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120:団体戦

 3人とも余裕で黒帯カエル達に勝利出来るほど技術が向上したので、いよいよ第三の試練のボス部屋に挑むことになった。


 いつも通りボス部屋扉横の台座に美衣が手を乗せて元気よく「たのもう!」と言うとやはり扉はゴゴゴゴと重々しく開いていった。中に入っていくとやはり部屋の中央部が光り輝き始め、光が収束していくと同時にこれまでよりも一回り以上大きな黒帯カエルと首に蝶ネクタイをした審判カエルが現れた。


「私の番ね!ようし!行ってくる!」

「頑張れ母ちゃん!」

「頑張れ優!」


「タガイニ レイ!」

「っしゃあ!」

「ゲコゲコォッ!」


 まずは様子を見ながらジリジリと近づく優、今回の相手はこれまでと違って素早い組み手争いを仕掛けてくることがなく堂々と両手を前に構え、いつでも来いという風格を感じさせた。そんな相手の力量を肌で感じたのか、優はなかなか攻め込めずにいたのだが突然黒帯カエルが腕をおろして右手でコイコイと挑発するかのような仕草をしてきたので、すかさずその右手を掴みに出たところ逆に掴まれそうになりあわてて手を引っ込めようとしたらそのまま黒帯カエルはもの凄いスピードで優の懐にもぐりこんで足を掴みにきた。横っ飛びで間一髪逃れたが寝技に持ち込もうと黒帯カエルが飛びかかってきた。黒帯カエルはかなりの巨体なので寝技に持ち込まれたら体格と体重差で勝利は絶望的だ。両手を広げてまるでジャンピングボディプレスをするかのように優に迫る黒帯カエル、巨体のため面積が広くもうどこにも逃げ場がない、誰もがこのまま押しつぶされると思っただろうが優は「どっせぇぇぇぇい!」と大声を張り上げ巴投げの要領で黒帯カエルの腹に両足を乗せて一気に蹴り上げた。黒帯カエルはその巨体に似合わず俊敏な動きで宙返りをしようとしたが、優がガッシリと黒帯カエルの右手を両手で掴んで離さなかったので黒帯カエルは宙返りで躱すことが出来ず背中から落ちそうになったが、やはりその巨体からは想像出来ない程俊敏かつ驚異的柔軟性とバランス能力でかろうじて背中から落ちるのを防いだ。


「ワザアリ!」と、それでも審判カエルが優の優勢を宣言した。互いに立ち上がり肩でハァハァと息をした。審判カエルが優の柔道着を指さしたので、優はハッと気付いて道着を整えて帯を締め直した。優はかなり際どく肌が露出していた。その間黒帯カエルは姿勢正しく待っていた。


「ハジメッ!」

「おうっ!」

「ゲコゲコォッ!」

 今度は黒帯カエルが一気に前に出てきた。その巨体を活かしたパワー勝負に出てきたのだろう。優はその突進を捌くように弧を描くように素早く動き足払いをしかけたが、またしても黒帯カエルは驚異的なバランス能力と柔軟性で耐えきり、その巨体とパワーで強引に優に対して大外刈りをしかけてきた。優は後ろに吹っ飛ばされそうになる力を利用してその力のベクトルを変えて自らをコマのようにスピンさせて逆に黒帯カエルの腹に自分の背を密着させたかと思うとそのままうずくまるようにして身体を丸めて小さくした、その間黒帯カエルの右手をがっちり両手で掴んで離さず思いっきり下に引っ張った。黒帯カエルは自らのパワーと小さく丸まった優に躓いて前方に投げ飛ばされた、しかしそれでもなお黒帯カエルは背中から落ちないように巨体を捻って受け身を取った。なんという執念と身体能力。だが!


