118:第三の試練
翌朝、3人ともすっかり元通りの姿に戻ったが、外見上はあの冴えない冴内ですらどことなく雰囲気というか風格というか恐らく気のせいに過ぎないと思われるのだが若干見た目がイケてるように錯覚する程に何かオーラが漂っている感じになった。冴内ですらそうなのだから優と美衣についてはより一層顕著でますます神がかっていた。いや、神の中の神をさらに超えてしまったかのような、それって一体どんなだよと書いてる作者もツッコミたくなるが、それくらい凄いオーラを放っていた。恐らくペロペロキャンディの効果で一度赤ちゃんに戻ってから完全に一皮むけて新生冴内ファミリーに生まれ変わったのだろう。
食堂に入ると職員達もそんな冴内達の変貌ぶりに目を見張るものがあったが、あまりのオーラといつもながらありえない程この世のものとは思えない程美しい優と美衣を直視続けることが出来ず自然と頭を下げてしまうのであった。とはいえ相変らず美衣は大盛ご飯に納豆をたっぷりかけてモリモリおかわり3杯食べた。食休みも十分とり、いよいよ第三の試練に挑むことにした。
現場に到着し、扉横の台座に美衣は手をのせて元気よく大きな声で「たのもう!」と言ったのだが、しばらく待っても返答がない。
「やい!扉をあけろ!しれんにいどむんだぞ!」
『・・・ハァ・・・ここしばらく来なかったので、諦めてくれたのかと思っていたのですが・・・』
「なんだと!アタイ達はあきらめないぞ!」
『それにしても随分雰囲気変わりましたね?何かあったんですか?』
「ペロペロキャンディを食べて生まれ変わったぞ!前よりも100億100円も強くなったぞ!」
美衣先生・・・最初の時と比べて50円しか変わってないですが・・・
『えっ?あなた達前回ペロペロキャンディ食べずに第二の試練に挑んだんですか?なんと無謀な・・・あなた方はおバカな方々なんですね・・・』
「なんだと!アタイ達はおりこうだぞ!いちたすいちはさんだ!」
『・・・』
「まちがえた!にだった!」
『・・・で、この先もやるんですか?』
「やるぞ!アタイ達はさいごまでやるぞ!」
『いや、もうそろそろネタ切れなんですよ・・・』
「なんだと!アタイ達じゃなくて思えの方があきらめるのか!?あきらめるな!おまえ!がんばれ!」
何故か試練の方が美衣に応援されるという有様だった・・・
『分かりました、第三の試練を開始します、本当に行きますか?』
『はい/いいえ』
「はいに決まってる!いくぞ!」
『ではどうぞ、ご勝手に』
いよいよ失礼を通り越して投げやりになる音声ガイドであったが、それでも扉は開いていった・・・
「母ちゃんぼんれすはむはあとどれくらいある?」
「まだまだ沢山あるわよ、50回くらいはお腹いっぱい食べられると思う」
「うーん・・・前回の黄金ワームみたいに頑丈な相手だったらそれで足りるかなぁ」
「だいじょうぶだ!またお腹の中に入ってうちゅうはかいチョップをぶっぱなせばいいんだ!」と、凄まじく恐ろしい発想をする美衣。しかもさらりと宇宙破壊チョップなどという意味不明な技名付きで。
「とりあえず今度はボス部屋に行くまでにもっと力をつけて、食糧も沢山溜めてからいこう」
「分かったわ」
「あいこぴー!父ちゃん!」そうして10分程進んだところで第三の試練の敵が現われた。
こんどの敵はカエルだった。四つん這いにはなっておらず、二本の足で直立しており何故か腰に黒帯を巻いていた。道着など服の類は一切着ておらず、裸の上に黒帯を巻いていたのだ。そしてカエルは二匹いた。一匹は黒帯を巻いたカエルで、もう一匹は首の辺りに蝶ネクタイをしていた。
「わっカエルだ!カエルがおる!おっきいな!」
「なんで黒帯なんだ、もう一匹は・・・審判?」
冴内達は全力警戒でチョップを構えたままカエルにジリジリと近づいていくと・・・
「タガイニ レイ!」と審判カエルが大きな声で言った。
「うわ!しゃべった!このカエルしゃべったぞ!」
「おす!たのもう!」と、前に出て礼をする美衣。
黒帯カエルもペコリと頭を下げて一礼した後、両手を前に掲げた。若干左手側を前に右手側を後ろにして半身の状態になった。
「ハジメィ!」
「えっ!?いやいやちょっと待ってみぃ・・・」
ドガァァン!
