衣と優は3度気絶を繰り返し、いつもより早めに試練の門を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