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119:それぞれの修行

 第三の試練初日は昼までには終了した。それぞれの格闘カエルの技術については超一流だったが、攻撃力・防御力・生命力という点については冴内ファミリーのスペックが上回っていたためである。しかし反則負けだとご褒美のお肉がもらえないのと、またしてもボス部屋で死を覚悟する程の苦戦を強いられるかもしれないので、昼食後は各格闘技に関して猛勉強と猛練習することにした。


 そこで試練の門専門情報戦略チームと親子3人で話し合った結果、それぞれの種目を各自分担することにした。まず柔道は優が担当し、次に空手を美衣が担当、最後のボクシングは冴内が担当するということになりそれぞれにコーチがつくことになった。しかしながら冴内ファミリーの攻撃力・防御力・俊敏性・生命力はおよそ人類、いや、地球上に存在するあらゆる生物が遠く及ばない驚異的なスペックのため、実戦練習などはとうてい不可能なため、ひたすら技の練習とイメージトレーニングをすることにした。冴内の方は矢吹がわざわざ富士山麓ゲートからやってきてくれてマンツーマンで教えてくれた。さすがの矢吹もスパーリングは勘弁してくれということでやはり基本的なテクニックの練習とシャドウボクシング、コンビネーションやステップワークやフェイントなどの実戦的な技術を細かく指導した。


 初日の練習は動画を見てルールと気本的な動作を学び、実際に幾つか基本的な動作を繰り返し練習したが、優と美衣の習得スピードは驚異的なものがあり、技については大体一度見るだけでほとんど完璧な技の切れ味を身に着けた。冴内についても矢吹が思わず口笛を吹くほどに冴え渡っていた。冴えない冴内のくせに矢吹からは「お前、そんなにボクシングセンスあったんだな」と言わしめる程だった。また、かいこワームの最強の絹糸がまだ余っていたので、優の柔道着の製作を依頼しておくことにした。


 明けて翌日朝5時前に起床して入念にストレッチして体をほぐし、朝6時に研修センターの食堂がオープンするとしっかり朝食を食べ、食後の休憩も十分とってから第三の試練に挑むことにした。今回は2台の高性能ビデオカメラを持っていくことになった。朝7時頃にまずは優が柔道の試合を開始した。冴内と美衣は持参した高性能カメラを構え、試合の様子をしっかり録画していた。ちなみにまだ優の柔道着は出来ていない。


「タガイニ レイ!」

「お願いします!」

「ゲコゲコッ!」

 まずは互いに有利な引手を奪うべく激しい組み手争いが始まった。だがカエルは柔道着を着ていないのと肌がヌメヌメツルツルしているので掴んでもすぐにすべってしまいそうだ。これはかなり不利な状況に思えたが、優の握力は凄まじいものがあり、本気を出せば石など粉々に粉砕して砂にしてしまうどころか、そこからさらに握力で凝縮プレスして別の鉱石にしてしまう程なのでヌメヌメツルツルでも一度掴まれたらそれこそ千切れてしまう程ガッチリ掴んで離さないことが出来た。やはり恐るべし最強の【ンーンンーンンンン】人。そんな優がうまい具合にカエルの手を取り、電光石火の速さで一気に懐に潜って背負い投げをしかけようとしたが、足をひっかけられて見事に裏返されてしまい逆に投げ飛ばされてしまった。

「やられた!」

「イッポン!」

「くっ!もう一本!」

 これまでの闘いとはまったく違って、互いにちゃんとルールに従った試合をしていた。


 もう一度組み手争いから再開したが、今度はカエルの方が優の腕を取り、そのまま一本背負いにいこうとするのを優が「フンヌッ!」といって投げられまいと腰を落として投げを耐えた。ところがその瞬間カエルは右手で優の右膝のあたりをグッと押さえ込んでそのまま後ろに倒れ込んだ。前に投げられないように耐えていた優は為す術なく勢いよく後ろに倒れてしこたま頭を打って気絶した。


「イッポン!」

「くっ・・・ここまでか・・・」と、冴内は言ってビデオカメラの停止ボタンを押してそっとカメラを地面に置き、「ありがとうございました!」とカエルに挨拶した後チョップでカエルを消滅させた。

審判カエルは「ハンソク!」と言って消滅した。冴内と美衣の二人で力をセーブしたチョップヒールを優に施すと優は目が覚めて回復した。「うーん、やっぱり1日じゃ無理だったか・・・」と優は言った。

 次の相手は空手カエルvs美衣である。

「タガイニ レイ!」

「ゲコゲコッ!」

「きゃおらっ!」いや美衣先生、この小説の読者でキャオラを知ってる人は少ないと思うぞ・・・っていうか何を見て勉強したのやら・・・


 まずはやはりローキックを放ってきた黒帯カエルだが美衣はジャンプではなくいったん後方にステップして間合いを取った、しかし黒帯カエルの強烈な脚力によりすぐに間合いが詰められて同じく右足で蹴りを放ってきた。まず先に膝が突き出されてきたので美衣はクロスチョップで胸の前をガードしたのだが、カエルの右足は膝をグルリとドリルのように左回転させたかと思うとスネから足先も左回転して縦方向上部に軌道を変え、そのまま垂直に縦方向に美衣の脳天めがけて振り下ろされた。まさしくそれはブラジリアンキックのようだった。ドゴンッと凄まじい音がしたと思ったら美衣はそのまま床に叩きつけられて気絶した。