「イッポン!」
美衣は黒帯カエルに一本背負いで投げ飛ばされた。
「イタタタ・・・」
「美衣ッ!」
「だいじょうぶ!父ちゃん!ようし!もう一本!」
「ハジメィ!」
ガシッ!「グッ!グヌヌヌ!負けないぞ!」
ズバァァン!
「イッポン!」
今度は大外刈りで投げ飛ばされた。
「まいった!こうたい!」
「タガイニ レイ!」
「ありがとうございました!」
「ゲコゲコッ!」
「父ちゃん!こうたいだ!たのむ!」
「ええええーーーー?ちょちょちょ・・・ちょっとまったまった!」
「ねぇ君達はしゃべれるのかい?僕らの言ってることが分かるのかい?」
「・・・」
「・・・」
「えーと・・・その、なんというか戦うのをやめてくれないだろうか?平和的に話し合いを・・・」
「タガイニ レイ!」
「いや、そうじゃなくて、その話し合いを・・・」
「タガイニ レイ!」
「父ちゃん、このカエル達はあまりあたまがよくないぞ」
「そうね、多分話し合いとかそういうコミュニケーションはムリだと思うわよ」
「えぇーーー・・・」
「タガイニ レイ!」
「分かったよ・・・柔道ってそういえば体育の授業でやって以来だなぁ・・・」
「お願いしますっ!」
「ゲコゲコッ!」
美衣との試合を見た後なので一応すぐに組み手には入らず様子を見をする冴内。カエルが伸ばしてくる手をチョップで軽く払いのける。
「おお!父ちゃんなんかたつじんみたいだぞ!」
冴内は力堂から習った体捌きを思い出し、カエルの左手が伸びてきたところをすかさずスライドし、シーカーになりたての頃に何度もやって身体に沁み込んだ動きでカエルに・・・ついチョップしてしまった・・・
ボフンッ!と黒帯カエルは消滅。
「ハンソク!」と、審判カエルもそう言った後に消滅した。
「しまった!つい条件反射でチョップが出てしまった!」
「倒せたんだからいいんじゃない?」と優。
「なにか食べ物落としたか?」と美衣。
「いや・・・何も落ちてないみたいだ・・・多分、反則技だったからダメなのかも・・・」
「グヌヌ・・・そうなのか・・・やっぱりせいせいどうどうすぽーつまんしっぷで勝たないとダメなんだなたぶん・・・」
「うーーん・・・帰ったら、柔道の動画でも見て勉強しようか・・・」
「わかった!そうする!」
「とりあえず先に進んでみましょう」
「そうだね」
先に進むこと10分。またしても黒帯カエルと審判カエルがいた。
「たのもう!」
「タガイニ レイ!」
「ゲコゲコッ!」
「ハジメッ!」
今度の黒帯カエルはさっきのとどことなく違う構えで、なんとなく空手のような気がした。
「美衣!今度は柔道じゃなくて空手だと思う!」
「わかった!」ジリジリと油断なく近づく美衣。黒帯カエルは凄まじい速さで美衣の足をローキックでかりにきたが、美衣はジャンプして躱す、しかしそのローキックが途中で軌道を変えて美衣の頭部にヒットした。
「ギャッ!」と美衣は空中で水車か風車のようにその場で3回転ほど側転した。
「イッポン!」
「美衣ーーーーッ!!」
「イタタタ・・・だ・・・大丈夫だ父ちゃん!まいった!こうさんする!」
「タガイニ レイ!」
「ありがとうございました!」
「ゲコゲコッ!」
「この野郎・・・よくも美衣を!」
「おい審判!チョップは反則なのか!?」
「ハンソク デハナイ」
「フフフフ・・・そうか、よーしいいだろう、オレが相手だ!」
と、これまでそんなセリフを人生で一度も発したことがない冴内。やだ、なんかカッコイイ。冴内のくせに・・・
「父ちゃんかっこいい!」
「ホレなおしちゃうわ洋!」
「タガイニ レイ!」
「いくぞ!」
「ゲコゲコッ!」
「おりゃぁぁぁー!美衣のかたきぃーーッ!」
ドゴォォォン!
シュバッ!
「えっ?」
ボグゥ!
