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109:万全の準備

「始めまして冴内一家の皆さま、私は奈良ゲート局長、道明寺どうみょうじ 麗子れいこと申します。皆様のことは良く存じ上げております。直近の出来事に関しましても神代より詳しく聞いております。これからよろしくお願いいたします」


 と、自分の母親と同じ位の女性局長にとても丁寧に挨拶してもらったので、すごく申し訳ないというか恐悦至極になってしまう冴内であった。


「では早速ですが、試練の門についての検討会議を行いたいと思います」と、奈良及び富士山麓の日本ゲート機関の両トップを揃えての緊急会議が朝8時という早い時間から開始された。


 会議は2時間程かかり、やはり重要なのは情報だという結論になった。機関として全面的にバックアップするが神の領域にある3人に対してそれに応える程の強力な武器や防具を提供したくてもそんなものはこの地球上に存在しないので、情報支援や生活物資支援、住環境の提供くらいしか出来ないのである。


 その点を奈良局長の道明寺は深く頭を下げて陳謝していたが美衣が「おばちゃんありがとう、優しいな、アタイ優しい人だいすき」といって抱き着くと道明寺は感激のあまりボロ泣きしてしまった。最初見たときは自分の母親と同じ位の女性だが、凛とした美しさの中にも芯のある強さを内に秘めた感じで、やはり局長を務める人物なだけあって自分なんかよりはるかに優れた人間として成熟した人なんだという印象を受けていたのだが、美衣の一言でうれし泣きする姿を見てあぁこの人は基本的にいい人なんだなぁと冴内は思った。


 そんな一幕もあったが、ともあれ現時点で分かっていることは全て説明し、これからも試練に挑み続けることを宣言した。


 神代は正直なところの気持ちとして、そんなこの世の地獄などという危険極まりない得体の知れない場所には行かせたくなかったのだが、他ならぬ神の意思でもあるし、なにより3人の瞳にはやはりシーカーとしての冒険心・好奇心・探求心の炎が熱く燃えているのを見てしまったので、もはや引き留めることなどは出来なかった。攻撃や防御の面で機関側からは支援出来ることはないが、それ以外ではあらゆる協力をを惜しまない旨を伝えた。


 そうして今度こそ決意新たに準備万端で試練の門に挑むことにした。まず美衣が入っていた卵のかけらの半分が富士山麓ゲート研修センターの研究所から奈良ゲート研修センターに運ばれてきた。その卵のかけらを優の身体の前に掲げて、それを美衣が真・万能チョップでたたいていって形を身体に馴染ませていくと優のボディラインに沿って胸から下腹部までを覆う胴当てが完成した。縁の部分を貫手で穴をあけてそこにベルトを通して身体に固定した。


 美衣と冴内は最初ミスリルプレートを装着してみたが動きが阻害されるので、やはり美衣の真・万能チョップで小さく切断し、叩いて馴染ませて胸当てにした。スライムの驚異的スピードに対抗するためにはフルプレートのような全身鎧では太刀打ちできないからである。さらに現時点で最高性能をもつ小型アクションカメラを全員に装着。ハーネスを用いて胸の上部と背中側の2か所に配置することで3人分で合計6台のカメラで撮影することになった。また、ゲート村から小型のアンテナを設置していき試練の門からゲート村への通信回線が確保された。


 試しに試練の門の中に入ってみたが案の定試練の門の中では通信圏外になった。有線ケーブルも試してみたが門が閉ざされるとケーブルは千切れるどころか消滅した。ただ方位磁石は機能したので門を起点に動いた場所を自動で書き込んでいくマッピングアプリの活用は有効であることを確認した。また、情報部員達による試練の門専門チームが結成され情報分析や戦術面において冴内達をバックアップすることになった。こうして今現在出来る範囲での準備が全て整ったので、翌朝から改めて試練の門に挑むことになった。


 翌朝、冴内達が試練の門に入って10分程進むとまっくろスライムがいた。美衣と冴内はにじりより8メートルの位置で停止。そこから二人で全力チョップをぶっ放した。ドゴオォォンと凄まじい轟音が鳴り響きまっくろスライムは今度は消滅して黒豆モチを落とした。二人がかりの全力チョップにも関わらず洞窟自体はビクともしなかった。美衣と冴内は全力チョップで疲れたので黒豆モチをちぎって食べた。ウンマァァイ!とやはりすごく旨かった。そして力がみなぎった。


