101:美衣と英雄剣
またしても美衣の腹は妊婦のようにパンパンに膨れ上がったが美衣は満足しきりで食ったから寝るといってその場で眠り始めたが、ムクリと起き上がって寝る前に歯を磨かないとダメだったといってちゃんと歯を磨いた、半分眠りこけながら。
翌日、グッスリ眠った美衣は「あれぇ?ココどこぉ?お父ちゃんは?」と寝ぼけて「ハッ!そういえばイギリスに来てるんだった」と覚醒した。美衣は食堂で寝たが、その後研修センターに丁重に運ばれて、日本の研修センターにはない特別貴賓室で寝かされていた。起床後に驚異的な嗅覚と館内案内図を見て早速食堂に行き、英国式モーニングを頼んだ。トーストにはやはりハチミツをたっぷり塗って紅茶もたっぷりミルクとハチミツを入れて飲食した。ゲート外にも関わらず英文字を読み、完全完璧なキングズ・イングリッシュの発音で英語を話した。
朝早くだったにも関わらず英国ストーンヘンジ・ゲート局長のサー・アーサー・ウィリアム3世も情報部員達もすっ飛んでやってきた。美衣が「どうしたの?おじちゃん達」と言うと「ミイ殿は今日この後何か用事はおありだろうか?」とウィリアム3世は聞いてきたので「特にない、美味しい海の幸を食べれたからもう帰る」と言い出したので大慌てで「頼むから我が国の至宝、英雄剣を見ていって下さい」と懇願した。昨日はご馳走してもらったしそこまで頼まれては引き受けないわけにはいかず美衣は英雄剣を見に行くことにした。
ゲート内に入るとそれはもう大名行列のような人だかりであった。ここは英国だというのに・・・ともあれ早速美衣達は武器屋へと向かい中に入った。当然局長権限で関係者以外立ち入り禁止である。以前同様厳かな雰囲気漂う別室に入ると英雄剣は美衣の前にある台座に静かに横たえて置かれていた。
「ささ、ミイ殿、こちらが我が国の至宝【英雄剣】でござる、是非ともその手に取っていただきたい」と、なんで語尾がござるなんだよとツッコミたくなるが英国ストーンヘンジ・ゲート局長のサー・アーサー・ウィリアム3世は美衣にそう言った。
「ふぅん、コレを持てばいいの?」と、美衣は軽々と全く造作もなく英雄剣を持ち上げた。そしてやはりキメポーズをとった。英雄剣は光り輝き部屋中がまぶしい光に包まれた。
それは見たウィリアム3世を含む英国情報部員達の目からは涙がとめどもなくあふれ落ちた。30年感待ち続けて待ち焦がれた英雄が今目の前に現われ、我が国の至宝【英雄剣】がついにその存在に相応しい持ち主を得たのだ。それもありえない程この世のものとは思えない程美しい銀髪の英雄が。
「はい、それじゃあ美衣はもう帰るね」と言って英雄剣を元の場所に戻したのだが、ウィリアム3世を含む英国情報部員達は全員その場にひれ伏して「どうかその剣をミイ様の剣としてお納めください!」と懇願した。だがしかし、美衣は「可愛くないから要らない」と、絶対零度の氷のように残酷なとどめの一刺しのような厳しい回答をした。
「そんなことおっしゃらずに是非とも!ミイ様!」と、ウィリアム3世が涙ながらに鼻水を垂らしながら悲鳴に近い声で訴えたところ・・・
「お待ち!ウィリアム!」と、良く通る大きな声で言いながら高齢の女性が部屋に入ってきた。
「マ!マリアンヌ殿!」
「おお!マリアンヌ様!」
そう、彼女こそ英雄剣を作った5人のシーカーの中の一人、鑑定士のマリアンヌその人だった。他の4人は既に他界しているが、マリアンヌただ一人はまだ存命だったのである。御年80歳でありまだまだ壮健であった。マリアンヌは一冊の絵本を持ってきていた。「後は私にすべてをまかせよ」と言って美衣と一緒に外に出て行った。
マリアンヌは部屋に入ってきた時と違ってとても柔らかく優しい慈愛に満ちた表情で美衣の手を優しく包み込み、太陽の光がとても暖かく優しく照らしている草原にレジャーシートを敷いて、ハチミツをタップリ塗ったまだ暖かいスコーンと、同じくハチミツをタップリ入れたミルクティーを取り出して、美衣が目を輝かしてそれらを飲食し満足しきりの頃合いを見計らって持参した絵本を開き始めた。その本のタイトルには「たった いっぽんの けん」と書かれていた。マリアンヌがとても優しい穏やかな声で美衣の銀髪を優しくなでながら読み聞かせると、美衣は「ええ話しじゃのう」と、さめざめ泣いた。ありえない程この世のものとは思えない程美しい瞳から涙がポロポロと零れ落ちたが、鼻水もベロンベロンだった。
そうして美衣は再び武器屋に戻って、英雄剣を手にして「分かった、これは美衣のものにする」と言った。その場にいた全員の表情がそれこそ英国名物灰色の空から一筋の明るい太陽の光が差したかのように、祝福の効果音が聞こえたかのように一気に明るくなった。
しかし美衣はその直後とんでもない行動に出た。
「でも可愛くないからこうする」と言って、全長2メートル幅30センチ以上もある英雄剣をゴクリと一気に鞘ごと全部飲み干してしまったのである。
これにはさすがにマリアンヌも含めて一同目が点になる程、いや、それどころか目が飛び出す程、そして空いた口がそのまま床に落ちるんじゃないかという程、ってどんな状態だよそれはというくらい人間としてこれ以上は無理というくらいの驚きの表情で全員が完全にその場に固まったが、英雄剣を飲み込んだ美衣は光り輝き台座の上に仁王立ちして、高らかにチョップを天にかざして次の言葉を発した。
「英雄剣は我が身体の一部になった!英雄剣は我が身、我が心と常に共にあり、それは我が滅ぶ時まで生涯共にここにある!我がチョップの一振りは英雄剣の一振りとなるであろう!」
などと、普段はひらがなばかりのセリフのくせにこういう時だけは何故かスラスラと名調子がそれこそ調子よく出てくる美衣であった。それもしっかりとキメポーズで言うもんだから、それを拝聴していた全員は涙でぐしゃぐしゃになり鼻水はやはりベロンベロンになっていたが、マリアンヌだけは「こんなに痛快なことはあるかい!なぁ見ているかお前さん達!」とホロリ涙を流しながら笑っていた。
そしてこの日は英国の新たな祝日になった。
その後も美衣はそれはもう凄まじい大歓迎をこれでもかというくらい一身に浴び、大勢の英国人シーカー達の拍手喝采の見送りの中「では帰る!さらばだ!」と言ってユーマに颯爽と飛び乗り帰路についたのだが、すぐに引き返してきてこう言った。
「すいません、2日分の食料を下さい」と。