124:冴内からの試練
「わかった!いってくる!」
「分かったわ洋!」
と、何も知らない第三者が見たら残酷すぎるハラスメントかドメスティックバイオレンスのような状況であったが、冴内はまるで何かモノをとってきてぐらいの口調でとんでもない依頼を二人にだした。しかし依頼を受けた二人ともよしやるぞ!といった具合に腕や首をグルグル回したりしながら、巨大な花に近づいて行った。
そもそも花と戦う以前に冴内から離れて脇道に足を踏み入れた瞬間からツタが猛烈な勢いで二人に襲い掛かってきた。ほとんど肉眼では追いきれない速さにも関わらず優は紙一重で避け、美衣は一つずつ切り飛ばしていった。優は時折かわしたツタを踏んづけて、美衣がその根本を斬撃で切り飛ばした。二人ともツタのトゲムチまでなら余裕で対処出来た。そして巨大な花が存在する小さな空間まで辿り着くと一息つく間もなく花の周りでウネウネしていた茎によるトゲムチが二人に容赦なく襲い掛かった。
巨花のトゲムチはツタのトゲムチよりもさらにスピードも威力も上で、避けた際の地面がえぐれる程で優も美衣もかろうじて避けるのが精一杯といった状況だった。そんな二人をただ黙って見守っている冴内。やはりはたから見ると冷酷非道な傍観者のようだが、そこで冴内は二人にアドバイスした。
「全部は言わないから考えて!先端を見ようとしちゃダメだよ!」
「わかった!」
「分かった!」
四方八方から襲い掛かる巨花のトゲムチのスピードは凄まじく地面を叩いてえぐれた土埃も相まってほとんど何も見えず、ただ地面を叩きえぐる音と空気を切り裂くトゲムチの残酷な音だけが聞こえる地獄のような光景になった。
「グエッ!」と最初に被弾したのは優で後方に吹き飛ばされた。そこへ容赦なく背後からツタのトゲムチが襲い掛かる、冴内が軽いチョップの斬撃で遠距離から根本を切り取るとムチはボトリと力なく落ちた。「後ろにも気を付けて!」「ごめん洋!」と、これまで一切しなかったやりとりをした。
「でも今ので何か分かったわ!」と優は立ち上がり巨花に挑んでいった。優が被弾した箇所は運よく胴当てだったので猛毒にはやられていないようだ。
時間にしてわずか数秒の出来事ではあったが、その間非常に非情なことに幼い美衣が一人取り残され巨花の猛攻を全て一人で耐えきらねばならなかったのだが、それでも冴内は一切の手出しをせず黙って美衣の戦いぶりを見ていた。
「美衣!そろそろ気付いて!」
「うん!わかってきた!」
美衣は徐々に巨花のトゲムチを避ける時の回避運動が短く小さく鋭くなっていった。顔と目線についてもトゲムチの先端を追うのではなく茎の根本を見ていた。さらにそれを続けると今度は巨花の花びらを見始めていた。ごくわずかな花びらの揺れから、それが茎に伝わりそしてトゲムチの先端に伝わっていくのが分かった。微妙な花の揺れからその後どういう軌跡を描いてくるのかが予測出来るようになって音速をはるかに超える先端を目でとらえる必要がないことが分かった。美衣はさっきまでは飛んだり跳ねたり回転したり激しい動作でトゲムチを回避していたが、コツを掴んでからは立ったまま最小限の動きで回避し始めた。立ったままスライドして動く美衣の姿はいよいよ残像を残し始める程だった。
「美衣!交代よ!」と優が言ったので美衣は「分かった母ちゃん!頑張れ!」といって直立姿勢のまま予備動作もなく凄まじいスピードでスライドバックした。優も入れ違いに凄まじいスピードで巨花のおよそ目には見えないトゲムチの暴風雨の中に突っ込んでいった。まるで縄跳び遊びで「♪お嬢さん♪お入んなさい♪」という歌でも歌って遊んでいるかのように音速超えの凶悪な殺戮トゲムチの中に入っていった。しかし優も既にこの戦闘の本質を見抜いており、後は実際に身体で動作のコツを掴むだけであった。やはり優も最初は回避動作が大きく時折トゲムチの攻撃を掠めたが優は胴当てがあるので毒にはやられず、その分大胆に挑むことが出来るので割と早くコツを掴んでいった。
しかし優は美衣と違って攻撃力がないので巨花にとどめを刺すことが出来ない。そこで優は回避に慣れてきたところでトゲムチを踏んづけて停止させ始めた。踏んづけるとすぐに他のトゲムチが襲い掛かるのでその際は踏んづけた足をどけて回避せざるを得なかったが、やがてそれにも慣れてきて、踏んづけては躱し踏んづけては躱しを余裕で行えるところまできた。やはり恐るべし最強の【ンーンンーンンンン】人、戦闘センスと学習能力が尋常じゃない。
「美衣!あいつの弱点分かったかい?」
「ウンわかった!」
「じゃぁそろそろ倒していいよ」
「わかったそうする!」
と、冴内が美衣にゴーサインを出したので美衣は凄まじい勢いで猛ダッシュした。その際優はなんと二本のトゲムチを足で踏んづけていた。「母ちゃん
さんきゅー!」といって美衣は身体を右側に捻って右腕を90度曲げて溜を作ると、美衣の右腕が黄金に輝き始めた。
「ごーるでん・・・
・・・
・・・
・・・
すとれーとぉぉぉぉ!!」
