112:ボス部屋攻略
翌朝、まずはボス部屋までの道のりにいるスライムを全て片付けた。午前中には全て一掃することが出来るほどまでに強くなっていた。
ちなみにこれまでの間で溜まったアイテムは以下の通りである。
-------------------
黒豆モチ×21個
ブドウ×21房
サイダー×54本
メロン×21個
-------------------
ここでようやく黒豆モチを食べてサイダーを飲んだ。久しぶりのモチとサイダーでとびきりの「ウメェーーー!」とゲップをしてリフレッシュした。ちなみにこの年、普通世界のモチとサイダーの売り上げは過去最高記録だった。
そしていよいよボス部屋のある扉の前に着いた。美衣が台座に手を乗せるとお馴染みの声が聞こえてきた。
『この先にはこの階で最も強い者がいます。十分に備えてからの挑戦をお勧めします』
『挑戦しますか?』
『はい/いいえ』
美衣は力強く「たのもう!」と発した。
『挑戦を受諾しました。健闘を祈ります』という音声と共に扉は重々しく開いていった。
冴内一家が全員中に入ると後ろで扉が閉まっていく音が聞こえた。扉が完全に閉まりきると正面中央部が光輝き始めた。徐々にその光は収束していきバランスボール程の大きさの虹色に光るスライムが現われた。
まずは冴内と美衣がジリジリと近づいていく。その間に立つ優も目力MAXでジリジリと近づいていく。虹色スライムとの距離13メートル・・・12メートル・・・11メートル・・・そこで優がストップといった。美衣がゴクリと唾をのむ音が聞こえた。優にはものが大きいだけに微妙に収縮する姿がなんとなく分かる気がした。冴内と美衣は全力チョップの構えをとる。ズズズっと足先を少しづつ前にズラしていく。優はいっそう目に力を込めて凝視する。スライムがほんの少しだけ動いた気がした。虹色の身体の色加減が微妙に変化したのだ。同時に優は二人の背中を叩く。二人はありったけの力でチョップをぶっ放した。ぶっ放したと同時にスライムも飛びかかってきたが二人の全力チョップがヒットしたことで推進力が相殺されてその場にボヨンと落ちた。二人はもう一度全力チョップをぶっ放した。今度はヒットと同時にスライムは元の場所に押し戻された。そこで優は二人よりも前に前進してぐっと足を踏ん張った。冴内と美衣はすかさず黒豆モチを口に含んでゴクリと飲んだ。昨日のうちにこれまでゲットしたモチを喉につまらせないようにあらかじめ小さくちぎっておいていたのだ。さらに回復ドリンクに使われている柔らかく割れにくい容器にあらかじめ小分けして入れておいたサイダーも一気に飲み干した。サイダーを飲み干す前に優は「グエッ!」といって後方に吹き飛んだ。すかさず冴内と美衣は全力チョップを同時にぶっ放した。スライムはまた後方に押し戻された。スライムはもう一度最初の出現位置にまで戻った。
優はメロンジュースを飲むことで全回復した。メロンジュースは黒豆モチ、ブドウ、サイダーの全ての効能が含まれる万能回復薬としての機能があるが個々の食べ物に比べると若干性能は劣る。ちなみにメロンジュースも昨日までの間にジューサーでメロンからジュースにして回復ドリンクが入れられた容器と同じ容器に小分けに入れていた。ブドウも同様にジュースにされている。もちろんこれらは試練の門専門の情報戦略チームの戦術提案によるものだ。
3人ともこれで気力体力共に最初の状態に戻った。あとはひたすらこの繰り返しだ。ちょっとのミスも許されない状況で、果たして集中力が切れるのが先か、回復用食べ物が尽きるのが先か、それともスライムの生命力が尽きるのが先か我慢比べとなった。
異変はスライムに先に訪れた。10回目の攻撃成功で、スライムはブルブルと震えだしたのだ。これはいけるか!と思ったのだが、そこでスライムは3体に分裂してしまった。まさにこの世の地獄!並みの精神力の持ち主ならばこの光景を目にした時点で絶望したかもしれない。しかし冴内ファミリーの目はあきらめてはいなかった。
まず冴内と美衣が中央の1体に全力チョップを2回ぶっ放した。同時に優は真ん中のスライムに対して一歩前進。中央のスライムが優に体当たりを食らわすが優は足を踏ん張り全身を硬直させて耐えきり、なんとスライムを抱きかかえてそのままボディプレスした。すぐに横にゴロンとなったところで冴内と美衣で貫手を食らわした。しかしスライムは間一髪でムニョンと形状を変化させて中心核への直撃を避けた。冴内はもう一方の手でその核めがけて貫手を食らわしたがまたもや動いて核をズラされたがそれでも半分くらいは当てることが出来て手ごたえを感じた。しかしその間他のスライムが黙ってそれを見ているわけがなく、スライムにとどめを刺そうとしている冴内を妨害するだろうと予想した優と美衣は冴内の前に出て壁となった。身を挺して冴内をかばった優も美衣も「グェッ!」という声とともに冴内ともども後方に吹き飛んだが、冴内はかろうじて1匹目の虹色スライムにとどめを刺すことに成功した。
