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111:スパルタ方式

 翌日から個々の戦力の底上げということで、かなりキツイが一人で戦うことにした。相当厳しい状況だがこれも試練の門専門の情報戦略チームが最新AIをも使って導き出した戦術提案である。しかし冴内達はそんな厳しい戦術にさらに過酷な条件を追加したのである。恐らくその戦術をAIに入力したならば即座に無謀だと却下されたことだろう。


 美衣がまずまっくろスライムに8メートルの位置まで近づき全力チョップ、これまでのレベルアップにより最初の一撃でスライムはかなり弱まった。そこであえて美衣はスライムに近づいた。ヘロヘロのスライムは力を振り絞って美衣に体当たりした。美衣も全力チョップ一撃目で体力は半分以上削られているが、スライムはマッハ2までは出ていなかったようでかろうじて美衣は直撃を避けることが出来たが身体の一部がかすりその場でコマのように回転した。その間冴内達は一切手を出さず、ただ美衣を見守っていた。スライムがもう一度美衣に体当たりをするときに美衣は今度はよけずに貫手を食らわした。「うまいぞ美衣!」まっくろスライムは消滅し、黒豆モチを落とした。


 その後あえて黒豆モチを食べずにそのまま進んでいった。次にぱぁぷるスライムが1匹だけいたので今度は冴内が一人で進み、やはり8メートルの位置から全力チョップ。ぱぁぷるスライムはやはりグロッキー状態になりそこで冴内は一歩前進。ぱぁぷるスライムは最後の力を振り絞り冴内に体当たりしたが、さっきの美衣の貫手をまねてぱぁぷるスライムを貫通。やはり消滅してブドウを落とした。冴名は膝をつく程の消耗はしなかったが膝に手をあてて大きく呼吸した。


 さらに進んで行くと今度はしるばぁスライムが2匹いた。まだ二人とも黒豆モチを食べていないのでこれはかなりキツイ状況だ。それでもあえて二人は8メートルの位置まで接近しそこで全力チョップを放った。しかも二人で1匹を相手にするのではなく、二人別々のスライムに対して放ったのだ。美衣は少しだけ休憩出来てたのでなんとか立ったままだったが、冴内は今回はさすがに片膝をついた。それでもそこからさらに一歩踏み出した。しるばぁスライムは弱ってはいたが瀕死ではなく、勢いよく二人に体当たりをしてきた。二人とも貫手で迎え撃ったが美衣の方はスライムがかろうじて形状をグニョンと変えてそらしたためヒットせず美衣は「グッ!」といってはじき飛んだ。しかしスライムは弱っていたのでマッハ2までは出ていなかったのと、急に無理な形状変化をしたためクリーンヒットにはならず、美衣はそれほど大きく吹き飛ばされなかった。


 一方の冴内は片膝立ちする程疲れていたので貫手を出すタイミングが遅かったのが逆に良かった。スライムは自身のスピードにより形状変化させる時間がなくそのまま貫手に飛び込んでいった。しかしその勢いが強く冴内は貫いたまま後方に吹き飛んだがスライムは消滅し、サイダーが3本落ちた。


 美衣は四つん這いになって左わき腹を抱えていたがスライムは容赦なく美衣に体当たりをかましてきた。そこで美衣は四つん這いになった頭の前に何気なく静かに貫手をそっと「添えた」スライムは今度は形状変化出来ずにそのまま貫通した。やはりサイダーが3本落ちた。


 二人ともそのまま突っ伏したままの状態になったが優は敢えて二人をそのままにした。美衣も冴内も黒豆モチも食べずチョップヒールもかけずにそのまま突っ伏した状態を続けた。意識はかろうじてあり大きく身体ごと呼吸をし続けた。回復して立ち上がるまでに30分もかかった。二人ともヨロヨロの状態だった。


 だが、恐ろしいことに3人はさらに前進した。


 そうして進んで行くと今度はメロンスライムが1匹だけいた。そこで今度は優が前進した。8メートルの位置でいったん停止し、優はカッと目を見開き前方を凝視しつつそこからジリジリと進んでいった。シュンッと極めて小さな音がしたような気がしたと同時に「グッ!」という優の声が聞こえる。しかし優は吹き飛ばずに後方に数十センチスライドした。左足を前に右足を後ろにして踏みとどまったのだ。それにより前方に跳ね返るスライム。若干ダメージがあるような感じだった。優はさらに目を見開きスライムを凝視してジリジリと近づく。またしてもスライムが消えたと思ったら「グッ!」という優の声。またしても優は耐え忍んだ。同じように凝視して優はさらにニジリ寄る。なんとなく今度はスライムが体当たりをする前に縮んだように見えた。すると優はそのタイミングで前に出て「フンッ!」と力を込めた。右後ろに置いた足を強く踏ん張り全身を硬直させてスライムをはじいたのだ。スライムは結構な勢いで跳ね返りそこそこダメージを食らったようだった。