「げぇっ!」
冴内のチョップは冴内が得意とする体捌きをそっくりそのまま黒帯カエルにされてしまい見事に躱され、冴内の左斜め側にスライド移動した黒帯カエルはそのままがら空きのボディにミドルキックを打ち込んだ。くの字に折曲がる冴内、容赦なく下がった冴内の顎めがけてカエルの前蹴りが飛んでくる!間一髪クロスチョップでガードする冴内!さすが大宇宙のチョップを持つだけあってこれは完璧にガードし、「ゲコォ・・・」とカエルもスネを押さえて痛そうな声をあげた。
「これならどうだ!水平チョップ!」冴内は冴えない頭で通常チョップでは左右どちらかに避けられるだろうというのと、カエルの前蹴りをクロスチョップでガードした時に恐らくカエルは足にダメージを受けただろうということを冴えない頭の冴内なりに瞬時に閃かせて黒帯カエルに向けて水平チョップをうち放った。黒帯カエルはジャンプして躱そうとしたが足を痛めていたので断念しその場に伏せてなんとか躱した。さすが黒帯カエル。しかしそれを見てとった冴内はまたしても冴えない頭の冴内のくせに「今度は避けられないだろう!」といって垂直チョップを伏せた状態の黒帯カエルに叩き込んだ。黒帯カエルは横にジャンプしかけたが、痛んだ足で少し反応が遅れたため、冴内のチョップをまともに食らって消滅した。
「イッポン!」と審判カエルは大きな声で冴内の方に向けて手を掲げた後に消滅した。後にはカエルの肉が落ちていた。
「父ちゃんカッコイイ!!」
「さすが私の洋!ますますホレたわよ!」
「ありがとう、しかしこの黒帯カエル、技はすごいけどあまり強くないね」
「うん、アタイもそう思った。こうげきをくらっても死ぬほどいたいってわけじゃないし、こっちのこうげきも当たればすぐたおせそうだ」
「そうね、あまり強くも硬くもないみたい、ただ技術だけは凄いわね」
「うーむ・・・今回の試練はひょとしたら、格闘技術を磨けってことなのかもしれない」
「なるほど!かくとうぎか!なんかカッコイイな!アタイもっと練習したい!」
「そうだね、帰ったら動画見たり、機関の人に頼んで誰かに教わることにしようか」
「うん!」
「格闘技なら私も習ってみるわ」
そうして3人はさらに進んだ。すると今度は手にグローブをはめたカエルと審判カエルが現れた。
「あっ!これアタイ知ってる!ぼくしんぐだ!お父ちゃんの記憶で見た!」
「ボクシングでいいのか?キックボクシングとかムエタイじゃないよね・・・」
「うーんアタイじゃ背がひくいからパンチがとどかない・・・」
「確かに、美衣だとボディにしか攻撃出来ないね、下腹部への攻撃は反則になるから難しいかも」
「そうか、アタイはカエルの足が食べれればいいからぼくしんぐは父ちゃんたちにまかせた」
「分かった、じゃあボクがいってくるよ」
「待って洋」
「えっ?まさか優がやるの?」
「違うわ、これをつけたらボディへの攻撃がだいぶラクになると思ったの」と、いって優は卵の胴当てを外して冴内に装着した。
「ありがとう!さすが優!これなら頭だけしっかりガードすればいいからかなりいいよ!」
「ウフフ!頑張って!ダーリン!」
「頑張れ父ちゃん!」
「ようし!行くぞ!ゴング!」
「ファイッ!」
「ゲコゲコッ!」
構えもガードもチョップの冴内だがこればかりは身体に沁みついてしまっているので仕方がない。ボクサーカエルは軽くジャブでけん制するが冴内は動かずガードを固めて誘いに乗らない。そこでボクサーカエルは巧みなステップで冴内の射程圏内に入ったり出たりを繰り返しながらジャブを放ってきた。何度かそれを繰り返してタイミングを掴んできた冴内はボクサーカエルが入ってきたタイミングを見計らってボクサーカエルにパンチというより貫手を食らわせたが・・・やはり見事なスウェーで躱されがら空きになったボディに強烈なボディブローが叩き込まれた。「グッ!」しかし優から借りた卵の胴当ての効果で耐え忍び、今度はがら空きになったボクサーカエルの左顔面に貫手気味の右ストレートを叩き込んだ。ボクサーカエルはそこで消滅した。
「ケーオー!」と審判カエルが大きな声で言った後審判カエルも消滅した。果たして貫手は反則になるのか心配だったのだがボクサーカエルが消えた後にはカエルの肉が落ちていたので、なんとかケーオーじゃなくてオーケーだったのだろう。ともあれ冴内は戻ったら矢吹に教えを乞おうと思った。
さらに進むとボス部屋に辿り着いたので、第三の試練では柔道、空手、ボクシングの三種類のカエル達が敵なんだろうということが分かり、その日の試練は終了することにした・・・