美衣と優に一瞬の時間的猶予を与えるため、冴内が全力の水平チョップをスライムたちにぶっ放したが、冴内は力尽きてその場に倒れた。そのスキに優と美衣はモチを一飲みして前進し、今度はミイが全力で水平チョップをぶっ放し優は冴内を引っ張って全力で後退した。優は濃縮メロンジュースを一口含んで冴内に飲ませると冴内は覚醒し、冴内は続けて黒豆モチを食べて全回復した。すぐに冴内が前進するが美衣が「グエッ!」という声とともに冴内と入れ違いで後方に吹き飛んだ。冴内はまたもや全力で水平チョップをお見舞いする。やはりメロンジュースを口に含んだ優が美衣にむりやりメロンジュースを飲みこませてミイは覚醒し、冴内の時と同様に黒豆モチを食べて全回復。そこでまたもや美衣が前進すると、同じく冴内が入れ違いに「げぇっ!」といって後方に吹き飛んだ。美衣と冴内はまたしてもズタボロのボロ雑巾のようになったがモチとメロンジュースの強制ドーピングによりボロボロになっては全回復して全力水平チョップをお見舞いした。このガチンコのどつきあいを15回ほど繰り返したところ若干スライム達の動きが遅くなり、かなり冴内達に分がある状況になった。
優は目力をこめ、凝視し、向かって右の方が弱っていることを知らせる。二人は右に向かって全力チョップをぶっ放した。優は向かって左のスライムに近づいてけん制する。美衣が後退してモチを食べる間に冴内が全力チョップ2発目をぶっ放す。美衣がモチを食べ終わると素早く前進して全力チョップ。冴内は後退しモチを食べる。隣では優がサンドバック状態で耐えている。美衣が全力チョップ2発目をぶっ放して後退するとスライムはかなりグッタリしたので冴内はとびかかるようにして貫手を放った。ムニョンとまたしても核をずらすがもう一方の手で確実に核を貫いた。そのまま消滅を確認せずに優の名を叫ぶ。優は横っ飛びで倒れ込んで冴内は全力チョップをぶっ放した。美衣もゴクンとモチを飲み込んですぐに全力チョップを叩き込んだ。ゴロゴロと優はころがってモチを食べる。毒もかなりまわったのでブドウジュースも飲む。その間冴内と美衣は全力チョップ2発目をぶっ放した。この攻撃で目に見えてグロッキーになったスライムめがけて優がジャンピングボディプレスを叩き込んだ。優のわき腹からムニュウとかろうじて動かした核が見えたが優はすかさずそれをつかんでガブリとかじりついた。ビクンビクンと動き回る核に凄まじい形相でかじりつく優「グゥゥゥ!」とこめかみに血管が浮き出て、さらに目の毛細血管が充血して目が真っ赤になるほど力を込めて、とうとう核を噛み砕いた。
まさに死闘、たかがスライム相手にここまでやるかという程の大死闘だった。
冴内ファミリーはとうとうボス部屋を攻略したのだ。すると部屋中にファンファーレが鳴り響いた。
とりあえず3人とも黒豆モチを食べて回復し、3人とも腰に手を当ててサイダーを飲んだ。やはり盛大なゲップと可愛らしい二人のゲップの後で3人とも大笑いした。これで気力体力ともに全回復した。とはいえ全員ズタボロの姿だった。生身の身体と優の胴当ては元のままなのだが、それ以外のプロテクターや服や靴はボロボロで髪の毛もバサバサだった。
虹色スライムが消滅した付近を見るとやはり何か落ちていた。それはいつの時代のキャンディーだよとツッコミたくなる「ペロペロキャンディー」が落ちていた。今時そんなものどこに行けば手に入れられるんだっていうヴィジュアルのキャンディーだ。大きさといい形状といい「うちわ」のような大きさで虹色のぐるぐる渦巻き模様がついてるペロペロキャンディーだった。3人ともそのキャンディーを見てひどくガッカリしたが一応拾った。
そうすると部屋の中央部が光り輝き始めた。また虹色スライムが出てきたらシャレにならんぞと冴内は思ったがスライムは出てこず、その代わりに穴が空いていた。穴を見ると下に続く階段があった。一応入ってきた時の扉に向かってみたが開く気配がなかったので、穴にある下に続く階段を降りるしかないことが分かった。階段はそれほど長くなく、下まで降りるとまたしても小部屋になっており扉があった。試練の門と同じ見た目の扉でその横にはやはり台座があった。冴内が手をかざすといつもの音声が聞こえてきた。
『よくぞ第一の試練を乗り越えました。まさか乗り越えられるとは思いもしませんでした。まずは試練を乗り越えた報酬をお渡ししましょう』
-------------------
冴内 洋
20歳男性
★スキル:真・チョップLv1⇒真・チョップLv2
★スキル:水平チョップLv1⇒真・水平チョップLv2
スキル:ポイズンチョップLv1
スキル:真・チョップヒ-ルLv1
スキル:真・チョップキュアLv1
称号:試練のチョップ
-------------------
-------------------
冴内 優
20歳女性
★スキル:真・頑丈Lv2
★称号:試練の新妻
-------------------
-------------------
冴内 美衣
永遠の13歳:可憐な乙女
★スキル:真・万能チョップLv1⇒真・万能チョップLv2
称号:試練の英雄
-------------------
『お疲れ様でした。いったん門の外へお送りいたします。十分に休息し、英気を養って下さい』
『それでは第二の試練でお待ちしております』
目の前の門は開かず、まぶしい光に包まれ3人は試練の門の外に出た。そしてゲート村に戻ると祝福の荒らしで、さらにゲートから出て研修センターに戻るとより一層激しい祝福の荒らしに包まれた。夜までに激闘の様子は世界中に動画配信され、その夜は神代や力堂、矢吹までやってきて、名古屋ゲート研修センターの食堂では大祝賀会が盛大に開かれることになった。当然英国ストーンヘンジ・ゲート局長のサー・アーサー・ウィリアム3世を筆頭に世界各国の機関の局長達からも祝辞が届いた。
こうして冴内一家はこの世の地獄の第一の試練を見事に乗り越えたのであった。