美衣の指先から放たれた黄金に輝く一筋の閃光が巨花の中央部にある雌しべを貫いたと同時に巨花は一瞬で消滅した。巨花は何も落とさなかったが、美衣と優はレベルアップした。
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冴内 優
21歳女性
★スキル:真・頑丈Lv3+⇒真・頑丈Lv4
称号:試練の新妻
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冴内 美衣
永遠の13歳:可憐な乙女
★スキル:真・万能チョップLv3+⇒真・万能チョップLv4
称号:試練の英雄
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「あれ?そういえば今ようやく気が付いたんだけど優も21歳になってたんだね」
「そうだよ、私は洋と同じ誕生日なんだよ」
「えっ!そうなの!?」
「うん、元は違うというか覚えてすらいないけど、これからはずっと洋と同じ日に年を取ってずっと同い年になっていくのよ」
「アタイもそれがいい!」
「美衣は別の人と結婚すればそうなるわよ」
「お父ちゃんいがいの人とけっこんしないとだめなのか?」
「そうよ、親子で結婚は出来ないのよ」
「グヌヌ・・・分かった・・・いつか別の人とけっこんする」
「そうよ、美衣はまだもっと色んなところにいって色んなものを見て、色んな美味しいものを食べて、もっと人生を楽しんでたくさん遊ぶといいわよ」
「ウン、分かった!そうする!」
そうして冴内達は今度こそ元の安全地帯に戻っていくことにした。その際今度は冴内は美衣と優を先行させて、美衣と優から距離をとって歩いた。当然ツタのトゲムチが四方八方から美衣と優に襲い掛かるが二人とも何も気にせず歩き続けた。美衣はスパスパと切り取り、優はヒョイヒョイ避けながら時折踏んづけてトゲムチの動きを止めて美衣に切ってもらった。二人とも全く危なげなくトゲムチに対処出来るようになったので冴内も安心して合流し、境界線の膜を通り抜けて安全地帯に入っていった。
ここでお昼にはまだ少し早いが優手作りの弁当を食べることにした。黒帯カエルの霜降り肉を使ったステーキサンドイッチと黒帯カエルのヒレ肉を使ったヒレカツサンドイッチ、そして黄金ワームのボンレスハムを使ったハムサンドが並び、美衣はもうヨダレが滝のように口から溢れ出て、冴内も何度も唾を飲み込んでいた。サンドイッチは10人前程も用意してきたのだが、あっという間に美衣が平らげてしまった。一応冴内も3種類全部食べることが出来たし一つ一つが結構ボリューミーだったので十分満足出来た。食後のデザートということで周りにある木を見ると最初に美衣が食べた桃以外にも色んな種類の果物がなっている木があり、一応念のため顔にタオルを巻いた優がいくつか見て回ると、みかんによく似た果物の前でタオルを外し匂いを嗅いだ後皮をむいて一口食べるとちょっとだけ感電したかのようになったがウンウンと頷いてもぎ取り両手いっぱいに抱えて帰ってきた。「これはそのまま食べても大丈夫よ」と言ったので待ってましたといわんばかりに美衣はバクバク食べ始めた。皮ごと・・・やはり美衣があらかた食べ尽し、冴内と優は一つだけ食べたがそれでも十分満足した。食休みを十分とり、3人で少し昼寝をした後で冴内は二人にイメージトレーニングをしようと言った。
「どうすればいいの?」
「二人とも僕の前に立って・・・うん、じゃあそこにいてね・・・と、これくらいの距離かな?よし、じゃあさっき両手剣の剣士を倒したときの動きを再現するね。実際には僕は動かないし二人もその場から動かないでね、僕をよく見て頭の中でイメージしてみて」と、冴内は美衣と優からおよそ7メートル程の位置に立ち、両手を胸の前に、漢字の「八」の字を書くように掲げた。
「じゃあイメージするよ」
「よく分からないけど、わかった!」
「分かったわ洋」
「行くよ」
直後、美衣と優はその場に崩れてOTLの形になった
冴内は静かなままで、一切殺気や威圧のようなものは放っていないのだが、美衣も優も膝から崩れ落ち地面に手をついた。
「ど・・・どうたいがまっぷたつになった」
「私は首チョンパされた・・・」
「ごめんね、いったん休憩しようか」冴内は桃の木のところに行って桃を二つとってきて、優が作った桃ジュース入りの水筒に、もぎ取ってきた二つの桃を握りつぶしてジュースに加えて味を濃くして一口コップに注いで飲んでみて、これくらいかな?と言って二人にも飲むように勧め、冴内は川にいって手をすすぎにいった。美衣も優も言われた通り味が濃くなった桃ジュースを飲むとすごく気分が落ち着いた。
「父ちゃんすごいな!すごく気分がよくなった!」
「ホントね!とても気分が良くなったわ!」
「あっ!ホント!?じゃぁ立って!もう一度さっきのをやるよ!」
「・・・」
「・・・」
二人は今度の試練のボスは冴内だったのかと心の中で思い始めていた・・・・