「ワザアリ! アワセテ イッポン!」と、審判カエルが高らかに優の勝利を宣言した。

「おっしゃぁぁぁぁ!」

「やった!やったぞ!母ちゃん!」

「やった!優ーーーッ!!」

「タガイニ レイ!」

「ありがとうございました!」

「ゲコゲコウッ!」

といって黒帯カエルと審判カエルは消滅し、一際大きくて霜降り具合が最高に美味しそうな肉を落としてくれた。


 見ごたえ充分の試合でもちろん今回もバッチリ高性能ビデオカメラでその様子は録画されている。優は肉を拾ってきて試合の邪魔にならない場所に置いて美衣からビデオカメラを受け取った。


 美衣が鼻息も荒くチョップを用いた空手の型をやっていると次の対戦相手が現れた。


 またしても大柄な黒帯カエルと審判が現われた。先ほどの黒帯カエルはどちらかというと前後左右に分厚い巨体だったが、今回の黒帯カエルは長身でかなりマッチョな体型に見えた。この二人が互いに並んだ姿は、とてもじゃないがこれからこの二人が戦うなど一方的な虐殺でしかないと思える程残酷すぎる光景だった。しかし美衣は闘志マンマンですごく嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねていた。


「タガイニ レイ!」

「きゃおらっ!」

「ゲコゲコォッ!」


 黒帯カエルはもの凄いスピードで前蹴りを放ってきたが美衣は軽々とスウェーバックした、しかし黒帯カエルはさらに前進を止めずに追い打ちをかけて下段突きを美衣の顔面めがけて放ってきた。美衣は手で払うことも捌くこともせず、黒帯カエルの突きをまともに顔面に食らった・・・かのように見えたのだが、なんと黒帯カエルの突きが一番伸びきったところで停止し、黒帯カエルの拳にキスをしてこう言った「すっげぇぱんち!チュッ!」恐るべし美衣の見切り能力。まさにグラップラー美衣!ヒモ切るぜ!っていいのかそこまで書いて・・・ともあれ黒帯カエルの顔が真っ赤になっていかにも頭に来ているかのように見えた。しかし黒帯カエルも美衣も礼儀正しくスタスタと中央の位置にまで戻ってからもう一度構え直した。


「ハジメッ!」

「ちぇすとぉーーーっ!」

「ゲコゲコォッ!」


 掛け声と共に黒帯カエルが凄まじい暴風雨のようなコンビネーションを美衣に浴びせてきた。美衣は全て紙一重で躱したり、チョップを軽く添えて軌道を逸らしてみせた、さらに回し蹴りの直撃を食らったかのように見えた時は自らその方向に風車のように側転して力を逃がした。最初の時は蹴りがまともにヒットして側転したが、今回は自らの意思で力を逃がす意図的な側転だった。右ローキックをジャンプで躱し空中で逃げ場がなくなった美衣に対して正拳突きを叩き込もうとするが美衣は左手をこすりつけるように接触させて軌道をずらしそのまま黒帯カエルの腕の上に片足立ちしてみせた。

「これ、やってみたかった!マンガとかアニメでよくでてくるやつ!」

 黒帯カエルは手を勢いよく引っ込めてその引き手の力を利用して回転しベニーユキーデも真っ青なバックスピニングキックを放ってきた。美衣はヒョイと縮こまってチョップで軸足を払った。黒帯カエルはバランスを崩して派手に倒れたが美衣は追い打ちをかけることなく余裕で距離を取り、片目をつぶって右手を掲げてコイコイという仕草をした。黒帯カエルはますます顔が真っ赤になり美衣に突進してきた。美衣はぎりぎりまで黒帯カエルを引き付け、絶妙な位置で美衣から向かって右側方、黒帯カエルからすると左側面にまるでスケートのように滑らかで頭の位置が上下にまったく動かない美しい動きで見事な体捌きをした、まさにそれは冴内の十八番イノシシ狩りの動作である。

「食らえ!父ちゃん直伝の体捌きチョップ!」

 美衣の右手がまさに冴内のチョップと同様に黄金に輝き光の粒子残像を残して美しい弧を描いた。当然黒帯カエルは消滅し、今度はかなり上質なヒレ肉のような巨大な肉を落としてくれた。