 さらに進むと今度はぱぁぷるスライムがいた。しかし今回は2匹だった。2匹は横に並んでいるのですごく悩んだ。二人同時で先に1匹を倒して数を減らすのがいいのか、それぞれ別々に相手をするのがいいのか、どちらが良いのか考えあぐねた。そこでいったん引き返して試練の門の外に出て、携帯で試練の門専門チームの見解を聞くことにした。まずまっくろスライムとの戦闘時の映像データを送信した。かなりの高性能カメラなのだがそれでもあまりの速さのために超スローモードで画像解析しても全く識別出来ず、まるでその部分の映像だけが途切れたかのように次のコマ送り画像では一瞬でまっくろスライムが消滅しているだけであった


 冴内ファミリーもこの世の地獄に存在するスライムもあまりにも常軌を逸した存在なのでどれくらいの攻撃力・防御力・生命力があるのか全く検討もつかず、とりあえず昨日のヒアリング結果と今回の戦闘結果から想定する他なかった。そこで一つの戦術提案としてまず8メートルの位置で3人とも停止。次に美衣と冴内はどちらか一方のスライムに全力チョップをしかける準備をする。一方卵の胴当てで防御力を高めた優が別のスライムに一歩前進すると同時に美衣と冴内はチョップを放つ。優は攻撃を受けることになるがその後冴内と美衣でもう一体に対して攻撃するという方針が提案された。早速この戦術を試してみることにして再度試練の門に入場した。


 先ほどまっくろスライムを倒した場所にはまっくろスライムはおらず、さらにその先を歩くと先ほどと同じようにぱぁぷるスライムが2匹いた。戦術提案通りに8メートルの位置までゆっくりと進み、向かって右の1匹に対して冴内と美衣は全力チョップ用意。そして優が「せーの」と声掛けして一歩前進。同時に冴内と美衣は全力チョップをぶっ放す。ドゴオォォンという音と同時に優が後方に弾き飛ばされた。倒したかどうかの判断はせずにすぐに冴内と美衣は振り返ってもう1匹のぱぁぷるスライムの所在を確認し全力チョップを再度放つ。やはりドゴオォォンという轟音とともにぱぁぷるスライムは消滅した。そして二度の全力チョップを放ったため二人とも膝から崩れ落ちた。優がすかさず走り寄り二人に黒豆モチを食べさせると二人はやはりウンマァァイ!といって回復した。黒豆モチはまだ残っているので二人合計であと4発くらいはいけそうだ。


 優の胴当てを見ても特にへこんだ痕はなく、優自身の状態も大丈夫そうだ。卵はただ硬いだけじゃなく衝撃を吸収しているのだろうか。それとも優が頑丈なのだろうか。優に聞いてみたら衝撃はほとんどなかったようで衝撃を吸収しているというよりも半分は相手に跳ね返して残り半分は衝撃を分散させているようだと言った。前回は毒にやられたので冴内は心配して聞いてみたが素肌に直接触れてないので毒はないと答えた。


 そうしてみるとブドウが二房落ちていた。合計12個の巨大な粒を手に入れた。とりあえず一人1粒ずつ食べたがやはりウンマァァイ!!と感激した。今回は12粒もあるので奈良ゲートにもお裾分けすることにした。さらに10分程進むと今度はしるばぁスライムがいたが1匹だけだったので冴内と美衣のダブル全力チョップですぐに消滅。サイダーを回収し、さらに10分程進んだところでまたスライムが1匹いた。今度は薄い緑色のスライムだった。


 同じように8メートルの位置から冴内と美衣は全力チョップ。ドゴオォォンという大音響はしたがスライムは消滅しなかった。しかしどことなくグッタリしたように見える。そこで美衣が「アタイがもう一発やる!」といって全力チョップを放った。美衣は力尽きて前に突っ伏したがスライムはまだ消滅しなった。しかしもう息も絶え絶えのような見た目だ。そこで冴内は全力の半分の力でチョップを放った。しかしそれでもまだスライムは消滅しない。冴内は再度全力の半分の力でチョップを放つとようやくスライムは消滅した。冴えないは片膝をついて大きく肩で息をした。優がすかさず近づいて残った黒豆モチを二人に食べさせた。ウメェ!といって二人とも回復した。薄い緑色のスライムのいた場所には大きなメロンが落ちていた。


 ここでいったん引き返すことにした。黒豆モチを食べ尽したので帰り道でスライムがまた現れた場合のリスクを考えた結果だった。モチろん情報戦略チームからの戦術提案のうちの一つである。しかし帰り道はスライムは現れず無事に試練の門を出ることができた。

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