「イッポン!」

「くっ・・・ここまでか・・・」と、冴内は言ってビデオカメラの停止ボタンを押してそっとカメラを地面に置き、「ありがとうございました!」とカエルに挨拶した後チョップでカエルを消滅させた。おいコピペやめろ。チョップそのものは反則じゃないが、互いに礼をせずに横から割って入った攻撃なのでやはり反則とされて、審判カエルも消滅しご褒美はもらえなかった。美衣には残酷で申し訳ないのだが次の試合で消耗するわけにはいかないので、気絶した美衣を優が抱っこしてそのまま次の試合に挑むことにしたが、やはり冴内達はかなり基本ステータスがアップしていたので美衣は次の試合に挑む前に覚醒して元通りになった。


 そうして本日のメインイベント、12ラウンドタイトルはかかってないマッチ、ボクサーカエルvs冴内のボクシング対決が始まった。


「行くぞ!ゴング!」

「ファイッ!」

「ゲコゲコッ!」


 今度のボクサーカエルは左手をダラリと下げて右手を顎の位置において構えるデトロイトスタイルだったが、さすがにボクシングの知識はそれまでまったくのゼロの冴内にはその構えの意図するところはサッパリ分からなかった。とりあえず冴内はオーソドックスなアップライトスタイルのポジションで前後にステップしながらジャブ貫手を放って様子をみたのだが、ボクサーカエルは変則的な動きで巧みに冴内のジャブを最小限の上体移動で躱し、冴内の視界の外、まさに死角からフリッカージャブを放ってきた。カエルの細く長い腕がまるでムチのようにしなりバチィンとものすごく痛そうな音が通路内に響き渡たる、冴内もダッキングして躱そうと試みるのだがボクサーカエルの左腕フリッカージャブが容赦なくムチのように何度も冴内の画面をとらえる。関節が異常に柔らかいようで全く予想できない角度からブッ叩かれた。みるみるうちに冴内の顔面が腫れ上がり風船のようになった。美衣がたまらず大泣きして「やめろ!父ちゃんをいじめるな!」と声を張り上げた。やがて何発もジャブを食らって内出血で完全に目をふさがれてしまった冴内はあっけなく最後にボクサーカエルの右ストレートで顎を打ちぬかれて気絶した。


「ケーオー!」

「よくも父ちゃんを!このやろーーーッ!!」と、全力水平チョップを叩き込んだ美衣により、ボクサーカエルは審判もろとも消滅した。冴内は美衣のチョップヒールによりすっかり元の顔に戻って回復した。初日と違って今回は全戦全敗という散々な結果になってしまった。試合時間もほぼあっという間だったのでお昼ご飯前には終了して、研修センターに戻ってたらふく昼食をとった後、大反省会が開かれた。


 中会議室でそれぞれのトレーナー達も含めて高性能ビデオカメラで録画された冴内達の試合内容を見たが、あまりにも動きが速すぎて10倍以上スピードをスローにしてようやく何をやっているのか分かる程だった。最後のボクシングの試合では矢吹が「お前コレ・・・よく生きて帰ってきたな・・・」と涙ながらに検討を讃えた。他のトレーナー達もこんなとんでもない達人カエル達に打ち勝つためにはどうすればいいのか皆目見当もつかなった。冴内達は基本技についてはかなりの領域に達しているが、圧倒的に試合経験がないので相手の多彩な攻撃技法について予測が全く出来ていないということに辿り着いた。その圧倒的な経験差を埋めるためには長年の試合経験しかないのだが、地球上でこの3人の相手を出来るような生き物は存在しないので、どうすれば良いのか全く分からなかった。試練の門専門情報戦略チームとAIがなんとか導き出した答えとして、歴史に残る名勝負の試合記録をたくさん見て、個々人でイメージトレーニングして想像力をフル回転させて仮想の試合をするしかないと導き出した。そこで各専属のトレーナー達は各自がこれこそ後世に語り継がれる最高の試合という映像を選りすぐって用意することにした。矢吹はそれに加えて何冊かボクシング漫画の名作も持ってきた。


 とりあえずその日は夕食までそれらの映像を見て研究した、時折トレーナー達が動画を止めて詳細な解説をいれた、身体の動きや目線によるフェイントなどの高等テクニックも説明していった。また映像を見た後は頭の中で強く相手をイメージして空想上の敵相手に試合を行った。冴内達の動きが早すぎて肉眼では追いきれないので、敢えてスピードを落としてゆっくりと一つ一つの動作を行うように指示した。そして各トレーナー達は仮想敵の攻撃パターンを追加して色んなパターンの攻撃を想定させた。夕食後は部屋に戻って各々名試合と言われる映像を見たり名作漫画を読んで熱く燃えたりした。冴内は漫画にハマってつい夜更かしをしてしまった。そうして一夜明けて翌日も各カエルに挑んだが、いいところまでは行くのだが残念ながら一瞬の隙をつかれて負けて帰ってきた。同じように動画で敗因と対処法を研究し、様々な名試合と呼ばれる映像記録を視聴してイメージトレーニングを実践し、次の日は何度も一本をとられつつもちゃんとルールに従って勝利することが出来た。それを繰り返していったところ週末にはストレートで危なげなく勝ち続けるところまで辿り着いた。その頃には優の柔道着も完成し、優も美衣も腰には黒帯を巻いて試合に挑んでいた。

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