「イッポン!」

「ありがとうございました!」

「美衣ーーーッ!!」と冴内は高性能ビデオカメラをそっと床に置いてから美衣に抱きついて大喜びした。とくに最後の決め技が自分の十八番のチョップだったのが何よりも嬉しかった。

「完璧よ美衣!すごく美しい闘いだったわ!」

「ありがとう父ちゃん母ちゃん!うわ!今度の肉もすごくうまそうだぞ!やった!」


 そうして順調に勝ち続けると、何やら音楽が流れてきた。


「えっ?あれ?もう終わり?」

「あら、でもいつもと違うメロディよ?」

「うん、ちがうきょくだぞ父ちゃん」


 そのメロディは全世界で大ヒットし、シリーズ作も作られた世界的大人気ボクシング映画「グロッキー」のテーマ曲だった。いやいくらなんでもグロッキーは色んな意味でダメだろ・・・


 いよいよ最後のカエルが出てきた。両手にグローブをしているが、腰にはベルトが巻かれていた。見事なまでに光り輝くチャンピオンベルトが巻かれていた。そしてこれまでのカエルと違って肌が黒く艶やかに輝いており、そのせいで一際凄まじい筋肉のシルエットが浮かび上がっていた。上半身、とりわけ僧帽筋から広背筋の筋肉のつき方が異常で顔や手足の造形はカエルだがそのシルエットはとてもカエルの姿ではなかった。しかも全身から湯気が出ており、それが見ようによってはオーラを身にまとっているかのようだった。


「父ちゃん・・・アレ・・・」

「洋・・・アレ・・・」

「うん・・・これまでとは、桁違いだ・・・」


「ゲコゲコゲコーウ!ゲコーウ!ゲッコゲコゲコォー!ゲコゲッコーウ!(以下略)」レフェリーカエルがなにやらこれまでになく鳴いているが、恐らくこれは「本日のメインイベントォォ!世界タイトルマッチィ!・・・」みたいな前口上を言っているのだろう。そしてレフェリーカエルがチャンピオンカエルの方に向けて高らかに手を掲げると、チャンピオンカエルは両手をあげてアピールした。軽やかにステップしてジャブを放ち「ゲコゲコゲコ!」と鳴き、冴内達の方に向かって両手をコイコイという仕草で動かした。


「父ちゃん・・・がんばれ!」

「洋!・・・頑張って!」

「うん!いってくる!」

「ゲコゲコォー!ゲコォッ!」と、レフェリーカエルは冴内の方を指して恐らく挑戦者冴内の紹介をした。

「よし!行くぞ!ゴング!」

「ファイッ!」

「ゲコゲコォッ!」

 カァーン!と、今回はどこからかゴングの鐘の音が聞こえた。


 チャンピオンカエルは左手を軽く突き出してきたので、冴内も軽く突き出して互いに拳と指先を触れ合わせた。コクンと頷き合ってファイティングポーズをとった。いつも通りオーソドックスなアップライトスタイルの冴内、それに対してチャンピオンカエルは前傾を強めにしたクラウチングスタイルで、いかにも接近戦の打ち合いを好む戦闘的スタイルだった。チャンピオンカエルは素早く間合いを詰めることはしなかったが、もの凄い威圧感でズンズンと間合いを詰めてきた。冴内は円を描くようにステップして距離を保とうとし、けん制のジャブチョップを放って距離感をはかろうとしたが、腕が伸びきる前にダンッと大きく地面を蹴って一気にチャンピオンカエルは冴内の間合いに飛び込んできた。冴内も矢吹の指導の元こうしたインファイターの対策を何度もイメージトレーニングしてきたのでチャンピオンカエルの突進と同時にカウンター狙いの右ストレートチョップで迎撃した。冴内のカウンター右ストレートチョップは見事にカエルの顔面にヒットし、これまでのカエル達はその一撃で消滅してきたのだが、チャンピオンカエルは消滅せず冴内のがら空きになった左顔面にチャンピオンカエルの右フックがヒットした。バチィィィン!という凄まじい音で冴内はその場で風車のように側転してダウンした。