 そこからは見ようによってはなかなかに凄惨な光景となった。優はさらに前進し今の防御を繰り返すことはせず、今度はスライムの体当たりをただ受けまくったのだ。グェツとかギャッとかひたすら被弾する優。それでも目を見開きスライムの動きだけは見逃さないようにしている。だがスライムはそんな優を感じたのか頭部めがけて体当たりしてきた。かろうじて両手をクロスに構えて頭部をガードしたが優は後方に縦回転しながら吹き飛んだ。ヨロヨロと立ち上がる優、両腕はダラリと垂れ下がり上にあげられない程のダメージだ。そんな優を冴内と美衣は何もせずただ見守っているだけだ。それでも優はまたスライムに向かって前進する。スライムは容赦なくノーガードの頭に体当たりをしてきた。そこで優はジャンプした。サッカーの胸トラップのようにスライムを跳ね返したのだ。優は後ろにはじかれたがさっきのように後方に縦回転しながら吹き飛ばされることはなかった。スライムはかなり弱ってきた。そしてまたしても優はニジリよる。そしてとうとう今度はスライムの体当たりを避け始めた。最初は体当たりがかすって少しバランスを崩したが徐々に避け始め、だんだん最小限の動作で紙一重で避けるようになってきた。スライムの方は疲弊してきたようで目に見えて遅くなってきた。そこで優はスライムに近づきボディプレスした。ボディプレスしては起き上がりまたボディプレスした。優の方も立ち上がる度にヒザがガクガクしたがそれでもやめずに何度もボディプレスした。20回目くらいでとうとうスライムは消滅した。優が横にゴロンと寝転がるとメロンが出てきた。優はその場で5分程休むとヨロヨロと立ち上がった。


 ここまでしてもまだ黒豆モチもブドウもサイダーもメロンも一切口にしなかった。そうして3人ともその日は引き返した。


 翌日はさらに熾烈を極めた。これまではスライムの数は1匹から2匹だったのが、その日は3匹出現することがあったのだ。しかもそんな状況にも関わらずまたしても黒豆モチ等は一切口にせずヨロヨロになりながらも進んでいったのだ。既に3人とも満身創痍の状態になっていたにも関わらず、恐ろしいことに冴内一家は互いの身体を支えつつさらに前進した。その日の最後はメロンスライムが3匹いた。まさに絶望的な状況だった。3人は引き返すことなくそのまま前進した、それはまさに自殺行為ともいえる無謀さだった。


当然3人とも滅多打ちになった

ズタボロのボロ雑巾のようになった

ボロボロになりながらチョップする冴内と美衣

何度もサンドバック状態でボコボコにされる優


 意識が飛びそうになるが、すぐそばで愛する者がやられて苦悶する表情を見て「ダメだ!」と奮い立たせる。若干メロンスライムにも疲れが見始めてきたとき優が一歩前に出て3匹に向かって「カモン!」と両腕を広げた。冴内は「美衣!優の後!水平チョップ全開!」と一声。「あいよ!父ちゃん!」と美衣の返事。「グエェェッ!!」と優の声。その直後冴内と美衣の全開水平チョップ。これでもし1匹でもメロンスライムが残ったらこの物語はバッドエンドで終わってしまう。


 果たしてどうなったか。


 メロンスライムは全滅し冴内一家は全員その場で気絶した。


 もしもこの気絶状態が24時間続いたらそれこそバッドエンドになっていたであろうがさすがにその前には覚醒した。それでも全員起き上がって歩けるようになるまでには夕方近くまでかかった。


 全員ズタボロのボロ雑巾のまま一切の食べ物を口にせずトボトボと研修センターまで戻った。道中道行く全員が冴内一家の姿を見て大騒ぎしたが、これも修行のうちなのでどうか見守っててくれ、と言われたので全員固唾を飲んで見守ることにした。


 研修センターに戻る車道にて冴内一家を見かけたクルマや農作業の軽トラから何度も警察や消防に通報が入ったが、機関の迅速丁寧な根回しで大事にはならずに済んだ。しかしこれでますます心霊スポットとして有名になりそうだ。


 研修センターに戻り大浴場にて疲れを癒し食堂でご飯をたらふく食べてすぐに寝た。ここでもまだスライムたちが落とした食べ物には一切手を付けなかった。


 翌日も同じことを繰り返した。


やはりズタボロのボロ雑巾になって帰ってきた

その次の日はズタボロ程ではなくなった

さらに次の日は若干重い足取りで帰ってきた

さらにさらに次の日は普通に歩いて帰ってきた

さらにさらにさらに次の日は駆け足で帰ってきた


 ただ見守るだけしか出来なかったシーカー達や機関職員達はその3人の姿を見て号泣していた。その姿は当然動画で配信されており、さらに3人に備え付けられた合計6台のアクションカメラから映し出された壮絶な映像も配信されていた。シーカー向けの配信サイトでも一般のウィーチューブ上でも公開され、ウィーチューブではノーカット版と一部あまりにも残酷すぎるショッキングな部分がカットされた年齢制限なし版も公開された。この動画は全世界のシーカーのみならず一般の人達、とりわけ体の弱い者達にこの上ない勇気と感動を与えた。英国ストーンヘンジ・ゲート局長のサー・アーサー・ウィリアム3世はまたしても誰はばかることなく号泣した。

「まさに英雄だ!これこそが真の英雄だ!」と、鼻水がベロンベロンに流れていようがおかまいなしに号泣した。


 遠くの地でそれを見ていた力堂も号泣した。矢吹は「こんなちっこいのにズタボロになりながらも目は燃えてやがる!ホンモノのファイターだ!」と号泣した。今では宮の性を名乗る早乙女は「負けないで!負けないで!」と宮と一緒に号泣。その他のメンバーや田畑のある集落でもそんな冴内一家の姿に心を打たれ号泣していた。


 そして、いよいよボス部屋に挑むことにした。

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