「ダウン!」とレフェリーカエルが宣言し、カウント音が聞こえてくる。

「父ちゃん!」

「洋!」

「大丈夫だ!」冴内は矢吹からのアドバイスを思い出し、すぐに立つことはせずカウント7までゆっくり呼吸してからカウント8で立ち上がりカウント9でファイティングポーズをとった。常人ならば今の一撃でKOどころか頭が木端微塵に吹き飛んでいた程の威力なのだが、冴内もこれまでのトンデモ経験によりおよそ人とかけ離れた存在になっていた。とりわけ直近のペロペロキャンディの効果が大きかった。それにしても絶妙なカウンターだったにも関わらず消滅しないとはさすがチャンピオン。相当にタフな相手だ。よく見ると黒光りしている肌のチャンピオンカエルの額が赤くにじんでいる。なるほど最も硬いおでこで自ら当たりに行くことで力が乗って一番破壊力が出る距離を潰してきたのだ。さすがインファイターなだけあって試合巧者だ。


 ならばということで冴内はボディ攻撃重視に切り替えた。体格が明らかにチャンピオンカエルの方が大きいので当てる的も大きければ懐にもぐりこむのにも有利だ。突進してくるチャンピオンカエルをギリギリのタイミングで冴内の十八番の体捌きで脇腹方向に弧を描くようにスライド移動してチャンピオンカエルの左わき腹めがけてボディブローチョップをグサリと突き刺すと「グエェッ!」とたまらずチャンピオンカエルはヒザを付いた。


「ダウン!」

「いいぞ!父ちゃん!」

「洋!ステキよ!」

 チャンピオンカエルもゆっくりと呼吸を繰り返しきっちりカウント9で立ち上がってファイティングポーズをとった。

「ファイッ!」

 ここでチャンピオンカエルはファイティングポーズをL字型ガードスタイルに切り替えた。左腕を肘で90度にまげてL字型にして、身体を半身にしてボディへのガードを強化した。このスタイルはアメリカの伝説的ボクサーが好んだスタイルである。左右にステップしてボディを放ちたい冴内だが相手もガードを固めてきたのでなかなかに攻め切れなくなった。そこで・・・




 冴内はなんとノーガード戦法をとった。




 冴内は両腕をダラリと下げていかにも殴って下さいといわんばかりに前傾して顎を前につきだした。無謀、それはまさに無謀ともいえる光景だった。それを見たチャンピオンカエルは一瞬たじろいで見えたがすぐに接近してジャブを打ち込んできた。それを冴内は紙一重でヒラリと躱す。さらにチャンピオンカエルはジャブを何発も打ち込むが冴内は柳の様に柔らかくヒラリヒラリと躱した。一体どうしたんだ冴内!お前はホントに冴内か?いつからそんなに凄くなってしまったのか!と言いたくなるくらい見事にチャンピオンカエルのジャブ連打を避けた。


 ちなみにこれについては矢吹の提案による練習方法の成果で、アルミ製の物干し竿の先端をクッション材で覆ってグローブをはめたものを用意し、優と美衣がひたすらその竿を用いて音速を超える速さの突きを冴内に食らわすという残虐極まりないスパルタ練習法の賜物である。ジャブの連打を避けまくる冴内に業を煮やしたチャンピオンカエルが力を込めた左フックを放ってきた。力を込めるためにジャブよりもコンマ何秒かの予備動作があり、また放物線を描くため到達時間もコンマ数秒遅い。それを見計らった冴内はそれを待っていたかのようにチャンピオンカエルのみぞおちに渾身の会心のアッパーチョップを食らわした。ズボォッとチャンピオンカエルのみぞおちにチョップは深々と食い込んだが同時に冴内の右顔面にチャンピオンカエルの左フックが当たり両者ともにダウンした。


「ダウン!」

「立てー!父ちゃん立てー!」

「立て立てェ!立つんだ洋ーッ!」


 冴内は早いカウントで立ち上がり優と美衣からの歓声を聞いた。冴内のアッパーチョップの方が先にヒットしたためにチャンピオンカエルの左フックはかなり威力が減衰していたのだ。対するチャンピオンカエルの方はカウンターでしかも人間ならば胃液を全て吐き出す程の内臓破裂確定殺人ボディブローを食らったのだ。本来なら確実に消滅していたはずなのだが、それでもまだ消滅しなかった。そしてカウント9でギリギリ立ち上がりファイティングポーズをとった。


「さすがチャンピオン・・・」

「ファイッ!」


 だが明らかにチャンピオンカエルは風前の灯火のような状態、まさにグロッキーだった。冴内は前に詰めるが今度はチャンピオンカエルは構えを変えて両手のグローブをガッチリとガードさせてグローブとグローブの間から冴内を覗き見るピーカブースタイルに変更した。ボディも丸めて被弾面積を小さくした。こうなるとなかなか攻め込めない。ジャブチョップを色んな角度から打ち込むのだが全てパリーされたり(はじかれる)ダッキングやスウェーやスリッピングアウェイなどのテクニックでことごとく躱された。こうなると経験の差で全く歯が立たない。


 そこでやはり冴内は覚悟を決めてまたしてもノーガード戦法で前に出た。完全ノーガードでスタスタとチャンピオンカエルの前に無防備な姿をさらけ出す冴内。まさに自殺行為そのものだが、チャンピオンカエルの方も冴内の異様な不気味さでなかなか手を出せずにいたのだが、冴内がとうとうチャンピオンカエルのグローブの間から気味の悪い目を向ける程近づいたときにチャンピオンカエルは恐怖でたまらず猛連打してきた。めったやたらの暴風雨のような連打で、まさにそれは身体を「∞」のようにグルグル回転させるデンプシーロールだった。さすがにこれには冴内も被弾を余儀なくされて、まるで竜巻に飲み込まれた小枝のようにボロクソにブッ叩かれた。ボグゥッ!とかパグゥッ!とかバチィン!とか耳を覆いたくなるような凄惨な音が響き渡る。


「どうぢゃん!どうぢゃぁぁぁん!」とボロ泣き鼻水ベロンベロンの美衣。

「あぁぁぁぁーーー!よぉーーーー!!」と大人バージョンになった優も初めてのギャン泣き。


 冴内の顔は風船のように膨れ上がり目は完全にふさがり唇もタラコを通り越して饅頭のようになっていた。それでも冴内は暴風雨の中の柳の様に立っていた・・・ノーガードで・・・


 さすがのチャンピオンカエルも無尽蔵のスタミナがあるわけでもなく、しかもその前にみぞおちに冴内のアッパーチョップを食らっていたので呼吸が荒くなり、休みなく連打したために酸素が足りなくなって黒光りの肌がなんとなく青く変色しかけ、いわゆるチアノーゼを起こしかけていた。腕があがらなくなり口を大きくあけてハァハァーと息をするチャンピオンカエルに対して、完全に塞がっているはずの冴内の両目がギラリと光り、身体を左に半身にして、チャンピオンカエルからは見えないように右腕を引いて力を蓄えると冴内の右腕は黄金を通り越して虹色に輝き始めた。その様子は美衣にも優にもハッキリ見えて二人とも大粒の涙をボロボロこぼしていた。


「オー・・・バー・・・ザ・・・」




「レインボォーーーーッ!!」




 直後、冴内の虹色に輝くアッパーチョップがチャンピオンカエルの顎を見事に打ち抜きボス部屋は虹色に包まれた。ちなみに本家の名称は「ウイニング・ザ・レインボー」である。チャンピオンカエルは虹色とともに消滅し、足元には光り輝くチャンピオンベルトが落ちていた。


 カンカンカンカン!というゴングの音ともに「ケーオー!」というレフェリーカエルの大きな声、そしてレフェリーカエルは光り輝く見事なチャンピオンベルトを冴内の腰に巻き冴内の腕を高らかに持ち掲げて勝利を宣言してから消滅した。


「おどうぢゃぁぁーーーん」

「洋ーーーーッ」

「美衣ーーーッ!優ーーーッ!」と、3人とも強く抱きしめ合って互いの名を呼び合い続けた。


 部屋中になんかいつもと違うファンファーレ、大ヒットボクシング映画「グロッキー」の最後の方に流れていたようなメロディが響き渡り、ボス部屋中央には下に降りる階段の穴が開き始めた。すると冴内の腰に巻かれたチャンピオンベルトはさらに一際大きく光り輝いて冴内の体内に溶け込んでいき冴内の身体も同様に光り輝き、光がおさまると風船のように膨れ上がって見るも無残な顔はすっかり綺麗に元の冴えない冴内の顔に戻った。それを見て大喜びした優と美衣はブチューっと強烈なキス攻撃を冴内に浴びせた。パンチを浴びせられるのはまっぴらごめんだが、この愛する二人からのキス攻撃なら大歓迎だった。冴内らしくもなく、両腕をガッツポースにしてその両手にぶら下がった美衣と優を連れて階段を降りきり、いつもの扉とその横にある台座に冴内の手にぶら下がっていた美衣が片手を乗せた。


『・・・』

「おい!なんとかいえ!アタイ達は勝ったぞ!」

『・・・』

「おい!むしするな!」

『ハァ~・・・』

「おい!ためいきつくな!しあわせがにげるぞ!」


 と、お前はどこのおばあちゃんだという古い言葉を試練に注意した美衣。

『はいはい、分かりました分かりました、それでは試練を乗り越えた報酬をお渡ししますね』

「はいはいっかいでいいんだぞ!」と美衣が言ったがそれとはお構いなしにレベルアップした。


-------------------

冴内(さえない) (よう)

★20歳男性⇒21歳男性

★スキル:大宇宙のチョップLV3⇒大宇宙のチョップLV3+

称号:試練のチョップ

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冴内(さえない) (ゆう)

★20歳女性⇒21歳女性

★スキル:真・頑丈Lv3⇒真・頑丈Lv3+

称号:試練の新妻

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-------------------

冴内(さえない) 美衣(みい)

永遠の13歳:可憐な乙女

★スキル:真・万能チョップLv3⇒真・万能チョップLv3+

称号:試練の英雄

-------------------


「おい!レベル変わってないぞ!けちんぼ!」

『けちんぼとは失礼ですね、ちゃんとレベルは上がっていますよ』

「えっ?この数字の後にあるプラスの文字がそうなの?これだけ?今回はだいぶ少ないんだね、前回の黄金ワームよりも弱かったからかい?」

『何を言ってるんですか、あのカエル達は黄金ワームよりもはるかに強いですよ、それこそあなた方の言い方だとひゃくおくさんじゅうえんくらい強いですよ』


 さ・・・さんじゅう円なんだ・・・


「でも小さくプラスだけしかないけど・・・」

『便宜上そう表示しているだけで、実際にはそれはもうかなりレベルアップしてます、冴内 洋、あなたには分かっているのではないですか?』

「まぁ・・・確かにこれまで神のチョップとか意味不明でほとんど気にしてなかったけど・・・」

『そうでしょう、はいはい、分かったらさっさと出て行って下さい』

「なんだ!そのふしんせつなたいど!お前やさしくないぞ!父ちゃんなんか顔がフーセンみたいになってたいへんだったんだぞ!」

『・・・風船程度で済んだ程度、全くもって大したことないじゃないですか、いいですかあなた達。あなた達はこれまで全然この世の地獄を味わってないですよ。私には全然余裕で乗り越えてるようにしか見えません』

「なんだと!こっちはいつもいのちがけだぞ!こないだなんかお腹が空いてこのよのじごくをあじわったぞ!おいしくなかったぞ!」

『はいはい、ご苦労様でした』

「はいはいっかいでいいんだぞ!」

『もういいから帰ってご飯でも食べて寝なさい』

「ごはん!?わかった!そうする!」


『はい、さようなら、もしまた来るというのなら、そのときは話しがあります。冴内 洋』


 最後に気になる言葉を放ちつつ冴内達は光に包まれて試練の門から追い出された。いよいよ追放に近い感じで外に追い出されたのであった・・・

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